ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

喜楽館開館6周年記念特別公演に行ってきたわ

2024年07月15日 | 上方落語楽しんだで
 昨日は神戸新開地喜楽館に行っとった。喜楽館はでけて6年や。そやから、昨日は喜楽館開館6周年記念特別公演の最終日やった。
 神戸新開地喜楽館は2018年7月11日に開館した。ワシもこけら落とし公演に行こうと思ったけど、この時のチケットは30分で完売。さすがのワシも買えなんだわ。ここだけの話やけどな、喜楽館、ほんまは別の名前になる予定やったんや。神戸の新開地に上方落語の定席ができるゆうんで、小屋の名前を公募しとった。ワシは「新開地ええとこ亭」で応募した。自信もっとったんやけどな。
 ワシの高校はいまはなき神戸市立湊川高校やった。そやから新開地は地元や。今はそんなことないけど、昔は「ヤ」のおじさんらの巣やった。その新開地に聚楽館ゆう映画館があった。今はパチンコ屋になっとるけど、「ええとこええとこ聚楽館」といわれたもんや。高校の定期試験が終わったらよう聚楽館で映画をみたで。「大脱走」「ワイルドバンチ」「ミクロの決死圏」なんかを観たな。その聚楽館への想いをこめて「新開地ええとこ亭」と名付けたんやけどな。
 ま、ワシの思い出話はこのへんで、昨日の話や。
 開演前の一席は桂かかおさん。小枝師匠のお弟子さん。前座噺の定番「動物園」をやらはった。オーソドックな「動物園」を無難にやらはったけど、少しは工夫があったもええんちゃうん。
 開口一番は月亭秀都さん。高座名から判るように月亭文都さんのお弟子さん。これまた前座噺の定番「時うどん」夏にやる噺やないと思うんやけどな。
 二番手は笑福亭鉄瓶さん。「骨つり」をやらはった。オーバーアクションな見ごたえのある「骨つり」やった。鶴瓶一門はうまい噺家さんが多いです。
 色もんはラッキー舞さんの太神楽。清楚な女性の芸人さん。定番の傘の上で鞠や枡を廻す芸のあと、出刃包丁を3本使った芸はなかなかスリリングやった。
 仲トリは桂雀三郎師匠。「代書屋」や。枝雀一門らしく主人公の名前は松本留五郎。ちゃんと「セーネンガッピ」や「セーネンガッピ、ヲ」「ポン」もあった。やっぱり松本留五郎はおもろいわ。
 仲入り後の最初は桂文之助さん。「紙入れ」です。アニキのよめさんと不倫する噺です。
 トリ前は先代文枝師匠の最後のお弟子さん。明石出身の桂阿か枝さん。朝霧駅前のしおみ産婦人科で生まれたといってはった。いまはせきじま産婦人科になってますけど、とゆうてはった。グーグルアースで見るとほんまに朝霧駅前に「せきじま産婦人科」があった。
「千早ふる」をやらはった。ところどころの先代文枝師匠の面影をかいま見ることができた。あのねちゃーとした先代文枝師匠の語り口を一番いろこく受け継いでいるのは、先代文枝一門では阿か枝さんやないかとワシは思うな。
 さて、トリは笑福亭鶴瓶師匠。まくらでたっぷり、先日亡くなった桂ざこば師匠の思い出噺。ふたりでよう遊んだそうです。あんな落語家はもう出ませんと鶴瓶さんはいってはった。「三年目」をやらはった。鶴瓶さんの落語をなまで見る機会は少ないけど、さすがうまいです。
 

奏で手のヌフレツン

2024年07月04日 | 本を読んだで

 酉島伝法          河出書房新社

 酉島伝法はイラストレイターでもある。だから自分が創出する表現物が受け手にどう受け取られるかに、最も心をくだいているクリエイターであろう。本書はイラストレイター酉島ではなく、作家酉島の創造物だ。いうまでもなく日本語で書かれている。ひらがな、カタカナ、そして漢字で表記され酉島伝法世界が繰り広げられている。ひらがなは表音節文字だから「ひ」は「ひ」と読者に読ますだけ。そこに意味イメージを付与することはできない。
漢字は表意文字だから意味やイメージを付与することができる。「覇」と書くと、読者に、安土城の天守から城下を睥睨する信長を思い浮かべさせることができよう。また、ユーラシア大陸の大草原を大軍勢の騎馬隊を率いるチンギス・カンをイメージするだろう。小生が高校の時、同じクラスの水泳部の子が全国大会へ出た。クラス全員ではげましの寄せ書きをした。書道の先生に真ん中になんぞ書いてくれというと「覇」と書いてくれた。これがひらがなで「は」と書いてもなんの意味もない。
 酉島伝法はこういう漢字の効用を最もよく理解して、最大限の効果を発揮するワザを有した作家といえよう。本書もその酉島漢字の魅力をたっぷりと満喫できる。いわばイラストレイターでもある酉島は漢字をイラストとして使っているのではないだろうか。
 

リンカーン・ハイウェイ

2024年07月02日 | 本を読んだで
エイモア・トールズ 宇佐川晶子訳   早川書房

 分厚い本である。679ページのハードカバー。でも、お話は決して重厚ではない。主要な登場人物4人は10代の少年。4人のうち3人は間違いを起こし更生施設に入っていたが最近出てきた。
 主人公(というより主人公格といった方が正鵠を得ている。この小説少年4人が主人公だ)は18才のエメット。まじめ正義感が強い。シェークスピア俳優の息子でエメットよりは世慣れているダチェス。金持ちの子で少し浮世ばなれしているウーリー。この3人が18才。あと1人。エメットの弟で8才のビリー。ビリーは読書家で物知り。この4人が物語を駆動させる。
 エメットとビリーのワトソン兄弟の父はいくばくかの財産と1台の車を残して死んだ。母はサンフランシスコにいる。兄弟は今住んでいるアメリカ中部のネブラスカから大陸を横断するリンカーン・ハイウェイを愛車スチュートベーカーで走って、母のいる西海岸まで会いに行こうとする。ところが後で施設を出たダチェスがスチュートベーカーを無断借用。ウーリーと二人で東部のニューヨークに行ってしまう。ワトソン兄弟はダチェスとウーリーを追って、貨物列車に無賃乗車してニューヨークをめざす。
 この4人の少年が軸だが、この少年たちにからむ脇役が面白い。ワトソン兄弟の幼なじみのガールフレンドで料理上手なサリー。ニューヨーク行きの貨物列車で知り合った、うさん臭い「牧師」ジョン牧師。ずっと貨物列車で無賃の旅を続けている親切な黒人ユリシーズ。そして秀逸なのがエメットがダチェス捜索の手がかりを得ようと探すダチェスの父。それなりのシェークスピア俳優であったらしいが、ええかげんな男。映画でいえば画面には映らないがおもしろいキャラだ。ビリーが愛読している本の著者アバーナシー教授。ニューヨーク在住だからビリーが会いに行くと会ってくれた。この老教授も面白い。
 ぱっと見はロードノベルのようだが、いろんな人物がでてくる人間動物園なおもしろさだ。


幸福のスイッチ

2024年07月01日 | 映画みたで

監督 安田真奈
出演 上野樹里、沢田研二、本上まなみ、中村静香、林剛史、芦屋小雁

 先日、小生宅のエアコンを買い替えようと、ヤマダ電機に行って霧ヶ峰を注文した。ウチはマンションの4階だというと、取り付け工事の下見に来た。室内機と室外機の設置場所を見て、ウチでは工事できませんと断られた。今の霧ヶ峰は近くの町の電器屋が曲芸をして取り付けてくれた。どうしてもとヤマダ電機にいうと高所作業車が必要とのこと。ヤマダ電機はキャンセルし、近くの町の電器屋に頼むと、パナソニックのエオリアをなんとか工夫して取り付けてくれた。また、最初の霧ヶ峰を曲芸して取り付けてくれた電器屋は、老母が存命中電球一個交換に来てくれた。その電器屋は震災後廃業されたが、別の町の電器屋が健在。風呂場の換気扇が異音を発する。気軽にきて点検してくれた。
 だから、この映画で沢田が演じていた電器屋のオヤジは現実にいる。
 玲はオヤジと折り合いが悪く和歌山県の実家を出て東京でイラストレーターをやっている。駆け出しのくせに、クライアントの意向を汲まず上司にたてつく困った新人イラストレーター。姉が倒れたとの知らせを妹から受けた。帰省すると妊娠中の姉は元気。代わりに父が骨折で入院。
 父誠一郎は小さな電器屋を経営している。近くに大手の量販店ができて経営は苦しい。それに父は商品を売るより、売ったモノの修理点検にいっしょうけんめい。電器屋は売るより売ったあとのお世話が大切との信念。そんな父にあいそをつかせて家をでた玲だが、しかたなく電器屋の仕事をする。
 上野のふてくされ演技と沢田のがんこオヤジのとりあわせが面白かった。町の電器屋を大切にするパナソニックが協力しているだけに、ヤマダや上新にはマネができない町の電器屋の存在価値が判る映画であった。このことは小生も現実に体験している。

