眉村卓 小学館
「
燃える傾斜」と同じく、村上知子さまからご恵送いただく。ありがとうございます。村上さま。
小生が生まれて初めて買って読んだSFマガジンは
1967年9月号№98であった。そのSFマガジンに、この「EXPO‘87」の連載の2回目が掲載されていた。あれから60年近い年月が経った。60年ぶりにあらためて読んだ。すっかり忘れていたが、傑作だ。経済、社会という眉村さんの得意なカテゴリーの大作SFだ。1967年という年数を見てわかるように、1970年の万博の前に書かれた作品である。執筆時が1960年代後半、作中の設定は1987年の3年前から物語が始まる近未来SFである。それを1987年もはるかに過ぎた2025年に読んだわけ。違和感を感じなかったのはさすがだ。
3年後の1987年に、愛知県安城市で東海道万博開催される。関西の企業大阪レジャー産業も出展を計画している。大阪レジャー産業は非財閥系の企業で専務の豪田が実質会社のかじ取りをしている。それの企画を任されたシン・プランニングセンターの山科。万博反対を唱えるビッグ・タレントと呼ばれるマスコミ人朝倉。女性の権利拡大を訴える過激な女性結社家庭党。万博をめぐり、かような人たちが織りなしていく社会経済サスペンスが前半。そして万博開催までの年月が少なくなってきて、日本各所に非常に有能な若き産業人がでてくる。彼らは人知を超える能力を発揮して、日本の企業を飛躍的に強化する。外国の企業も日本への進出のスピードが大幅に落ちる。
有能な若き産業人。それは密かに養成された産業人=産業将校という。産業将校の活躍と万博賛成にまわった家庭党の力で万博は無事開催の見通しがたった。かような状況で反万博の立場の朝倉の存在感が薄くなった。起死回生をかけた朝倉は産業将校にたいして公開討論を持ちかける。
こうしてビッグ・タレントと産業将校の自己の存在意義を賭けた公開討論が始まる。
2025年の大阪万博まであと一か月もないという、この時期に本書を読んだのがなかなか良かった。
小生(雫石)は博覧会が好きであった。(過去形なのだ)1970年の万博は日参した。ほとんどのパビリオンは見た。アメリカ館の月の石を見るだけで1日を費やした。ソ連館で買ったソコロフの宇宙画集は今も持っている。神戸のポートアイランド博覧会も国際花と緑の博覧会も行った。
ちなみに2018年に
こんなことをいっている。この場を借りて7年前の自分に答えよう。日本の首相は石破茂。アメリカの大統領はドナルド・トランプ。阪神タイガースの監督は藤川球児。阪神タイガースは2023年に日本一になった。そして、2025年の大阪万博は行かない。行く気がしない。2025年の現実にはビッグ・タレントも産業将校もいない。万国博覧会はその存在意義を失ったのではないだろうか。1970年に大阪は千里で見た夢はもう見えない。