ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

不夜島

2024年09月14日 | 本を読んだで

 荻堂顕             祥伝社

 大部な小説であった。ソフトカバーで上下2段組415ページ。サイバーパンクなハードボイルドである。と、書くと小生のお好みにどんぴしゃなようだが、少しずれてるんだな。それに、あんまり熱くないんだ。
 主人公は台湾人で、主たる舞台は与那国島なんだから、決して寒いところの話ではない。作中世界の物理的な気温ではなく、物語に充満する、エーテル(古いな)とかダークマターの温度が高くない。では、お前はどんなんを温度が高い小説かというと西村寿行だ。本書がサイバーパンクでハードボイルドでなおかつ寿行的熱さを持った小説なら、本書は間違いなく小生の2024年読んだ本ベスト1間違いなし。
 終戦直後の与那国島。まだアメリカの統治下。この島では密貿易が黙認されていた。台湾人の密貿易人武庭純。全身を義肢(クローム)で武装し、頭脳さえも電脳に積み替えている。電脳だから随意でスイッチの入れ替えができる。痛覚のスイッチをOFFにしておけば格闘になって攻撃を受けても痛くない。それに姿が見えなくなる隠れ蓑まで持っている。こういうサイボーグが謎のアメリカ人ミス・ダウンズに命じられて「含光」を探す。
 終戦直後というから1940年代だ。そんな時代になんでかような技術があるんだ。おかしい。なんてヤボなことはいわないが、かようなサイバー技術と与那国、台湾といった土地との有機的なつながりが見えない。別に与那国や台湾でなくてもいいのではないか。それにSFもんを喜ばせるサイバーな大道具小道具がなくても成立する話だ。
 惜しい傑作というのが小生のこの本の評価だ。

教養としての和食

2024年09月06日 | 本を読んだで

江原詢子監修                山川出版

 和食とはいかなるモノか。それを知るには適当な本である。食べ物を食べる。それは生き物が生きていくうえで欠かせない行為である。ただ食べるだけなら、植物なり動物なりをそのまま食えばいい。実際、人類以外の動物はみなそうやっている。
食材を調理して食べる動物はいない。人類だけが食材を調理して食べるわけだ。
知性を有する動物たる人類が頭脳を使い手を動かして、自然にあるモノを食べるわけだ。かようなことをしているうちに、時間が経って、それが「文化」となるのだろう。
和食。フランス料理でも中華料理でもそうだが、「食」はひとつの「文化」を形成しているのだから、その土地の気候風土が大きく影響している。
で、この本だ。この本は和食を時空で紹介している。まず時間。日本列島の石器時代から現代までの時間の流れに沿って日本人が食べてきたモノを考察。次に空間。日本の土地土地は南から北まで気候風土が違う。これらは和食のハード面を形成している。これに食材を採集/栽培/加工する人、それらを調理する人、料理を提供する人、そしてそれを食べる人。これらの人たちによって和食のソフト面が形作られた。こうした文化としての「和食」が手軽にひととおり学べる本である。

BRUTUS №1011 夏は、SF。

2024年08月24日 | 本を読んだで

 BRUTUS  №1011 夏は、SF。

 かような非SFプロパーの雑誌で、ときおりかようなSF特集が企画される。ワシのごとき古狸SFファンが観て、「ケッ。なにを的外れなことをゆうとる」と思うこともあるし、「ふうん、参考になるな」と思うこともある。
 このBRUTUSの特集はなかなか良かった。現代のSFをコンパクトに判りやすくまとめていた。
 最初の大森望、池澤春奈、大塚博隆の鼎談。ま、かようなSF企画にはたいてい大森がからんでいるのだが、大森以外に適任者はいないのだろうか。この鼎談で現代SFの概論というか総論を軽くレクチャー。あと映画、アニメ、漫画、などSFの入り口としてとっつきやすいジャンルを紹介。
 あと「現代SFキーワード辞典」がよかった。現代SFのとっかかりとなるキーワードを解説し、それを理解するための作品を紹介している。ただ、その作品紹介、「現代」ということにとらわれたためか、2000年代以降の作品ということに限定している。ここはオールタイムで良かったんではないか。「スペースオペラ」を理解するためには、やっぱりE・E・スミスやエドモンド・ハミルトンは欠かせんだろう。
 もう一つ良かったのは、新作の短編SFを掲載したことと、その人選。ケン・リュウの新作本邦初訳の「氷霊」が掲載されていた。こぶりなまとまった宇宙SFであった。いま、短編SFを書かせたらケン・リュウは世界でも5本の指に入るだろう。
 この企画、SF初心者にお勧め。SF入門には最適の企画であった。

