ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

三体Ⅲ 死神永生

2021年09月24日 | 本を読んだで

劉慈欣  大森望、光吉さくら、ワン・チャイ、泊功訳      早川書房

 SFの本質はホラ話である。ホラをいかにもホラでございといったていで書いたんじゃ、ただのホラ話であって優れたSFとはいえない。そうはいいつつも、ホラをホラとして究極までいったラファティみたいな例もあるが。
 筒井康隆師匠も同じようなことをおっしゃってる。「SFの本質はホラである。ハードSFなんてのは、まじめな顔してヨタ飛ばすのである」
 というデンでいくと、この「三体」シリーズなどは大ボラの極致ともいえるSFだ。うるさい古狸SFもん(ワシもそのうちだが)の喝采をあびるのもむべなるかなだ。
 第1巻第2巻とホラは巻を追うごとにでかくなってきて、最終巻のこの3巻目で、とうとう行き着くとこまで行ってしもた。
 太陽系だの三体艦隊など小さい小さい。最初はほんの小さな始まりやった。それがあれよあれよという間に、どんどんでかくなって、最後は全宇宙まで手のひらの上のごとくあつかって、この壮大なホラ話は幕を閉じる。


スパイの妻

2021年09月21日 | 映画みたで

監督 黒沢清
出演 蒼井優、高橋一生、東出昌大

 最初は凡作かと思った。それでもわが故郷神戸が舞台の映画だから観ていた。どっかで見た建物や風景が出てくる。
 冒頭、陸軍の将校が貿易商社の社長福原優作にあいさつに来る。将校と優作は親しいらしい。将校は優作に西洋趣味の生活は慎むようにとの忠告をする。その雄作が映画を撮影している。妻の聡子が女優として出演。この映画、どうも優作が趣味として撮影しているらしい。将校と福原夫婦の関係、映画、この二つが後半の大きなカギとなる。
 優作が甥の文雄を伴って満州へ行って、謎の女と同じ船で帰国してからが、面白くなってきた。その女が死ぬ。どうも優作、文雄、謎の女の三人は、国家の重大な秘密を知ってしまったらしい。その証拠品のノートとフィルムは優作が持っている。妻の聡子もそれを知る。
 国家機密か人類普遍の正義か。優作は決断し、聡子はどこまでも優作についていく決心をする。
 とんでもない夫を持ってしまった妻。しかも困ったことに妻は夫を深く愛している。夫は本当に自分を愛しているのか?夫は敵国のスパイなのか?かようなことに、翻弄される妻を蒼井優が好演。その蒼井の好演を夫役の高橋が、見事な「受け」の演技をする。脚本、演出、主役二人の演技、映画の重要な要素が極めて高い水準に達した映画といえよう。 

折りたたみ北京

2021年09月17日 | 本を読んだで
ケン・リュウ編 中原尚哉・他訳       早川書房

 いま、最も元気なSF生産国は中国だ。その中国SFの短編を、デッド・チャンとならぶ中国系SF作家のトップランナーケン・リュウが厳選した短編集である。7人の作家、13の短編、それにエッセイが3本収録されている。収録されている作家と作品は以下のとおり。

陳楸帆
  鼠年
  麗江の魚
  沙嘴の花
夏笳
  百鬼夜行街
  童童の夏
  龍馬夜行
馬伯庸
  沈黙都市
郝景芳
  見えない惑星

  折りたたみ北京
糖匪
  コールガール
程婧波
  蛍火の墓
劉慈欣
 円
 神様の介護係

 あと、エッセイが3本収録されている。

 しかし、まあ、なんですな。少し前まで、海外のSFアンソロジーというと、ディックとかティプトリー、エリスン、などとカタカナが並んだもんやが、今はこうして漢字の名前が並ぶんですな。隔世の感がありまする。
 どれも面白かったが、三体の劉慈欣の2編が特に面白かった。
「円」王を暗殺に来た刺客は学者。刺客ではあるが王を尊敬する。王に命じられる。円周率を10万桁まで計算せよ。300万の兵士を与えられる。人間一人一人を素子とするコンピュータを創る。
「神様の介護係」宇宙から「神」がやって来る。各家庭で「神」をめんどうみることになった。
 あと、表題作の「折りたたみ北京」「沈黙都市」「コールガール」が面白かったな。
 

喜楽館名人寄席

2021年09月16日 | 上方落語楽しんだで
 長年の上方落語ファンのワシは月に一度は生の落語を聞かないと禁断症状が出る。と、ここでふと気がついた。落語は「聞く」でいいんだろうか?落語家は高座でしゃべるだけではなく、所作でも噺を表現する。というと、落語を「見る」でええんやろか。それでも片手落ちのような気がする。「聞く」「見る」をひと言で表現する言葉はないんやろか。
 以前は月に一度、「もとまち寄席恋雅亭」があったが、のうなった。それから、この新型コロナ騒動。ワシもワクチン接種の2回目もすんだし、禁断症状もだいぶん重症になったので、12日の日曜日、ごっつい久しぶりに生の落語を「聞きに」「見に」行ったというわけ。
「喜楽館 名人寄席」という落語会。会場はハーバーランドの松方ホール。「喜楽館 名人寄席」なのに、なぜ喜楽館ではなく松方ホールなのか?これひとつのふしぎ。
 さて、トップバッター林家染八さん。東の旅シリーズの「軽業」例の「いっけんのおおいたち」が出てくるやつ。まくらで染八さん、江戸落語と上方落語の違いを解説。江戸落語はお座敷芸、屋内でやる芸。上方落語は大道芸、野外でやる芸。道を行きかう人の足を止めるため、見台を置いて小拍子をカチカチならし、鳴り物を鳴らしてにぎやかに演じる。と、いうことで、今日ははめ
ものがようけ入る噺をやります。ちゅうことで「軽業」良いネタ選びやった。
 2番手は桂あおばさん。「脱ぐんやったら、初めから着てこんかったらええのにな」といいつつ羽織を脱ぐ。これはあおばさんの師匠桂ざこば師匠の常套句。師匠直伝のつかみである。まくらは大阪の西成ネタ。西成ではなんでも路上で売ってるそうな。本も売っている。まともな本ではない。
「釜なしで飯を炊く方法」「電気を使わず明かりを持つ方法」「若い女の子にキャーキャーいわれる方法」なんてことが書いてある。そう、あおばさんは「秘伝書」をやらはった。
 3番手は桂三ノ助さん。創作落語の大家桂文枝師匠のお弟子さん。三ノ助さんは、文枝師匠が三枝時代に創らはった創作落語「鯛」でご機嫌をうかがいはった。
この噺には人間は出て来まへん。登場人物(魚)はすべて鯛です。いけすの中で網ですくわれるの待って、すくわれたら活造りにされる。鯛にとってはずいぶん残酷な噺やが、残酷さを感じさせないように演じるのがだいじ。これは魚や人間やないと客に思わせなあかん。その点は三ノ助さんは合格やった。
 さて中トリは笑福亭松喬師匠。西宮生まれの松喬師匠は、阪神ファンやのうて阪急ファンにならはった。いまは亡き阪急ブレーブスやな。そやから今はオリックスバッファローズやそうです。と、いうことでまくらでオリックスを中心にパリーグ愛をたっぷり。松喬師匠の演目は「二人くせ」でした。
 中入りとなりました。ここ松方ホールは4階。広いベランダに出れます。場所がハーバーランドですから、港と造船所が見えて気持ちがええ。川崎の造船所でしょう。大きなガントリークレーンが並んでます。ワシは造船所には造詣が深いんや。お鉄ちゅうのんがおるけど、ワシはお船や。造船所マニヤやで。
 中入り後の最初は、5代目文枝一門の実力派桂かい枝さん。まずは夫婦ケンカのまくらから。夫婦がケンカして始まる噺。「天狗裁き」やろかと思うたら違った。「堪忍袋」やった。おとなしげなお嫁さんが堪忍袋を借りに来る。なんの不足もないやろと思う幸せそうなお嫁さん。堪忍袋を開けて「死ねえ。くそばばあ」大爆笑です。
 さて、トリ前は笑福亭智之介さん。マジックをやらはった。落語家の余芸ではなく智之介さんはプロのマジシャン。落語もできるマジシャンでありマジックもできる落語家なのだ。
 さて、トリは桂文之助さん。「星野屋」をやらはった。心中もんです。たいへんにトリッキーな噺やけど、さすが文之助さん。オチまで噺は自然にながれていった。
 いやあ、久しぶりの生の落語や。落語はやっぱ生で聞く/見るもんですな。


