ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

暴虎の牙

2020年11月12日 | 本を読んだで

柚月裕子            KADOKAWA

孤狼の血」「凶犬の眼」に続く柚月版「仁義なき戦い」か「県警対組織暴力」ともいうべきシリーズ3冊目。これで完結。第1作「孤狼の血」の主人公は大上章吾。第2作目「凶犬の眼」は日岡秀一。大上も日岡も警察官だ。両作の副主人公の一之瀬守孝と国光寛郎はヤクザ。警察官もヤクザも警察、組という種類は違うが組織に属する人間。今回の主人公は警官でもヤクザでもない。組織に属さない人間である。
 沖虎彦はヤクザでシャブ中のろくでなしの父親を持つ。そのためヤクザを嫌っているが、自分を表現する手段は暴力しか知らない。暴力しか知らずヤクザが大嫌いな沖は何になったのか。愚連隊、今でいう半グレである。
 沖は幼なじみの三島考康、重田元とともに愚連隊「呉寅会」を結成する。呉寅会は極道の組ではない。沖がリーダーだが上下関係はない。近郷近在の不良少年や沖が刑務所で知り合った半端もんたちが沖をしたって集まって来る。
 彼らはカタギには手を出さない。極道のシャブを横取り、賭場に乱入して金を奪う。「お前ら誰に手を出しとるのかわかっとるのか」「極道にケンカ売ってタダですむと思うな」「極道がなんぼのもんじゃい」と、ヤクザをヘとも思わん度胸の良さ。こんな沖虎彦を大上は気に入る。
 その大上も死んだ。沖も40を超えた。そんな沖の前に現れたのが大上の弟子日岡。呉寅会内部にサツやヤクザに情報を流しとる裏切り者がいる。そいつを突きとめるのが沖の生きがいとなる。
 暴力しか生きるすべを知らない不良が、ただただひたすら突っ走る。疾走感あふれる小説であった。