白鯨との闘い

2024年06月25日 | 映画みたで

監督 ロン・ハワード
出演 クリス・ヘムズワース、ベンジャミン・ウォーカー、ブレンダン・グリーソン、ベン・ウィショー

「白鯨」は高校生のころ読んだ。やたら寄り道が多い長い小説であった。それでも、このトシになっても感銘が残っているということは、名作であることは間違いないだろう。ジョン・ヒューストン監督、レイ・ブラッドべリ脚本、グレゴリー・ペック主演の「白鯨」も観た。この映画は名作だ。
 本作はメルビルの小説を映画化したモノでもジョン・ヒューストンの「白鯨」のリメイクでもない。
 映画が始まってまず登場したのは、新進の小説家ハーマン・メルビル。そう、あの「白鯨」を執筆する前のメルビルが登場する。メルビルはこんど執筆する小説の取材のためある男に会いに来た。
 その男、トーマス・ニッカーソンは遭難した捕鯨船エセックス号のただ一人の生き残り。「話すことはない帰れ」といわれたが、ニッカーソン夫人の口ぞえもありトーマスは話始める。ここからが映画の本編。トーマスは14才の少年船員であった。
 エセックス号はベテランの一等航海士チェイス、親の七光りで船長になったポラード、トーマスらを乗せて出港。当時のアメリカの捕鯨は鯨油を取るのが目的。3000樽の鯨油を持ち帰ることがノルマだ。
 ポラード船長とチェイス航海士の対立などトラブルをかかえ航海は続く。嵐にあい、鯨の群れにも遭遇する。そして、あいつとあう。全長30メートルの巨大な白いマッコウクジラ。
 鯨捕りのシーンは迫力満点である。木造の帆船で大洋を渡り、手漕ぎボートで鯨と対峙する。「勇魚捕り」は命がけなのである。
 そしてエセックス号は大きな災厄に見舞われる。生き残り乗組員は3隻のボートで漂流する。想像を絶する苦難を乗り越えて、なんとか母港に帰った者もいた。
 トーマス老人から話を聞いた、ハーマン・メルビルは小説を書き始める。「白鯨」という小説を。
 なかなかの映画であった。へー、あの名作「白鯨」が書かれるまで、こんなことがあったのか。と、いう伝奇的興味。勇壮な勇魚捕りの迫力。航海士と船長の対立という人間ドラマ。後半の漂流の極限のサバイバル。傑作だ。

SFマガジン2024年6月号

2024年06月19日 | 本を読んだで

2024年6月号 №763    早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 熊が火を発見する テリー・ビッスン 中村融訳
2位 みっともないニワトリ ハワード・ウォルドロップ 黒丸尚訳
3位 物語の川々は大海に注ぐ 仁木稔
4位 閻魔帳SEO       芦沢央
5位 ビリーとアリ   テリー・ビッスン 中村融訳
6位 ビリーと宇宙人  テリー・ビッスン 中村融訳
7位 世界の妻     イン・イーシェン 鯨井久志訳 
8位 バーレーン地下バザール ナディア・アフィフィ 紅坂紫訳

連載
未来図ショートショート(第1回) 田丸雅智
歌よみSF放浪記 宇宙にうたえば(第1回) 松村由利子
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第23回) 飛浩隆
マルドゥック・アノニマス(第53回) 冲方丁
戦闘妖精・雪風 第五部(第13回 懐疑と明白(承前)) 神林長平
ヴェルト 第二部 序章        吉上亮
幻視百景(第48回)         酉島伝法
小角の城(第75回)         夢枕獏