SFマガジン2024年8月号

2024年08月23日 | 本を読んだで
2024年8月号 №764       早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 喪われた惑星の時間        山本弘
2位 われ腸卜師 クリストファー・プリースト 古沢嘉通訳
3位 八木山音花のIT奇譚 未完の地図  夏海公司
4位 火花師               草上仁
未読 一億年のテレスコープ(冒頭)    春暮康一


連載
宇宙開発 半歩先の未来(第1回)      秋山文野
BL的想像力をめぐって(第1回)       水上文
マルドゥック・アノニマス(第54回)     冲方丁
戦闘妖精・雪風 第五部(第14回 衝突と貫通) 神林長平
ヴェルト 第二部 第一章           吉上亮
未来図ショートショート(第2回)       田丸雅智
幻視百景(第49回)             酉島伝法

クリストファー・プリースト追悼特集
特集解説                  古沢嘉通


 人間は死ぬ。ワシも長年のSFファンでな、SF作家も人間だから死ぬ。だから、ワシがなじんだSF作家たちも多くが死んでいった。アシモフ、クラーク、ハインラインの海外御三家は3人とももういない。日本の第一世代でご存命は筒井さんぐらいか。柴野さんも野田さんもそして眉村さんも彼岸におられる。
 と、いうわけでSF専門誌たるSFマガジンで追悼企画が増えるのはむべなるかな。そんなことで、今号も2本の追悼企画である。  
 追悼企画1本はクリストファー・プリーストで、もう1本は山本弘だ。プリーストは作品は読んでいるが、ご本人とはしゃべったことはもちろん、お会いしたことはない。J・P・ホーガンなら会ったことがあるが。
 山本弘の死は応えた。よく知ってる人だし、小生より若い。山本弘は本物のSFファンでありSF作家であった。  
 で、ワシの人気カウンターだが、ごらんのように追悼作家の作品がワンツーフィニッシュ。このような追悼企画のときは、かようなことがままある。存命作家はもっとがんばれとの物故作家の叱咤激励ととらえるべし。  

成瀬は天下を取りにいく

2024年08月16日 | 本を読んだで

宮島未奈        新潮社

 小説を面白くさせる要素はいろいろある。異境作家ジャック・ヴァンスのように魅力的な舞台。なんとしても、いついつまでに、あそこまで行く必要が有る、というギャビン・ライアルの「深夜+1」のような設定。そのなかでも主人公の魅力も大きな要素だ。魅力的な主人公を創出すれば、その小説は八割がた成功したといっていいだろう。本作はその典型である。
 女子高生の主人公。かわいくて、ちょっとおっちょこちょい。ドジでまぬけなところも。そう、食パン女子高生を思い浮かべればいいだろう。「遅刻しちゃう。たいへん」食パンくわえて道を走る。曲がり角で男の子とぶつかる。その男の子と最初はケンカするが、仲良くなる。
 本作の主人公成瀬あかりは、かような従来のラブコメの主人公とは対極をなす。成瀬はドジをしない。遅刻なんか絶対しない。クールに起床時間から、洗顔、朝食、着替え時間を計算して家を出る。ドジではないから曲がり角で人とぶつからない。優等生である。だれよりも速く走り、いろんな表彰を受けている。こうして見ると抜け目のない嫌味な女の子に見えるが、そう見せないところが作者宮島のキャラ創りのうまさだろう。
 小生のごときオジンが読んでも成瀬の魅力が充分に理解できたのだから、若い人が読めば成瀬の魅力にはまるだろう。本作が本屋大賞をとり、ベストセラーになったのも当然だ。

