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ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

SFマガジン2025年6月号

2025年03月16日 | 本を読んだで

2025年4月号 №768     早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
今号は取り上げるべき作品はなし

連載
マルドゥック・アノニマス(第58回) 冲方丁
ヴェルト 第二部 第五章       吉上亮
博士とマリア(第2回)ナルシスの肖像 辻村七子
未来図ショートショート(第6回)   田丸雅智
幻視百景(第53回)          酉島伝法
小角の城(第80回)          夢枕獏

SF少女マンガ特集
金曜の夜の集会             萩尾望都
サマタイム               大島弓子
ノスタルジー              坂田靖子
SFアリ/少女の書くSF/AIのSF 吟鳥子
あみ手の星              白井弓子

 うう、ゴホゴホ、テテテ。どうもトシとると身体のあちこちが具合が悪くなっていかん。ん、そうじゃ。SFマガジンじゃ。わしゃ少女マンガはもひとつ苦手なんじゃ。今号は読むとこはなかったぞ。モトさまだけ読んで、あとはパラパラめくるだけだった。  

そして、バトンは渡された

2025年03月12日 | 本を読んだで

 瀬尾まいこ    文藝春秋

 おとぎばなしだ。主人公優子をとりまく人たちはみんなやさしさと博愛に満ち満ちた人たちだ。
 優子は苗字が4回変わった。母は2人父は4人いる/いた。でも優子はとっても幸せだ。
 実母は優子が幼いころ亡くなった。実の父水戸が再婚したのが梨花。水戸は仕事でブラジルへ。優子は梨花とともに日本に残る。梨花は優子を連れて泉ヶ原と再婚。そして泉ヶ原と離婚。森宮と再婚。この森宮さんがいまのお父さん。だから今は森宮優子という。
 水戸も泉ヶ原も森宮も優子をとても優しく大切してくれる。でも、一番優子を愛しているのは継母の梨花。夫を次々取り換える自分勝手で浮気な女に見えるが、これはみんな優子を想ってのこと。
 水戸さんも泉ヶ原さんもすてきで考えられないほどやさしいお父さんだが、特に現実離れしてるのが最後のおとうさん森宮さん。森宮さんと優子は血のつながりはない。森宮さん37歳。優子17歳。森宮さんは健康な成人男性。優子を「女」と見てなくて、純粋に自然に自分の娘と想っている。このあたりのことは、ま、これはおとぎばなしなんだから生物の雄的な眼で見てはいけないのだ。森宮さんは生き物の雄ではなく「お父さん」なんだ。

EXPO'87

2025年03月11日 | 本を読んだで

   眉村卓          小学館

燃える傾斜」と同じく、村上知子さまからご恵送いただく。ありがとうございます。村上さま。
 小生が生まれて初めて買って読んだSFマガジンは1967年9月号№98であった。そのSFマガジンに、この「EXPO‘87」の連載の2回目が掲載されていた。あれから60年近い年月が経った。60年ぶりにあらためて読んだ。すっかり忘れていたが、傑作だ。経済、社会という眉村さんの得意なカテゴリーの大作SFだ。1967年という年数を見てわかるように、1970年の万博の前に書かれた作品である。執筆時が1960年代後半、作中の設定は1987年の3年前から物語が始まる近未来SFである。それを1987年もはるかに過ぎた2025年に読んだわけ。違和感を感じなかったのはさすがだ。
 3年後の1987年に、愛知県安城市で東海道万博開催される。関西の企業大阪レジャー産業も出展を計画している。大阪レジャー産業は非財閥系の企業で専務の豪田が実質会社のかじ取りをしている。それの企画を任されたシン・プランニングセンターの山科。万博反対を唱えるビッグ・タレントと呼ばれるマスコミ人朝倉。女性の権利拡大を訴える過激な女性結社家庭党。万博をめぐり、かような人たちが織りなしていく社会経済サスペンスが前半。そして万博開催までの年月が少なくなってきて、日本各所に非常に有能な若き産業人がでてくる。彼らは人知を超える能力を発揮して、日本の企業を飛躍的に強化する。外国の企業も日本への進出のスピードが大幅に落ちる。
 有能な若き産業人。それは密かに養成された産業人=産業将校という。産業将校の活躍と万博賛成にまわった家庭党の力で万博は無事開催の見通しがたった。かような状況で反万博の立場の朝倉の存在感が薄くなった。起死回生をかけた朝倉は産業将校にたいして公開討論を持ちかける。
 こうしてビッグ・タレントと産業将校の自己の存在意義を賭けた公開討論が始まる。
 2025年の大阪万博まであと一か月もないという、この時期に本書を読んだのがなかなか良かった。
 小生(雫石)は博覧会が好きであった。(過去形なのだ)1970年の万博は日参した。ほとんどのパビリオンは見た。アメリカ館の月の石を見るだけで1日を費やした。ソ連館で買ったソコロフの宇宙画集は今も持っている。神戸のポートアイランド博覧会も国際花と緑の博覧会も行った。
 ちなみに2018年にこんなことをいっている。この場を借りて7年前の自分に答えよう。日本の首相は石破茂。アメリカの大統領はドナルド・トランプ。阪神タイガースの監督は藤川球児。阪神タイガースは2023年に日本一になった。そして、2025年の大阪万博は行かない。行く気がしない。2025年の現実にはビッグ・タレントも産業将校もいない。万国博覧会はその存在意義を失ったのではないだろうか。1970年に大阪は千里で見た夢はもう見えない。

