ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

サボテン・ブラザース

2023年02月27日 | 映画みたで

監督 ジョン・ランディス
出演 スティーブ・マーティン、チェビー・チェイス、マーティン・ショート
アルフォンソ・アウラ、パトリス・マルティネス

 映画の面白さは普遍的なモノといえる。面白い映画はどこの国で観ても面白い。でも、普遍的でないジャンルもある。喜劇コメディだ。例えば「男はつらいよ」シリーズはフランスではうけたらしいがアメリカではうけないだろう。逆に外国製喜劇コメディ映画が日本でヒットしたという話しは寡聞にして聞かない。この映画はその外国製コメディである。おおもとには黒沢の「七人の侍」がある。
 山賊の掠奪に悩むメキシコの村。村長の娘と村の少年が山賊をやっつけてくれるガンマンを探しに町にやって来た。酒場に入ったがだれも相手にしてくれない。それどころか娘は乱暴されそうになる。逃げ込んだ教会で映画をやっていた。3人の勇者が悪もんをやっつけて報酬さえ受け取らない。「正義が行われたことが報酬だ」10万ドルを返す。娘はこれを現実とかん違い。この3人に村を助けてもらおうと電報を打つ。
 凄腕の用心棒たちがやってきた。7人ではない3人だ。勘兵衛や菊千代、クリスやヴィンはいない。派手なメキシコの衣装を着たスリーアミーゴスという3人組。この3人、用心棒でもガンマンでもない。撮影所をクビになった俳優たちだ。映画の撮影とかん違いしてメキシコの村へやって来たというわけ。50人の山賊がやって来た。彼らは本物の悪もん。持ってる銃には実弾が装填されている。さあ、どうする。
 かん違いにかん違いが重なって、ニセ者が本物と対峙して騒動が巻き起こる。三谷コメディのようだが、随所にちりばめられたくすぐりが、もひとつ滑っているように感じた。ジョークをいった本人たちは大笑いしているが、面白くもなんともない。小生は高校生のころからの上方落語ファンで、長年、上方落語を愛好しているから「笑い」には敏感なつもりだが、この映画に笑えるところはなかった。

イイダコの煮つけ

2023年02月26日 | 料理したで

 日本は四季の国といいつつも、最近は季節感がどんどん乏しくなってきている。情緒のないこと甚だし。農産物なら夏や冬の食べものといっても年中食べられるモノが多い。水産物は違う。養殖してるモノならともかく、漁して獲ってる天然ものなら、その季節限定というのも多い。
 もうすぐ春である。ホタルイカとかイイダコといった小さな頭足類が鮮魚売り場に並ぶ。ホタルイカは大量に出回り入手しやすいが、イイダコはあまり目にしない。神戸阪急地下の鮮魚売り場でイイダコが売っていた。欲しい水産物は目にしたらすぐ買うべし。これは国産ウィスキーも同じ。サントリーの山崎、白州、響、ニッカのフロム・ザ・バレルなんか見たら則買う。見逃したら入手困難である。天然の水産物も国産ウィスキーも同じである。でも、ブリ、タラ、イワシ、アジ、サバ、オールド、リザーブ、ロイヤル、ブラックニッカ、角はいつでも買える。トップバリューウィスキー、凛、薫香などは売っててお金が余ってても買わない。いちどモノは試しとトップバリューウィスキーを買ったが懲りた。
 それはさておき、イイダコを買った。野菜売り場で大根も買う。で、イイダコと大根を煮つけた。
 イイダコは裏返してスミと内蔵を取る。メスなら卵を持ってる。こいつがうまいのだ。間違っても捨てないように。あと、目玉と嘴も取る。塩でもんでぬめりを取ったら、大根といっしょに煮こんでいこう。水は使わない。酒、味醂、砂糖を入れて加熱。時間差をつけて醤油。30分も炊けばいいだろう。火を止めて冷ます。煮ものは冷めていく間に味が染みるのである。
 これがイイダコと大根のたいたんの妖女である。イイダコもうまいがタコのうま味を吸った大根が絶品。お酒はいただきものの白鹿の純米吟醸をいただく。
 

