ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

ニノチカ

2021年06月29日 | 映画みたで

監督 エルンスト・ルビッチ
出演 グレタ・ガルボ、メルヴィン・ダグラス、アイナ・クレア

 ニノチカである。チカナカでもチカイトでもない。ニノチカとは阪神タイガースの1番2番打者のことではなくて、ソ連の貿易省のおっかないお役人のこと。
 グレタ・ガルボ。名前だけは知ってるけど観たことがない大女優。なんでも笑わない女優だったそう。それがこの映画では声を上げて大笑いする。この映画の公開時のキャッチコピーは「ガルボ笑う」だったとか。
 第二次大戦前のフランスはパリ。ここに3人のソ連の役人が来た。貴族から没収した宝石を売り外貨を稼ぐため。それを知った亡命大公女があの宝石は自分のモノだ。宝石売却阻止に動く。大公女の愛人レオン・ダグルー伯爵が3人を懐柔する。貧しいソ連から花の都のパリに来た3人は。すっかりまいあがり、高級ホテルのロイヤルスイートに泊り贅沢三昧。3人組の仕事がまったくはかどらないことに業をにやしたソ連政府が。3人のお目付け役に全権特命大使を送り込んでくる。
 そのこわいお目付け役がニノチカ。コチコチの共産主義者で四角四面な元ソ連軍軍曹の女性。彼女は資本主義のパリを軽蔑しつつも勉強し研究する。生真面目くそ真面目。つんつん女であるニノチカの美しさに惚れたのがレオン。手練手管で彼女にアタックする。
 前半はクールビューティでかっこいいグレタ・ガルボ。中ほどでレオンがずっこけるのを見て大笑いしてからキャラが変わる。おしゃれでかわいい女に。2種類のグレタ・ガルボが楽しめる。
 3人のお役人が面白く、最後はしゃれたいい役。この3人「オズの魔法使い」の臆病なライオン、かかし、ブリキ人形みたいだ。

定吉七番3 角のロワイヤル

2021年06月23日 | 本を読んだで

東郷隆       角川書店

 大好評(ワシ的に)ドタバタアクション第3弾。今回は浪速船場の丁稚に、冒険小説でおなじみのフランスの右過激派OASの老スナイパーがからむ。
 元OASのピエール中佐は、仇敵元フランス情報部のモンフェランの消息を知る。ヤツはフランスの兵器会社の社長におさまっていた。このたび商談のため極東は日本に行く。ヤツは必ず殺す。
 定吉七番の今回のミッションは、関西財界の重鎮で、芦屋は六麓荘に住まう豆屋善右衛門のせがれ善彦を関西に取れ戻すこと。善彦は仇敵NATTOの大幹部のイロで日仏混血の美女青山リカのとりこになっている。
 リカは女子高生からなる「リカちゃん軍団」のボスで一筋縄ではいかん女。リカとリカちゃん軍団は軽井沢にいる。モンフェランの商談の場所も軽井沢。それを追って軽井沢に向かうピエール中佐が、軽井沢近郊の峠に巣くう「ゾク」にからまれたときに、ゾク3匹を瞬殺して中佐を救ったのがリカ。中佐はリカに昔の「あの人」オリエの面影を見た。
 こうして定吉、リカ、ピエール中佐の3人が軽井沢に集まる。1980年代の軽井沢、あの「軽シン」こと「軽井沢シンドローム」の軽井沢である。リカの手下どもは女子高生軍団。1980年代の女子高生軍団といえば「おニャン子クラブ」なんてのがあったな。芦屋の六麓荘、軽井沢、と、日本の代表的お金持ちゾーンを舞台に、あの熱狂の1980年代がよみがえる。
「わてはタダの通りがかりの丁稚だす」
「あたしはタダの通りがかりのバニーガールよ」
 てなことをいいながら、定吉と女子高生どもは軽井沢を舞台にはでな銃撃戦をくりひろげる。