方舟を燃やす

2025年03月06日 | 本を読んだで

 角田光代             新潮社

 どんな人間にもドラマがある。なんということもない人物を主人公にすえて物語を紡いでいっても、手だれの小説書きの手にかかると、読まされてしまう。
 本作の主人公は二人。昭和生まれの男と女が主人公だ。この二人、どこにでもいるごく普通の人物だ。鬼道衆でもないしヒ一族でもない。どっかの国のエージェントでもないし、大藪春彦の登場人物のように車をとばし銃を撃つこともない。
 物語は1967年に始まる。柳原飛馬が鳥取で生まれた。この年谷部不三子は東京の高校生。なんの縁もゆかりもないこの二人を軸にお話しはすすむ。
 飛馬(昭和のお笑い野球マンガの主人公にちなんだ名前ではない。近くに飛行場ができた日に生まれたから)は小学生のころは文通に高校になってアマチュア無線に夢中になる。長じて東京で区役所の職員になる。子供のころ母が死んだが母の死に疑問と責任を感じている。父には祖父は村の英雄で功績をたたえる碑があると聞かされていた。
 不三子は飛馬より年長。結婚して望月不三子となって長女と長男を生む。料理教室にいった。そこの講師勝沼沙苗に一生感化される。人間の幸不幸は食べ物で決まる。白米、添加物、肉、魚を食べると不幸になる。有機栽培の野菜しか食べない/食べさせない。長女は子供のころ友だちに家に遊びに行ったとき出されたお菓子をガツガツ食う。長女は家出する。
 昭和、平成、令和と時代は進む。口さけ女。ノストラダムスの大予言。終末。いろんなデマ、うわさが流れる。いろんなことがあった。万博、オリンピック、大震災、オウム真理教騒動、新型コロナ蔓延。
 それらの時代の流れが飛馬と不三子を流していく。そして二人の交点となったのが子供食堂。そこの謎の女の子が来る。
 物語はなんの解決もないまま終わる。問題がないのだから解決もないのである。

虚の伽藍

2025年02月28日 | 本を読んだで

月村了衛         新潮社

 主人公は僧侶だ。仏の道を衆生に説いて、「善」に導くのが仕事。そのため仏門に深く帰依し、仏道に精進し、高潔高邁な境地に達する聖人。ほんとかな、お坊さんってそんなに偉いのかな。
 滋賀県の田舎の寺の息子志方凌玄は仏教系大学を卒業して、伝統仏教最大の宗派燈念寺派の宗務庁に入る。そこで凌玄が知ったこと。寺の幹部たちの実態。仏の道どころか人の道からも大きく外れた先輩僧侶たちの行状。寺有地の売却を食いもんにして私服を肥し、権勢をほしいままにする腐れ坊主ども。若い凌玄は、「お山」の改革の必要を感じる。そんな凌玄に和倉という男が接触してくる。「お山」の改革はお前がやるべき。和倉に説得される。和倉は京都の裏のドン。京都最強のフィクサー。和倉が凌玄に紹介したのが京都最大の暴力団扇羽組若頭の最上と京大卒の切れ者幹部の氷室。凌玄はこうして「お山」の「改革」に取り組んでいく。
 青雲の志をいだく若き僧侶が、ぐちゃぐちゃどろどろの利権と欲望にまみれた「お寺さん」のブラックホールにどっぷりとつかっていく。誘拐拉致買収脅迫殺人。目的を果たすためならなんでもあり。濃厚な欲と権勢欲に包まれた世界がこってりと描かれている。「お山」にいるのは仏じゃない鬼だ。

