ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

万博聖戦

2021年11月26日 | 本を読んだで

 牧野修         早川書房

 時は1969年。1970年の大阪万博の前年。中学生のシト、サドル、ミメイの3人は恐るべき事実を知ってしまった。人類は本来子供なのだ。大人の大多数は精神寄生体に憑依された「オトナ人間」なのだ。その「オトナ人間」がはびこって、この国を支配しようとうごめき出した。このままでは「オトナ人間」の思うがままの国になってしまう。シトたちは戦う。この国の未来を守るために。子供たちと「オトナ人間」の決戦の場は大阪は千里丘陵の万国博覧会の会場だ。
 それから67年後、大阪で二度目の万博が開催される。すっかり大人になったシトたち。はたして誰が「オトナ人間」になったのか。2度目の万博はいかなる博覧会か。
 小生(雫石)も70年の万博のころは子供だった。小生、万博大好き人間で、70年の万博はもちろん、1981年の神戸ポートピアも1990年の花博と、関西で開催された博覧会は日参した。じつは2025年の2回目の大阪万博は密かに楽しみしている。小生は無邪気に博覧会が好きなんだ。小生、身体はおじんだが中身はまだまだ少年なんだ。「オトナ人間」にはなってないぞ。

2021年の阪神タイガースを振り返る

2021年11月25日 | 阪神タイガース応援したで
 巨人がなんら良いところなしでヤクルトに惨敗して蛇足シリーズを敗退した。と、いうことは巨人になんら良いところなしで、蛇足シリーズファーストステージで敗退したわが阪神タイガースの立場はいかがなものか。と、なると広島、中日、DeNAの面目はどうなる。優勝することだけがプロ野球球団の唯一目的ではないだろう。プロ野球の目的は観客を楽しませることだ。観て苦痛を感じるのが目的でプロ野球を観る人はいないだろう。では、プロ野球のどこを観てプロ野球ファンは楽しいと感じるのだろう。一番多いのはひいきチームが勝つのを観るのが楽しい人だろう。また嫌いなチームが負けるのが楽しいという人もいるだろう。こういう人は阪神ファンに多い。なんでもええ、巨人が負けたらそれでええ。いわゆるひとつのアンチ巨人という人たちだ。
 小生は阪神ファンであるからして、阪神が勝つのを観るのが一番楽しい。一番と書いたのは二番があるから。二番は阪神が負けても面白い試合を見せてくれたら楽しいのである。そういう意味からも、今年の阪神タイガースは小生は大満足である。阪神タイガースの今年の勝利数は77勝。12球団で一番である。小生は、今年阪神タイガースで77回も一番楽しい思いをさせてもらったのである。この楽しみはどのチームのファンよりも多い。確かに優勝は逃したが、蛇足シリーズや日本シリーズで勝ったとて、それは一番の楽しみが数個増えるだけである。
 さて、一番の楽しみは多かったが、二番の楽しみはどうか。負けたけど面白かったという試合は残念ながら少なかった。悔しい敗北が多かったのである。あと1本出ていれば。勝てた試合やったけど、しょうもないミスして負けた。こういう試合が多かった。特に巨人との蛇足シリーズに、それが顕著に出ていた。
 ミス、エラーは練習を重ねるしたないだろう。今年の阪神は交流戦前と後ではまったく違うチームといってもいい。それを最も顕著に具現化したのが佐藤輝だろう。ホームランを量産した前半と三振を量産した後半。果たして佐藤輝の正体はどっちだろう。この佐藤輝に準ずるのがサンズだ。後半の多くを2軍ですごした。梅野も同じ。前半は高い得点打率で試合を決める一打を放って勝利に貢献したが、後半は坂本にスタメンマスクを譲った。こうして見ると、2021年の阪神タイガースは前半戦の勢いを後半まで持続させることができなかったということだ。

阪神タイガース2021年MVP
投手 ロベルト・スアレス 最後が安心なら安心して試合ができる。
   次点 青柳晃洋
野手 近本光司 近本の出塁を生かせれば優勝や。
   次点   ジェフリー・マルテ

