徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

子どもの便秘対策

2014年03月16日 08時09分49秒 | 小児科診療
 子どもの便秘の相談が多いので、患者さん用のプリントを作ってみました。
 全文を記載しますので、ご参考にどうぞ;

<子どもの便秘対策>

「便が硬くて出にくい状態」を便秘と呼びます。それによりつらい症状(腹痛、腹満、吐き気、食欲低下)が出て日常生活に支障が出ると治療の対象になり、慢性化している場合は薬物治療でコントロールするのみでなく、生活習慣の見直しも必要です。

どのくらいウンチが硬いと便秘なの?
 下図(ブリストル・スケール)の1と2が便秘で治療が必要です(3-5が正常、6と7が下痢)。


子どもの便秘の特徴
 子どもの便秘の原因は大人と異なり、乳幼児期はウンチを出す力が弱いことによる便秘がほとんどです。便秘になりやすい時期は以下の3つ;
① 乳児期の母乳→ ミルクへの移行時期、あるいは離乳食開始期
② 幼児期のトイレ・トレーニング(一番多い!)
③ 学童期の通学開始や、学校での排便ガマン体験
 これらがきっかけとなり、便が硬くなる→ 排便に苦痛を伴う→ ガマンする→ ますます硬くなる、という「便秘の悪循環」に陥ってしまうのです。
 学童期以降はそれに過敏性腸症候群が加わります。ストレスにより自律神経のバランスが崩れることが原因。リラックス状態(副交感神経優位)では腸の動きが活発になり良いウンチがつくられますが、緊張状態(交感神経優位)が続くとそれができません。

赤ちゃんの便秘(乳児排便困難症):肛門刺激法で乗り切ろう
 赤ちