先日『タウン誌深川』用原稿を入稿した。今回の引っ越しについて書いたのだが、最後の引き金になったのが三十数年通った居酒屋、木場の河本の女将、眞寿美さんが亡くなった事であった。よって掲載する写真は、私が永井荷風の人形を持って、河本店内で撮影した作品で、五十代の眞寿美さんが、割烹着姿で背景に写っている。写真嫌いの眞寿美さんなので「ぼかしますから。」今思うと、一カツトくらいピントを眞寿美さんに合わせておくべきであった。 これはそれこそ三十年は店内に飾られていて、「河本に荷風来たんだ?」と言う客に「だったら私いくつになっちやうの?これお人形さん。」どいっているのを聞くたび微笑ましかった。 7月に河本廃業に伴い、作品が帰って来たが、それは同じく常連席で肩を並べたMさんにもらって頂いた。眞寿美さんが体調を崩し、入院から休んでいる間、眞寿美さんの弟さんが、常連の十人ほどは、自分たちで注いでくれるなら来ても良いよ、他は相手できないから断ってくれと言われた。寝ている眞寿美さんも、我々の声が聞こえていれば、寂しくないだろう。 しかし、休業と書いてあっても灯りが漏れていれば入って来る客もいる。それを主に断っていたのがMさんである。事情も知らない連中に対し、すっかり嫌な役を引き受けて頂いた。そんな事もあり、Mさんに貰って頂いたのだが、次号には、その河本に三十年飾られていたその物を複写してお届けする。
タウン誌深川】〝明日出来ること今日はせず〟連載第16回『トラウマ』