焼き鳥

2021年09月12日 | 料理したで

 ひさしく外に飲みに行ってない。このコロナ騒動が始まる前は月に一度は大阪でSFのお仲間と飲み会をやっていたが、神戸市民のワシは県境を越えて大阪に行くことは自粛してるのだ。
 そういうわけで自宅で焼き鳥をやった。炭火で焼けばおいしいことは判っている。以前は、炭火で自宅で焼き鳥をやったことがある。煙もうもう。酸欠で息苦しくなるは、火災報知器が鳴るわ、もうたいへん。炭火料理は屋内でやってはあかんのだ。いずれ、子の1365番があたるから、苦楽園か六麓荘に大豪邸を建てたら、広大なお庭で炭火焼き鳥をやろうぞ。
 電子レンジのグリル機能、ガスレンジの魚焼きグリル、フライパン。三つの加熱方法を駆使して焼き鳥を仕上げた。
 野菜はナス、椎茸、とうもろこし。左の皿の下はもも肉。今回はタレじゃなく塩でいただく。鶏もも肉はよくネギといっしょに串に刺してるが、野菜と肉は加熱具合が違う。それを同じ串で焼くのは不合理。ワシは肉と野菜は全く別に焼く。左の上は砂ズリ。こりこりした歯ごたえでワシの大好物。左の皿の右端はむね肉。ねり梅をつけてしそで巻いて食うとうまい。右の皿の肉は皮だ。ようけ食う健康診断の中性脂肪の項目にひびくぞ。ビールだ。

 星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。

最後に出るんや

2021年09月10日 | 作品を書いたで
 神戸新開地ええとこ亭。ぼくのきょうの仕事場や。
神戸の新開地。かっては神戸、いや関西一の繁華街としてにぎわい、「東の浅草西の新開地」といわれたもんや。その後、神戸の中心地は東の三宮に移り、新開地はさびれてしもた。そして神戸の定席寄席の神戸松竹座ものうなったし、新開地の旗艦映画館とゆうてもええ聚楽館も閉じた。
 その新開地も地元の人たちの努力が実り、かっての賑わいを取り戻しつつある。そして二〇一八年松竹座閉鎖から四十二年ぶりに上方落語の定席がオープンした。それがここ、神戸新開地ええとこ亭ちゅうこっちゃ。かって聚楽館は「ええとこええとこ聚楽館」といわれた。それにちなんだネーミングや。
 ええとこ亭入り口で鳴っていた一番太鼓が終わり、二番太鼓も終わった。ぼくの出番や。石段の出囃子で高座へ上がる。
「石段」上方落語では前座専用の出囃子や。石段を上るように早く出世するようにというこっちゃ。ぼくも早く「石段」ではなく、ぼく専用の出囃子で高座に上がりたいもんや。
 見台ひざかくしの前に座る。目の前の幕が上がる。小拍子をパンと叩く。
「ようこそのお運びで。トップバッターはわたし欅小燕があい務めます」
「こんちは」
「お、こっち入り」
 きょうは「つる」をやる。こないだは「動物園」をやった。なんせ、ぼく、この二つと「時うどん」など前座噺を五つできるだけ。
「で、メンがどないしたんや」
「メンがだまって飛んできた」
 下げをいって下手へ下がる。幕はそのまま。お茶子さんがめくりをめくる。笑艶亭鷹三。笑艶亭の中堅鷹三にいさんの出番や。
 ぼくのとりあえずの目標は幕が開いた状態で石段以外の出囃子で高座に上がること。
ぼくは人間国宝欅麦秋師匠のひ孫弟子にあたる。ぼくの師匠の師匠三代目欅燕雀は浪速の爆笑王といわれたけど、癌で早世、師匠が四代目を継いだ。四代目燕雀師匠に入門して五年目や。
 師匠の叔父、三代目燕雀師匠の弟弟子で欅麦秋師匠の最後の直弟子欅麦助師匠がこのたび欅麦六を襲名することになったんや。麦六は麦秋師匠の俳号や。麦助師匠も俳句をやる。
「渡り鳥 串を打たれて 酒のあて」
 と、いう句がある。その麦助師匠が尊敬する師匠の俳号を襲名することになったんや。今後は高座に上がるときはもちろん、俳人としては二代目欅麦六と名乗らはるそうや。
 その二代目欅麦六襲名披露公演に出演を頼まれた。燕雀師匠ももちろん中トリで出はる。
「小燕、ワシの前やってえな」
 師匠からいわれた。師匠は中トリやから、ぼくの出番は二番手ということになる。やったあ。初めて幕があいたままの高座に上がれる。なにをやろう。「つる」や「動物園」といった前座噺ではのうて、もう少し重い目の噺がええな。二代目欅麦六襲名披露公演は、全国をめぐって十一ヵ所で行われるけど、ぼくは八月の兵庫県の芦屋での出演を頼まれた。
 セレブな街で知られている芦屋の芦屋川のほとりにある芦屋スターホールでの口演だ。このホールでは毎年四月麦秋師匠のご長男の五代目欅麦団治師匠が独演会をやらはる。いま、その麦団治師匠に「青菜」の稽古をつけていただいている。「青菜」は夏の噺や。「青菜」をやろう。
「うん。ええやろ」
 麦団治師匠の前で、「青菜」をとおしでやった。
「ほな、師匠、八月のスターホールでやってもええですか」
「ええで」
「ありがとうございます」
「ところでな、お前もそろそろ石段やのうて、出囃子なにがええか考えとき」
 噺家の出囃子はだいたい決まっている。桂米朝師匠は「三下がりかっこ」三代目桂春団治師匠は「野崎」やった。自分の好きな音楽を出囃子にしてもええんや。笑福亭仁智師匠は「オクラホマミキサー」笑福亭鶴笑師匠は「ハリスの旋風」を出囃子にしてはる。ぼくの出囃子は。