サハリン島

2021年06月21日 | 本を読んだで

 エドゥアルド・ヴェルキン  北川和美・毛利公美訳 河出書房新社

 超ド級のロシアSFである。上下2段組386ページという分量も圧倒されるが、その内容にも圧倒される。
 北の困ったちゃん国家が打ち上げたミサイルがきっかけで第3次世界大戦勃発。欧米主要国が全部壊滅。日本は生き残った。民主国としてでなく、天皇を中心とする大日本帝国として復活して近隣を支配している。もちろんサハリン島もロシア(そんな国はもうない)領から帝国の領土となっている。
 主人公は日ロ混血の美少女シレーニ。彼女は未来学者で指導教授の指示でサハリン島のフィールドワークに出かける。
 サハリン島は各所に刑務所が点在する犯罪者の島。また、中国人、韓国人、アメリカ人といった国を失った難民の島でもある。さらにはゾンビが徘徊する島だ。MOB(移動性恐水病)に感染するとゾンビと化す。
 サハリン島では中国人、韓国人なんか人間ではない。たんなる死体の原料。かれらの死体は乾燥させて火力発電の燃料となる。アメリカ人は黒人白人を問わず「ニグロ」と呼ばれ、公開いじめの標的。ニグロを広場の柱にくくりつけ石をぶつけるのが人々の娯楽となっている。
 シレーニは相棒で案内人の銛族の青年アルチョーム、アルビノで口もきけず指もない少年ヨルシ(薬の原料とされるところだった)の二人とともに、サハリン島を旅する。
唖然、騒然、驚愕、驚天動地の地獄めぐりのロードノベルである。

真剣師 小池重明

2021年06月20日 | 本を読んだで
 団鬼六        幻冬舎

 困った天才という人はけっこういる。自由律俳句の大家、種田山頭火や尾崎放哉。壇一雄や坂口安吾といった破滅型作家。中島らもさんもこれかな。また、天才漫才師といわれた横山やすし師匠もそうだ。いずれのご仁も天才にふさわしい才能を持っていて余人に代えがたい業績を残す。しかし、これらの人たちが身内にいたら迷惑このうえなく、できたら彼らの才能だけ満喫して、個人的なおつき合いはご遠慮申し上げたい。
 この本の主人公の小池重明はその最たるご仁だろう。小池は真剣師。賭け将棋で収入を得る将棋さしである。でもプロの棋士ではない。アマチュアである。
 小池は賭け将棋で生計をたてている。賭け将棋といっても、自分自身が賭けるのではなく、競馬馬と同じく、客に自分の勝利に賭けてもらうのだ。ところが小池は強すぎる。今年の阪神と巨人、巨人にお金を賭ける人がはたしているだろうか?いないだろう。小池が強すぎて賭けが成り立たない。
 ともかく強い。飛車落ちとはいえ大山永世名人に勝つ。だったらプロになればいいのでは。プロになろうとしたがなれなかった。なぜか。あまりに素行が悪い。人妻となんども駆け落ちする。恩人の金をくすねて逐電する。飲む打つ買うの男の三大道楽をやりたい放題。大山名人との対局の前夜も飲みすぎて酒場で暴れ留置場から対局の場にご出勤。で、大山名人に勝ってしまう。ともかくめちゃくちゃ将棋が強くめちゃくちゃ素行が悪い。
 無頼の小池重明と優等生の藤井聡太の勝負はどうだろう。なんか小池が勝ちそう。   

わが谷は緑なりき

2021年06月15日 | 映画みたで

監督 ジョン・フォード
出演 ロディ・マクドウォール、ドナルド・クリスプ、サラ・オールグッド。モーリン・オハラ、ウォルター・ピジョン

 炭鉱の街の話である。20世紀の日本では炭鉱といえば九州の筑豊だが、19世紀のイギリスではウェールズなのだ。フロスト警部もんを読むと、ウェールズというとイングランドにバカにされてるけど、ウェールズ人だって誇り高くいっしょうけんめい生きてるのだ。そういう映画である。
 19世紀ウェールズの炭鉱の街。緑が豊かな美しい谷だ。父、母、5人の兄さん、お姉さんが1人、そして長男のお嫁さんの大家族のモーガン家の末っ子ヒューの視点で映画は進む。
 炭鉱といえば、ストと落盤事故がぱっと思いつくが、この映画でもストと落盤事故が大きなエピソードとして描かれる。
 モーガン家の男は父、兄、男は全員炭鉱で働く。母、姉、兄嫁は家を守る。お父さんは一家の長で、食事でもお父さんの前に食べ物に手を出すと、手をピシャとたたかれる。お祈りしてお父さんが食べ始めて、みんなが食べ始めるのだ。
 この炭鉱の街も不況が来た。労働者の賃金は下げられ、モーガン家の二人も解雇された。姉の結婚、兄の事故死。モーガン家もいろいろあった。ヒューは学校に入学するが、ウェールズの炭鉱の子だとイジメにあう。父の友人に教えてもらったボクシングでいじめっ子をやっつけるが、イングランド人と思える教師に理不尽にも体罰を受ける。ボクシングの師匠が教師をどつき倒すところはスカッとする。
 時は流れ、ヒューも大人になった。父も亡くなった。ヒューはこのウェールズの炭鉱の街を出ていく。美しい緑豊かだったこの谷もボタ山がいっぱいになり、すっかり様変わりしていた。
 キリスト教のにおいは強いが、見ごたえのある名画だ。この映画を観終わったあと、なんだか「天空の城ラピュタ」を観たくなった。


