ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

四畳半タイムマシンブルース

2022年05月31日 | 本を読んだで

 森見登美彦  上田誠原案        角川書店

 作森見登美彦、原案上田誠、イラスト中村佑介。安心のモリミ作品である。舞台は京都のクサレ大学生の四畳半下宿。登場人物はクサレ大学生の主人公私、黒髪の乙女明石さん、アパートの主樋口師匠、人の不幸大好物の小津。おなじみの面々が灼熱の京都をくり広げるは、今回はタイムパラドックスの騒動。
 炎熱の熱中症地獄のぼろアパート下鴨幽水荘の209号室は唯一のエアコンがある部屋。主人公が住まう部屋だが、そのエアコンのリモコンに悪魔小津がコーラをこぼして壊してしまう。エアコンが動かなくなった。
 この下鴨幽水荘で映画を撮影しているのが明石さん。彼女は日本のエド・ウッドともいうべき映画作家。ポンコツ映画を量産している。
 と、いうところになぜかわからんがタイムマシンが置いてある。昨日に戻ってエアコンのリモコンにコーラをこぼさなかったら炎熱地獄から抜け出せる。ところがそれは宇宙を破滅させる行為である。タイムパラドックスのつじつまをいかにあわせるか。もんだいである。


ゴジラVSコング

2022年05月30日 | 映画みたで

監督 アダム・ウィンガード
出演 アレキサンダー・スカルスガルド、レベッカ・ホール、スカイリー・ホットル、小栗旬

 ようは何を求めて映画を観るかだ。波乱万丈のストーリーか、紅涙をさそう悲恋物語か、正義に殉ずる主人公に熱い共感を得るためか、驚天動地どんでん返しを期待してか、はたまた日常生活をたんたんとえがくことによって感じる静かな感動か?そんなモノを期待して、この映画を観れば失望する。カネと時間のムダだからおやめなさい。怪獣どうしのバトル、プロレスを観たいムキには、この映画はお勧め。ゴジラとコングのケンカはけっこうな迫力であった。怪獣プロレス映画としては合格である。
 ワシはもうハリウッド製の怪獣映画は観ない。日本製の怪獣映画の怪獣は神だ。日本は八百万に神が宿る国で森羅万象に神が宿る。地震、台風、水害、火山と自然災害の多い国日本は、神=自然は畏怖の対象で被害を最小限にする努力はするが、自然の摂理、神の意志に従うのである。ところが一神教の西欧は、神は一つで、他の自然は人間でコントロールできると思っている。ハリウッド製の怪獣映画を観るたびに感じる違和感がある。ものすごく人間が傲慢である。怪獣=自然を人間がコントロールさせると思っている。この映画を観てもそう感じた。この映画のコングなどは人間に飼われているペットである。それになんといっても、21世紀の現代で地球空洞説なんて、とんでももほどがある。

マイナス・ゼロ

2022年05月27日 | 本を読んだで

 広瀬正        河出書房新社

 和製タイムトラベル作品をどれか1作を、と聞かれればこの作品を推すSFもんは多いだろう。タイムトラベルものといえばいろんな作品があるが、時間を行ったり来たり、過去のこいつが年とって、未来のあいつになっていたり、過去のあの出来事が、実は未来にこういう影響が出てたり、と、ボーと読ん行けば、頭が混乱することもある。特に登場人物が多い場合は、小生のごときアホ頭ではこんがらがるのである。
 本作はそういう心配なく読める。登場人物は限定されていて、物語の主眼は時間のまか不思議よりも、昭和初期の風景風俗の面白さが目を引く。だから時間モノが苦手な人でも楽しめるSFである。