「震えるつま先高鳴る鼓動」
リンドバークの「every little thing every precious thing」だ。
元阪神タイガースの守護神藤川球児投手の登場曲だった。この曲が鳴るとぼくたち阪神ファンは勝利を確信したもんだ。
 幕があいた高座に上がる。ぼくも藤川投手みたいに最後に高座にあがれるようになるんだ。
 



ダイヤルMを廻せ

2021年09月09日 | 映画みたで

監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 レオ・ミランド、グレース・ケリー、ロバート・カミングス

 元テニスプレーヤーのトニーは妻殺しを企てている。妻マーゴはアメリカ人の推理作家マークとできている。どうもマーゴはトニーと別れてマークといっしょになりたいようだ。マーゴは金持ち。離婚されたら困る。なんとかマーゴの全資産をわがモノにしたいトニー。もう夫婦間は冷えている。マーゴが死ねば金は全部俺のもんだ。
 トニーは学生時代の同級生スワンを計画に引き込む。素行が悪いスワンの旧悪をあばきたててマーゴ殺しを請け負わせる。
 スワン、マーゴの首を絞める。苦しまぎれにマーゴはスワンの背中を刺す。スワン死ぬ。正当防衛が認められず、殺人罪でマーゴは死刑。
 これでマーゴは死んで財産は俺のモノだ。ところが天網恢恢疎にして漏らさず。トニーの犯罪が立証される。
 グレース・ケリーがたいへんにきれい。きれいすぎる。だからこの映画のグレース・ケリーはミスキャストだと思う。いくら浮気してても、あんなきれいで金持ちの奥さんを殺そうとおもうだろうか。ラストのトニーの犯罪の立証のくだりはミステリーとして良くできているが、こんなきれいな人が死刑になるのか。かわいそう。と、いうことに気がいってしまう。グレース・ケリーはミスキャストだ。

黒い十人の女

2021年09月06日 | 映画みたで

監督 市川崑
出演 船越英二、山本富士子、岸恵子、宮城まり子、岸田今日子

 女護が島の番頭になったよう。ある種の男の理想的境遇だろう。大勢の美女に囲まれて暮らす。ワシはそんなん、暑苦しくてごめんこうむりだが、期せずしてそないな境遇になってしまう男が、この映画の主人公。
 風松吉には本妻も入れて10人の女がいる。妻と愛人9人というわけ。この10人、それぞれの存在も松吉の行状も知っている。その愛人9人、妻双葉が経営する店に集まる相談がまとまる。なにを相談して、店でなにをするか。
 この女10人、双葉をリーダーに不思議な結束力を持っている。共通認識は松吉さんも困った人だ。松吉さんをどうしよう。だれいうともなく「殺しちゃうか」ということになったわけ。
 山本、岸、宮城の3女優の演技合戦となって、たいへんに面白い。日本の美人の代名詞のようにいわれていた山本富士子。きれいなだけではなくたいへんに上手い女優ということがよくわかった。
 松吉役の船越はまさに適役。人当たりは柔らかくだれにも親切。それが特に女性に特に親切。松吉は意図的になんぱしようよしているのではないだろう。自然と接触した女性とくっついてしまうのだろう。彼は女難の男ともいえる。

