ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

大統領の陰謀

2022年11月29日 | 映画みたで

監督 アラン・J・パクラ
出演 ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン、ジェイソン・ロバーズ

 ニクソン大統領を辞任に追い込んだウィーターゲイト事件の映画化である。1970年代の話である。スマホもワープロもなくインターネットもない。そんな時代に若い新聞記者二人が窃盗事件の取材をする。ウォーターゲートビルに窃盗犯が侵入した。5人の犯人は捕まった。裁判が始まる。単純な窃盗事件と思われたが、このビルには民主党の本部がある。この裁判を取材に来たワシントン・ポストの記者ウッドワードは傍聴席に共和党系の弁護士がいることに気がつく。それに犯人たちはただ窃盗犯とは思えない物を持っていた。
 なにかおかしい。これは単なる窃盗事件ではない。そう思ったウッドワードは先輩記者のバーンスタインとともに真相を探る。
 派手なことは全くない。電話で確認し、会う必要のある人物には会って話を聞く。膨大な量の図書館の貸し出しカード一枚一枚確かめていく。カチャカチャとタイプライターで原稿を書く。少しづつ少しづつ真相に迫っていく。不可解な金の流れを解明する。そしてニクソン大統領の辞任という結果を出す。
 しかし、ニクソンですら良心的な大統領だったことが判る。トランプなら「フェイクだ」と片付けていけしゃあしゃあと大統領を続けていただろう。選挙で為政者を選ぶ民主主義の限界を見た。

交通誘導員ヨレヨレ日記

2022年11月25日 | 本を読んだで

  柏耕一   三五館シンシャ

 交通誘導員。路上でよく見かける人たちだ。工事現場などで赤い誘導灯を手に、車や通行人を誘導している。実は小生も、交通誘導員にでもなろうか、交通誘導員にしかなれない、との考えが頭をよぎったことがあった。リストラされ扶養家族をかかえなかなか再就職ができなかった時のことだ。「誰でもなれる」「最底辺の職業」と自嘲ぎみにこの本のこしまきにも書いてあるが、とても誰にでもなれるわけではないことが本書を読めば判る。もし、あの時小生が交通誘導員になっていたら三日ともたなかっただろう。イラチでこらえ性のない小生なら、同僚か通行人かドライバーとイザコザを起こしていただろう。それをなんとかガマンできても胃に穴をあけてただろう
 交通誘導員にとっての絶対のご法度は、通行人や地域住民、運転者とのトラブルだ。いかに理不尽なことをいわれても、口ごたえせず平身低頭。でも歩行してはいけない所、車が通ってはダメなところを通すことは許されない。そこを理解してもらうのが交通誘導員の仕事である。
 また、世の吹き溜まり的職場だから先輩同輩後輩にはいろんな人間がいる。上等な人間もいるが、ろくでなしや人でなしも多い。本書に登場する人物も著者もふくめて、あまりほめられない人たちである。威張りちらす先輩上司、仕事をしない同輩、無能な後輩、などなど。これらの人たちを折り合いよくする必要がある。絶対に「誰でもなれる」職業ではない。少なくとも小生にはできない。

その裁きは死

2022年11月24日 | 本を読んだで

アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳      東京創元社

メインテーマは殺人」に続くホーソーン&ホロヴィッツコンビの第2作。離婚訴訟専門の弁護士が殺された。凶器はワインの瓶。ワインの瓶で頭を強打され破片でのどを斬り咲かれている。第一容疑者は日系人の高名な作家アキラ・アンノ。日系イギリス人作家というとカズオ・イシグロを思い起こすがアキラ・アンノは全くキャラが違う。アンノは女性で魅力的だが攻撃的で傲慢。とても温厚な紳士イシグロとは似ても似つかわしくない。
 アンノと元夫エイドリアン・ロックウッドの離婚をアンノに不利エイドリアンに有利に離婚を成就させた弁護士リチャード・プライスはレストランでアンノにワインをぶっかけられ「ワインでたたき殺してやる」といわれた。その通りに殺されたわけ。さて、プライス殺しの犯人はだれか。第一容疑者はアンノだが、そんな単純なモノではない。
 ホロヴィッツはどうもミスディレクションがお好きなようだ。この作品も大きなミスディレクションが仕掛けてある。この作品中の死者は3人。一人はワインの瓶でたたき殺されたリチャード・プライス。数年前、洞窟探検中事故死したチャールズ・リチャードスン、プライスの事件の数日後ホームから転落して電車にひかれたグレゴリー・テイラー。この3人の死は何か関係があるのか。ホロビッツの仕掛ける大きなミスディレクションにだまされよう。
 