白熱 デッドヒート

2025年02月27日 | 本を読んだで
田中光二      角川書店
 ワシの家には、ワシがものごころついた時から車があった。オヤジは車好きで、ウチに初めて来た車はトヨタ・パブリカだった。800ccの空冷エンジンの車だった。それから幾星霜、ワシのかたわらにはいつも車があった。オヤジの車好きは強化されて遺伝したらしい。リストラされ愛車ホンダ・インテグラを手放してから自分の車がない。晩年になって車がない生活をしているわけ。会社でフォークリフトを運転してちょっだけ癒しているが、重度の車禁断症状はかなり深刻な病状。で、この車禁断症状を少しでもやわらげようと思って、かようなカーアクション小説を読んだわけ。
 ガソリンスタンドで働く、新庄卓は車が生きがい。運転には絶対の自信がある。その自信が打ち砕かれた。
 交差点グランプリ。卓のチェリーX-1の隣にゴールドメタリックのスカイラインGTハードトップが並んだ。スカGは圧倒的な加速力とドライビングテクニックで卓を抜き去った。卓の中でスイッチが入った。それからは、彼女を捨てスタンドを辞め、ひょんなことで手に入れた大金でターボチャージャーで武装したセリカLBを手に入れ、ゴールドメタリックのスカGを探す。手掛かりは名古屋ナンバーということだけ。卓は各地の「族」に接触し、情報を仕入れ宿敵のスカGを追う。
 と、こういう話だ。うう、いかん。車禁断症状を少しでも治めるため読んだ本だが、車依存症がぶりかえした。
 うう、くるま、くるまが欲しい。運転したい。くく、苦しい、早く、車を。車をくれ。くるしい。くくく、く・・・。

SFマガジン2025年2月号

2025年02月21日 | 本を読んだで
2025年2月号 №767       早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 陽の光が届かなくなった年 ナオミ・クリッツァー 桐谷知未訳
2位 やけにポストの多い町   大木芙沙子
3位 アフター・ゼロ      グレッグ・イーガン 山岸真訳

連載
博士とマリア(第1回)      辻村七子
世界、この不安定なもの(第1回) 大森時生
マルドゥック・アノニマス(第57回) 冲方丁
戦闘妖精・雪風 第五部(最終回)霧の先 神林長平
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第26回)  飛浩隆
ヴェルト 第二部 第四章       吉上亮
未来図ショートショート(第5回)   田丸雅智
幻視百景(第52回)         酉島伝法
小角の城(第79回)          夢枕獏

創刊65周年記念号
2025年オールタイム・ベストSF結果発表
 と、いうことで、国内と海外の長編短編、作家のランキングが発表されている。旧世代の古だぬきSFファンのワシとしては、隔世の感を禁じ得ない。ランキングをながめると、ワシより年下の作家がずいぶん多くなった。ケホケホ、ウウウ、イテテ。ワシもトシじゃわいな。困ったもんじゃ。