上方落語ノート 第四集

2021年08月26日 | 本を読んだで

 桂米朝        岩波書店

 桂米朝師匠の代表的著作の第四集である。これでこのシリーズもおしまいである。このとき米朝師匠満72才。体力気力記憶力が最近とみに落ちて来た。第五集はとても望めません、と、ずいぶん気弱なことをおっしゃっているが、師匠はそれから19年生きはった。もうちょっとがんばってもろうて第五集も第六集も書いて欲しかった。
 上方落語ファンうん十年のワシもさすがに知らんことが、ようけ書いてある。
ピカレスク落語の名作「算段の平兵衛」この噺の原点はヨーロッパの民話であったそうな。
 米朝師匠の兄弟弟子さんの桂米之助さんが「風流昔噺」という本を古書店で見つけてきた。万延2年(桜田門外の変の翌年だ)の本で、笑福亭松光という落語家のネタ帳らしい。これを米朝師匠がひとつづつ判読して紹介している。143ものネタが解説付きでのっている。判読しにくい文字多数で米朝師匠もご苦労なさったと書いてあった。
 「かけ取り」「悋気の独楽」「軽業講釈」など現在も演じられる噺もあるが、ほとんどはワシの聞いたことのない噺。落語の元ネタは歌舞伎にたくさんあるということがよく判る。
 米朝師匠の実父、それに二人の師匠、正岡容、4代目桂米團治は55才でなくなった。だからワシは55才で死ぬんや。と、米朝師匠がゆわはったと巷間伝えられているが、米朝師匠ご本人は一度もそんなことをいってないと、この本には書いてある。

市民ケーン

2021年08月24日 | 映画みたで

監督 オーソン・ウェルズ
出演 オーソン・ウェルズ、ジョセフ・コットン、ドロシー・カミンゴア

 映画史に残る大傑作とされる名画だそうだ。これは観なくてはいかんとて、このたび観たわけ。
 監督主演のオーソン・ウェルズはワシらSFもんにとって、自分と同名のウェルズの「宇宙戦争」をラジオドラマ化して、ほんまに火星人が攻めてきたと人々に思わせて大騒動を起こした人物。その才人が満を持してハリウッドで創った映画がこれ。
 この映画をひとことでいうのなら「チャールズ・フォスター・ケーンとはなにもの?」というもの。優れた映画は短い言葉で紹介できるという定義に従えば、この映画は確かに名画だ。
 名画には2種類ある。公開時名画と永遠の名画だ。公開時は斬新な名画であったが、時代の流れに浸食されて普通の映画になってしまう。公開後何年たとうと名画の地位を維持し続ける映画。この「市民ケーン」は残念ながら前者とワシは思う。クローズアップ、マットアートをいった手法を取り入れ、当時としては斬新な画面創りをしている。また過去現在をパラで描き、一人のキャラを浮き彫りにしていくシナリオ。たしかに当時としてはすごい映画であったろう。
 それまで舞台劇をただたんにフィルムに映して映画にしていた映画から、映画独自の表現方法を開発し実現させた。それまでの映画を観てきた人がこの「市民ケーン」を見たらびっくり感動するだろう。
 それは、日本の漫画における手塚治虫の登場を思い起こさせる。それまで2次元的平面な表現であった漫画を、クローズアップなど映画的な手法で漫画を描いた手塚。手塚は漫画を、紙面という2次元空間に3次元の漫画を描いたのだ。
 でも、ウェルズ的映画手塚的漫画は、現在はたくさんある。そうなのだオーソン・ウェルズは開拓者開発者として偉大なのだ。映画作者としてみればどうかな。そういう目でこの映画を観ると。けっこうおもしろい映画ではあるが、絶対的な名画とはいいかねるとワシは評価する。