ボッコちゃん

2022年11月22日 | 本を読んだで

 星新一                新潮社

 ゴホゴホ。9月にコロナにかかってから、どうもせきが止まらんのじゃ。イテテ。肩も痛いし、目もうとくなった。ワシも年じゃで。SFもんもずいぶん長いことやってきた。小松さん、星さん、光瀬さん、眉村さん、おなじみの人たちも死んでしもうた。
 こんな年になると、昔が懐かしいもんじゃ。ヤマトの沖田艦長やないけど「昔か。なにもかも懐かしい」
 と、最近は、ワシがSFもんになりたての若いころ読んだ本を読みなおしておる。こないだは「銀河パトロール隊」を読みなおしたぞ。で、今回は星さんじゃ。ワシもご多分にもれず若いころは星さんのショートショートはようけ読んだわ。
 とっつきやすく手軽に、つぎつぎカッパえびせん状態で読める。星さんのショートショートはたくさんあるが、この本の表題作「ボッコちゃん」と「おーい ででこーい」が代表作だろう。
「ボッコちゃん」は結末は悲惨なものになるが、ユーモラスと残酷という星ショートショートの南極と北極を併せ持った傑作。「おーい ででこーい」はなんともすっとぼけた突き抜けた傑作だ。星さんって、決して暖かい目で人間を見てなかったんではないかな。