ゴールデンカムイ

2025年02月03日 | 本を読んだで

 野田サトル         集英社

 出色の冒険伝奇ロマンといっていい。いちおう主人公は日露戦争帰りの「不死身」の杉元と杉元の相棒になるアイヌの少女アシリバではあるが、英雄、豪傑、変態、天才、卑劣漢、好漢、美女、さまざまな人間が出てきて、彼ら彼女らが創り出す一大絵巻となっている。
 基本は隠されたアイヌの黄金をめぐる冒険活劇であるが、それにからめて、アイヌ史、ロシア革命、戊辰戦争、明治新政府の思惑、日露戦争など東アジアの大きな歴史のうねりが描かれている。
 アイヌの黄金の隠し場所は、網走監獄を脱走した24人の脱獄囚に入れられた刺青で判る。この24人の脱獄囚というのが一筋なわではいかないクセ者ばかり。この24人の刺青を求めて有象無象が魑魅魍魎のごとくうごめく。
 新選組「鬼の副長」土方歳三(函館で死んでなかった)新選組「最強」永倉新八。帝国陸軍最強の第七師団の「反逆の情報将校」鶴見篤四郎、「孤高のスナイパー」尾形百之助、「脱獄王白鳥由栄がモデル」の白石由竹、「あの木村政彦の師匠牛島辰熊がモデル」の牛山辰馬、超能力者三船千鶴子、石川啄木などなど実在架空の人物がいっぱい出てきて、読者のご機嫌をうかがう。
 冒険、伝奇、恋愛、怪奇、歴史、エンタティメントのデパートといってもいい漫画である。


燃える傾斜

2025年01月28日 | 本を読んだで

 眉村卓         小学館

 村上知子さまよりご恵送いただく。ありがとうございます。村上さま。小学館がはじめた、P+D BOOKSシリーズの1冊。P+Dはペーパーバック+デジタルということだそうです。帯、カバー、解説なし。紙も再生紙で極限までコストを削減した本となっております。ですから700円と、そのへんの文庫よりだいぶん安価となってます。本はながめるモノではなく読むモノですから、こういう読むのに特化した本を企画刊行した小学館は、本読みとして大いに称賛したいです。
 眉村さんのデビュー作です。眉村さんの著作はひととおり読んでいるつもりですが、「燃える傾斜」は初めてです。
 眉村さんは極めて守備範囲の広い作家です。「消滅の光輪」に代表される司政官を主人公とする宇宙SF。いわゆる「奇妙な味」の短編。私小説的なもの。そして数多のショートショートなど。
 詩人、俳人、コピーライター、産業人、柔道家、多くの顔を持つ眉村さんですが、やはり眉村さんの芯はSFではないかと私は思います。私は生前の眉村さんと長年のご厚誼をいただくという僥倖を得ました。若いころ眉村さんと接してそう感じたしだいです。
 デビュー作のこの作品には、SF作家眉村卓を構成する要素が全部入っているのではないでしょうか。前半の産業人としての葛藤からスペースオペラ仕立てとなる後半に至る道は眉村SFの進化を表しているようです。個体進化は系統進化を反復するといいますが、デビュー作の「燃える傾斜」を読めば眉村SFの進化がわかるのではないでしょうか。

失せもんめっけもん

2025年01月27日 | 本を読んだで

服部誕       編集工房ノア

 著者からご恵送いただく。服部さんありがとうございます。服部誕さんとは、もうずいぶん長いご厚誼をいただいております。もう50年ほどになりますか。ほぼ同世代で同じ関西人です。
 オブラート・赤チン・天花粉・落とし紙・行水桶・蛍光灯の引き紐・蚊帳・耳掻き棒・水枕・たこの吸出し・湯たんぽ・コマ付き・火鉢・おつかいの小鍋・カンテキ・桃印徳陽燐寸箱・蛇花火・もぐさ・牛乳箱・絎台・蠅たたき・紙縒り・雲梯ブランコすべり台ジャングルジム・新井式八角柱型回轉抽籤器。
 こうして目次にならんでいる言葉を見るだけで、あの昭和の子供のころが想い出されます。
 戦後の昭和の時代に、服部さんは芦屋市の生まれ。私は西宮市で生まれて三つから神戸で育ちました。10キロも離れていないところで育ったわけです。おんなじ深夜放送を聞いていたのです。
 この詩集はこれらの昭和の言葉を信管として、私の子供のころの想い出を爆発させてくれたのです。私も「これから」と「これまで」を比べると、「これから」の方が少ないです。ですから「これまで」の想い出は宝物なのです。この詩集は埋もれていた宝物を掘り出してくれたのです。ありがとう服部さん。