ご覧のように、表紙にでかでかと「宇多田ヒカル×小川哲」と書いてある。一瞬、芸能雑誌かなと思った。なんでも宇多田が「SCIENCE FICTION」というアルバムを出したからこういう企画をしたとのこと。ざっと目を通したが、宇多田にはとくだんSFに思いれはないようだ。宇多田ファンが間違って買ってくれないかなと編んだ企画か。
あと、「デューン砂の惑星 PART2」映画&Netfix独占配信シリーズ「三体」公開記念の特集。SFマガジンは文芸誌ではなかったのか。
肝心の小説は、テリー・ビッスン、ハワード・ウォルドロップの追悼特集。このご両所の「熊が火を発見する」「みっともないニワトリ」が面白かった。追悼特集の作家の作品が最も面白いというのは、現役の作家への叱責ととらえてもいいのではないか。また、こんな面白い作品を書く作家だから追悼特集を企画してくれるのかな。 

 

ミセス・ダウト

2024年06月18日 | 映画みたで
監督 クリス・コロンバス
出演 ロビン・ウィリアムズ、サリー・フィールド、ピアース・ブロスナン

 芸達者ロビン・ウィリアムズの芸を楽しむ映画である。ウィリアムズ七変化がたっぷり楽しめる。
 先週観た「淵に立つ」は人の不幸を楽しむ映画であったが、この映画は人の幸せを楽しむ、というか願う映画といえよう。主人公のダニエルが女装してドタバタ騒ぎをくり広げるのだが、それは父親として子供たちの安寧を願うことなのだから、応援したくなるのだ。
 声優のダニエルは芸は一流だが曲がったことが大嫌い。間尺に合わん仕事はしない。声優の仕事をクビになる。ダニエルの妻ミランダは売れっ子のインテリアルデザイナー。仕事一筋の女。二人の間には長女、次女、長男の3人の子供がいる。子供たち3人は仕事人間の母よりも、家にいる時間が長い父親ダニエルになついている。
 ダニエルとミランダ。以前から微妙にすれ違う。ある日ミランダが早めに帰宅すると、長男のお誕生パーティーの大さわぎ。首謀者はダニエル。ミランダがまん限界、離婚。親権はミランダに。ダニエル週に一回しか子供たちに会えない。子供にもっと会いたい。
 ミランダ家政婦を募集。ダニエル、特殊メイクアーチストの兄に頼んで、女装。60才ぐらいの老英国人女性ミセス・ダウトファイアに変身して、家政婦として雇われる。
 ミセス・ダウトファイアは有能な家政婦として、ミランダに頼られ子供たちに慕われる。
 ミセス・ダウトファイアの正体がバレるか、はらはらしながら、大ネタ小ネタのギャクが楽しい。特に、後半のレストランでのミセス・ダウトファイアとダニエルの早変わりは大笑いする。
 主役のロビン・ウィリアムズの芸達者ぶりはもちろんだが、妻ミランダのサリー・フィールド、ミランダの男友達スチュワートのピアース・ブロスナンといった脇役もおもしろい。007俳優のブロスナンの典型的色男ぶり。それにサリー・フィールド。ものすごく久しぶり。
 小生は子供のころ、「奥さまは魔女」「かわいい魔女ジニー」「いたずら天使」といったアメリカ製コメディをよく見た。
「いたずら天使」空飛ぶ尼さん、フライング・ナン。風の強い場所の修道院の見習い修道女。体重が軽い風が強い。尼さんの帽子が翼となって空飛ぶ尼さんに。このかわいい少女修道女をやったのが当時20才のサリー・フィールド。かわいい女優さんだったが、こんなおばさんになっていたのか。ミランダのサリー・フィールドはかわいさも残ってるしコメディもできる女優さんになっていた。
 