天満天神繁昌亭に行きました

2023年02月24日 | 上方落語楽しんだで
 昨日の休日は落語を楽しみに行ってました。私のオフィシャル寄席は、神戸新開地喜楽館ですが、サブ・オフィシャルは大阪天満天神繁昌亭です。昨日は繁昌亭に行ってました。
 11時まで会社でお仕事。ご苦労様です。大阪天満宮で降りて、すぐそこが日本一長いので有名な天神橋筋商店街です。私はいつもここで天ぷらを食べます。天ぷらえびのやで穴子天定食をいただきました。そこから繁昌亭まで歩いて3分です。
 前で少し待っていると、桂八十八師匠のお弟子さん桂八十助さんが一番太鼓を打ち始めました。入場します。私の席は前から5列目の通路側というたいへんに良い席でした。
 開口一番は桂文五郎さん。桂文珍師匠の4番目のお弟子さんです。先日、国際会館での文珍師匠の独演会に行ったのですが、その時も文五郎さんは前座を務めておられました。昨日の演目は「二人ぐせ」でした。
 2番手は桂治門さんです。桂小春団治師匠のお弟子さんです。マクラはベトナムへ落語をしに行った話。小春団治師匠は国際的な噺家さんですから、たぶん師匠のお供で行ったのではないでしょうか。フォーを食べたんですって。おいしかったそうです。「ん廻し」をやらはった。「ん」をいうと田楽を食べられる噺です。たくさん田楽が出てきます。田楽が食べたくなりました。
 3番手は桂雀喜さん。ヨーデル食べ放題でおなじみの桂雀三郎師匠のお弟子さんです。まくらで「この落語は架空の話で登場人物も架空の人物です」といわはった。演目は「老老稽古」です。雀喜さんの創作落語です。私は何度か聞いたことがありますが、自分の師匠をイジる噺です。100才の師匠楽三郎と80歳の弟子楽喜が落語の稽古をする噺です。こういうお年なだけにまともな稽古はできません。師匠の楽三郎師匠が雀三郎師匠をほうふつとさせて大爆笑です。
 色もんは豊来家一輝さんの太神楽曲芸です。なんべんか失敗しはった。
 お次は林家染左さんです。「喧嘩長屋」です。最初は夫婦げんかです。隣家の男が止めに入り、家主が止めにはいり。といっても「天狗裁き」ではありません。喧嘩を止めに入る人が火に油を注ぎ自分も喧嘩して喧嘩を大きくします。それを止めに入った者がますます大きな喧嘩にする。昔のハリウッド映画のパイ投げか西部劇の酒場の殴り合いのような落語です。
 次は桂枝三郎さん。侍がでてくる噺です。隣の竹の筍がウチの庭に生えてきてる。下男のべくないが昼食のおかずにする噺です。隣も侍です。堅苦しい侍同志の意向がおかしいです。
 ここで仲入りが入ります。
 色もんが二つ入ります。二つ目の色もんは浪曲です。真山隼人さん。水戸黄門の浪曲でした。私、浪曲聞くのは初めてです。
 次は笑福亭仁昇さん。「手水回し」です。なかなか大きなダイナミックな手水回しでした。
 トリ前は笑福亭鉄瓶さん。兄弟子の笑福亭笑瓶さんが亡くなりました。ご愁傷さまです。その鉄瓶さん、お酒、酔っ払いの噺です。先日、テレビ「日本の話芸」で、桂塩鯛師匠が「二番煎じ」をやってはった。塩鯛師匠数年前に肝硬変で入院なさったそうで、それから禁酒。お酒を飲まない噺家の方がお酒の落語がうまいそうです。塩鯛師匠は以前からお酒の噺はうまかったです。師匠の「試し酒」なんぞは絶品ですね。その塩鯛師匠がお酒を飲んでない。先日の「二番煎じ」も絶品でした。
 さて鉄瓶さんがやったのは「替り目」大師匠の松鶴師匠がいうところの「ごしゅかのおうわさ」ですね。登場人物が最初から酔っぱらっております。外でたらふく飲んで家でも飲みたい。ご内儀にブチブチ文句をいいます。私、雫石はビールは500cc日本酒は1合半ウィスキーは50ccを2杯と決めていて自己抑制が効く人間ですから、ご内儀にブチブチいうことはありせん。(なんか影の声が?)
 さて、トリは先代文枝一門のベテラン桂文太さんです。骨董の噺とおっしゃるから「はてなの茶碗」かなと思いました。しかしマクラで「モネでございます。ルノアールでございます」「これはピカソね」「いいえ鏡でございます」というくすぐり文太さんほどのベテランならやめた方がいいですね。とりあえず客席から笑い声が上がりましたが、私は全くおかしくありません。ここでもいいましたが、このくすぐりはもう古いです。聞き飽きました。
 で文太さんがやったのは「はてなの茶碗」ではなく江戸落語の大ネタ「火炎太鼓」です。さすがベテランだけあって枯淡の噺ぶりで聞かされました。

