かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠(中国) 241

2016年10月04日 | 短歌一首鑑賞

  馬場あき子の旅の歌32(2010年10月実施)
       【砂の大地】『飛天の道』(2000年刊)189頁
        参加者: N・I、Y・I、T・S、曽我亮子、鹿取未放
        レポーター: N・I
       司会とまとめ:鹿取 未放


241 月牙泉に沐浴(ゆあみ)し天女風早(かざはや)の三保の浦まである日飛びたり

     (まとめ)
 歌集『飛天の道』あとがきに作者は次のように記している。
 「……何よりその旅の間じゅう私の心を占めていたのは、飛天の優しさとたおやかな美しさだった。それはこの荒々しい砂の曠野とあまりにも対照的だった。……中略……日本の天女伝説はすでに『風土記』の中にあるが、能「羽衣」によって定着し、一般化した三保松原の天女も、このシルクロードから飛来してきた天女の一人だったと思うと特別ななつかしみが湧く。」
 『飛天の道』という歌集名が示すように、シルクロードの旅で作者がいちばん心を捕らえられたものが飛天であったことが分かる。そしてその飛天はシルクロードから日本に飛来して来たのだという懐かしみの情が濃くただよっている。そのことを考えるとこの歌は、旅のテーマとなる重要な意味を持っていることがわかる。壁画に描かれた飛天は、日本に発つ前に沙漠のオアシス、優美な月牙泉で沐浴して身を浄めたのだ。そうしてある日三保の浦までやってきたのだ。「風早の」は三保にかかる枕詞だが、スピード感の演出にも一役買っている。風土記の天女伝説を下敷きにして、さわやかでロマンのある歌である。(鹿取)


         (レポート)
 日本の伝説の地、三保の松原にある日天女が降りた。月牙泉は3000年来水が涸れることがないと言われる泉。葦に囲まれた三日月の形をした湖で、不老長寿の魚が棲んでいる。(N・I)


      (意見)
★「ある日」にどういう効果があるのか。(Y・I) 
★「ある日」を考えると、何となく飛んできて日本でひでえ目に遭った、の方がくすっと来る。
  シルクロード一連は、シルクロードと日本・われを繋げる作用をしているのだろう。また、月
  牙泉の「月」は、死と再生の象徴と考えられる。(11月・佐々木実之)