秋の特選落語競演会に行って来ました

2021年11月24日 | 上方落語楽しんだで

 昨日11月23日は勤労感謝の日で祝日です。午前中会社へ行って、少しだけ勤労して、勤労できることを感謝しました。午後は2時ごろ家よりはい出て西宮北口方面へ。県立芸術文化センターであった「秋の特選落語競演会」へ行ってきました。私は月に一度は生の上方落語に接しないと禁断症状で出て苦しみます。
 会場の中ホールへ入ると、ぎっしり満員です。落語会でこんな満員はずいぶん久しぶりです。
 開口一番は石段のお囃子で高座に出はった桂弥壱さん。桂吉弥師匠の3番目のお弟子さんです。喜楽館では開口一番の前に若手が出て開口ゼロ番といいます。弥壱さん先日喜楽館で開口ゼロ番をつとめた時お客が二人だったそうです。私は喜楽館のタニマチとして心配です。「たぬさい」をやらはった。無難に演じはったけど、狸がサイコロに最初に化けた時「うわ、大きいな一尺四寸もあるサイコロはないで」こんなことゆうても、今の人はどれぐらいか判りません。手で大きさを表現するか、約40cmと判るように変える工夫が必要でしょう。
 2番手は桂鯛蔵さん。「お玉牛」を元気いっぱいで演じられました。この噺、村の小町娘お玉のべっぴんさをいかに表現するかがポイントですが、鯛蔵さんのお玉ちゃんは、そのあたりが少し不足しているように感じました。
 3番手は弥壱さんの師匠。桂吉弥師匠。ここで気がついたのですが、見台を出したり座布団をひっくり返したり名ビラをめくっているのは弥壱さんです。江戸の寄席は知りませんが、関西の寄席、繁昌亭や喜楽館では女性がお茶子をつとめます。今はもうありませんが、恋雅亭元町寄席では神戸大学落語研究会の女子部員がお茶子をやってはった。ここの中ホールは正式名称は「阪急中ホール」といいます。だったら系列にべっぴんの大きな供給源があるじゃないですか。タカラヅカの生徒さんをひっぱってこれないでしょうか。
 吉弥師匠は若いころ米朝師匠宅の飲み会に参加したそうです。吉弥さんのような若いもんはなかなかお酒にありつけません。そのかわりざこば師匠や枝雀師匠が酔っぱらうのをよく観察して、よっぱいとはどんなモノか研究にいそしんでいたんですって。これからその研究成果をご覧にいれます。と、「親子酒」をやらはった。なるほど、研究成果は充分に生かされております。
 さて、仲トリは桂南光師匠。「抜け雀」です。前半に出てくる若い方の絵かきは、ボロボロの服装で出てくるのですが、黒の羽織がはげてきたない。黒の羽織は最初紅色に染めてその上から黒く染めます。黒がはえるんですな。この若い絵かきが着てる羽織は黒がはげて紅が出ている。南光師匠、この羽織の様子を表現する方法を考えたんですって。「ものすごく汚れた阪急電車」大うけでした。このホールが阪急沿線だからでしょう。阪神沿線でやっても受けないでしょう。
この噺、舞台が小田原なんです。上方落語なのになんで関東の小田原?疑問に思った南光師匠、なんでも知ってる米朝師匠に聞いたことがあったそうです。米朝師匠、眉間にしわを寄せて、う~んとうなって「ワシも知らんことがある」だれも判らんでしょう。
 この噺のオチは本来は、すずめの鳥かごを描いて「親にかごをかかせた」というのですが、南光師匠は、止まり木に天狗が住むという鞍馬山の杉の木を書いて「天狗になるなといういましめ」というふうに判りやすく変えておられます。
 仲入り後のモタレは月亭八方師匠。ここは桂ざこば師匠の予定だったんですが、ざこば師匠ぜんそくでせきがひどく休演、八方師匠が代演です。ざこば師匠、どうかお大事に。八方師匠はエコをテーマにした新作でした。さすがに、まくらでタイガースのことをちょっとだけ触れておられた。
 さて、トリは御曹司桂米團治師匠。明治時代のお噺ということで「胴乱の幸助」です。大笑いさせてもらいました。