パリは燃えているか

2023年02月20日 | 映画みたで

監督 ルネ・クレマン
出演 ゲルト・フレーベ、オーソン・ウェルズ、アラン・ドロン、ジャン=ポール・ベルモント

 パリにはエッフェル塔もノートルダム寺院もルーブルも無事あって、いつでも観光に行ける。ところが、これらの貴重なモノが灰燼に帰す恐れがあった。地震や台風といった災害ではなく人の手によってだ。
 この映画はナチスドイツからいかにしてパリを解放して、この美しい都をフランスに取り戻したかを描いた映画である。
 1944年フランスの首都パリはナチスドイツの占領されていた。指導者ドゴールはイギリスに亡命していた。パリでは市民が銃を取ってレジスタンスとなってドイツ占領軍と戦っていた。このころは、連合軍はノルマンジーに上陸していた。レジスタンスといっても一枚岩ではない。ただちに武装蜂起して占領軍を撃退すべし。いいや、連合軍がパリに進軍するのを待つべきだ。急進派をおさえる重要人物が射殺された。万事急す。決死の覚悟で連合軍に伝令を飛ばす。
 結局、アメリカ軍がパリに入城して、ドイツ占領軍の司令官は降伏する。ヒットラーはパリを焼き払えと命じていて、各所に爆薬を設置して、スイッチを押すだけであった。パリは助かった。降伏した無人の司令部の電話がヒットラーの叫び声を鳴らす。「パリは燃えているか」
 パリを救った人物はパリ市民全員だが、特に選べば3人いるのではないか。中立国の立場からレジスタンスとドイツ軍の間に入って「胴乱の幸助」をしたスウェーデン領事。パリを抜け決死の覚悟で連合軍に接触パリ救援を要請した鳥居強衛門のような伝令。ナチスドイツの将軍でありながらヒットラーは狂人だ。ドイツは負けると認識して最後の最後までパリ爆破命令を出さなかったドイツ占領軍司令官。徳川幕府の限界を知り大政奉還をした徳川慶喜。もし慶喜が頑迷であれば京都や江戸は燃えていたかも知れない。
 パリはスウェーデンの胴乱の幸助とフランスの鳥居強衛門とドイツの徳川慶喜によって救われたのではないだろうか。

焼鶏ラーメン

2023年02月19日 | 料理したで

 ラーメンや。ワシはラーメンが好きでよく外でも食べるけど、うまいラーメンはなかなかない。外で食えんかったら自分で作ったれ、ちゅうんでラーメンを作って食うた。さすがに麺は市販のもんやけど、スープは鶏ガラを2時間ほど煮だしてとった。
 具はごらんのとおり海苔、卵、ほうれん草、焼鶏や。え、焼豚の間違いとちゃうのんかって。違わへんで。これは焼鶏や。作り方は焼豚とおんなじ。鶏もも肉をタコ糸でしばって煮る。醤油と酒、味醂で30分ほど。それを煮汁につけたまま一晩おく。それをグリルで焼いて表面に軽く焦げ目がついたらできあがりや。焼豚もうまいけど焼鶏もうまいで。

