荻堂顕 祥伝社
大部な小説であった。ソフトカバーで上下2段組415ページ。サイバーパンクなハードボイルドである。と、書くと小生のお好みにどんぴしゃなようだが、少しずれてるんだな。それに、あんまり熱くないんだ。
主人公は台湾人で、主たる舞台は与那国島なんだから、決して寒いところの話ではない。作中世界の物理的な気温ではなく、物語に充満する、エーテル(古いな)とかダークマターの温度が高くない。では、お前はどんなんを温度が高い小説かというと西村寿行だ。本書がサイバーパンクでハードボイルドでなおかつ寿行的熱さを持った小説なら、本書は間違いなく小生の2024年読んだ本ベスト1間違いなし。
終戦直後の与那国島。まだアメリカの統治下。この島では密貿易が黙認されていた。台湾人の密貿易人武庭純。全身を義肢(クローム)で武装し、頭脳さえも電脳に積み替えている。電脳だから随意でスイッチの入れ替えができる。痛覚のスイッチをOFFにしておけば格闘になって攻撃を受けても痛くない。それに姿が見えなくなる隠れ蓑まで持っている。こういうサイボーグが謎のアメリカ人ミス・ダウンズに命じられて「含光」を探す。
終戦直後というから1940年代だ。そんな時代になんでかような技術があるんだ。おかしい。なんてヤボなことはいわないが、かようなサイバー技術と与那国、台湾といった土地との有機的なつながりが見えない。別に与那国や台湾でなくてもいいのではないか。それにSFもんを喜ばせるサイバーな大道具小道具がなくても成立する話だ。
惜しい傑作というのが小生のこの本の評価だ。