有馬温泉に行って来ました。

2022年11月21日 | いろいろ

 日本は四季おりおりに愛でるべき花鳥風月がございます。早春は梅、春は桜、秋には紅葉が美しいです。晩秋でございます。紅葉を愛でるには、この土日が最後の機会かと存じます。風流を解する者として秋の紅葉は見逃すことはできませぬ。
 と、いうわけで、夫婦で有馬は瑞宝寺公園に行ってまいりました。私の住まいおる神戸市東灘区からはバスで行くのがようございます。阪神芦屋駅の前が有馬行の始発です。ずいぶんたくさんの人が乗って来てバスは満員でした。私たちは座れましたが、みなさん山登りの人たちのようです。
 芦有道路を通って1時間足らずで瑞宝寺公園前につきました。このバスの運転手さんはものすごく上手な運転手さんでした。あの曲がりくねった山道を、乗客には全くストレスを感じせず実にスムースにバスを走らせてました。あの運転手さんに拍手。
 瑞宝寺公園の紅葉は見ごろです。紅や黄色に色づいた樹々が鮮やかで、まこと日本の秋の「美」を満喫いたしました。
 さて、いつまでも紅葉を愛でていたいのですが、お腹もすいてきましたし、有馬温泉の中心地に向かいました。釜めし屋さんに入りたかったのですが、長い行列ができてました。近くのうどん屋さんでなべ焼きうどんを食べました。美味しゅうございました。時うどんではありませんので「ひっぱりな」なしで、ゆっくりうどんをいただきました。
 さて、太閤殿下にごあいさつしたあと有馬観光をしました。有馬山椒、有馬篭の花入れ、炭酸せんべいを買いました。焼きたての炭酸せんべいも食べました。賞味期限5秒です。軟らかいのですがすぐパリパリになります。パリパリはパリパリで美味しかったです。温泉まんじゅうも食べました。このあたりの街の風情は落語の「有馬小便」を思い起こします。
 せっかく名湯有馬温泉に来たのですから、温泉に入らないのはいけません。それにゆっくりしたいので、宿を予約してあります。中之坊瑞苑です。チェックインは午後2時からですから、ロビーでゆっくりしました。見事な錦鯉が泳いでおります。このホテルは「料理の鉄人」で道場六三郎と名勝負をくりひろげた太田忠道さんが総料理長を務めておられますので料理が楽しみなのですが、太田さんは独立されたようです。でも太田さんの薫陶を受けたお弟子さんが料理しておられると思われます。夕飯が楽しみです。
 さて2時になりました。部屋は「和モダン」というタイプで畳でツインのベッドです。板張りの居間が窓際にあり、そこで食事ができます。冷蔵庫のビールは無料です。早速、温泉につかりに行きました。露天風呂です。金泉と銀泉の2種類の湯が楽しめます。銀泉は透明ですが金泉は赤い不透明なお湯です。酸化鉄でしょうか、塩分が高く身体がよく浮きます。身体がほこほこといたします。浴室から出たところにアイスボックスがあって、湯上りのビールは無料です。
 しばし窓からの眺めを楽しみます。写真がその眺めです。有馬川です。奥の橋が太閤橋、木で隠れて見えませんがねねの橋が手前にあります。ねねの橋のたもとにはねねさまの像があります。太閤橋の近くの太閤殿下とねねさまはむかいあうようにおられます。
 夕食の時間になりました。部屋食をリクエストしましたので仲居さんが運んで来てテーブルセットをしてくれます。私たちは少量美味会席を頼んでました。少しづつ美味しいモノがいっぱい出てきました。前菜盛り合わせ、椀は松茸の土瓶蒸し、お造り3種、メインは神戸牛です。私は神戸牛の白みそ鍋、相方はヘレ肉の陶板焼きです。煮ものは太刀魚。ご飯は松茸ご飯でした。デザートはカボチャと渋皮栗のプリンです。みんな美味しゅうございました。特に松茸ご飯が絶品でした。縄文土器のような土鍋でたっぷりありました。もったいないですが、食べ残しました。もちろんお酒もいただきました。夕食の後、もう一度温泉につかりました。ほろ酔いでつかる温泉もまたかくべつです。
 有馬の朝になりました。朝食前に朝風呂です。朝食は洋と和が選べます。和朝食にしました。お目覚めのジュースということでとトマト、オレンジ、豆乳と3種類の飲み物がついてるのがうれしかったです。メインの魚料理は銀鱈、カレイ、秋鮭から選べます。私は銀鱈、相方はカレイを選びました。あと湯豆腐、サラダ、卵料理も茶碗蒸し、出汁巻き、温泉卵から、私は出汁巻き、相方は茶碗蒸しを選びました。海苔は炭火が入った箱で出てきますのでパリとしてます。ご飯は縄文土器で炊いたごはんです。
 朝食にも満足して、たっぷり休んチェックアウトしました。大満足しました。このホテルは13歳以下の客はとりません。だからお客は大人ばかりで、静かで落ち着いた雰囲気です。それも一つの見識でしょう。「おもてなし」とはいかなるモノかを満喫しました。神鉄の駅まで車で送っていただきました。
 有馬温泉は、他の温泉場にあるような殿方がお好みになる、スケベなお店はありません。パチンコ屋すらありません。おちついた風情のある実にけっこうな温泉地です。帰りは神戸電鉄でのんびり帰りました。
 

秋のちらしすし

2022年11月17日 | 料理したで

 秋もだいぶん深まりましたな。ワシはすしはなんでも好きやけど、特にちらしすしは食べるのもつくるのも好きや。春夏秋冬それぞれのちらしすしをレパートリーにもっとるが、秋のちらしすしをつくったぞ。
 シャリの酢は少し薄い目が好きやな。外のすしはもちをようするため濃い目の酢やけど、つくってすぐ食べるウチのすしやったら薄い目でええやろ。ワシは米1合につき酢大さじ2という具合や。で、具や。ちらしすしの具は2種類いるな。シャリに混ぜ込むヤツと上にトッピングするやつや。秋らしいもんを用意したで。まず秋鮭、干し椎茸、切り干し大根、ごぼう。これは混ぜ込むヤツ。カニカマ、三つ葉、錦糸卵で上を飾ったで。卵はウチは放し飼いされている鶏の卵や。ちょっと高いけどうまいで。
 重箱に入れたで。重箱は正月以外にも使うんや。