2024年に読んだ本ベスト5

2025年01月09日 | 本を読んだで
 困ったもんだ。読書量が減る一方だ。それも単行本があまり読めなくなった。わしは月に2冊のSFマガジンを読んでおる。最新刊と、こんな連載を持っておるので古いSFマガジンや。だからSFマガジンに手を取られてそれ以外の本がなかなか読めない。特に古いSFマガジンで臨時増刊号とか創刊N周年記念特大号となると読むのに時間がかかる。
 それトシのせいか読書にかかるとすぐ眠くなってしまう。じつに困った。そういいつつも昨年もそれなりに本を読んだ。と、いうわけで2024年に読んだ本ベスト5だ。順不同。

影武者徳川家康
 徳川家康は関ケ原で死んだ。一方島左近は死ななかった。初代将軍家康は影武者であった。
成瀬は天下を取りいく
 成瀬はドジしない。優等生。はっきりモノをいう。いままでにない女性主人公のキャラ造形がみごと。
虎の血 阪神タイガース!謎の老人監督
 プロ野球の経験のない無名のじいさんが阪神の監督!?なんでやねん。
両京十五日
 明の皇太子暗殺未遂。北京で重大事勃発。十五日以内に南京から北京に帰らなくては。
セント・メリーのリボン
 ハードボイルドは優しいもんだ。かっこいいとはこういうことだ。
 

両京十五日

2025年01月08日 | 本を読んだで

馬伯庸   斎藤正高、泊功訳        早川書房

 いやあ面白い。冒険小説好きのワシのツボをつきまくる小説であった。全2巻上下段2段組総ページ977ページ。1000ページになんなんとする大長編。お正月の読書用にとっておいたけど2024年内に読んでしもうたわ。
 冒険小説のパターンとしては、期限内にこっちからあっちへ行かへんとえらいことになる。と、「深夜プラス1」タイプの冒険小説である。
 明の皇太子朱瞻基は父である皇帝の命令で南京へ出張していた。皇帝は北京から南京へと遷都を計画している。朱瞻基が長江を下り南京到着直前に皇太子が乗った船が爆破。皇太子はからくも助かる。皇太子を助けたのは捕吏呉定縁。
 時を同じうして父皇帝の危篤は伝えられる。どうも遷都が気にくわない連中が存在するらしい。母の皇后も危ない。このままでは反皇帝派が次期皇帝になる。朱瞻基は15日以内に北京に戻らなくてはいけない。と、いうのがストーリーの軸。冒険小説の王道である。
 皇太子朱瞻基の伴をするのは、切れ者の捕吏呉定縁。秀才の役人干謙。有能な女医蘇荊渓。いわばこの4人が主人公である。中心人物は皇太子である朱瞻基。ぼんぼんではあるが苦労もしている。ヒーローは呉定縁。皇太子である朱瞻基にも対等の付き合いでタメ口で話す。捕吏=下級警官だが父は優秀な警官。捕吏の仕事はあまり熱心にはしてなさそう。でもアクションもこなすしヒーローの資格はある。干謙は下級官僚。下級だが頭は良い。一行の参謀といったところ。紅一点の蘇荊渓は殺された親友の仇討ちが念願。その目的にため一行についてくる。この物語のヒロイン。
 で、冒険小説であるからして、主人公一味をすんなり目的地に到着させては面白くない。この一行を妨害する組織が必要。それが仏教系結社白蓮教。頭目は仏母と呼ばれる唐賽児なるばあさん。女性幹部の昨葉何。病仏敵と呼ばれる梁興甫。この梁興甫がいい。タームネーターかと思うほどの戦闘力を持っていて不死身の豪傑。皇太子一行の前半の最大最強の敵。と、登場人物それぞれのキャラクターもいいし、先が読めないストーリーもいい。いやあ、久しぶりに冒険小説の醍醐味をたっぷり味わった。
 