パリの調香師 しあわせの香りをさがして

2021年11月22日 | 映画みたで
監督 グレゴリー・マーニュ
出演 エマニュエル・ドゥヴォス、グレゴリー・モンテル、ゼリー・リクソン

 小生の大好きな冒険小説のパターンに「男の復権ドラマ」というのがある。かっては超一流のプロであったが、たった一度のしくじりでプロ失格。負け犬になって飲んだくれている所に依頼主が。「この仕事はあんたしかできない」「そんな男は死んだ」依頼主が札束を出す。顔色かえず無視。「その男は金で仕事を引き受けない。仕事の内容で引き受けるんだ」男は札束を受け取る。
 この映画の場合、「女の復権ドラマ」ということになるかな。
 調香師のアンヌは並外れた嗅覚を持っている。「匂い」に関わる仕事をしている。観光用洞窟を本物のような匂いにしてくれ。革製品のイヤな匂いをどうにかしてくれ。工場から悪臭が出て困る。などなど。
 運転手のギヨームは離婚した。娘の親権で調停中。少しの期間だけ娘と過ごすことが認められている。違反点数がたまってきた。免停になれば職を失う。無職になれば娘に会えない。上司のお情けで回してもらった仕事が調香師アンヌの専属運転手。このアンヌは普通の人ではない。モノの匂いしか興味がない。しかもわがままで傲慢自分勝手で人使いが荒い。ギヨームに車の運転以外の仕事をいいつける。かっぱいからバックを取り戻しても「ありがとう」もいわない。さすがに彼女の専属運転手を辞めたが、なにが気に入ったのかアンヌはまたギヨームを指名してきた。
 このアンヌ、かってはディオールなどの高級な香水を調合する超一流の調香師だったが、嗅覚を失い失職。香水の世界にいられなくなり、上記のような仕事をして糊口をしのいでいる。それでもまた香水を作りたいとの強い願望を持っている。
 離婚して職も失い、愛する娘ともろくに会えない男。香水を作りたくても作れない女。そんな男女が出会った。これは女と、そして男の復権のドラマだ。アンヌとギヨームの二人が男女の仲にならなかったのが良かった。二人は今後、仕事の上の良きパートナーとしてやっていくだろう。
 

きのこを干す

2021年11月21日 | 料理したで

 休日出勤の多いワシやけど、最近は、日曜日は休める。で、日曜はどこにも出かけないで一日中家でゆっくり。土曜日中に日曜の買いもんをすませるわけ。この季節は日曜の夜は鍋もんやな。ワシはキノコがすきやから、鍋には必ずキノコを入れる。日曜の夜に食うキノコを土曜に買うんや。そのキノコをどうする。こうする。ザルに乗っけて日のあたる所で干しておくんや。これはエノキとマッシュルールやけど、たいていのキノコは干せるけど、とくに椎茸は干せばギュとうま味と栄養が凝縮されてええで。
 友人に椎茸の専門家がおったけど、残念ながら彼岸へ行ってしもた。椎茸の扱い方を詳しく聞いとけばよかった。

はじまりの斧

2021年11月19日 | 作品を書いたで
「今年は去年より三割収穫量が減った」
 秋の収穫祭。天恵樹の前で村長(むらおさ)が沈痛な表情でいった。
「収穫が少なくなったとはいえ、天恵樹さまへの感謝を忘れてはならん。おばば頼む」
 巨大な樹木である。いくら首を曲げて見上げても樹冠の先の方は見えない。この木のてっぺんはだれも知らない。
 枝は地面から少し上から出ている。背の高いひとなら手が届く。
 人が三十人ほど手をつないで、やっと取り囲めるほど太い幹から沢山の枝が水平に出ている。枝の先は遥か彼方だ。
 この村は巨木天恵樹の下に全村民が住んでいる。
 巫女のおばばが、村民を代表して祈りを捧げた。村は天恵樹の下(もと)で生かされているのだ。
 おばばの祈りが終わった。
「おばば天恵樹さまは、なんとおっしゃった」
「疲れた。そういわしゃった」
「疲れた?」
「一万年もこの地に立っている。そろそろ土に戻りたいといわしゃった」
 天恵樹は毎年秋になると、人の握りこぶしほどの果実を大量に実らせる。果肉は栄養豊富でたいへんに美味。細かい種子がたくさん入っていて、種子の被膜をとれば中身はでんぷん質が豊富な理想的な炭水化物だ。天恵樹の実はそれ一個で、主食と副食となる。この村の食事はほとんど天恵樹から得ている。その天恵樹の実の収穫量がここ数年減り続けている。
「棟梁、そろそろワシの家も新築したいんじゃが」
「そうだな。オレのオヤジが建てた家だ。築後六〇年になるな」 
声をかけられた棟梁が、村長の家に入った。
「うん。柱もかなり傷んでいる。屋根もふきなおさなくてはいかん」
 原木師は棟梁の依頼を素直にうんとはいわなかった。
「これを見てくれ棟梁」
 その材木は細かいひびが一面にいっていた。
「最近、天恵樹さまの枝は水分が少なく乾燥のすすみが早いからひびが多い。こんな材木で家を建てようとは思わんだろう。棟梁」
「なんでこんなことになった」
「天恵樹さまも年ということだ」
 知らせは、村長が天樹酒を飲んでいるときにあった。天恵樹の実実を発酵させて醸造したこの酒はこの村で唯一の酒だ。
「ばばさまが亡くなりました」
 孫娘が知らせに来た。巫女のおばばが亡くなった。今年の祭での祈りが最後の祈りとなった。
「ばばさまは収穫祭も今年か、あとせいぜい三年だといいました」
「なぜだ。巫女の仕事は孫娘のお前が継ぐのだろう」
「一通りのことはばばさまから習ってます。でも天恵樹さまの寿命が」
 食べ物、住宅の建材、衣服は樹皮の繊維で作られる。この村はすべてを一本の木に頼って生きている。
 横に張り出した枝の下にこの村はある。豊富にしげった葉は適度に母星の光をさえぎり日陰をつくっている。
「おばばの死因はなんだ」
「ガンです。皮膚にガンができました」
 またか。村長はためいきをついた。最近皮膚ガンでなくなる人が増えている。枯れて落ちる天恵樹の葉が増えた。母星の光は紫外線が多い。葉が茂って母星の光を遮っている。
「天恵樹の寿命もあと三年。よくもって五年」
 樹医長がいった。
「この村もあと三年ということか」
 この村は天恵樹に全てを頼って生きている。天恵樹が死ぬときは村が死ぬ時だ。
「村長。なんとかしよう」
 一人の若者が声を上げた。
「どうするんだ。天恵樹がなくなればワシらは生きて行けん」
「工夫しましょう。食べ物も材木も衣服も、母星の光を防ぐ方法も」
 その若者を中心に対策委員会が発足した。期限は三年しかない。連日連夜、一本の木に頼らずに生きる方法が検討された。

「最初の斧はお前が入れろ」
 村長が若者に一本の斧を手渡した。
 若者が斧を振るった。天恵樹に斧が入って。三日後、天恵樹が倒れた。
「これが、ワシらのはじまりじゃ。ワシらはこれから天恵樹に頼らずに生きていくんじゃ」  

 
                

SFマガジン2021年12月号

2021年11月18日 | 本を読んだで

2021年12月号 №748     早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 円円のシャボン玉 劉慈欣 大森望・齊藤正高訳 
2位 薬        メグ・エリスン 原島文世訳
3位 原子の町     スタニスワフ・レム 芝田文乃訳

連載
アグレッサーズ 第七話 九分三十七秒 戦闘妖精・雪風 第4部 神林長平
マルドゥック・アノニマス(第39回)     冲方丁
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第11回)      飛浩隆
幻視百景(第34回)             酉島伝法

スタニスワフ・レム生誕100周年        監修 沼野充義
ハヤカワ文庫JA総解説 PART3

レム特集。レムの語録が載せられているが、これがめっぽう面白かった。これを読むとレムというひとの偏屈ぶりが判る。手ごころを一切加えずアメリカのSFを批判している。いやあ、胸のすくような悪口っぷり。これじゃアメリカSF作家協会の名誉会員を剥奪されたのむむべなるかな。   

教誨師

2021年11月15日 | 映画みたで
監督 佐向大
出演 大杉漣、玉置玲央、烏丸せつこ、五頭岳夫、小川登、古舘寛治、三石研

 脚本家と俳優の実力を問われる映画だ。実質密室劇といっていいだろう。上映時間の90%が拘置所の教誨室での教誨師と死刑囚との会話。主人公の教誨師佐伯は死刑囚と会話することだけで彼彼女たちに心の平安をもたらそうとする。彼彼女たちは確実に死ぬ。いつ死刑が執行されるか判らない。極限の不安をかかえた人の問いかけに、どう答えるか。彼らは何をいうかわからない。何をいっても決して感情的にならず、必ず受け止める。教誨師は宗教家である。佐伯はプロテスタントの牧師。聖書がよりどころとなる。
 佐伯が受け持った死刑囚は6人。無口で口をきかず心を開かない男。気の良いヤクザの組長。おしゃべりな関西のおばちゃん。無学で読み書きもできないホームレスの老人。家族想いのやさしいお父さん。頭が良くインテリだが自己中心な若い男。いずれも凶悪な事件をおこし死刑判決を受けた囚人たちだ。こんな人が人殺しなのかと不思議に思う人もいるし、大いに同情できる人、自分勝手な理屈で大量殺人を犯した者。佐伯は一人一人と対峙し、心を開かせて行く。そして、6人のうちの一人に刑の執行が決定する。その囚人が絞首台に来る。佐伯も立ち会う。
 たいへんに重い映画である。罪と罰。その罪はその罰で許されるのか?そんな罰を与えられるほどその罪は大きいのか。考えらせられる名作だ。大杉漣さんの遺作となった。