絶景本棚3

2024年07月25日 | 本を読んだで

 本の雑誌編集部編               本の雑誌社

 X線、エコー、MRI、CT、内視鏡、と、小生は身体の中をのぞきこまれる経験はひととおりした。でも、小生をかたちづくっている、もう一つの内部を人に見られたことは一度だけあった。
 1995年1月17日午前5時46分。神戸市東灘区在住の小生は震度7の揺れを経験した。阪神大震災である。揺れがおさまって書斎へ行くと、本棚が1さお机を飛び越して、内容物をぶちまけながら反対側に着地していた。一か月後、避難先から帰って部屋の整理をし始めた。本がどうしても半数ほど減らす必要がある。そこで、SFの友人たちを呼んで、「欲しい本は持ってって」といって、かなりの冊数の本を持って行ってもらった。半数に減った。
 小生もSFファン歴は長いから、その関係の友人も多い。彼ら彼女らの家に遊びに行ったこともある。そんな時、自分の本棚を見せてくれる人はいない。こっちから見たいともいわない。
 本好きにとって蔵書は内臓みたいなものだ。人に内蔵は見せたくないだろう、人の内臓は見たくないだろう。
 ですから、この本は人の内臓を見る本である。へー、あの人はこんな本を読んで、ああなったのか。ふう~ん。

奏で手のヌフレツン

2024年07月04日 | 本を読んだで

 酉島伝法          河出書房新社

 酉島伝法はイラストレイターでもある。だから自分が創出する表現物が受け手にどう受け取られるかに、最も心をくだいているクリエイターであろう。本書はイラストレイター酉島ではなく、作家酉島の創造物だ。いうまでもなく日本語で書かれている。ひらがな、カタカナ、そして漢字で表記され酉島伝法世界が繰り広げられている。ひらがなは表音節文字だから「ひ」は「ひ」と読者に読ますだけ。そこに意味イメージを付与することはできない。
漢字は表意文字だから意味やイメージを付与することができる。「覇」と書くと、読者に、安土城の天守から城下を睥睨する信長を思い浮かべさせることができよう。また、ユーラシア大陸の大草原を大軍勢の騎馬隊を率いるチンギス・カンをイメージするだろう。小生が高校の時、同じクラスの水泳部の子が全国大会へ出た。クラス全員ではげましの寄せ書きをした。書道の先生に真ん中になんぞ書いてくれというと「覇」と書いてくれた。これがひらがなで「は」と書いてもなんの意味もない。
 酉島伝法はこういう漢字の効用を最もよく理解して、最大限の効果を発揮するワザを有した作家といえよう。本書もその酉島漢字の魅力をたっぷりと満喫できる。いわばイラストレイターでもある酉島は漢字をイラストとして使っているのではないだろうか。
 

リンカーン・ハイウェイ

2024年07月02日 | 本を読んだで
エイモア・トールズ 宇佐川晶子訳   早川書房

 分厚い本である。679ページのハードカバー。でも、お話は決して重厚ではない。主要な登場人物4人は10代の少年。4人のうち3人は間違いを起こし更生施設に入っていたが最近出てきた。
 主人公(というより主人公格といった方が正鵠を得ている。この小説少年4人が主人公だ)は18才のエメット。まじめ正義感が強い。シェークスピア俳優の息子でエメットよりは世慣れているダチェス。金持ちの子で少し浮世ばなれしているウーリー。この3人が18才。あと1人。エメットの弟で8才のビリー。ビリーは読書家で物知り。この4人が物語を駆動させる。
 エメットとビリーのワトソン兄弟の父はいくばくかの財産と1台の車を残して死んだ。母はサンフランシスコにいる。兄弟は今住んでいるアメリカ中部のネブラスカから大陸を横断するリンカーン・ハイウェイを愛車スチュートベーカーで走って、母のいる西海岸まで会いに行こうとする。ところが後で施設を出たダチェスがスチュートベーカーを無断借用。ウーリーと二人で東部のニューヨークに行ってしまう。ワトソン兄弟はダチェスとウーリーを追って、貨物列車に無賃乗車してニューヨークをめざす。
 この4人の少年が軸だが、この少年たちにからむ脇役が面白い。ワトソン兄弟の幼なじみのガールフレンドで料理上手なサリー。ニューヨーク行きの貨物列車で知り合った、うさん臭い「牧師」ジョン牧師。ずっと貨物列車で無賃の旅を続けている親切な黒人ユリシーズ。そして秀逸なのがエメットがダチェス捜索の手がかりを得ようと探すダチェスの父。それなりのシェークスピア俳優であったらしいが、ええかげんな男。映画でいえば画面には映らないがおもしろいキャラだ。ビリーが愛読している本の著者アバーナシー教授。ニューヨーク在住だからビリーが会いに行くと会ってくれた。この老教授も面白い。
 ぱっと見はロードノベルのようだが、いろんな人物がでてくる人間動物園なおもしろさだ。