ワンダフルライフ

2022年05月25日 | 映画みたで

監督 是枝裕和
出演 ARATA、 小田エリカ、寺島進、谷啓、内藤剛志、由利徹、伊勢谷友介

 古い建造物に20人ほどの人々が入っていく。そこで人たちは番号札を持たされ、順々に呼ばれて、そこの職員の面接を受ける。される質問は一つだけ。
「あなたが生きているうちで、最も思い出深いことはなにですか?」
 そのことを聞き出して、その思い出を映画にして映写して、それを心にだいて、あっちへ行き永遠に思い出深いことを想う。
 この人たちは死人だ。此岸と彼岸の間にあるこの施設でかようなことが行われている。
 すぐ思い出せる者、なかなか思い出せない者、いくつもあって迷う者、思い出したくない者。さまざまだ。
 人の一生でなんだろう。思い出のシーンなんてあったかな。自分の場合、あれかな、これかな。考えさせられる映画であった。
 映画の前半は面接に答えるシーンが続くが、ここがこの映画の見せ場だろう。演技していること感じさえない。ごく自然に受け答えしている。

牙城を撃て

2022年05月18日 | 本を読んだで
西村寿行     徳間書店

「復讐」それは西村寿行作品の重要なテーマだ。「右のほほを打たれたら左のほほを出さ」なんてことをいう人物は寿行作品には出てこない。右のほほを打たれたら急所を打って殺すのである。
 贈賄事件の容疑者を追った刑事三影は、南アルプスの山中に踏み込んだ。そこには広大な秘密麻薬栽培農場があった。そこを管理するヤクザに捕らわれた三影はひどいめにあわされる。そこには山で行方不明になった夫を探しに来た純子もいた。彼女の夫もここに拉致されていた。
 この秘密農場には三影や純子以外にも何人かの男女が拉致されているが、彼彼女らはヤクザどもの奴隷となっていた。
 三影や純子たちはヤクザに人間扱いされてない。むちゃむちゃひどい目にあわれるのだが、このあたりの描写は寿行の面目躍如。こってりたっぷり残酷嗜虐阿鼻叫喚のシーンがえんえんとつづく。下手な作家だったら、かような場面は辟易するだけだが、さすが寿行、ここまでくると「聖」さえ感じさせる。
 三影もただもんではない。ひどいめにあわされても絶対に人間としての矜持を失わなかった。なんとして奴らに報復する。こうして三影と純子は巨悪と対決するのである。
 ある意味、寿行作品群を山脈に例えると、一つの山頂ともいえる作品である。

突破口!

2022年05月16日 | 映画みたで

監督 ドン・シーゲル
出演 ウォルター・マッソー、アンディ・ロビンソン、ジョー・ドン・ベイカー

 チャーリーは古い複葉機で農薬散布の仕事をしていたが、その仕事がなくなり、田舎の小さな銀行を襲ってケチな銀行強盗をしていた。
 いつものごとく仲間二人と妻とで田舎の銀行を襲ったが警察に察知され銃撃戦に。警官二人を撃ち、仲間一人が死に妻も重傷を負って死亡。生き残った相棒とアジトのトレーラーハウスに戻り、今日の収穫を確認する。金額を数えてびっくりする。75万ドルもある。想像以上の大金。大喜びするがチャーリーが札を見て、これがマフィアの金であることが判る。
 このままじゃマフィアは金を取り戻すまで死ぬまで追いかけてくる。警察やFBIに追われるより、恐ろしいことになった。
 主役のウォルター・マッソーはどっから見ても普通のおっさんで、イーストウッドやブロンソンのように強そうには見えない。演じるチャーリーも大悪党ではなく小悪党。命が惜しい。金を返そうと思う。
 ドン・シーゲルの演出はムダがなくきびきびしていて、ごく自然に映画を楽しめる。サスペンスも過不足なくあって、アクションも面白い。ヒッチコック映画へのオマージュもあってニヤリとさせられる。なかなか面白い映画であった。ただ不満が二つ。チャーリーを追うマフィアに雇われた殺し屋。ジョン・ドン・ベイカーが演じていたが、ただの乱暴な殺し屋になっていた。もっとひねった悪役が欲しかった。このような映画では悪役が大切である。本作では主役は合格悪役不合格ではないが、少々ものたらなかった。
 チャーリーの相棒をやった若いギャング。ハーマンをやったアンディ・ロビンソン。シーゲルが監督をしてイーストウッドを大スターに育てた映画「ダーティー・ハリー」第1作。あの映画で主人公ハリーに対する悪役スコーピオンを演じたのがアンディ・ロビンソンである。あのロビンソンのスコーピオン役は凄かった。狂気の連続殺人犯を見事に演じていた。イーストウッドはドン・シーゲルを恩人として感謝しているらしいが、「ダーティーハリー」成功の要因の一つがロビンソンの名演である。イーストウッドはロビンソンにも感謝してもいいだろう。そんなアンディ・ロビンソンである。いかなる若いギャングを演じるか期待したが、ただのバカな若者であった。

長江哀歌

2022年05月09日 | 映画みたで

監督 ジャ・ジャンク―
出演 ハン・サンミン、チャ・タオ

 四川省三峡。長江の町。大きな川にそって町がある。建物は多いが、みんな古い。半分壊れている。人が壊している。
 三峡は近い将来亡くなる町。長江に大きなダムができる。町は湖底に沈む。そんな町に人探しに来た男と女。妻を探す男。夫を探す女。二人とも目的の人に会えた。だが、探し出した妻も夫もあまり幸せそうではない。
 湖底に沈む古い町で人を探す男女。それだけの映画。国が行う巨大なプロジェクトの影にも生活している人たちがいる。
 

連休中に落語で充電

2022年05月06日 | 上方落語楽しんだで
 連休の中休みです。休日出勤の多い私もこの連休はそれなりに休めました。1日の日曜はSFのお友だちと飲み会をしておりました。ずいぶん久しぶりです。若いころは5次会までやってましたが、今は2次会までがせいいっぱいです。
 2日はお仕事。ごくろうさま。3日は芦屋市立美術博物館に行ってました。北原照久コレクション展です。私らの世代にとって懐かしいモノばかりです。こんど同人誌の仲間を誘ってもう一度行くつもりです。ブリキのミニカーを買ってきました。ほんとは「禁断の惑星」のロビー・ザ・ロボットが欲しかったのですが。売ってませんでした。
 4日目は四天王寺の古本市をのぞきに行きました。私、落語の「天王寺詣り」ではおなじみですが、リアルに四天王寺に行くのは初めてです。亀の池と五重の塔を見ました。五重の塔のてっぺんにはサギ獲りのおっさんはおらんかったです。古本市の収穫はハミルトンのキャプテン・フューチャー「時のロストワールド」と白土三平「サスケ」全15巻です。ハヤカワの銀背は少なかったです。あってもミステリーばかりでSFは皆無でした。けっこう規模の大きな古本市でしたが、私らSFもんにとっては貧しい古本市でした。大阪の古書店店主はもっとSFを勉強するように。帰りしな、繁昌亭に寄って前売り券を買いました。
 さて、きのう5日は午後にはい出て新開地に向かいました。行先はもちろん喜楽館です。夜席です。この日のトリは桂南光師匠です。南光師匠を喜楽館で見るのは初めてです。
 桂南光師匠は上方落語協会員ではありません。だから繁昌亭や喜楽館の昼席に出はることはありません。夜席は貸席なので協会員以外でも公演できるのです。なぜ私が上方落語協会員ではないのかは、長くなるのでここではいいません。と、南光師匠はいってはったけど、私はだいたい想像できますが、ここでは書きません。南光師匠、上方落語協会員ではありませんが、上方の落語家さんとの交流はあって、他の一門の落語家さんの襲名披露で米朝事務所を代表して口上を述べてはる。
 さて、開口一番は桂弥っこさん。吉弥さんのお弟子さんです。マクラは出身地の島根ネタ。島根人口少なし。過疎地。鳥取との区別つかん。島根県人の自虐ネタのマクラです。私にも古い友人に島根県人がおりましたが、弥っこさんがいうほどのことはないでしょう。
 やらはった演目は「んまわし」「ん」という数だけ田楽がもらえるという落語です。後半に「ん」のつく言葉を長くスムースにいえるかがポイントです。弥っこさん、そこは合格ですが、噺が少し平板でした。
 2番手は桂そうばさん。大学進学前に浪人してはったんですって。その予備校時代の6浪した先輩の話がマクラ。その先輩お寺の息子だが医学部志望ですって。その先輩が結婚するから披露宴でスピーチを頼まれたんですって。先輩、医者になったか坊主になったか?
「餅屋問答」をやらはった。先日ロバート・デ・ニーロの「俺たちは天使じゃない」で私、この噺を引き合いにだしたばかりだったので、少しびっくりしました。
 仲入り後のトリ前は林家染吉さん。「癪の相薬」です。この噺お侍の演じ方が大切です。謹厳なお侍が、お腹をかかえて苦しむごりょんさんに、ハゲ頭をなめさせる。このお侍いい人なんですね。謹厳でいい人のお侍。このあたりの演じ方さすが染吉さんでした。
 トリはもちろん南光師匠。こないだ日曜の夕方にやってる大喜利番組に出はったそうです。ま、「笑点」ですな。で、南光師匠、ここだけの話でよそでいわんように、というて「わたし、あの番組大嫌いですねん」円楽さんに頼まれてしかたなく出たんですって。あれ、あそこに並んでる江戸落語家が当意即妙の受け答えするのんが売りやけど。「ほんまは、そんなんちゃいまんねんで」アドリブでやってないんですって。8人ほどの放送作家が頭をしぼって問いと答えの台本を書いて、何度もリハーサルをやってるんですって。私(雫石)もあんなもんは観ません。日曜の午後なんにもすることがなくて退屈してるときに観ることがあります。入院中に少し観てました。
 南光師匠は「胴乱の幸助」をやらはった。ケンカの仲裁が趣味のおっさんの噺です。どんなケンカでも中に入って仲直りさせます。犬のケンカも仲裁します。ケンカが大きければ大きいほど喜びます。いま、みんなが一番心配しているでかいケンカといえば、ウクライナとロシアのケンカです。トルコの大統領やイスラエルの首相、国連の事務総長が仲裁しようとしてますが、かような小者ではダメです。ここはひとつ胴乱の幸助のおやっさんに出張ってもらいましょう。と、思うのですが、南光師匠はウクライナVSロシアのケンカには言及されなかった。浄瑠璃の「お半長」帯屋長右エ門のとこの嫁姑のもめごとに胴乱の幸助が首をつっこむオーソドックスな噺でした。
 楽しい落語会でした。これで元気100パーセント充電OK。明日からまた元気に働きます。

るろうに剣心 最終章 The Final

2022年05月02日 | 映画みたで

監督 大友啓史
出演 佐藤健、新田真剣佑、武井咲、有村架純、青木崇高、蒼井優

 このシリーズの第1作を見た時は、その殺陣の斬新さに度肝を抜かれた。ものすごいスピード感と浮遊感。こんな殺陣の時代劇は初めて見た。小生が殺陣のうまい俳優と思っている近衛十四郎、松方弘樹親子。この近衛松方的殺陣とは全く違う殺陣を創出した映画シリーズといっていい。
 この映画もその斬新な殺陣をたっぷり見せてくれるが、殺陣だけの映画といっていい。映画そのものは、姉を殺された弟が、上海に渡ってがんばって上海マフィアのボスとなって帰国。姉の仇の剣心を討つために大さわぎをくり広げるというモノ。ただのシスコン映画である。
 佐藤のアクションは相変わらずすごいが、こんどの敵キャラを演じるのが新田真剣佑。新田もアクションがんばってるが、まだまだお父さん(千葉真一)の域には達してない。千葉のアクションはもっと重量感があって迫力があった。新田のは軽い。
 こういうお父さんと同じ仕事をしてて父を越えようとしたら、父と同じレベルではダメ。父のファンから見れば父と同じでは、まだまだと見られる。父を超えて、初めて父に並んだと評価される。父を超えるには父の倍以上の才能を見せなければダメだ。精進するように。
 偉大な父を超えるのは大変なのだ。ではどうする。松田優作、松田龍平親子。優作は極端にいえば大藪春彦であって他の役柄もそのバリエーションであった。龍平は「舟を編む」のような地味でおとなしい役もできる。優作より龍平の方が芸域が広い。
 桂米朝、桂米團治親子。米朝はほとんど完璧な落語家といっていい。ところが米團治はぬけているところがある。また米團治は底抜けの明るさを持っている。偉大な父を超えようと思ったら、父とは違う路線か、父が持ってないモノを模索するのも一つの方法だろう。