機龍警察 白骨街道

2021年11月09日 | 本を読んだで

 月村了衛           早川書房

 ワシ、このシリーズのファンである。第1巻の「機龍警察」から6冊全部読んでいる。第6巻目の「機龍警察 狼目殺手」から4年待たされた。待たされたかいがあった。
 今回の舞台はミャンマーと京都。2本立てで話はすすむ。国産の機甲兵装が開発されつつある。メーカーの技術者がそれの重要な秘密を持って海外へ逃亡。それが海外に流失すると日本の国益を大きく損ねる。もちろん国際指名手配。そいつがミャンマーで捕まった。ミャンマー政府は日本政府に犯人を引き取りに来いという。犯人が収容されているのが、ミャンマー政府軍とロヒンギャなど反政府勢力が争う最も危険な場所。その犯人引き取りの役目を、特捜部突入班の3人の警部に命令された。姿俊之警部、ユーリ・オズノフ警部、ライザ・ラードナー警部のおなじみの3人。それは、3人に死にに行けというがごとき命令である。
 特捜部と警視庁刑事部捜査2課は国産機甲兵装をめぐって、不可思議は金の流れを探る。大きな疑獄事件の臭いがする。京都の企業グループ城州グループが鍵を握っている。城州は特捜部理事官城木貴彦警視の実家なのだ。その金の流れの先にはミャンマーの軍がある。
 逆ロッキード事件ともいうべき巨悪の臭いがプンプンする。その背後にはこのシリーズに流れるダークマターのごとき「敵」が存在する。
 3人の警部はミャンマーの警察とともに、かって、最悪の作戦といわれた、インパール作戦の地を行く。3人とも機甲兵装は装備せず、生身で戦う。ミャンマーのクーデターもちゃんとストーリーに組み込んであるのはみごとだ。
 このシリーズ、まだまだ続くようだ。楽しみだ。
 

罪の声

2021年11月08日 | 映画みたで

監督 土井裕泰
出演 小栗旬、星野源、松重豊、古舘寛治、宇野祥平、宇崎竜童、梶芽衣子

 1980年代。バブルの時代である。「ワーワーゆうてやっております。その道中のにぎやかなこと」というフレーズが上方落語にあるが、まさに、1980年代はワーワーゆうてた時代であった。バブル真っ盛り。ジャパン・アズ・ナンバーワンなどといって日本中がうかれ騒いでいた時代だった。対巨人戦甲子園バックスクリーン三連発から阪神タイガース日本一。山口組と一和会の抗争てのもあったし。バブルの申し子ホイチョイプロの「見栄講座」なんて本がベストセラーになったりした。かくゆう小生も日本SFフェスティバルの実行委員長をやったり、1986年の日本SF大会の準備で連日連夜の会議集会打ち合わせ宴会。最も活動的にSFファンダム活動をやってた時代だった。
 この映画の事件ギン萬事件のモデルのグリコ森永事件は1984年に起こった。グリコ森永事件では犯行に子供の声が使われた。そういえば、小生が所属するSF同人誌の女性会員T嬢の声に似てると例会で彼女をからかったことがあった。こういう時代に若いころを過ごした小生たちは全共闘世代といわれている。この映画は、その全共闘世代への強烈な意義申し立てといっていいだろう。権力と戦い、まだ見ぬ日本人民共和国建国を夢見た。うん判った。革命が成って人民共和国となった国がどうなったか。その過程で関わった人のその後の人生は。と、この映画は問いかけてくる。
 ギン萬事件では3人の子供の声が使われた。その子供は大人の都合で、いわれままテープに吹き込まされて、それが犯行に使われた。その子供たちは、その後どうなったか。と、いうのがこの映画である。
 一人はテイラーになって幸せに暮らしていた。ある日父の遺品に手帳とカセットを見つけた。そのカセットには自分の子供のころの声が吹き込んであった。そして、祖父、母、と続く憤りのDNAが息づいている。あの全共闘の時代の憤りが。そのDNAを次世代に継いでいいのか。