喜楽館で落語を楽関記で小籠包を楽しみました。

2024年06月14日 | 上方落語楽しんだで
 昨日は会社は有給休暇をとって神戸は新開地の喜楽館に行って来ました。私は喜楽館のタニマチなので月に一度は喜楽館に来ております。
 開演前の一席は桂かかおさん。桂小枝さんのお弟子さんです。「延陽伯」をやらはった。師匠の小枝さんとはあまり似てません。端正な噺をなさいました。
 開口一番は桂弥壱さん。なんでも落語家になる前はトヨタの工場でパッソの左ドアを造ってたそうです。左ドア造りにあきたから配置転換を上司にいうと右ドア造りになったそうです。トヨタパッソに乗ってる人、そのドアは弥壱さんが作ったモノかも知れません。医者の噺をします。と、いうんで季節柄「夏の医者」かなと思いましたが「犬の目」でした。
 2番手は林家愛染さん。大阪の地下鉄をネタにした新作落語です。大阪メトロ御堂筋線の駅名を織り込んだ男女二人の恋物語です。
 西田辺からはじまって昭和町、天王寺、動物園前、大国町、なんば、心斎橋、本町、淀屋橋、梅田、中津、西中島南方、新大阪まで。男が女にプロポーズするのんが駅名を織り込んでありました。愛染さん次は環状線でやって。
 本日の色もんは豊来家大治郎さんの太神楽。最後に剣の輪くぐりをなさいます。仲トリは笑福亭呂鶴さん。久しぶりです。「阿弥陀が池」をやらはった。なかなか重厚な「阿弥陀が池」でした。さすがの貫禄です。呂鶴さん、今の上方の落語家で最も笑福亭の色を濃くのこしている噺家さんでしょう。
 仲入り後の最初は笑福亭仁昇さん。仁鶴一門の噺家さんです。「手水回し」です。呂鶴さんと違って笑福亭としては明朝体なお噺でした。 
 トリ前は露の団姫さん。ご覧のとおりのお坊さんです。尼崎の天台宗のお寺道心寺のご住職です。実は団姫さん、色もんで出てはった豊来家大治郎さんとご夫婦です。団姫さんは仏教徒、夫の大治郎さんはクリスチャンですって。夫婦でお互いの宗教を尊重してるんですって。やらはったのは「宗論」を大治郎団姫夫婦に置き換えた私落語。クリスチャンのだいじろうくんと仏教徒のまるこちゃんの噺です。実は昨日の神戸新聞のコラムを団姫さんが執筆してました。そこで夫はクリスチャンということを書いてました。家族をむりやり自分の宗教に引きずり込む人でなしの人たちは大治郎団姫夫婦の爪の赤でも煎じて飲むべきでしょう。
 さてトリは桂枝女太さん。実にきれいな光頭です。さっきの団姫さんはほんまもんのお坊さんですが、私はニセ坊主です。団姫さんは髪を剃ってますが、私は天然です。頭は私はほんまもん。団姫さんはバチもん。きれいな頭が二人続いて出て来はったわけです。
 枝女太さんがやったのは「ピッカピカの一年生」兄弟子6代桂文枝師匠が三枝時代に創った創作落語です。三枝色が濃い高座でした。
 出口で団姫さんがお見送りしてはった。昨日の新聞のコラム読みましたよと声をかけようと思ったのですがタイミングを逸しました。
 喜楽館を出て元町に移動。喫茶エビアンで一休みして頃末商店でワイルドターキー・レアブリードを買って、楽関記に入りました。ここは小籠包が看板メニューです。もちろん頂きました。熱々のスープがおいしくさすがです。あと、前菜の盛り合わせ。小皿に9皿ほどちょっとづつ出て来ます。あと海鮮あんかけごはんと家人はチャーシューローメンを頼みました。海鮮あんかけごはんはあんがおいしく高級上等中華丼といったところでしょうか。チャーシューローメンは細めの麺がおいしくあっさりしてます。
 たいへんにおいしく店員の接客も気持ちよく、このお店また来たいです。あ、これを見て私も行こうと思う人、必ず予約した方がいいですね。行列のできる人気店ですから。
 帰って、レッドブレスト12年を飲みながら野球を見ました。阪神快勝。めでたいめでたい。
 楽しく、おいしく、めでたい、けっこうな一日でした。酉島伝法をちょっと読んで寝ました。

淵に立つ

2024年06月10日 | 映画みたで

監督 深田晃司
出演 浅野忠信、筒井真理子、古舘寛治、大賀、三浦貴大、篠川桃音

「他人の不幸は密の味」という言葉がある。これは自分が不幸でないという前提になっての話である。自分も不幸であれば、他人の不幸に同情して、他人の不幸は苦く感じるであろう。
 映画はだいたいが「他人の不幸」を「蜜の味」にするモノだが、この映画は密の味ではなく大変に苦い。観終わって楽しい映画では決してない。大変に後味の悪い映画である。
 利男章江夫婦の家に男が来る。夫婦には女の子が一人いる。男は利男の古い友人とのこと。男は利男が営む金属加工工場で働かせてくれという。利男は承諾し同居させる。
 男は礼儀正しく、娘の蛍もなつく。男矢坂と利男とは過去になにかあったようだ。利男は八坂に負い目を感じているようだ。
 蛍が帰宅しない。そして利男章江の夫婦に大きな「不幸」が。この「不幸」は決して「蜜の味」はしない。とてつもなく苦い。でも吐き出せない。苦いが魅力的なのだ。
「大きな不幸」の後の章江役の筒井真理子の演技は鬼気迫るモノがあった。「よこがお「波紋」の筒井も幸せは役ではなかった。木村多江が不幸女優№1といわれたが、筒井真理子も代表的な不幸女優だろう。一度、木村多江VS筒井真理子の不幸演技合戦というのを見て見たい。
 愉快な映画ではないが秀作である。 

マッドマックス:フェリオサ

2024年06月06日 | 映画みたで

監督 ジョージ・ミラー
出演 アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース、トム・バーク

「どうなんねやろ」これ映画の楽しみや。でも、結末が判っている映画の場合、「どうなんねやろ」の楽しみはない。歴史もんなんかそやな。織田信長は本能寺で死ぬ。関ケ原は西軍の負け。大阪城は落城する。そんなこと判っとる。それでも、そんな映画でも良く創られてたらおもしろい。これと同じようなもんで「前日譚」つうのんがある。「スター・ウォーズ ローグワン」は「第一作スターウォーズ 新たな希望」の前日譚や。この「マッドマックス:フェリオサ」も「前日譚」や。主人公のフェリオサはどうなるんか結末は判っとる。では前日譚映画はおもろないんか。と、いうとそうではない。「ローグワン」はめっぽう面白かった。結末が判っとっても、おもろい映画はおもろいんや。
 じゃ、なんで結末が判っとってもおもろいんか?「へー、あの人は、ああなるまで、あんなことがあったんか」と思ったらおもろいのである。「あの人」は同じ、「ああなる」は判っとる。で、「あんなこと」が大事ちゅうこったな。どんなおもろい「あんなこと」をいかに創るかが前日譚映画のキモやな。
 ほんでもって、この映画やな。前作「マッドマックス 怒りのデスロード」でイモ―タン・ジョー麾下の女戦士フェリオサが、なぜそうなったかが描かれるのだが、正直、今作はストーリーはいまいちであった。「実りの地」の女の子が暴走族にさらわれ、暴走族とイモ―タン・ジョーの交渉の場でジョーに気に入られジョーのモノとなる。考えられるストーリーで、そこに驚きはなかったな。それに今作で弱いのは悪役やな。第一作のトーカッター、第2作のヒューマンガス、第4作のイモ―タン・ジョー。いずれも魅力的な悪役やった。今作の悪役ディメンタスはただのおっさん。もひとつインパクトのない悪役であった。とはいいつつもアクション場面は一段とパワーアップして目をたのしませてもろた。

アンストッパブル

2024年06月03日 | 映画みたで

監督 トニー・スコット
出演 デンゼル・ワシントン、クリス・パイン、ロザリオ・ドーソン

「えらいこっちゃ」映画である。「えらいこっちゃ」これは映画のネタとして最も普遍的なモノだろう。
 客船が転覆した。高層ビルが火事。致死率の高い疫病が蔓延。日本列島が沈没。第三次世界大戦勃発。小惑星が地球に衝突。のようなでかいのから、失業した。妻が家出した。息子がぐれた。余命んか月の病気になった。といった個人的なモノまで。「えらいこっちゃ」がない映画の方が少ないだろう。
「えらいこっちゃ」映画では、どんな「えらいこと」をおこすか。それをどうする。ほっとくか、なんとかするか。ほっといたら映画にはならんから、映画の登場人物たちはなんとかするわけである。このなんとかする様子を見せるのが、この手の映画のキモである。この映画の場合、ほんまに「えらいこと」がおきた。それを映画にしたとのこと。
 まぬけな運転士のミスで貨物列車が無人で発車してしもた。このだんかいではまだ「えらいこと」ではないと鉄道関係者は思ってた。惰性で動いてるから、飛び乗ってブレーキをかけろと指示。まぬけ運転手は飛び乗り失敗。暴走列車は加速。エアブレーキのホースも外れている。運転モードは惰性じゃなく動力源につながってパワーがかかって駆動していることが判明。
 暴走列車は19万リットルのディーゼル燃料。貨車の積み荷は発火性の強い有毒化学物質。向かう先には人口密集地のスタントン。しかも街には大きなカーブがある。このままのスピードではカーブは曲がれん。脱線転覆する。
 ディーゼル燃料と発火性有毒物質を満載した、長さ800mの貨物列車が時速100キロ以上で人口密集地に迫る。地を走る巨大ミサイルである。
 ほんまにオハイオ州でおきた暴走事故はどうか知らんけど、これは映画やから、悪いことは次々おこる。操車場の運転士がまぬけ。ブレーキのホースが外れてる。前方に子供たちを乗せた列車。暴走列車のレバーが力走に入った。前方に人口密集地。その場所は大曲のカーブ。危険物満載の貨車。その貨車の長さ800m。脱線器で停止させる方法は失敗。なんとかブレーキをかけたけど止まらん。
 まさにハラハラドキドキ。巨大な貨物列車が疾走する。鉄と鉄がぶつかる音。飛び散る火花。激突する列車と車。追うヘリコプター。暴走列車を上から下から横から映す。この手の「えらいこっちゃ」映画のお手本のような映画であった。いやあ、おもろかった。

快盗ルビイ

2024年05月27日 | 映画みたで

監督 和田誠
出演 小泉今日子、真田広之、水野久美、天本英世、吉田日出子、岡田真澄、木の実なな

 おしゃれで都会的なコメディだ。さえない若いサラリーマンのマンションの上階にちょっとかわいい女の子が引っ越してきたところから映画が始まる。
 なりゆきで女の子に部屋に招き入れられた。この娘、読書家と思われる。玄関の外には文庫本が積まれている。東京創元社の文庫だ。たぶん推理マークとSFマークと思われる。玄関を入ると、今度はハヤカワのポケットミステリーと、それから銀背がちらっと見えた。ようするに、この子は東京創元社や早川書房のミステリーやSFを読む女の子ということだ。だいたいこの映画の原作のヘンリー・スレッサーは星新一に影響を与えたアメリカの短編作家でハヤカワから短編集が出てる。
 原作はヘンリー・スレッサー、監督脚本は和田誠、主人公は東京創元社や早川書房の本を読んでいる女の子。そしてその主役が小泉今日子(小泉自身もけっこうな読書家)これは、もう、おしゃれで都会的な映画となることは約束されたようなモノ。
 サラリーマン林の上の階の女の子は加藤留美。スタイリスト兼コピーライター。人呼んでルビー。このルビー自称本職は犯罪者。泥棒詐欺を生業とすると自分でいう。さまざまな小犯罪を企てていやがる林をむりやり相棒にしたてて実行する。実行するがほんとはまぬけな二人。成功するはずがない。
 この映画がもし、岩波文庫や角川文庫を愛読している女の子が主人公で、川端康成や太宰治の愛読者で、地方出身者で近郊の信用金庫の事務員をやっている子で、主役が山口百恵だったら、小生は観てない。
 配給は東宝。いかにも東宝らしい映画である。東宝特撮映画でおなじみの怪獣女優水野久美やマッドサイエンティスト天本英世も出てるし、小泉がかわいいし、小生のお好みにぴったし。あなたがハヤカワや東京創元社の愛読者ならおすすめ。

