ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

オムライス

2021年02月23日 | 料理したで

 新型コロナさわぎで、最近は行ってないが、このさわぎ以前は月に数度は神戸新開地の喜楽館に行っておった。ワシは喜楽館のタニマチであるからして、昼席は優遇されるのだ。
 その喜楽館へ行ったとき、グリル一平で食事をすることが多い。喜楽館の向かいのビルの2階。食べ終わって5分以内に喜楽館の自席につける。そのグリル一平の看板メニューがオムライス。ここのオムライスは極薄の卵で包んである。御影公会堂のオムライスも食べたことがある。両方ともうまい。
 グリル一平、本店は新開地だが支店もあるし、出身の料理人が独立して店を持つこともある。独立しようと思えば、極薄のオムライスを出来なければ独立を認めてもらえないそうだ。
 オムライスはワシも作る。グリル一平は卵半分でオムライスを巻くそうだが、ワシはとてもそんな技術はない。ワシは卵2個使う。うん、グリル一平や御影公会堂のオムライスもうまいけど、ワシのオムライスもうまい。グリル一平の極薄オムライスもええけど、卵2個のワシのオムライスの方がふわとろで卵のうま味がよう味わえる。

ドクトル・ジバゴ

2021年02月22日 | 映画みたで
監督 デヴィット・リーン
出演 オマー・シャリフ、ジュディ・クリスティー、ロッド・スタイガー

 3時間を超える超大作映画である。長い映画であるが長さを感じられなかった。アメリカ、イタリアの合作映画で、監督はイギリス人のデヴィット・リーン、エジプト人のオマー・シャリフがロシア人を演じるというなんとも国際的な映画である。
 主人公のユーリ・ジバゴは医者で詩人。両親を幼くして亡くし親戚に育てられる。開業医を志し、詩作にも励む。
 ラーラは母親の代わりにパーティーに出席。ラーラはパーティで知り合ったコマロフスキーなる有力者のおっさんに手ごめにされる。ラーラ―にはパーシャという革命家の恋人がいる。そしてユーリも妻子がいるみでラーラとわりない仲となる。
 こうしてあらすじを紹介すると、男女の色恋ざたで近松かいなと思うだろうが、この映画は浄瑠璃にはならん。壮大な大河ドラマとなっているのである。浪速の曽根崎あたりの醤油屋の手代徳兵衛と女郎お初の悲恋物語ではなく、ロシアの医者で詩人のジバゴと看護師ラーラの壮大なラブロマンスである。
 江戸時代の浪速ではなく、革命騒ぎ真っただ中の厳寒のロシアである。元禄の浪速の町方とロシア革命中のロシアの広大な大地。登場人物が同じようなことをやっていても、舞台、時代背景が違うだけで浄瑠璃になるか大作の大河ドラマ映画となるかの違いなのである。

食堂ジンベイ メニューその1 ダンブツオオデンキウナギの蒲焼

2021年02月18日 | 作品を書いたで
 食料はあと五日分はある。二五日間がんばっているが、目的はまだ達してない。あと五日でアレが捕獲できるとは思いにくい。ここの日数計算でのことだが。
 場合によっては食料その他、必要なモノをここまで届けてもらわなければならないだろう。かなり経費がかかるが、必要経費だから精算時に上乗せできる。
 ん。湖面に波紋ができた。三メートルほどの細長い影が湖面にうつる。やつだ。間違いない。ダンブツオオデンキウナギだ。

