ジャズという音楽が漸く解りだした頃、スイングジャーナル誌で発売を知った書籍に「モダン・ジャズの世界」がある。著者は10月5日に亡くなられ、先週12日に東京FMホールで偲ぶ会が開かれたジャズ評論家の岩浪洋三さんだ。田舎の書店に並ぶべくもない本を注文したが、届いたその本はずっしり重かった。それは物理的な重さではなくジャズの世界を知る期待感からくるものだったろう。
表紙はモダン・ジャズそのものと言っていいマイルスで、後に「リラクシン」で聞いた嗄れ声で「読めよ」と言っている。ジャズ評論家の書く本というと上から目線の高飛車な内容をイメージするが、これがジャズを聴き始めの人でも理解できるほど解り易く書かれていた。ただでさえ難解な音楽を難解な文章で解説されたら、好きになるきっかけさえ失うものだが、こんなふうにジャズへの愛情が滲み出た文章に接すると更に未知の音楽に興味が湧こうというものだ。ジャズは音楽なので当然音が出るレコードで愉しむものだが、本でジャズの歴史を学び、比較できる量を聴いている方の意見を聞くのは参考になる。それもジャズの愉しみである。
そのころ本を捲りながら良く聴いたのはマラソン・セッションで、岩浪さんの文章のリズムとマイルスの音色が妙に波長が合っていた。「クッキン」一番、次いで「リラクシン」、そしてあとの2枚は似たようなもの、とされる一連のセッションだが、「スティーミン」の冒頭を飾る「四輪馬車」は素晴らしい内容だ。ガーランドのイントロにフワッと被さるように出てくるミュートはゾクゾクするし、二番手のコルトレーンのソロは無骨とはいえ歌心があふれ、ガーランドといえば「美しい」とか「愛らしい」という形容を超えた「ジャズらしい」ソロで、どれを取ってもそれこそ「モダン・ジャズの世界」と呼べる演奏である。
この本は荒地出版社から出版されたもので、油井正一編「モダン・ジャズ入門」や相倉久人著「モダン・ジャズ鑑賞」というジャズの教科書も同出版社から刊行されている。社名は現代詩の同人誌「荒地」にちなんでいるそうで、「荒地」とはT・S・エリオットの有名な詩だ。当時リスナーも少ない荒地だったジャズを丁寧に解り易く教えてくれたからこそ、今の整ったジャズがある。ジャズを知り尽くしたジャズ評論家、享年79歳。合掌。
表紙はモダン・ジャズそのものと言っていいマイルスで、後に「リラクシン」で聞いた嗄れ声で「読めよ」と言っている。ジャズ評論家の書く本というと上から目線の高飛車な内容をイメージするが、これがジャズを聴き始めの人でも理解できるほど解り易く書かれていた。ただでさえ難解な音楽を難解な文章で解説されたら、好きになるきっかけさえ失うものだが、こんなふうにジャズへの愛情が滲み出た文章に接すると更に未知の音楽に興味が湧こうというものだ。ジャズは音楽なので当然音が出るレコードで愉しむものだが、本でジャズの歴史を学び、比較できる量を聴いている方の意見を聞くのは参考になる。それもジャズの愉しみである。
そのころ本を捲りながら良く聴いたのはマラソン・セッションで、岩浪さんの文章のリズムとマイルスの音色が妙に波長が合っていた。「クッキン」一番、次いで「リラクシン」、そしてあとの2枚は似たようなもの、とされる一連のセッションだが、「スティーミン」の冒頭を飾る「四輪馬車」は素晴らしい内容だ。ガーランドのイントロにフワッと被さるように出てくるミュートはゾクゾクするし、二番手のコルトレーンのソロは無骨とはいえ歌心があふれ、ガーランドといえば「美しい」とか「愛らしい」という形容を超えた「ジャズらしい」ソロで、どれを取ってもそれこそ「モダン・ジャズの世界」と呼べる演奏である。
この本は荒地出版社から出版されたもので、油井正一編「モダン・ジャズ入門」や相倉久人著「モダン・ジャズ鑑賞」というジャズの教科書も同出版社から刊行されている。社名は現代詩の同人誌「荒地」にちなんでいるそうで、「荒地」とはT・S・エリオットの有名な詩だ。当時リスナーも少ない荒地だったジャズを丁寧に解り易く教えてくれたからこそ、今の整ったジャズがある。ジャズを知り尽くしたジャズ評論家、享年79歳。合掌。