SFマガジン2024年6月号

2024年06月19日 | 本を読んだで

2024年6月号 №763    早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 熊が火を発見する テリー・ビッスン 中村融訳
2位 みっともないニワトリ ハワード・ウォルドロップ 黒丸尚訳
3位 物語の川々は大海に注ぐ 仁木稔
4位 閻魔帳SEO       芦沢央
5位 ビリーとアリ   テリー・ビッスン 中村融訳
6位 ビリーと宇宙人  テリー・ビッスン 中村融訳
7位 世界の妻     イン・イーシェン 鯨井久志訳 
8位 バーレーン地下バザール ナディア・アフィフィ 紅坂紫訳

連載
未来図ショートショート(第1回) 田丸雅智
歌よみSF放浪記 宇宙にうたえば(第1回) 松村由利子
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第23回) 飛浩隆
マルドゥック・アノニマス(第53回) 冲方丁
戦闘妖精・雪風 第五部(第13回 懐疑と明白(承前)) 神林長平
ヴェルト 第二部 序章        吉上亮
幻視百景(第48回)         酉島伝法
小角の城(第75回)         夢枕獏

ご覧のように、表紙にでかでかと「宇多田ヒカル×小川哲」と書いてある。一瞬、芸能雑誌かなと思った。なんでも宇多田が「SCIENCE FICTION」というアルバムを出したからこういう企画をしたとのこと。ざっと目を通したが、宇多田にはとくだんSFに思いれはないようだ。宇多田ファンが間違って買ってくれないかなと編んだ企画か。
あと、「デューン砂の惑星 PART2」映画&Netfix独占配信シリーズ「三体」公開記念の特集。SFマガジンは文芸誌ではなかったのか。
肝心の小説は、テリー・ビッスン、ハワード・ウォルドロップの追悼特集。このご両所の「熊が火を発見する」「みっともないニワトリ」が面白かった。追悼特集の作家の作品が最も面白いというのは、現役の作家への叱責ととらえてもいいのではないか。また、こんな面白い作品を書く作家だから追悼特集を企画してくれるのかな。 

 

可燃物

2024年05月24日 | 本を読んだで

米沢穂信              文藝春秋

 小生はSFもんにつき、ミステリーとか探偵小説についてえらそうなことはいえないがこの小説、分類分けするなら探偵小説のカテゴリーになるだろう。
 探偵小説というとホームズやポアロみたいな名探偵が、なに色か知らん脳細胞をフル回転させて、快刀乱麻難事件を解決して、「犯人はあなただ」で、一件落着。この小説はそういう探偵小説ではない。
 警察小説である。主人公は警官である。コロンボみたいなキャラの立った警官ではない。地味である。警視庁みたいな都会地の警官ではない。群馬県警捜査一課の葛警部が主人公だ。葛警部は決してイーストウッドのハリーやピーター・フォークのコロンボではない。マグナム44をぶっぱなすハリーみたいな乱暴でもないし、しつこく容疑者につきまとうコロンボみたいな粘着性も持ってない。扱う事件も社会を震撼させるような大事件でもない。殺人事件は有るが、地味な事件である。葛警部も決して名警部ではない。上司や部下から好かれてはいないけど嫌われてもいない。それでも地道に捜査をして、確実に事件を解決していく。
 決して派手な小説ではないが、「読ませる」小説である。米沢の筆力のたまものだろう。

負けくらべ

2024年05月14日 | 本を読んだで
 
志水辰夫           小学館

志水辰夫は冒険小説ファンの小生が、そのうち読みたいと思っていた作家だった。で、初めて志水の作品を読んだわけ。ハードボイルド作家だとは聞いていたが、一読後の印象は小生の欲するハードボイルドとは少し違和感を感じたしだい。
 主人公は初老(60は超えているだろう)の男性介護士三谷。介護施設に属しているのではなくフリーの介護士だ。三谷は特殊な能力を持っている。対人関係能力、調整力、それに記憶力。舞台のそでからホールの客席を見る。それだけで客の顔をすべて覚える。
 三谷の知人に元内閣情報調査室の男がいる。その男に2枚の写真を見せられ、ホールの講演会にいって、2枚の写真に写る同一人物がホールにいるか判別する仕事を依頼される。
 ハーバード卒のIT企業家大河内牟禮。三谷は大河内に見込まれ仕事のパートナーとして大河内の会社に呼ばれる。この大河内の会社は東輝グループの傘下。巨大企業グループのオーナーは大河内の母の尾上鈴子。90才にして経営に辣腕をふるう化け物ばあさんである。
 この東輝グループ。尾上家、大河内家の骨肉の内紛に三谷は巻き込まれる。と、これをこってりと寿行的熱さで描いてくれたら、面白いと思うのだが、わりとサラサラと書いていた。これでいいのである。著者の志水氏は86才。ワシもこのトシである。若いころはこってり濃厚とんこつラーメンが良かったが、トシ取るとあっさりさっぱり盛りそばの方が口にあう時もある。とは、いいつつも、もちろんワシ=雫石はまだまだじいさんじゃない。こってい油ギトギトの揚げもんも大好きである。
 