興奮

2023年02月15日 | 本を読んだで
ディック・フランシス    菊池光訳       早川書房

 読書好きの間で評判の良いフランシスの競馬シリーズ。なぜか小生は手にしなかった。競馬はやらないが、学生時代、阪神競馬場でアルバイトしてたから競馬とは全く無縁ではない。
 イギリスの障害レースで立て続けに大穴がでた。無印の馬が勝って番狂わせが多発した。馬になにか薬を使ったに違いない。ところが問題の馬をいくら調べても薬物を注射したり飲ませたりした痕跡がみつからない。イギリスの競馬界にとって大問題。理事会は真相を早急に究明する必要がある。理事のオクトーバー卿がオーストラリアに飛んだ。
 オーストラリアで種馬の牧場を経営する、ダニエル・ロークに調査を依頼した。厩務員となり、疑惑の厩舎に雇われて調査をする。
 教養もあり、それなりの男であるロークは下っ端厩務員として、さまざまな屈辱に耐え、横暴な馬主の罵倒暴力にも耐えて、馬はなぜ興奮したのか調べていく。
 ロークの調査と厩舎の仲間とのやり取りが読ませる。もちろん、この作品最大の謎、馬にどんな細工をしたのかが最後に判る。さて、どんな細工をしたのか?
 それにしても、ディック・フランシスと西村寿行がつながっているとは知らなんだ。ロークは最後には目的を達するのだが、報酬は全額オクトーバー卿に返してしまう。金が目的ではないのだ。ではロークはなぜこんな困難な仕事をしたのか。「スリルが欲しかった」

SFマガジン2023年2月号

2023年02月14日 | 本を読んだで

2023年2月号 №755  早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 家だけじゃ居場所になれない  L・チャン 桐谷知未訳
2位 仁義なきママ活bot 竹田人造
3位 伝統的無限生成装置      品田遊
4位 非可能犯罪捜査課 ゴッドハンド 草上仁
5位 純粋人間芸術          安野貴博
6位 たべかたがきたない       斧田小夜
7位 The Human Existence 柴田勝家
8位 忘れられた聖櫃-ボットたちの叛乱- スザンヌ・パーマー 月岡小穂訳
9位 凍った心臓           小川哲
10位 開かれた世界から有限宇宙へ 陸秋槎

連載
戦闘妖精・雪風 第五部(第5回 対話と想像) 神林長平
マルドゥック・アノニマス(第45回)      冲方丁
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第15回)     飛浩隆
さわやかに星はきらめき(第7回)      村山早紀  
小角の城(第67回)            夢枕獏
幻視百景(第41回)            酉島伝法

特集 AIとの距離感
 編集長が替わってからSFマガジンは良くなった。前の編集長は、こいつほんまにSFが好きなのか、いや、その前にSFが判ってるのか疑問であった。日本で唯一のSF専門誌を創っているという自覚と責任感を感じなかった。確かに初音ミク特集とか百合特集をやって売り上げを伸ばしたかも知れんが、それは自分の会社を向いてやった仕事であって、「SF」を向いてやった仕事とは思えぬ。
 で、今号の特集だ。「AI」このテーマはSF専門誌としては避けられぬテーマであろう。
 巻頭にAIで作成したイラストを掲載。AIで作成した小説も2編掲載した。「The Human Existence」と「凍った心臓」の2編が柴田と小川がAIを使って執筆した小説である。あとAIをネタにした小説。この特集、着想はいいが、少し食い足らない感じがあった。 
 掲載された短編の小生の評価は上記の通りだが、印象に残った作品の小生の感想を記しておく。
「純粋人間芸術」ひねりがたらん。
「たべかたがきたない」混乱している。
「仁義なきママ活bot」だいたいは「ママ活bot」なんて言葉をワシは知らん。
「伝統的無限生成装置」世代宇宙船モノ。少しすべっているが面白いアイデアだ。
「The Human Existence 」つまらん。
「家だけじゃ居場所になれない」「あるじ」はいないけど「ホーム」はいる。家はつつがなくある。妙な哀しみがある。
「非可能犯罪捜査課 ゴッドハンド」中途半端なSFになっている。   
 