SFマガジン2022年12月号

2022年11月16日 | 本を読んだで
2022年12月号 №754  早川書房

雫石鉄也一人人気カウンター
1位 ミネルヴァ・ガールズ ジェイムズ・ヴァン・ペルト 川野靖子訳
2位 不滅         斜線堂有紀
3位 炎上都市       津久井五月
4位 帰郷は昇華の別名にすぎない イザベル・J・キム 赤尾秀子訳
5位 貧者の核兵器        草上仁
6位 ロボットヴィルとキャスロウ先生 カート・ヴォネガット 大森望訳

連載
戦闘妖精・雪風 第五部〈第4回(承前)内省と探心〉 神林長平
さやかに星はきらめき(第6回)    村山早紀
小角の城〈第65回〉          夢枕獏
幻視百景(第39回)          酉島伝法
戦後初期日本SF・女性小説家たちの足跡
第5回 香山美子、久保村恵、浜田けいこ子-児童向けSFの系譜 伴名練
人間廃業宣言 特別篇
ジャワの格闘技ヒーロー、世界に飛び立つ      友成純一

カート・ヴォネガット生誕100周年記念特集
 と、いうわけでヴォネガット特集やったけど、ワシはヴォネガットにはあまりなじみはなくて、いままで読んだことがない。SFもんとして一冊ぐらいは読まなあかんと思うとる。ワシが読むんやったら、世評に高い「スローターハウス5」ではのうて「プレイヤーピアノ」かな。
 さて「ミネルヴァ・ガールズ」を1位にしたけど、これは昨今のSFとしては、素直で読後感のさわやかな作品であった。機械設計、機械工作、部品調達の得意な女の子3人が特技を生かして月に行こうというお話し。「遠い空の向こうに」の女の子版といったところか。  
 2位にした斜線堂有紀さん。いま一番有望な若手女性作家ではないだろうか。