「もう、ずいぶん昔のことです。私たち夫婦の共通の友人に食事に招かれたのです。そこでいただいた魚料理がたいへんにおいしかった」
 老齢の夫婦である。この夫婦が今月の客である
 ウチは広告宣伝はいっさいしていない。看板一枚出していない。店のおもてを通っただけでは、ここがレストランとは判らない。ふつうの民家である。ただ表札が「食堂ジンベイ」とあるので、ここがレストランだとかろうじて判る。中に入るとテーブルと椅子が二脚だけ。
「食堂ジンベイ」の客はひと月に一組だけ。予約は四年先までつまっている。 
 私、湯沢山洋、「食堂ジンベイ」のオーナーシェフである。和洋中華、イタリアンにエスニックあらゆる料理を手がける。
 食堂ジンベイにメニューはない。お客が食べたい料理をリクエストすれば、どんな料理でも作る。食材は、この世にあるモノであれば必ず手に入れる。
「その魚が食べたいのですね」
「ぽっくりとした身で、淡泊でありながらコクがある。口に入れた時はなんということもない魚肉でしたが、じわっと美味が口の中にひろがっていきました」
「白身の魚ですね」
「はい」
「淡水魚か海水魚か判りますか」
「その友人の話では、山奥の湖で獲れた魚だそうです」
「どちらの湖か判りますか」
「なんでも北国の湖だそうです」
「料理はご友人がされたのですか」
「はい。友人は昔、丹半の花板だったのです」
 丹半。いまはもうない名料亭である。創業は古くは家戸時代の成応二年。戦前には衆和天皇も行幸のおりに立ち寄られたとか。そこの花板。私も名前は知っている。
「中南俊直さんですね」
 その魚がなにか。夫婦の友人という人に会って教えを請おうと思っていたが、中南氏は三年前に亡くなった。
 まず、その魚を特定する必要がある。魚が特定できれば、処理の仕方、調理法を考えなくてはならない。

 阪西大学農学部水産学科。ここだ。魚類学者の岩本純一教授の研究室はこの建物の三階にある。古いエレベーターを降りると目の前が岩本研究室だ。ホルマリンの臭いがただよってくる。
 ドアをノック。
「はい」
「私、湯沢といいます。岩本先生はおられますか」
 若い男が中に入れてくれた。
「先生、ついさっきまで待ってたんですが、淡水魚養殖実験場でトラブルがあって、急いで出かけました」
 岩本教授はこの国の淡水魚の権威だ。私が客の夫婦から得た乏しい情報からでは魚を特定できない。淡水魚の専門家に相談する必要がある。いたしかたがない。出直すとしよう。
「判りました。また来ます」
「ちょっと待ってください。ぼくは岩本先生の助手で院生の高橋といいます。ぼくでよろしければお話をうかがいますが」
 夫婦から聞いた話をひととおり話した。
「はい。北国の山中の湖ですね。淡泊な白身。長い魚。魚体は大きいが食べる所は小さい。調理した人が手を火傷していた」
「判りますか」
「だいたい判りました。その湖は赤林県の段仏湖で、その魚はダンブツオオデンキウナギですね」