電通マンぼろぼろ日記

2024年05月01日 | 本を読んだで

 福永耕太郎         三五館シンシャ

 だれでも知っている大企業でありながら、日本に害毒を流している企業はいくつかあるが、この本の著者が働いていた電通も害毒企業であることが、この本を読んで判った。
 電通はいうまでもなく広告代理店。クライアントから宣伝広告の依頼を受け、広告を制作して、新聞放送などのメディに流すのをなりわいとしている。このクライアントからの受注、メディへの提供といった時点で、よからぬ金品が動くようだ。ホイチョイプロダクションの「気まぐれコンセプト」という漫画。小生はあれは冗談だと思っていた。ところがこの本を読んで、あれはぜんぶ本当のことだと判った。本当、いや現実は漫画より悪質だ。
 宣伝広告をうちたい企業が、複数の広告代理店にプレゼンを要請する。プエレゼン合戦となる。こういう場合、よいプレゼンをしてよい広告を創れそうな広告代理店より、企業の宣伝担当者への接待で発注先が決まる。電通はその接待が一番盛大であったということ。創った広告はメディアに流さなければ一般消費者に届かない。どういう具合にメディアに流すか。ここで新聞や放送関係者がこんどは電通の担当者を接待する。
 パソコンメーカーのF社が新しいパソコンを発売する。広告をうたねばならない。テレビのCMもしよう。CMタレントはだれがいい。F社の広告担当重役が夫婦そろって「不器用な」大物俳優Tのファンだった。CMタレントはこの一件だけでTに決定。そのCMは今でも動画で見られる。
 一事が万事。日本の宣伝広告は情実、接待、担当者の個人的感情、好き嫌いで決まるらしい。そういう風潮を創ったのは電通である。
 この商品を売りたい。純粋に売れる広告をうつには、どこの広告代理店に任せるべきか。どういう広告が真に効くか。CMタレントに最適なのはだれか。こういうことを純粋に考えて広告を行うべきなのに、電通はそれを歪めてしまった。で、企業の宣伝広告費の多くがムダに膨らみ、それが商品価格に反映して、われわれ消費者に不利益をもたらしているのである。
 かって電通は社員の一人や二人が過労死するのが当たり前であった。高橋まつりさんの自死によって、さすがにいまのところは反省しているようだが、本当だろうか。だいたいが、こんなバカが社長やっていた会社である。ろくなもんではない。
 著者は高給を取っていたが、長年の電通マン生活で、アル中になって急性劇症膵炎になって、離婚して、自己破産した。自業自得である。電通は大学生の就職したい企業ランキングで上位だ。そういう大学生にこの本を読んでもらいたい。

最後の三角形 ジェフリー・フォード短編傑作選

2024年04月19日 | 本を読んだで
ジェフリー・フォード    谷垣暁美編訳       東京創元社

 昔、早川から「異色作家短編集」という名叢書が出ていた。2000年代に入って文庫化されたが、小生たち古ダヌキSFもんの記憶では、1960年代(だったかな?)箱入りでB6版という手ごろな大きさの叢書であった。ブラウン、ブラッドベリ、マシスン、フィニイ、ボーモントといった、ひとくせふたくせある作家たちが集まっていた。
 この短編集はいわば、ひとり異色作家短編集といったところか。フォードはなかなかな芸達者な作家であることが判る。SF、ホラー、ファンタジー、などいろんな芸で読者を楽しませてくれる。
「アイスクリーム帝国」ネビュラ賞受賞。共感覚SF。
「マルシュージアンのゾンビ」SFホラー。
「トレンティーノさんの息子」純ホラー。
「タイムマニア」ミステリーホラー。
「恐怖譚」怪奇幻想。
「本棚遠征隊」ファンタジー。
「最後の三角形」オカルト。
「ナイト・ウィスキー」奇妙な味。
「星椋鳥の群翔」オカルトミステリー。
「ダルサリー」50年代SF。
「エクソスケルトン・タウン」SF。
「ロボット将軍の第七の表情」SFショート・ショート。
「ばらばらになった運命機械」SF
「イーリン=オク年代記」ファンタジー。
 の、14編が収録されている。エンタメ小説のデパートみたいな短編集である。