天離り果つる国

2021年08月19日 | 本を読んだで

宮本昌孝    PHP研究所

 著者の宮本昌孝さんは小生の記憶に間違いがなけければSF出身の人ではないか。たしかSFマガジンでヒロイック・ファンタジーを書ていたのではないかな。そんな人が歴史小説を。この作品、戦国時代もの。そうかヒロイック・ファンタジーから魔法を取り除いて舞台をかえれば、そのまま戦国歴史小説となるわけか。
 舞台は尾張、美濃、関東、京、といった歴史の主要舞台ではない。山深い、飛騨は白川郷の小国。主人公は津田七龍太なる無名(架空かな?)の人物。七龍太は織田信長に仕えているが、身は白川郷に置く。白川郷の帰雲城の城主は内ケ嶋氏理。鄙なる小さな山国の無名の領主のもとで主人公は働く。
 七龍太は内ケ嶋家で働くが内ケ嶋の家臣ではない。織田から送り込まれたお目付け。でも、白川郷の自然と人々、内ケ嶋家の領主氏理と家臣たちに喜んで迎え入れら、溶け込む。七龍太も白川郷を深く愛する。
 七龍太は赤ん坊のころ天才軍師竹中半兵衛に拾われ、半兵衛の従者の養子となって育つ。半兵衛に兵法軍略戦術の教えを受け、立派な若武者に育った。織田家に仕官して白川郷に派遣されるのだが、そこの領主内ケ嶋氏理は家臣領民想いで、名君といっていい。
 この内ケ嶋の姫が、いわゆるおてんば姫。野生児で山猿のような娘。ちゃんとメイクすれば美少女なのはお約束どおり。
 この白川郷は織田と一向宗との緩衝地帯にある。内ケ嶋氏理の理想は織田にも一向宗にも、織田の後継者たる豊臣、また徳川、どの勢力にも与せず、独立中立を目指すこと。戦国乱世に世にスイスのような永世中立国を飛騨の山奥に築くこと。
 七龍太はおてんば姫紗雪とともに氏理の理想実現に心をくだく。本能寺の変後、天下人となった秀吉が白川郷を狙う。
 上下2巻の大部の小説であるがスラスラ読める。津田七龍太、内ケ嶋氏理といった人物はあまりにも出来すぎくんで、おてんば姫も典型的なおてんば姫で、もう少しキャラにひねりを加えても良かったな。

オリエント急行殺人事件

2021年08月18日 | 映画みたで

監督 シドニー・ルメット
出演 アルバート・フィニー、イングリッド・バーグマン、リチャード・ウィドマーク、ローレン・バコール、アンソニー・ホプキンス、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレイブ、ジャクリーン・ビセット

 このところ毎週テレビで「名探偵ポアロ」を観ている。少し前、この映画と原作を同じくする「オリエン急行の殺人」を観た。テレビ版のポアロはデビット・スーシェがポアロを演じている。
 この二本の「オリエント急行」を見比べればかなり違うことが判る。原作はアガサ・クリスティの作品ではトップクラスの人気有名作品だから、犯人はだれかという興味はない。原作をいかに料理するかが違いとなる。
 まず、スーシェ版。こちらはテーマを1本に絞ってポアロを通じて観る人に問いかける。「正義とは何か?」正義は一つではない。正義がすべてではない。この作品の被害者は絶対的な悪人だ。犯人はだれが見ても正義だ。でも犯人は殺人という犯罪を犯した。犯人は悪人として裁かれるべきか。ラスト、ポアロは悩む。そして探偵として敗北する。
 一方、ルメット=フィニー版。こちらは犯人像に焦点をあてている。犯人たち(そうネタばれになるが犯人は複数なのだ)の事情とキャラ見せる。この犯人たちを演じたのは上記のごとく大変な豪華メンバー。フィニーのポアロがこの連中一人一人と面談するのだから、演技比べとなった面白い。とくにイングリッド・バーグマンはその美貌をかくしいつもの美人キャラを封印して地味なおばさんを演じて、きれいなだけではなくうまい女優さんだと判る。
 ショーン・コネリーはオリエント急行での仕事は二度目ではないだろうか。007時代、「ロシアから愛をこめて」で、ジェームス・ボンドとしてオリエント急行に乗っている。それではボンドガールのタチアナを守ってロバート・ショーふんする殺し屋と死闘を繰り広げる。この作品ではインド帰りのイギリス軍の大佐となっていて、リチャード・ウィドマーク扮するアメリカの富豪と対決する。
 で、肝心のポアロだが、スーシェ版のポアロの方が人間的で好感が持てる。フィニー版は高慢なポアロの欠点が浮き彫りにされ、ただたんに推理して事件の構造を開示するだけ。

読まずば二度死ね!

