デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

アラン・デールのヒット予想は当たったか

2015-08-09 09:01:11 | Weblog
 シナトラやハリー・ベラフォンテの伝記の著者でジャズ評論家としても著名なアーノルド・ショーが書いた「The Jazz Age: Popular Music in the 1920's」は、禁酒法やギャングを背景にジャズが花開く狂乱の20年代を描いている。この時代を題材にした小説や論文に度々引用されるほど洞察力は鋭い。その中に演劇評論家のアラン・デールが新聞に寄稿した音楽評が紹介されている。「この曲が世界中でヒットしなかったら私は帽子を食ってみせよう」と。

 その曲とはコーラスの頭の歌詞をタイトルにした「Sometimes I'm Happy」だ。ヴィンセント・ユーマンスが1925年に作った曲で、当初オスカー・ハーマン二世が作詞したものの紆余曲折あり、アーヴィング・シーザーが書いた詞で現在歌われている。27年のフランクリン・バウアを皮切りにルイーズ・グルーディとチャールズ・キングのデュオ、ベニー・グッドマン、サミー・ケイ等々、ヒットチャートの上位を飾っているので、世界中とまではいかないもののアメリカではヒットしたことになる。どんなテンポでもいける曲で、90年経った今でも歌い継がれている大スタンダードだ。

 名唱はいとまがないが、一番ジャージーなものといえばサラ・ヴォーンのチヴォリ・ガーデンのライブ盤を挙げたい。ミスター・ケリーズ、ロンドン・ハウスと並ぶサラがマーキューリーに残したライブ傑作である。この63年のチヴォリでは、放送禁止になりそうな「Misty」で有名だが、この曲も凄い。超アップテンポでメロディをくずして1コーラス終えると、今度はスキャットだ。今更サラのテクニック云々は失礼だが、常人がいくら練習したところで絶対に追いつけない域で、ジャズヴォーカルの神が降りてきたとしかいいようがない。そのスキャットにはユーモアもウィットもインテリジェンスもある。

 「帽子を食べる(eat my hat)」とは、「絶対にない」という慣用的な言い回しだが、もしヒットしなかったらアランはどうしただろう。普段から辛辣な批評をしているアランのこと、酷評された俳優や脚本家から詰め寄られることもある。機知に富んだ文章を書くアランならハットに乗せたポークパイを食べたかもしれない。人を食った話だと翌日の新聞を賑わしすことだろう。
コメント (8)
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