デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ウェイン・ショーターの足跡はどこまで続く

2015-08-23 09:21:49 | Weblog
 音楽ライターのミシェル・マーサーがウェイン・ショーターの評伝(新井崇嗣訳、潮出版社)を書いている。本人のインタビューは勿論のこと、75人にも及ぶ友人や関係者の聞き取りから引き出されたエピソードは、既にマイルスの自伝等で紹介されたもののあるが、あっと驚くものもあり興味は尽きない。ジャズ・メッセンジャーズやマイルス・バンド、ウェザーリポートのメンバーとして書かれたものはあるが、ショーターの目線からのジャズシーンは新鮮だ。

 「マイルスにギグ用に何か欲しいと言われて作った」とショーターが言った曲がある。マーサーのこの曲の印象が書かれているが、見事な表現に唸った。「抑制されたメロディーが静かに打ち寄せる波のように穏やかに上り、そして穏やかに下っていく。そのあたりがなんとも心地良いこの曲は、まさにマイルスのサウンドそのもと言える」と。文学的でありながら作曲家としてのショーターの才能、そしてマイルスの本質を衝いている。曲は「Footprints」で、この曲が収録されている「Miles Smiles」を語ったものだ。なるほどと膝を打った方もおられるだろう。

 次世代のスタンダードともいえる曲は多くのプレイヤーが取り上げていて、マイルス版に倣いリズミカルで浮遊感を出したものや、優雅なメロディーラインを強調したもの等、様々なアレンジが面白い。70年代にデビューしたころはイタリアのビル・エヴァンスと呼ばれ、静謐、耽美、叙情という形容がよく似合うエンリコ・ピエラヌンツィが、1995年録音の「Seaward」で取り上げている。ショーターの書いた曲はこんなにも美しかったのかとハッとするほどだ。当時のマイルス・バンドで映える曲は、美的センスにあふれているからこそ今でも取り上げられ、この時代のマイルスが支持されるのだろう。

 アメリカで2004年に発刊されたこの書は、「Footprints: The Life and Work of Wayne Shorter」が原タイトルだ。ショーターが「Footprints」を作曲したのは1966年のこと。この時点でマイルス・バンドの中核を担っているから既に大きな足跡を残しているわけだが、このタイトルを付けたのはその後のジャズシーンにも自分の足跡を刻む意味があったのかも知れない。事実そうなっている。
コメント (12)
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