非情の女豹

2024年04月16日 | 本を読んだで

大藪春彦         光文社

女性が主人公の大藪作品である。小島恵美子31才。エミーと呼ばれる。ラテン系の血をひく美女。身長167センチ体重50キロ、バスト98ウェスト58ヒップ94。エミーはこの肉体だけでも強力な武器となる。
 本職は動物学者。大学の准教授。東京は元麻布の高級マンションに住み、車を3台持っている。趣味はモータースポーツ。
 この恵美子、国際秘密組織スプロ-SPRO(スペシャル・プロフィット・アンド・リヴェンジ・アウトフィッターズ)の日本支部のエース。なにをしている組織か?巨悪をこらしめて、ため込んだ金をかすめとる。法律の埒外の組織である。だから恵美子は銃器も持ち殺人拷問もする。
 その恵美子の仕事の対象となった三つの巨悪。国際的な石油利権をめぐって、国民の血税を食いもんにしている高級官僚ども。
 巨大な医療法人。患者を食いもんにする。保険請求をごまかして不正な金をためる。法人のトップは法王と呼ばれる歯科医のボス。そしてそのボスの息子たち。こやつらはマゾ、サド、死姦マニア、などなど変態人間ばかり。
 相互銀行。偽装銀行強盗で顧客の金を私物化する銀行幹部ども。
 こうした悪者どもを恵美子がたっぷり、お仕置きをしていく。もちろん、お仕置きといっても、お尻ぺんぺんするわけではない。大藪作品の主人公が悪人にするお仕置きである。
 そして最後に大藪ファンに大きなプレゼント。なんとあの男が出てきて、恵美子と相まみえるのだ。「物凄い男」といっていたが、なるほど確かにヤツ「物凄い男」だ。小島恵美子の相手をできるのは、あの男しかない。

SFマガジン2024年4月号

2024年04月12日 | 本を読んだで

2024年4月号 №762       早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 聖域            榎田尤利
2位 一億年先にきみがいても  樋口美沙緒
3位 幽霊屋敷のオープンハウス ジョン・ウィズウェル 鯨井久志訳
4位 テーマ          草上仁
5位 ラブラブ☆ラフトーク   竹田人造
6位 さいはての美術館     ユキミ・オガワ 勝山海百合訳
7位 テセウスを殺す      尾上与一
8位 監禁           莫晨歓 楊墨秋訳

連載
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第22回) 飛浩隆
マルドゥック・アノニマス(第52回) 冲方丁
戦闘妖精・雪風 第五部(第12回 懐疑と明白) 神林長平
ヴェルト 第一部 第四章(承前)  吉上亮
小角の城(第74回)         夢枕獏
幻視百景(第47回)         酉島伝法

特集 BLとSF2
特集解説               水上文
桑原水菜インタビュー         聞き手&構成 嵯峨景子
少女小説とBLの接点         嵯峨景子
高河ゆんインタビュー         聞き手&構成 瀬戸夏子
木原音瀬論—「心」と「個」の領域侵犯 瀬戸夏子
地獄で見る夢—オメガバースBLについて 水上文
BL世界から「輸出」されたオメガバース
—ティーンズラブ(TL)への進出と「再解釈」を巡って crop
最新BLコミックおすすめガイド セメントTHING 
翻訳SF&ファンタジー発・BL行・夜行列車 おにぎり1000米

 2022年4月号以来のBL特集である。前回の特集は小生はほめている。百合あるいはBLは新しい人間同士の関係を描く。これはSFでしか描けない表現方法だといった。さて、それから2年。BLSFなるものがいかなる進化変貌を遂げたのか期待してこの号を読んだ。
 正直、高望みであったというのが感想である。BL=男と男の関係。それをむりやりSFに仕立てたという印象を受けた。執筆依頼があった雑誌がSF専門誌だから、なんとかかんとかSFに仕立てた。むりにSFにしたため小説としての出来を損ねている。今回はダメね。