ジャンバラヤ

2021年11月07日 | 料理したで

 ジャンバラヤや。こないにカタカナでかいたら、おしゃれに見えるけど、そないにえらそうなもんやあらへん。ま、ようするにアメリカのおじやや。別にむつかいいことはあらへん。
 フライパン(ワシはパエリアパンを使うたけど)にオリーブオイルを入れて玉ねぎを炒める。ニンニクも忘れたらあかん。あとはピーマン、ウィンナーソーセージ、きのこ、そして鶏肉、今回は手羽元を使うた。ミックスビーンズが余っとったからそいつも入れた。米を入れ、スープを入れ、ホールトマトを入れて煮たらええだけや。ハンク・ウォリアムスでも聞きながら食べようぞ。

オクトローグ 酉島伝法作品集成

2021年11月05日 | 本を読んだで

 酉島伝法           早川書房

 酉島伝法の作品が8編。酉島の作品は読むのではなく感じるモノだろう。紙面に連ねてある文字だけを読んで行っても、なんのことやらようわからん。酉島の書く字、とくに漢字は表音文字として読んではいけない。表意文字として読むべきだろう。酉島のあやつる漢字は読者を「酉島伝法の世界」へと引きずり込む。酉島未経験の人は入りにくいかも知れないが、いったん入り込めば、だれも見たことにない世界にびっくりするだろう。
星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。

読まずに死ねるか!3

2021年11月04日 | 本を読んだで

内藤陳            集英社

 冒険小説の伝道師内藤陳師匠の3冊目の、おもしろ本おすすめ本である。ルーティーンの読書日記はあいわらずアツい。
 この3冊目の目玉は、冒険小説協会風雲録と深夜プラス1ツアー。冒険小説風雲録は陳師匠が冒険小説協会設立を思いついてからの、当初の活動を記録してある。SFファンも熱心でアツい人が多いが、冒険小説ファンも負けず劣らずアツい人が多いんだな。ワシも後悔の多い人生であったが、冒険小説協会に入会しなかったことは後悔している。陳師匠は、ワシが実行委員長をやったSFのイベントにゲストに来ていただいた。ボロボロのカローラをワシが運転して新神戸まで、迎えにいったが、あの時直接内藤会長に入会を申し込んでおけば良かった。後悔しているのである。
 深夜プラス1ツアーは、陳師匠のお店の名前ともなった、ギャビン・ライアルの名作「深夜プラス1」ワケ有りの人物を、フランスのブルターニュからリヒテンシュタインまで運ぶ話。もちろん、警察に追われ暗殺者にも追われる。タイムリミットがある。このコースを陳さんをはじめとする冒険小説ファンが、実際にシトロエンDSで走ってきたというもの。うらやましい。

陰陽師

2021年11月01日 | 映画みたで

監督 滝田洋二郎
出演 野村萬斎、真田広之、伊藤英明、小泉今日子

 平安時代の話である。貴族の一番の出世の道筋は、娘を天皇の側室に送り込み、男の子を生ませることだ。その子が次代の天皇になれば、権勢振るい放題。この映画のスタート地点はそれ。
 めでたく娘が天皇の子を産んだ左大臣はわが世の春。同じように娘を入内させている右大臣は、それがうらやましくて、嫉妬と憎悪にくれる。あとは単純な話、左大臣には正義の陰陽師安部晴明。右大臣には悪の陰陽師導尊がつく。平安京を守ろうとする晴明。滅ぼそうとする導尊。これなどはスターウォーズを思い起こした。憎しみを糧にダークサイドに堕ちたアナキン。憎しみを駆り立てルークをもダークサイドに誘う銀河皇帝。ラスト、憎しみをエネルギーに変換する導尊に晴明が対決する。
 晴明役の野村萬斎は、ご承知のように狂言師。狂言の所作が身についているから、この世のモノならぬ晴明の動きが見ごたえがあった。対する導尊役の真田広之は千葉真一の一番弟子で元もとアクション俳優。違う身体能力を持ったモノどうしの対決が良かった。