「ワシはまだ命がおしい」
 地元の役場に紹介してもらった、その老人は右腕に大きな火傷の跡がある。
「これみろ。電気が右肩から右腕に抜けたから火傷だけで助かったのだ。心臓のある左半身をやられていたら命はなかった」
 ダンブツオオデンキウナギ。知られている限りでは最強の発電魚である。地球のアマゾンのデンキウナギは九百ボルトの高電圧を放電するが、電流が少なく放電時間も極めて短い。危険な魚ではあるが、人が感電死した例は少ない。
 ダンブツオオデンキウナギは三千ボルトで五十アンペアの高電圧高電流を三分放電できる。人、いや生き物ならば、直接触らなくても近くの水中におれば確実に感電死する。
 このように危険な魚であるが、たいへんに美味しい魚だ。ダンブツオオデンキウナギを五尾獲れば大きな屋敷が立つ。一尾なら一年は遊んで暮らせるといわれてきた。
 その屋敷は湖のほど近くにある。湖面を渡ってきた風が心地よい。縁側に座った老人は火傷の跡のある右手で茶碗を持って、ズズズと茶をすすった。私の前にもナッツと茶がある。
「ま、遠慮せんとどうぞ」
 茶を飲んでナッツを食べた。衝撃を受けた。こんな茶とナッツはいままで口にしたことがなかった。私も料理人だ。たいていの美味しいモノは食べたことがある。しかし、こんな茶とナッツは初めてだ。
「どうじゃ。うまいだろ。ダンブツ茶とダンブツナッツだ」
「このお茶とナッツはここで栽培してるのですか」
「そうじゃ。白い花が咲いておる木がなん本もあったじゃろう」
「はい」
「ダンブツボダイジュじゃ。あの白い花が結実し、その種がこのナッツじゃ。葉っぱを乾燥させたものがダンブツ茶じゃ」
 お茶とナッツがダンブツオオデンキウナギとどう関係あるのだろう。疑問に思うが老人の話を聞く。この老人はダンブツオオデンキウナギを捕獲したことのある漁師のただ一人の生き残りだ。
「ワシはもう漁師ではない。引退して十年以上だ」
 そうはいっても、褐色の顔色はまだまだ現役の漁師のようだ。
「この村は、元来は貧しい村でな、稲、麦といった穀物はできない。村の収入源は湖の魚だけじゃ。特にダンブツオオデンキウナギは高値で売れる。ところが、この魚を獲ろうとして多くの漁師が命を落とした。数少ない生き残りもトシでな。ワシだけがこうして生きておるんじゃ」
「では、今は段仏湖で漁をする人はいないんですか」
「段仏湖には他の魚もおるが、金にならん雑魚ばかりじゃ。それにアレもずいぶん少なくなった。今はおるかおらんかわからん」
「では、この村はどうして収入を」
「村の広場に銅像があったじゃろ」
「はい」
「あの高田智也が二十年前、一本のダンブツボダイジュをこの村に植えた。その一本が今は四百五十本に増えた。今はこのダンブツボダイジュがこの村の稼ぎ手じゃ」
「判りました。でも私はどうしてもダンブツオオデンキウナギを捕まえたいんです」
「やめとけ。死ぬぞ」
 老人とのやり取りがしばらく続いたが、根負けしたのか、とうとう老人がいいだした。
「判った。道具がまだ残してあるから貸してやろう」
 老人は裏の物置から長さが三メートルほどの細長い篭を出してきた。
「ヤツは貪欲な雑食性の魚じゃ。エサはなんでもいい。ワシは鶏肉を使っていた。この篭に鶏肉を入れて一晩湖底に沈めておくのじゃ。どこがポイントかはこれに書いておいた」
 老人は湖の地図を手渡してくれた。五カ所に印が付いている。
「その一番南のところがワシが最後に漁をしたところじゃ」
「ありがとうございます」
「最近、ダンブツオオデンキウナギも数が少なくなっておる。いや、もう絶滅したかも知れん。ムダじゃとワシは思うがの」
「どうしてもダンブツオオデンキウナギを獲りたいのです」
「お前さんにあきらめさせるのはできんようじゃの」
「はい」
「だったらこれも貸してやる」
 分厚いゴムで出来た雨合羽と胸元まである長靴、肘を通り越してわきの下まである長い手袋。両方とも分厚いゴム製だ。
「ヤツは3千ボルトの高電圧を放つ。ちょっとで肌に触れれば即死する。一番気をつけねばならないのは水じゃ。ワシがやられた時は肩口から右の肘に水滴が一滴ながれた。それを通ってヤツの電気が流れた」
「いいか。ヤツは三メートルの細長い魚じゃ。罠にかかったヤツを感電せずにどう取り込むか。ようく考えることじゃ」