第二段階レンズマン

2024年11月21日 | 本を読んだで

 E・E・スミス     小隅黎訳      東京創元社

 と、いうわけでレンズマンシリーズの3巻目や。主人公はご存じキムボール・キニスン。こないなスペオペの主人公はやっぱキニスンみたいな完璧な男でないといかん。007なんか、ショーン・コネリーやロジャー・ムーアがジェームス・ボンドやってるころは良かったな。ボンドは悩まない。能天気に美女といちゃつき、危機に陥っても冗談いいながら切り抜ける。ところが最近のは見てへんから知らんけど悩むジェームス・ボンドなんやそうや。
 ヒーローも人間や弱点もあるし悩みごともあるやろ。ちゅうのんはワシはあかんのや。ヒーローは間違わへん。仕事は必ず成功する。そいつには誰も勝てへん。それがエンタメ小説の主人公なんや。で、キムボール・キニスンは、まさに完璧な男。有能このうえなく、行動するのに誰の許可もあおがなくてもええ。キニスンにいうことを聞かせるのは女性初のレンズ装着者になったクラリッサ・マクドゥガルだけ。
 そのキニスン、今回は第二銀河系はスレール星に潜入。この星を支配する必要がある。キニスンはトラスカ・ガネル少佐に成りすます。まずガネルの上司を陥れてその地位につく。さらに軍の上の将校の地位を奪う。こうして順々に上に上がっていき、そしてスレール星の独裁者や総理をやっつけて、ガネル=キニスンがスレール星の支配者となって宿敵ボスコーンの料理にかかる。ま、いわば太平洋戦争中に日本の将校が、アメリカに潜入してアメリカの大統領になってアメリカをやっつける。第2段階レンズマン キムボール・キニスンはこんな仕事も朝飯前なのだ。

SFマガジン2024年12月号

2024年11月14日 | 本を読んだで

2024年12月号 №766       早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 時間移民      劉慈欣    大森望訳
2位 輪廻の車輪     韓松     鯨井久志訳
3位 うつし世を逃げ   ガブリエラ・ダミアン・ミラベーテ 井上和訳
4位 ペラルゴニア—〈空想科学ジャーナル〉への手紙 シオドラ・ゴス 鈴木潤訳
未読 コミケへの聖歌 カスガ
未読 羊式人間模擬機 犬怪寅日子

連載
未来のゲームについてお話します (第1回)   赤野工作
マルドゥック・アノニマス(第56回)       冲方丁
戦闘妖精・雪風・第五部(第16回)洞察と共感   神林長平
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第25回)        飛浩隆
ヴェルト 第二部 第三章             吉上亮
未来図ショートショート(第4回)        田丸雅智
幻視百景(第51回)               酉島伝法
小角の城(第78回)               夢枕獏

ラテンアメリカSF特集
 ガルシア=マルケス「百年の孤独」が新潮で文庫になった。と、いうわけで同作がえらい売れてるらしい。安い文庫になったから買おうと思ってた人が多いのか、そんな小説知らんかったけど文庫化で話題になったから買ったのか、どっちやろ。ワシはハードカバーで持ってたけど積ん読や。ま、そのうちに読も。
 10月の京都SFフェスティバルでも「百年の孤独」が話題になっとったし、新潮社のいち刊行物の文庫化というだけで日本のSF界がかき回されとる感じ。1作の作品にかきまわされるほど日本のSF界は底の浅いもんやったんかいな。
 で、今号に載ったラテンアメリカSFの短編2編。ごらんのごとく、ワシの口にはあまりあわんかった。それより、今が旬の中国SFの方がおもしろかったのは、むべなるかな。


ルックバック

2024年11月07日 | 本を読んだで

 藤本タツキ           集英社

 アニメ映画「ルックバック」はたいへん良く出来た映画だった。今のところ2024年に観た映画ベスト5入りは確実だ。で、この映画ええでと知人にすすめたら。原作もぜひ読んでといわれた。で、読んだ。
 すぐ読める。5分で読める。で、アニメと漫画、どっちが良かったか。だんぜんアニメの方が良かった。小生がアニメで一番良かったシーン。藤野が京本と初めて会って、藤野先生は漫画の天才とほめられ、喜んで雨の中をスキップしながら走るシーン。アニメではしばらく藤野が走る映像が続くが、漫画では見開き2ページのワンカットだけ。やはりここは、漫画では藤野の喜びは表現しきれない。
 漫画になくてアニメにあるもの。音声だ。登場人物の声は漫画では吹き出しで書かれる。アニメでは声優がしゃべってくれるから耳で聞こえる。アニメで藤野の声をやったのは河合優実。この河合がうまかった。
 とはいいつつも、漫画の方を先に読んでいれば、「クリエイティブとはなんだ」というテーマを漫画の方がよく表現していて感激していただろう。両方まだの方は必ず漫画を読んでからアニメを観るようにおすすめする。