そして、バトンは渡された

2023年02月13日 | 映画みたで

監督 前田哲
出演 永野芽郁、稲垣来泉、石原さとみ、田中圭、岡田健史、大森南朋、市村正親

 このように映画を紹介する時は極力ネタバレをしないように気をつけている。この映画の場合、特にネタバレ厳禁である。
 最初に3人の女が紹介される。いつもみぃみぃ泣いている泣き虫の小学生みぃたん。いつもニコニコ笑顔の女子高生優子。無意味な笑顔は反発をかって友だちは少ない。目的を叶えるためなら手段を選ばない魔性の女梨花。
 映画の前半は二つの家族が並行して描かれる。優子と壮介の森宮親子。秀平みぃたんの水戸親子。みぃたんのお母さんは亡くなっている。秀平の後妻になって、みぃたんの継母になったのは梨花。梨花とみぃたんはものすごく仲の良い親子になる。梨花は思いっきり愛情を注いでみぃたんを育てる。みぃたんもものすごく梨花になつく。
 この二組の親子がどう結びつくのか。梨花はある人物にひとめぼれする。それはだれか。梨花が真に欲したモノは何か。
 いえない。たいへんに良い映画だから観て欲しい。すべてのベクトルが一つのスウィートスポットに収れんする。そこで涙腺の弱い人なら涙腺崩壊まちがいなし。

阿修羅のごとく

2023年02月06日 | 映画みたで
監督 森田芳光
出演 大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子、八千草薫、仲代達矢

 少し前、テレビで向田邦子シリーズの再放送として「阿修羅のごとく」をやっていた。大変に面白かった。向田邦子脚本で和田勉演出。加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュンが4姉妹を演じた。
 映画があるということで観た。原作はもちろん向田邦子。監督、出演者は上記の通り。演出と俳優が違えばどんな「阿修羅のごとく」になるか興味があった。
 テレビは1部2部に分かれていて、全編で8時間ほど。これを2時間ほどの映画にどうまとめるか。
 テレビ版を観ずにこの映画を観れば、けっこうおもしろく満足しただろう。どうしてもテレビ版と比べてしまうが、この映画は映画としては合格であるが、テレビ版に比べて平板は印象を受けたのは否めない。テレビ版は向田自身が脚本を書いていたが、映画版は向田原作で脚本は筒井ともみとなっている。
 どうしてもダイジェストな印象になるのはしかたないが、ストーリーを駆動する重要なシーンはきっちり押さえてある。長女綱子と綱子の不倫相手の内儀の靴箱の前のバトルとそのあとの拳銃を取り出すシーン。三女滝子が四女咲子を脅迫している男を撃退するところ。庭先で白菜を漬ける。これらのシーンは映画版でもあった。
 で、決定的に違うのは音楽。テレビ版はトルコの軍楽が非常に効果的に使われていた。(このトルコ軍楽の使い方はキューブリックが「2001年宇宙の旅」でヨハン・シュトラウスの「美しき青いドナウ」を使ったのに匹敵すると思う)映画の音楽は残念ながらそれほど効果的ではなかった。
 それはそれとして映画版の大竹しのぶVS桃井かおりの対決は迫力があったな。

しあわせの家

2023年02月05日 | 作品を書いたで
「うう。さむ」
 十二月になって寒さがこたえるようになった。本格的な冬だ。
 駅の改札を出ると北風が吹きかかってくる。午後七時だ。今日も少し残業した。駅前の居酒屋の灯が呼んでいる。湯豆腐と熱燗で、少し温まって行こうか。
 ふらふらとそちらへ足が向きかけた。
「やめておこう。早く家に帰ろう」
 駅から歩いて十五分。新しく開発された住宅地。新築の家が立ち並んでいる。わが家が見えてきた。
「お、お隣は今年もイルミネーションしてるな」
 隣家はクリスマスが近づくと、庭木にいろんな色のLEDランプを飾る。煌々と灯りがついていれば、夜の景観のバランスを崩すが、上品な灯りなので、好感が持てる。
 わが家の前に立つ。チャイムを押す。ほどなくして「はあい」妻の声がする。ドアが開く。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「お風呂入るでしょう」
「うん」
 脱衣場のファンヒーターを稼働させる。すぐ暖かくなる。服を脱いで風呂場に入る。風呂は贅沢して檜の風呂にした。木のいい香りがする。たっぷりの少し熱いめのお湯にゆったりとつかる。しあわせ。
 風呂からあがって、食卓につく。湯豆腐と呉春の燗酒が用意されている。私は豆腐が大好きなのだ。夏は冷ややっこにビール、冬は湯豆腐に熱燗というのが、湯上りの黄金のパターンだ。
 妻がお酌をしてくれる。飲む。人肌より少し熱いめ。ううん。上燗。上燗。
「きょうは、かずひろの三者面談だったのだろ」
「はい」
「先生はなんといってた」
「県立K高校は太鼓判だって」
 K高校は県下の公立高校の名門で屈指の進学校だ。三流私大卒の私の息子としては上出来だ。

