徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)、積極的勧奨中止

2013年06月17日 06時23分48秒 | 小児科診療
 2013年6月15日に件名のニュースが流れました。

 HPVワクチンについては、従来から接種後の「失神」が話題になっていましたが、これは注射という痛みを伴い医療行為に対する不安の結果であり、元々失神を起こしやすい年齢の女子に行うため避けがたい有害事象と考えられてきました。
 注射するワクチン成分が原因ではないので「副反応」とは呼ばず、接種後のトラブル全般を指す「有害事象」というわかりにくい用語をあえて使うのですね。
 
 今回の「積極的勧奨中止」という措置は2005年に日本脳炎ワクチンになされたものと同じで、「希望すれば無料で接種可能、でも国が勧めているわけではないので自分で判断して受けてください、何かあっても恨まないでね」という腰の引けたスタンスです。
 
 では、今回はどうしてHPVワクチンが「積極的勧奨中止」になったのでしょうか?
 その理由を説明できる人は少ないと思われます。
 厚労省作成のリーフレットを読んでもよくわかりません。

 その原因は「慢性局所疼痛症候群」(Chronic Rigeonal Pain Syndrome, CRPS)という有害事象です。
 この病気と診断された患者さん家族たちが被害者連絡会を立ち上げ、厚労省に抗議したのが始まりです。

 この病名、私も初耳でした。
 調べてみると「外傷・骨折・注射針などによる組織損傷後に、原因の程度とは不釣り合いな強い痛みが長期にわたって持続する慢性頭痛症候群」と定義されています。
 ちょっと言葉が硬いですが、痛みが発生した場所だけではなく全身に広がり長く続くという不思議な病態です。症状も痛みだけにとどまらず、むくみや皮膚温の変化、汗の出方も変わるようです。

 定義によると、予防接種だけではなく採血でも起こりますし、ネットで検索すると交通事故例も多いようです。
 つまり、この病態もワクチン成分が直接の原因ではなく「注射行為」が原因となります。
 日赤の献血では50万人に1人の頻度(0.0002%)で起こると報告されています。
 HPVワクチンでは今のところ830万接種で3例(0.000036%)

 小児科医である私の視点では、ワクチン成分が原因なら「接種中止」も頷けますが、違うのに中止とはいかがなものか、と考え込んでしまいます。
 ま、その辺の事情が「完全中止」ではなく「積極的勧奨中止」という玉虫色の方針にとどまった理由なのでしょう。

 振り返るとHPVワクチンが認可された経緯は、学会が強く要望したものではなく民間から(女優の訴え?)始まったものであり、医師からみると見切り発車的要素がないわけではありません。
 一度立ち止まって「本当に必要なのかどうか」を国民1人1人が考えるよい機会と捉えることも可能かと。

 さてこのCRPS、当然海外でも報告されています。
 しかし現実として、欧米では定期接種化後5年が経過し億を超える回数が接種されてきましたが、安全性への懸念により承認が取り消された国はありません。
 「KNOW*VPD」の顧問で今回の厚労省専門会議の委員でもある園部先生のコメントには、

接種後のCRPSに関しては世界中で報告されており、英国では接種後に6例でているとのことです。しかし、自然発生のCRPSと比べて、発生頻度に差がないとのことので、接種中止にはなっていません.米国では、多分同じ症状の人を、CRPSでは無く、RSD(reflex sympathetic dystrophy)と分類しており、7例報告が有り、その他の国でも起こっております。

 という文言があります。

 自然発生と比較して差が無い・・・ピンとこない表現ですねえ。
 言葉を換えると、ワクチンを接種した人達と接種しなかった人達の間で、問題となっている病気の頻度に差が無いということです。
 すると誰が考えても「その病気はワクチンが原因ではない」という判断になりますね。
 これはMMRワクチンと自閉症との関連が疑われた際にも使用された統計学的手法です。

 日本でも冷静かつ科学的に判断可能なデータを提示し、国民が納得して接種できるようにしていただきたいと思います。
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