 魚探には確かに反応があった。それに今朝引き上げた篭のエサはなくなっていた。確かにヤツはいる。先ほどの波紋はヤツがたてたものだろう。
 篭による罠漁は、いったん止めよう。釣りを試してみよう。確実に釣るには、岸から釣るより、ボートを出して湖の中ほどに釣り糸を垂れた方がいいだろう。
 持ってきているボートは小型だ。三メートルの大ウナギを釣れば転覆させられるおそれがある。ボートが転覆、水中に転落すれば3千ボルトの電撃をくらう。特製の絶縁服を着ていなければ即死だ。
 湖畔の立ち木にロープをくくりつける。ロープはボートのともに搭載している小型のウィンドラスにつながっている。
 ボートを出す。岸から五メートル。船をとめて魚探のスイッチをオン。反応なし。船を少しづつ移動させながら魚探で探る。それにしても、この湖は魚影が少ない。ダンブツオオデンキウナギ以外の魚があまりいない。当然だろう。三千ボルトの放電をする魚がいるのだ。近くを泳ぐ魚は無事ではない。餌となる魚が少なくなれば、大ウナギも少なくなるのだ。
 魚探に反応があった。長い影がディスプレイに写っている。釣り針の先に鶏肉をつけて水中に投げこんだ。ハリスは釣具メーカーに特注で作ってもらった。太い目で切れにくいのはもちろんだが、特に絶縁性に優れた素材で造られている。
 ボートのへりに高速の電動リールを設置してある。もちろん、釣具メーカーに特注で造ってもらったものだ。絶縁体のセラミック製のリールだ。 その電動リールは四つの碍子の上に固定されている。
 ヒット!猛烈な勢いでリールが回りだした。ガキッ。リールのストッパーを掛けた。ゴンという衝撃とともにボートがひっぱられる。リールのスイッチをON。同時に船外機を始動。ボートはゆっくり後進する。ハリスが左右に揺さぶられる。ボートのまわりに小魚が腹を上にして浮かんできた。三千ボルトを放電しているのだろう。ウィンドラスを稼動させる。ロープが巻き取られ、ボートの後進のスピードが速くなった。強い力で引っぱられるから、左右に揺れていたボートがまっすぐ後ろへ進む。
 水面に水柱が立つ。大ウナギのシッポが見えた。かなりの大物だ。リールは快調にハリスを巻き取っていく。三メートルを超える細長い影が見えてきた。
 ジャリジャリ。ボートの船尾が砂と接触する音がする。岸に着いた。ウィンドラスが回っているので、ボートは水面を離れ地上をすべる。大ウナギが地上に引きずり上げられた。長さ三メートル直径十五センチほどの大物だ。
 バチバチと音がする。高圧電流を放電しているのだ。横の草むらにいるトカゲやヘビなどの小動物が死んでいる。
 こいつを取りこんで処置をし、店に持ち帰って調理しなければならない。しかし、いま触るのは危険だ。絶縁性の大きな、分厚いゴム製の長手袋、合羽、長靴で武装しているが三千ボルトの高電圧だ。少しでも水分があれば感電して即死する。
 触らずにそのままにしておく。ダンブツオオデンキウナギの放電時間は三分。一〇分経った。もうだいじょうぶだろう。絶縁体のセラミック製の包丁で首の後ろを切ってしめる。血ぬきして分厚いゴム製の袋にしまう。

 調理場の床にはゴムを敷きつめた。ゴム長靴、ゴム手袋、ゴムのエプロン。手には特性のセラミックの特大ウナギ裂きを持つ。
 あとはサイズが大きいだけで、やることはいっしょだ。目打ちを打ってウナギをまな板に固定する。腹開きにする。一気にウナギを裂く。ウナギの調理は「裂き八年串打ち三年焼き一生」という。私はウナギ職人の経験が少しはある。ダンブツオオデンキウナギはサイズが大きいから裂くのは比較的簡単だ。
 身はきれいな白身だ。全長が三メートルほどの魚だが、大人の握りこぶし大の頭とその後ろ二十センチに内臓がある。この魚の胴は三十センチで、あとの二メートル七十センチは尾というわけだ。尾の部分はすだれ模様の筋肉がある。ここの筋肉が発電組織。三千ボルトの高電圧を発電している。この部分はしゃごしゃごしてて食べられない。食べられる部分は長大な尾と短い胴のすき間の十センチほどの部分だけ。
 その十センチを残して尾と胴を筒切りにする。残った十センチの身、これを包丁で開いて二切れの切り身にする。串を打つ。
 備長の炭で焼く。醬油と味醂で作ったタレを塗る。焼く、塗るを三度くりかえす。
 
「お待たせしました。ダンブツオオデンキウナギの蒲焼でございます」
 夫婦の前に一皿づつ置く。本日の料理はこれだけである。
 夫婦は至福の表情をうかべて食べた。
 私は、そっとお勘定書きを置いた。本日の会計はそれなりのお値段である。
                                          


機龍警察 火宅

2021年02月17日 | 本を読んだで

月村了衛      早川書房

「火宅」「焼相」「輪廻」「済度」「雪娘」「沙弥」「勤行」「化生」と、仏教用語をサブタイトルに使った短編が8編収録されている。
 いずれも警視庁特捜部のメンバーが主人公。由紀谷警部補が病気の警官仕事の師匠を見舞う。長くない。その師匠の秘密。凶悪犯が大量の爆薬を持って児童教育センターにたてこもる。アフリカ内戦。少年兵。子供をキモノの操縦者にする。ライザ警部と沖津部長の出会い。オズノフ警部のロシア時代の思い出。由紀谷警部補の少年時代。不良少年がなぜ警官になったのか。など。このシリーズのファンなら必読の書である。
 

汚名

2021年02月15日 | 映画みたで

監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ケーリー・グラント、イングリッド・バーグマン、クロード・レインズ