「工事終わりました」
 ガレージの拡張工事をやっていた。三台駐車できるようになった。
 工事中コインパーキングに置いてあった二台を移動させよう。
 一台目。マツダ・ロードスターRF。軽快なスポーツカーだ。いまや絶滅危惧種のRFのマニュアル車だ。もう一台ミニクーパー。近所のちょい乗りとお買い物専用車だ。
 そして今日日産スカイライン400Rが納車される。3000CCツインターボ四〇〇馬力というスカイライン史上最強の車だ。この車もいまや珍しい純ガソリン車だ。
 目が覚めた。昨日は納車されたスカイラインに乗って深夜の名神を走った。さすがに強烈な加速だ。
 ごそごそ布団を抜け出してガレージを見に行った。三台の愛車が並んでいる。
 妻との仲は極めて良好。結婚して二〇年になろうとしているが、今まで夫婦喧嘩をしたことがない。生れた子供は上出来で手のかからない子供だ。学校の成績は小中高と常に学年でトップだった。
 ウチの会社は景気不景気に左右されない会社で、造る製品は世界で一番のシェアだ。賃金はもちろん良い。
 しゃれたマイホーム。美しく愛し愛されている妻。良く出来た優等生の息子。ガレージにはお好みの車が三台。これを幸せというのだろうか。これが望んでいた幸せか。いつからこんな幸せだったのだろうか。
 書斎に入る。ん。こんなところに小さなフタが。
 部屋の北側には本棚が三本並んでいるが、真ん中の本棚の上から二段目の棚にフタがついている。
 開ける。USBメモリーのようなスティックがあった。思い出した。この家を買った不動産会社の営業担当者が、どんなことでもいい。何かご不満があればこのフタを開けてくださいといっていた。
 USBメモリーの一本はスロットに刺さっている。それもはAー1Aと表記してある。営業担当はあの時こういった。
「最初の設定はランクAとなっております。たいていのお客様はこの設定でご満足されますが、中にはもの足らないといわれる方もおられます。そのため三種類の設定を用意いたしました」
 A―1Aのメモリーを抜く。とつぜん周りが暗くなった。すぐ灯りが点いたが、いる部屋は書斎ではなくなっていた。四畳半の部屋だ。どうも、この家の部屋は四畳半一間の小さな家だった。ついさっきまで居たおしゃれな新築の家ではない。風呂もガレージもない。
 部屋の隅にはあのUSBメモリーのジャックがある。いまは何も刺さっていない。最初に刺さっていたA―1Aを刺してみる。暗くなる。灯りが灯る。ここは書斎になっていた。檜風呂も、三台の車があるガレージもある。
「あなたコーヒーが入りましたよ」妻の声が聞こえてきた。
 A―1Aを抜く。今度は五本のうちの一番左のメモリーを刺した。
 部屋は四畳半のままだが、畳が汚くなっている。いろんな液体をこぼしたのだろう、
あちこちにシミがあり、ところどころささくれ立っている。すきま風が吹き込んできて寒い。
「ただいま」
 妻が帰って来た。
「冬の銭湯は寒いわ」
 うちには風呂はない。
「良一は」
「知らないわ。友だちとどっかへ行ったんじゃない」
「今日、三者面談だったのだろう」
「先生に就職をすすめられたわ」
 息子は私立の工業高校を今春卒業する。偏差値が低い私学の工学科を志望してるが、そんな大学でも息子の学力では無理らしい。それに最近は良からぬ仲間とつるんでいるらしい。
「あなたハローワークどうだった」
「俺のトシじゃどこもないよ」
「どうするの」
「どうしよう」
 メモリーを抜いた。