2021年08月16日 | 本を読んだで

 内藤陳                集英社

 おもしろ本おすすめ屋内藤陳師匠の2冊目である。巻頭のカラーページで、陳師匠の勇姿が拝謁できる。メインのおもしろ本おすすめエッセイはあいかわらずアツイが、この巻のキモは、「飲まずに死ねるか!」の章だと小生は思う。酒にまつわる名セリフ集で、本好き酒好きの小生などは、スウィートスポットを突く好エッセイがいっぱい。酒飲みとしても本読みとしても達人の陳師匠ならではの、名セリフの収集である。いくつかここで紹介してみよう。
「オンザロックを、それと君の名を」
「ビールをちびちび飲む人間は信用するに値しない」
「飲むものをくださらない。あなたの顔にぶちかけるものが要るの」「口を狙ってね」
「1本のワインの中には二人の女がいる。コルクを抜く前は処女。抜いてからは熟女」


日本のいちばん長い日

2021年08月13日 | 映画みたで
監督 原田眞人
出演 役所広司、山崎努、本木雅弘、堤真一、松坂桃李

 この映画の主人公は3人だと考えていいのでは。鈴木首相、阿南陸相、昭和天皇。3人とも、この戦争を終わらせることは必要だとの認識はある。高齢の鈴木首相は老骨にムチ打って職務を遂行する。内閣総辞職をすすめられるが、「この戦争はワシの内閣で終わりにする」
 陸相阿南は陸軍をコントロールできる人物として入閣している。その阿南も戦争を終わらせることに反対ではない。国体護持を確約するのならばとの条件づきではあるが。
 そして昭和天皇。日本国の存続を願っている。この3者にからむのが、陸軍の若手将校たち。本土決戦、日本人が最後の1人まで戦い抜けが活路が開けると考え、ポツダム宣言受諾を阻止、天皇の玉音放送の録音盤を奪おうとする。
 結局、歴史はご承知のごとく昭和20年8月15日に天皇の敗北宣言は放送され、戦争は終わった。阿南は腹を切った。阿南は腹を切る以外の選択肢はなかったのだ。

 星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。
 

真昼の死闘

2021年08月02日 | 映画みたで

監督 ドン・シーゲル
出演 シャーリー・マクレーン クリント・イーストウッド

 まずこの映画の一番の不思議。「真昼の死闘」という邦題。死闘はともかくなぜ真昼なのか。ラストのアクションシーンは夜である。冒頭のホーガンがならず者3人をやっつけるのは昼だけど3人を瞬殺してるから「死闘」ではない。これひとつの不思議。原題はTwo Mules for Sister Saraという。「シスター・サラと2頭のロバ」シスター・サラはシャーリー・マクレーンが演じてる尼さん。だからこの映画の主演はイーストウッドではなくマクレーンなのだ。クレジットタイトルでもマクレーンが最初でイーストウッドが2番目。たぶん日本で配給した映画会社がマクレーンよりイーストウッドの方が客を呼べると判断してこないな不可解な邦題をつけたのではないか。
 監督はイーストウッドの二人の師匠の一人ドン・シーゲル。映画が始まって、もう一人の師匠セルジオ・レオーネの映画かいなと思わせる。なんせオープニングでかかる音楽がエンニオ・モリコーネだ。マカロニっ臭がぷんぷんのオープニングだ。ところが映画が進むと、ガンマンと尼さんの珍道中のコメディぽくなる。
 流れ者のホーガンが3人の悪漢に乱暴されかかっている尼さんを助ける。尼さんシスター・サラは、当時メキシコを支配していたフランスの軍隊とわけありな様子。どうもメキシコのレジスタンスのシンパみたい。ホーガンはフランス軍の金を強奪するのが目的。ホーガン、シスターはレジタンスのリーダー、ベルトランと会う。ベルトランはフランス軍の駐屯地を破壊するのが目的。ホーガンは金が目的。シスターの目的は判らんが、3人の利害が一致した。そしてフランス軍の駐屯地を攻撃する。
 原題の2頭のロバは、シスターが乗っていたロバ。もう1頭のロバはシスターにいいように使われているあの男。イーストウッドはマクレーンの引き立て役の映画であった。
 尼さんとか坊主なんて宗教関係者は聖職者で悪もんではない。人格高潔有徳の人と見られている。だからマクレーンは最後と冒頭のシーンをのぞいてずっと尼さんのかっこうしている。