可燃物

2024年05月24日 | 本を読んだで

米沢穂信              文藝春秋

 小生はSFもんにつき、ミステリーとか探偵小説についてえらそうなことはいえないがこの小説、分類分けするなら探偵小説のカテゴリーになるだろう。
 探偵小説というとホームズやポアロみたいな名探偵が、なに色か知らん脳細胞をフル回転させて、快刀乱麻難事件を解決して、「犯人はあなただ」で、一件落着。この小説はそういう探偵小説ではない。
 警察小説である。主人公は警官である。コロンボみたいなキャラの立った警官ではない。地味である。警視庁みたいな都会地の警官ではない。群馬県警捜査一課の葛警部が主人公だ。葛警部は決してイーストウッドのハリーやピーター・フォークのコロンボではない。マグナム44をぶっぱなすハリーみたいな乱暴でもないし、しつこく容疑者につきまとうコロンボみたいな粘着性も持ってない。扱う事件も社会を震撼させるような大事件でもない。殺人事件は有るが、地味な事件である。葛警部も決して名警部ではない。上司や部下から好かれてはいないけど嫌われてもいない。それでも地道に捜査をして、確実に事件を解決していく。
 決して派手な小説ではないが、「読ませる」小説である。米沢の筆力のたまものだろう。

グリーン・ディスティニー

2024年05月20日 | 映画みたで

監督 アン・リー
出演 ミシェル・ヨー、チャン・ツィイー、チョウ・ユンファ

 ワシはアクション映画が大好き。「エブリシング・エブリウェア・オール・ワット・ワンス」出色のSF映画でありつつ、まったく新しいSF映画を創出した映画として高く評価している。SF映画としては大満足だが、アクション映画ファンとしては、いささか不満が残った。現代のアジア人アクション女優№1ともいうべきミシェル・ヨーのアクションを堪能したいと思ったが、少々期待外れであった。なんせこのときミシェル・ヨーは60才。さすがに体力的にしんどいのでは。その点、この映画はヨーは40歳前。体力もあり大人の女性の美しもたっぷり。
暗殺」でも美女アクションは楽しめたが、この映画では、きれいなミシェル・ヨーと可憐なチャン・ツィイーの二人に焦点をしぼって、非常にきれいなアクションを堪能できた。
 チャン・ツィイーはヨーとのアクションだけではない。レストランで大男大ぜいを小柄なツィイー一人でやっつけてしまう。でかい金砕棒のおっさんもぶっとばす。痛快なり。出色は後半にチョウ・ユンファを相手に繰りひろげた竹林の上の立ち回り。
 重力を無視した、カンフーアクションを堪能。これは、もう、殺陣というより舞踏だ。もしメインストリーのスターウォーズ10作目が作られるなら、監督はアン・リー。お姫様はチャン・ツィイーにやってもらいたい。この映画でもフォースみたいなことゆうてるし。チャン・ツィイーにライトサーバーを持たせてみたい。

負けくらべ

2024年05月14日 | 本を読んだで
 
志水辰夫           小学館

志水辰夫は冒険小説ファンの小生が、そのうち読みたいと思っていた作家だった。で、初めて志水の作品を読んだわけ。ハードボイルド作家だとは聞いていたが、一読後の印象は小生の欲するハードボイルドとは少し違和感を感じたしだい。
 主人公は初老(60は超えているだろう)の男性介護士三谷。介護施設に属しているのではなくフリーの介護士だ。三谷は特殊な能力を持っている。対人関係能力、調整力、それに記憶力。舞台のそでからホールの客席を見る。それだけで客の顔をすべて覚える。
 三谷の知人に元内閣情報調査室の男がいる。その男に2枚の写真を見せられ、ホールの講演会にいって、2枚の写真に写る同一人物がホールにいるか判別する仕事を依頼される。
 ハーバード卒のIT企業家大河内牟禮。三谷は大河内に見込まれ仕事のパートナーとして大河内の会社に呼ばれる。この大河内の会社は東輝グループの傘下。巨大企業グループのオーナーは大河内の母の尾上鈴子。90才にして経営に辣腕をふるう化け物ばあさんである。
 この東輝グループ。尾上家、大河内家の骨肉の内紛に三谷は巻き込まれる。と、これをこってりと寿行的熱さで描いてくれたら、面白いと思うのだが、わりとサラサラと書いていた。これでいいのである。著者の志水氏は86才。ワシもこのトシである。若いころはこってり濃厚とんこつラーメンが良かったが、トシ取るとあっさりさっぱり盛りそばの方が口にあう時もある。とは、いいつつも、もちろんワシ=雫石はまだまだじいさんじゃない。こってい油ギトギトの揚げもんも大好きである。