 基本的にはエスピオナージ映画である。でもスパイ活劇だけではなく(この映画でアクションシーンは無い)ラブロマンスの要素も濃い。ヒッチコック監督らしくサスペンスが楽しめる。サスペンスだからハラハラドキドキ、どないなんねやろ。ほんまはどやねん。というのが二本立てで楽しめるわけ。マークすべき敵方の秘密を探りだせるか、目的を達したらちゃんと逃げれるやろか、といったエスピオナージとしてのサスペンスと、主人公の男と女、この二人、ほんまに好きおうてるのか、国の仕事してるが、義務感でやってるのか、好きな人にいわれたからやってるのか、最後にこの二人どうなんねやろ。といったラブロマンスとしてのサスペンス。この二つのサスペンスの塩梅がうまい。
 アリシアの父は大戦中ドイツのスパイだったとの判決で獄につながれた。そのアリシアへデブリンなる男が近寄って来る。二人でドライブしてたらスピード違反で捕まった。デブリンが身分証を見せると警官は敬礼して違反切符を切らずに去る。どうもデブリンは警察のえらい人か政府関係者らしい。そのデブリンがアリシアにブラジルに行ってセバスチャンなる男に取り入ってくれと依頼。アリシアはセバスチャンと旧知。彼は父の友人で、かって自分にぞっこんだったことも。アリシアはセバスチャンに取り入り、彼と彼の仲間の秘密を探りだす。
 アリシアをやったイングリッド・バーグマンはものすごくきれい。

アードベッグ ビーフシチュー

2021年02月14日 | 料理したで

 数か月前、テレビの紀行番組でスコットランドはアイラ島が紹介されていた。レポーターのねえちゃんが訪ねた家が代々ウィスキーの蒸留所務め。アイラ島は閑散とした島で産業といえばウィスキー造りぐらいしかないんじゃないかな。その家はオヤジがアードベッグで息子がボウモアで働いている。親子でおれの造るウィスキーが最高なんて自慢しあっておった。ワシ(雫石)はアードベッグもボウモアもラフロイグも好きだな。スコッチの中でもアイラモルトは好きな方だな。この家の夕食。なんぞコトコト煮ておった。どうもシチューらしい。仕上げにアードベッグをひとたらししてた。こりゃいつかマネしてやろと思うておって、このたびマネしたわけ。
 あの番組ではなんのシチューやったか忘れたが、ビーフシチューにする。牛のすね肉のかたまりを切って、フライパンで焼く。肉の表面に焦げ目をつけてうま味をとじこめる。焼いた肉は取り出す。肉のうま味が残ってるフライパンでミルポア用の野菜を炒める。にんじんと玉ねぎをフードプロセッサで細かくしたもんや。小麦粉を加える。じっくり時間をかけて炒める。玉ねぎがアメ色になるまでな。そこにホールトマトと赤ワインを加えて煮つめる。
 さて、これをフライパンから煮込み用の鍋に移す。ここにビールを500ccほど入れて肉を入れて煮込む。ビールは肉をやわらかこうするな。コトコトと肉がやわらこうなるまで煮る。肉がやわらかくなったら取り出す。煮汁をシノワに入れてこす。充分に絞り出そう。シノワに残った絞りカスはフードプロセッサにかけて粉砕して汁にもどす。肉を鍋に戻し、具の野菜、ペコロス、にんじんを入れてしばし煮込む。ここでなんちゃってデミグラスソースを入れる。ワシはゆえあってデミグラスソース絶ちをしとる。とんかつソース、醤油、オイスターソース、味醂、ケチャップを混ぜ合わせたらデミグラスソースみたいな味になりよる。
 仕上げにアードベッグ10年を100ccほど入れる。皿に盛って、ゆでたいんげんを散らせばできあがり。うん、アイラモルト独特な強いピート香がアクセントになってうまい。
 赤ワイン、ビール、ウィスキーと、水は一滴も使わんと酒だけでできたビーフシチューや。食べ終わったあともアイラモルトの香りがそのへんにいっぱい。スコッチ好きとしてはたまりませんなあ。
 