喜楽館2月の昼席に行って来ました

2023年02月03日 | 上方落語楽しんだで
 喜楽館へ行って来ました。今週は笑福亭生寿さんの上方落語若手噺家グランプリ優勝お祝いウィークです。だから生寿さんが連日トリをつとめます。
 開演前の一席は桂雪鹿さん。インドで創作落語を執筆している桂文鹿師匠のお弟子さんです。こんな出番とは思えぬ落ち着いた噺家さんです。「煮売り屋」をやらはった。「東の旅」のプロローグ部分で、「七度狐」の前半部です。落ち着いた噺ぶりでした。
 開口一番は、「石段」の出囃子で高座にあがった桂弥っこさん。「真田小僧」です。親をゆすって小遣いをせびるガキの噺です。とんでもない悪ガキで、子供らしくないこまっしゃくれたガキですが、そこがかわいいのです。かわいい悪ガキをいかに表現するかがこの噺のポイントですが、弥っこさん。さすが吉朝一門吉弥師匠のお弟子さんです。なかなかの「真田小僧」でした。
 2番手は笑福亭たまさん。たまさんは私がいちおしの上方の噺家さんの一人です。こんなところの出番とはなんとも贅沢な番組構成です。ショート落語を何本かのあと「動物園」をやらはった。大学の落研がやるような前座噺ですが、たまさんがやると大爆笑です。それにしてもたまさんそろそろそれらしい名跡を襲名してもいいころだと思いますが、笑福亭の空名跡はなんでしょう。最大の名跡は八代目松鶴ですが、私はそれでもいいと思うんですが。現実的ではないでしょう。ネットで調べると笑福亭圓篤とか笑福亭梅香という名跡があるようです。そのたまさん、こんど笑福亭のあがりの噺ともいうべき「らくだ」をやらはるそうです。
 たまさんで想い出した噺家がおります。浪速の爆笑王と呼ばれた桂枝雀師匠です。枝雀師匠もSRとして落語のショートショートをやってはったし、たまさんの高座っぷりは、なんか枝雀師匠をほうふつとします。一門がまったく違うので不可能でしょうが、笑福亭たまさんが3代目桂枝雀になっても私は違和感はありません。
 色もんは音曲漫才のれ・みおぜらぶるずさんの二人です。アコーデオンとギターを持ってるが、ギターを持ってる方のリピート山中さんは「桂雀三郎と満腹ブラザース」のメンバーで大ヒットした「ヨーデル食べ放題」の作者です。この曲、JR環状線鶴橋駅にいけばいつでも聞けます。
 仲入り前の仲トリは桂文三師匠。丸顔でいつもニコニコの文三師匠です。「てんしき」をやらはった。寺かたのご住職がお腹を壊しはった。医者から「てんしき」はありましたかとたずねられる。「ちはやふる」や「つる」なんかと同じ知ったかぶりの噺です。お寺のご住職はインテリで物知り。みなから尊敬されるご仁。本人も知らんとはいえない。そんな噺ですが、たいへんおかしい噺です。
 仲入り後、幕が上がると赤もうせんを敷いた高座に3人がおりました。左から笑福亭たまさん、笑福亭生寿さん、桂文三さんの3人です。ここは撮影OKです。生寿さん優勝のお祝いの口上がたまさん、文三さんからありました。こういう場では本人はしゃべらないのが通例だそうですが、生寿さんもしゃべりはった。最後は文三さんの音頭で大阪しめで手じめ。
 トリ前は笑福亭松五さん。笑福亭松枝師匠のお弟子さんですが、まくらは入門当時のお話し。松五という芸名は「しょうし」のでしだから「しょうご」ですって。おめでたい噺ということで「松竹梅」です。おめでたい名前の3人、婚礼に呼ばれておめでたい芸をする噺です。
 さて今日のトリ。もちろん笑福亭生寿さんです。グランプリ本番の時は、不利だといわれている芝居噺で優勝したそうです。芝居噺がお得意なんです。で、この時演じたのも芝居噺です。でも「蛸芝居」「本能寺」「七段目」などのよく聞く噺ではなく「狐芝居」をやらはった。生寿さん、うまいです。つい聞きほれてしまいました。笑福亭生寿さん、これからますます大きな噺家に成長していくでしょう。ライバルの桂二葉さんと切磋琢磨して上方落語の未来を明るくすることを上方落語ファンとして期待します。
「てんしき」「松竹梅」「狐芝居」とあまり聞くことのない噺を聞けて大満足です。