兵庫県立芸術文化センターに落語を聞きに行った

2022年11月13日 | 上方落語楽しんだで

 ワシのオフィシャル寄席は神戸・新開地・喜楽館、サブオフィシャル寄席は大阪・天満天神・繁昌亭やけど、たまには浮気して、ほかの所に落語を聞きに行くこともある。きのうは兵庫県立芸術文化センターの「秋の特選落語競演会」に行って来た。この会場はちょいちょい来るけど、ええ会場やな。阪急西宮北口のすぐ近く。雨の日も濡れずに行ける。近い、便利、きれいな会場や。
 さて、ワシが行ったんは夜席やから3時半開場4時開演やった。開口一番は石段のお囃子で高座に上がった桂慶治朗さん。桂米團治師匠の3番目のお弟子さん。「いらち俥」をやらはった。前座でこの噺をやるのは珍しい。たいてい、「つる」「動物園」「時うどん」なんかやらはるのやけど。この「いらち俥」最初ののんびり俥屋と次のいらち俥屋の演じ分けがキモやけど、慶治朗さんは無難に演じはった。
 さて2番手は桂二葉さん。若手噺家グランプリ準優勝、NHK新人落語大賞受賞と、いま一番のってる噺家さんやろう。マクラはまず例によって高い声で、上方落語界の白木みのるです。白木みのるさんは2年前になくなっていたのですね。二葉さんもそのことに触れて、白木さんも亡くなったし、そのうち白木みのるさんを知ってる人もだんだん・・・。笑いをとる。わしも「てなもんや三度笠」を子供ころに観たクチやけど、「だんだん・・・」の中に入ってきたかな。
「金明竹」をやらはった。後半の中橋の加賀屋佐吉の使いが難しい骨董の名前を一気にしゃべるのが難しい。ちょっとでもここでカムとこの噺はぶち壊しになる。二葉さんは実にスムースでなめらか。それに二葉さん自身もかわいいけど二葉さんのやる丁稚の定吉がかわいい。
 次は桂吉弥さん。阪急で来たんですって。マクラで西宮北口の駅を出て、ここに来る途中ようけの人がガラスにむかって踊ったはったな。大笑い。みなあの陸橋を渡ってここへ来たのやろ。西宮北口から芸術文化サンタ―に来る途中コナミスポーツクラブがあんねん。こっちにむかってようけの人が動かん自転車こいでハツカネズミのマネしたはった。なんか知らんけどご苦労なこった。電気おこしてはんのかな。
 演目は新作落語「ないしょばなし」声の大きな頭でモノを考えへん友人と病気の先輩の見舞いに行く噺。このおっさんなんで声が大きいかというと、騒音の大きな工場が職場。ワシの職場も大きな音やけど。で、その工場で二人の男が話すシーンで下座のお囃子がなかったけど、大きな騒音をお囃子で表現できひんかったんやろか。
 仲入り前は桂南光師匠。マクラは八百長の話し。日曜午後にやってる大喜利番組に出はった。あれアドリブでやってるようやけど、台本がありまんねんで。あれも八百長でんな。で「佐野山」八百長相撲の噺。もともと江戸落語で弱い力士佐野山に負けてやる横綱は谷風やけど、南光師匠は小野川に替えてやらはった。
 仲入り後の最初は桂ざこば師匠のはずやけど、めくりが「桂吉弥」となっとる。お茶子さんが間違えてんのかなと思ったら、吉弥さんが出はった。ざこば師匠楽屋にいてはんのやけど体調不良で高座にあがれる状態やないんやて。吉弥さん、以前もだれかがコロナに感染して来られへん、吉弥さんが代理で出たことがあった。「隣の桜」をやらはった。後半に派手に下座が大きな音でお囃子をやるにぎやかな落語。吉弥さん午前は喜楽館に出てはったとか。今日は一日で3席もお仕事。ご苦労さまです。
 さてトリは桂雀三郎師匠。「二番煎じ」です。二組の火の用心の夜回りが出てくる噺です。最初の組は、浄瑠璃や謡い、いろんなメロディーで「火の用心」を叫び、後半は番小屋でないしょで酒盛りをやり、そこをお役人に見つかってお役人に酒をようけ飲まれてしまう。「軒づけ」「寄合酒」「禁酒関所」と三つの落語はいっぺんに楽しめる一粒で三度おいしい落語です。
 あんまり聞かへん落語をようけ聞けて満足した落語会やった。

じんじん

2022年11月09日 | 映画みたで

監督 山田大樹
出演 大地康雄、小松美咲、佐藤B作、若村麻由美、中井貴恵、絵沢萌子

 シナリオライターの仕事を理解できる映画だ。絵本、大道芸人、幼きとき別れた娘、北海道の無名の町。これだけの要素を入れて映画を1本つくっている。しかも、いささかベタではあるが親と子の絆を描く感動作に仕上がっている。
 大道芸人の立石銀三郎は、北海道の農家の幼友達の田植えの手伝いに来た。その町剣渕町は無名の町だった。お酒の剣菱と間違えられたりして。「絵本の里」として町おこし。町の人たちが子供たちに読み聞かせをしている。
 銀三郎滞在中に、友人経営の農場に4人の女子高生が研修型修学旅行でやって来る。ほどなく3人とは仲良く打ち解けるようになったが、日下部彩香という子だけはいつも暗い顔をしている。
 友人の息子が彩香にわけを聞く。彼女の両親は離婚して、今は母と継父とくらしている。実の父にはかわいがってもらった記憶だけがある。実父とはその後あっていない。継父とは口も聞かない。
 銀三郎は彩香のために絵本を書いて、剣渕町の絵本コンクールで優勝すると彩香に宣言する。
 こりゃ、銀三郎の絵本が一等賞になってめでたしめでたしで、感動に打ちふるえながら映画は終わるのかなと思っていた。違った。銀三郎は絵本は完成させていたがコンクールに応募していない。その絵本はただ一人の読者に手渡された。
 で、結果としてめでたしめでたしになったが、ちょっと銀三郎がかわいそう。
 なんか、「寅さん」が隙間から垣間見える映画であった。

地下鉄(メトロ)に乗って

2022年11月02日 | 映画みたで

監督 篠原哲雄
出演 堤真一、岡本綾、大沢たかお、常盤貴子、田中泯、吉行和子

 野田昌宏さんのエッセイで書いてあったことだと記憶するが、地下鉄メビウス事件という事件があったとか。眉村卓さんの「燃える傾斜」の出版記念パーティーが終わって、河岸を替えて飲みなおそうとなった。一行は地下鉄に乗ろうとホームで待っていた。眉村さんや野田さんは来た地下鉄に乗った。ところが豊田有恒さんは乗りそこなった。眉村さんや野田さんは目的の駅で降りた。すると、そこに乗りそこなったはずの豊田さんが待っていた。
 どうも東京の地下鉄は時空や次元を超える能力を持っているらしい。神戸市営地鉄海岸線はとても、そんな芸は持ってない。大赤字で走るのだけでせいいっぱいなんだから。
 さて、この映画は東京の地下鉄だから時空を越えるのだ。映画が始まって、まずこの家のお父さんがいかなる人物か表現している。すぐ手が出る。横暴で、どうしようもない身勝手おやじ。
 主人公の長谷部真次は小さな衣料品会社の営業。地下鉄を使って営業に回る。真次は冒頭に出てきたおやじの次男。クソおやじとは縁を切っている。じつはおやじは大きな会社の創業者で経営者。長男は死んだ。三男がおやじの会社を継いでいる。真次は会社の同僚の女と不倫している。
 で、真次、地下鉄の駅で中学の先生と会う。先生はいう。「東京の地下鉄はどこへでも行ける」
 真次、地下鉄に乗って降りた。過去へタイムスリップした。そこで若いころのおやじと会う。地下鉄に乗って降りるたびに、いろんな過去にタイムスリップ。なぜかいろんなところに不倫の相手みち子が出現する。彼女はなんだ。何者だ?
 う~む。東京の地下鉄に乗るのがこわくなった。神戸市営地下鉄は毎日乗ってるが安心だ。

無法松の一生

2022年11月01日 | 映画みたで

監督 稲垣浩
出演 坂東妻三郎、園井恵子、月形龍之介、澤村アキヲ、永田靖

 ブログでは紹介しなかったが三船敏郎版「無法松の一生」を以前観た。それと見比べたかった。もともとこのバンツマ版が先に創られた映画だ。で、2本の「無法松の一生」を見比べた印象だが、このバンツマ版の方がたんぱくに感じた。三船版とバンツマ版、この2本の「無法松の一生」は同じ監督同じ脚本。稲垣浩と伊丹万作だ。だから俳優が替わっただけで同じ映画といっていい。
 三船版にあってバンツマ版にないシーンがある。松五郎が𠮷岡夫人に対する恋慕おさえがたく告白に行こうとして「オレの心は汚い」といって叫ぶシーン。俥引きふぜいの無法者が帝国軍人の妻に恋慕をいだくとはけしからん。と、内務省に削られたとか。また戦後、ちょうちん行列のシーンなどはGHQに削られた。だからバンツマ版の方が短い。で、稲垣、伊丹はこの処置が気に食わん。満足のいくモノを創ろうとしたのが三船版であった。
 で、バンツマ版の方が官憲の手が入ったわけだが、映画としてのできは決して三船版には劣っていない。三船版の松五郎は𠮷岡夫人への想いのたけを、表現していたが、バンツマ版はその表現は削られていたが、松五郎の夫人に対する想いは充分に伝わった。直截的な表現がないだけに松五郎の心情が痛いほど判った。映画とか小説などの表現活動を愛する者としては、表現の自由をないがしろにする、かような行為は絶対に否定するが、期せずしてバンツマ版「無法松の一生」は三船版「無法松の一生」とは違う味わいの映画となった。
 原作は岩下俊作の小説だが、この「無法松の一生」の主人公富島松五郎は、気も荒いし口も荒い手も早い乱暴者だが、心根は優しく純情で奥ゆかしい男、というエンタメの男性主人公の一つの定番となった。