神戸と洋食

2021年02月11日 | 本を読んだで

 江弘毅       神戸新聞総合出版センター

 洋菓子、パン、中華、牛肉などなど。神戸にはおいしいものがいっぱいある。洋食もその一つ。
 神戸開港150年。神戸にはさまざまなモノが西洋から入って来た。料理もそうだ。西洋から入って来たフランス料理やイタリア料理を基本に、日本独特の料理に進化したのが洋食だ。神戸は西洋文物の入り口の地であるから、神戸の洋食はおいしくなった。
 神戸の洋食は大きく分けて三つの系統に分類される。まずオリエンタルホテルの系統。外国人居留地に明治3年にオープンした日本最古の西洋式ホテルだ。そこの厨房から数多の料理人が巣立っていき、独立し、オリエンタルホテルの味を伝承している。
 二つ目は船を降りたコック。海を航海する客船の乗客は食事が大きな楽しみ。その船客の口を満足させるために船のコックは腕利きが多い。神戸には豪華な客船が停泊する。その船のコックが陸にあがり店を持つ。彼らも神戸の洋食を進化させる原動力となった。
 三つめはそれ以外の系統。戦後三宮元町の闇市に自然発生的に店ができ、腕利きの料理人が集まってきておいしい店となる。その代表がグリル一平。このグリル一平。小生が喜楽館に行くときにはよくここで食べる。喜楽館の向かいで、食べおわって3分以内で喜楽館まで行ける。お昼は行列しているときもあるが夜はすいている。看板メニューのオムライスがおいしい。
 それからこの本では紹介されてなかったけれど、おいしい洋食屋を知っている。阪急王子公園から線路沿いに少し東に行った所にある千疋屋というお店。ここは上の系統でいうと船のコック系統で、初代ご主人が船のコックだったとか。小生が行ってたころは息子さんが2代目を継いでいた。クリームコロッケがおいしかった。その2代目も亡くなり、奥さまがあとを継いでいたが、店の場所も変わり、居酒屋に変わったと聞く。

上方落語ノート 第2集

2021年02月10日 | 本を読んだで

桂米朝           岩波書店

 桂米朝師匠の代表的著作2冊目。米朝師匠が言及する、小生が知ってるネタ、知らないネタ。知ってるネタでも新しい発見がいっぱい。
「動物園」という噺がある。若手の落語家がよくやる前座ネタといってもいい噺だが、このネタ輸入もんとのこと。元はイギリスのジョークであったらしい。
なるほど。

鬼の詩

2021年02月08日 | 映画みたで

監督 村野鐵太郎
出演 桂福團治、片桐夕子、露乃五郎、藤本義一、笑福亭松鶴

 冒頭、藤本義一氏と笑福亭松鶴師匠の対談。松鶴師匠のお話が興味深い。昔はなかなかけったいな落語家がいた。「有馬小便」だけを演るだけで何十年も落語家をやっていた人がいたそうな。
 この映画の主人公桂馬喬も、極め付きのけったいな落語家。この桂馬喬、原作者藤本義一が創作した人物であるがモデルがいる。明治の落語家桂米喬。この桂米喬、あの有名な初代桂春団治が目標とした落語家。いわば初代浪速の爆笑王。2代目が初代春団治、3代目は桂枝雀ということになるかな。4代目浪速の爆笑王にはだれがなるか。
 桂馬喬。最初はどうということもない落語家だった。映画の初めで「天王寺詣り」を演っていたが一本調子の噺であった。先輩落語家桂露久のことを手踊りと芝居噺だけの落語家とバカにして楽屋でもあいさつもしない。それで、ある時、客にうける落語とはと自問自答。露久の芸を盗もうと露久にぴったりはりつく。
 馬喬、生涯で2度大きな芸の転機を迎える。愛妻の死。そして天然痘に罹患して容貌が大きく変わる。最後に、天然痘でできた顔のあばたにキセルをくっつけるという芸をはじめる。これが客にうける。
 上方落語最長老で人情噺の名人桂福團治師匠、30代のころの映画である。桂馬喬の狂気が若いころの福團治師匠の熱演によってよく表現されていた。愛妻露役の片桐夕子、日活ロマンポルノ出身の女優さんだが、しっとりとした良い女優さんで福團治さんとの相性も良かった。それになんといっても露乃五郎師匠がうまい。
 明治時代の寄席の雰囲気が判って上方落語ファンとして大変に興味深かった。