SKAT.19

2021年06月10日 | 本を読んだで

第57宣伝会議賞実行委員会編        宣伝会議

 広告コピーのキャッチフレーズとテレビCMとラジオCMのコンテがえんえんと並んでいるだけの本である。こんな本読んでも退屈きわまりない。おもしろくなんともない。載っているコピーやコンテは、第57回宣伝会議賞に応募して1次選考を通過した作品だ。
 こんな本でもワシはたいへんに面白く興味深く読んだ。なぜ?ワシは宣伝会議賞に応募しているのだ。この本を面白く読む方法。それは宣伝会議賞に応募することだ。え、ワシの作品は載ってるかって。それは秘密。40年以上前、久保田宣伝研究所(現宣伝会議)のコピーライター養成講座大阪校17期生最優秀賞修了生(同期の東京校の最優秀修了生は糸井重里)のワシも年老いたのだ。


上方落語ノート 第三集

2021年06月09日 | 本を読んだで

桂米朝         岩波書店

 3冊目である。この第3集はアラカルト的内容。商売道具の言葉にまつわるあれこれ。そして、もちろん先人から聞き書きも。今回は、言葉使いの達人、桂米朝師匠ならではなの「言葉」ネタのエッセイが多く、エッセイ集として楽しめる内容となっている。

Lave Letter

2021年06月07日 | 映画みたで

監督 岩井俊二
出演 中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、柏原崇、加賀まり子、范文雀

どうも岩井俊二監督は手紙ネタの映画が好きなようだ。「ラストレター」も手紙ネタの映画だったが、彼の長編映画第1作のこの映画も手紙ネタだ。確かに手紙で人とやり取りするということは、相手の顔が見えないし声も聞こえない。電子メールをはじめ、SNSだのリモートだのZOOMだのといったものが情報伝達手段の主流となった現代で、なぜ手紙という古典的なものが映画のモチーフになるのか。そのことを岩井監督は説得力をもって描いている。
 渡辺博子は2年前に恋人を亡くした。三回忌も終わった。戯れに恋人「藤井樹」の中学時代の住所に手紙を書いた。ところが「藤井樹」から返事が来た。
死んだ人に手紙を出したら返事が来た。と、いってもこれはホラーではない。純愛物語である。
 こうして渡辺博子と「藤井樹」の文通が始まった。文通していくにしたがって、博子は亡き恋人樹のことがだんだんわかって来る。
 主演の中山がうまい。一人二役を演じているのだが、まったくキャラの違う役を見事に演じ分けていた。
 博子は樹が死んだ山に向かって叫ぶ。「お元気ですか。私は元気です」博子は新しい人生に第一歩を踏み出した。

ファンタスティック・プラネット

2021年06月04日 | 映画みたで

監督 ルネ・ラルー
アニメ

 フランスとチェコの合作のアニメ映画である。手塚やジブリなどの日本のアニメを見慣れた目で観ると、違和感感じまくりの映画である。お金はフランスが出しチェコのスタジオが制作したとのこと。ふうん。これがヨーロッパの感性なのだろうか。
 青い身体に赤い目のドラーク族。人類のオム族。ドラークがでかいのか、オムが小さいのか判らぬが、ドラークから見ればオムは虫けら。オムの親子。子供は赤ん坊。ドラークの女の子がこの親子を指ではじいて遊ぶ。母親は死ぬ。赤ん坊はドラークの女の子のペットとなる。このオープニングから判るように、このアニメには生命に対する畏敬の念はまったくない。
 どこかの惑星の話だが、出てくる動植物も、どっかおかしい。不気味とか怪奇とか醜悪というのではない。どう表現していいか判らぬが、「異質」なのだ。愉快な映画ではないが傑作であることは認めなければならない。