たらこのスパゲッティ

2021年02月07日 | 料理したで

 たらこのスパゲッティや。ごっつい久しぶりや。こんなスパゲッティを食うのんは。
 ワシ、会社の健康診断で、ずっと尿酸値が7をこえとって、判定Cやった。いつ痛風なってもおかしないとゆわれとった。痛風は痛いぞ。そやからプリン体の多い、レバーやら魚卵は口にせんかった。それが、それがこないだの健康診断の結果、7ちょうどで、判定がAやった。痛風になるのんは遠ざかったといえよう。そやから先週の日曜にあんこう鍋食ったとき、ちょっとだけあんきもを食った。そして、今朝の朝食がこれや。いやあ、久しぶりやなたらこのスパゲッティ。久しぶりやから塩加減まちごうて、ちょっと塩からかった。スパゲッティ茹でるのんに塩入れて、たらこをほぐしてレモン汁と醤油をちょっと垂らし、塩入れた。
最後の塩はいらんかったな。たらこの塩分を計算に入れてなかったわ。


はずかしい

2021年02月05日 | 作品を書いたで
 歯を磨いて顔を洗う。ひげも剃っておこう。さて、出かけようか。妻と軽くキスを交わして出かける。今日はY電気との商談の詰めだ。なんとしても商談成立といかねばならない。
 良い天気だ。「あ、おはようございます」隣のご主人だ。マスクをしている。しばらく見かけなかったが、感染して入院していたそうだ。
「もういいんですか」
「おかげさまで手術は成功しました。命拾いしましたよ」
 たいへんだな。オレはマスクしなくても外を歩ける。ありがたいことだ。一昨日受けた検査でも陰性だったし、オレには抗体が出来ているのだろう。
 アジアの一部地域の風土病であったその皮膚の癌がまん延して三年になる。あっという間に全世界に感染が広がった。ウィルス性の伝染する癌だ。日本では国民の三〇パーセントが陽性だ。
 空気感染する癌。初期症状は唇に小さな赤い斑点が出来る。それが見る見る大きくなり顔の下半分が赤くゆがむ。放置すれば死亡率八五パーセント。助かっても顔の変形はそのまま残る。手術すれば一〇〇パーセント助かる。極めて簡単な手術で入院不要日帰りで手術できる。手術しても残念ながら手術跡と顔の変形は残る。
 手術は保険が適用されるが、選択は自由だ。助かりたければ手術をする。死を選ぶなら手術はしない。顔が変わったままで生きたくない。そう思う人もいる。そんな人は死ぬ。その場合、病死ではあるが保険金は支払われない。
「それでは、リーチタイプのフォークリフト三台。受注します」
「で、いつごろ納車できます」
「一月の終わりですね」
「もっと早くならないかな。一月の二十九日に、手術なんだ」
「判りました。中旬までにはなんとかしましょう」
「頼むよ」
 Y電気配送センター長の中内氏は、前回の商談の時はマスクをしてなかった。今日はしている。感染して発病したのだ。もちろん私は商談中はマスクをしている。少しでも感染のリスクが減る。
 二月の中旬だ。一年中で最も寒い時期といえよう。雪がチラチラしてきた。
 Y電気配送センター。一月に納車したフォークリフトの使いごごちなどを聞きに来た。納車して一ヶ月。不具合はないか、使い勝手の悪い所はないか。実際に使っているエンドユーザーの声をしっかりと聞いて、設計開発製造部門に伝えて、より良い製品を生み出す手助けをするのも営業の大切な仕事だ。自社製品をほめられればうれしいが、私は可能な限り悪口を聞こうと心がけている。
 中内氏に現場に連れて行ってもらった。マスクは相変わらずしている。
「手術して顔が変わったのが恥ずかしくてマスクしてるんですよ」
 ウチのフォークリフトが働いている現場に連れて行ってもらった。ちょうどトラックからパレットを降ろし終えた車がある。
「おうい。元信さん」
 中内氏が運転者を呼んだ。
「はい」
 元信さんもマスクをしている。
「私は顔半分が金属になりました。ロボット顔が恥ずかしくて」
「どうですか。新しいフォークになって一ヵ月ですが」
「なかなかいいですね。前のより使いやすいです」
 元信さんは新しいフォークリフトをさんざんほめて仕事に戻った。
「カウンターバランスタイプのフォークも新車を検討してます。見積もりしてください」
「はい。判りました」
 
 今日はいい日だった。また次の注文がもらえそうだ。自分へのご褒美で一杯やって帰るか。
 いつもよりちょっと高そうな居酒屋に入る。マスクをする。私は感染もしていないし、手術もしていない。健常者の顔だ。でもマスクをする。
 マスクをしていない人が増えた。感染者の方が多くなって、顔が変形してる人の方が多くなってきた。
 普通の顔が恥ずかしくなった。だから私もマスクをする。マスクの人がだいぶん減ってきた。

星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。


新作落語の舞台裏

2021年02月04日 | 本を読んだで

小佐田定雄     筑摩書房

 小佐田さんの「舞台裏」シリーズの4冊目である。上方落語界のジェダイマスターともいういべき小佐田さんが新作落語をつくる「舞台裏」をつぶさに見れる本である。先行3冊とあわせて上方落語ファンなら必須課題図書ともいうべき本だ。
 小説は作者が編集者に原稿を渡した時点で完成といえる。落語は違う。作家が落語家に原稿を手渡す。それに落語家がアレンジを加えて高座にかける。客の反応をもとに次回同じ噺をやるときに改造を加えることもある。小説は再販の時作者が手を加えることもあるが、原則として小説は変化成長はしない。落語は作者の手を離れても、成長し変化していくのである。落語は生きて成長する生き物なのだ。
 また、同じ噺でも、演じる落語家によって書きわける必要がある。演じる場所、時、あるいは受けての客が違えば、微妙に書き分けなければならない。落語作家は大変なのだ。

SFマガジン2021年2月号

2021年02月02日 | 本を読んだで
2021年2月号 №743   早川書房

ごろりんひとり人気カウンター

1位 身体を売ること        小野美由紀
2位 回樹             斜線堂有紀
3位 貴女が私を人間にしてくれた  届木ウカ
4位 湖底の炎           櫻木みわ×李琴峰
5位 繊維             劉慈欣 泊功訳
6位 明月に仕えて         ネオン・ヤン 中原尚哉訳
7位 キャッシュ・エクスパイア   根岸十歩
8位 2085年の百合プロジェクト   月本十色

連載

小角の城(第63回)         夢枕獏
アグレッサーズ 第4話 ペンと剣 戦闘妖精・雪風 第4部 神林長平
マルデゥック・アノニマス(第34回)  冲方丁
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第6回)    飛浩隆
マン・カインド(第14回)       藤井大洋
幻視百景(第29回)          酉島伝法

 百合特集2021。前回の百合特集が大当たり。雑誌としては異例の増刷。で、2匹目のどじょうを狙ったわけか。この百合特集、ヒットするのも納得する。内容が良いのである。前回の伴名練の「彼岸花」も傑作であったが、今回も傑作ぞろいであった。人気カウンター1位から4位までは年間ランキング入りクラスの傑作である。
 1位の「身体を売ること」は自分の肉体を売って義体のカラダを持った少女と、彼女の肉体を買った少女の交流を描く。カラダは人工物だが精神はジブン。カラダはワタシだが精神は他人。究極の百合SFともいえる。おそるべき傑作といえよう。この小野美由紀。今後マークすべき作家。「ピュア」も傑作であった。女の情念を描く女しか書けないSFを書いてくれるだろう。楽しみな作家である。
34年ぶりに鈴木いずみの後継者があらわれた。

海外特派員

2021年02月01日 | 映画みたで

監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ジョエル・マクリー、ラレイン・デイ、ハーバート・マーシャル

 1940年の映画である。ヒッチコック監督のアメリカでの2作目。血の気の多いはみだしもんの新聞記者ジョーンズは警官を殴ってクビを覚悟していた。
 ジョーンズの新聞社は、戦争が近く風雲急をつげるヨーロッパに特派員を派遣することした。だれを送ろう。あいつがいい。と、いうわけでジョーンズは社長にヨーロッパ行きを命じられる。
 ジョーンズはハーバーストックの変名でヨーロッパに行った。まず取材すべき相手はオランダの政治家ヴァン・メア。ヴァン・メアはヨーロッパの和平のカギを握る人物。そのヴァン・メアが暗殺された。ジョーンズは暗殺犯を追う。
 ヒッチコックらしく二転三転するストーリー。だれが真の黒幕かはっきりしない。第2次世界大戦直前のヨーロッパを舞台にくりひろげられるエスピオナージ活劇。古い映画 であるがなかなか楽しめた。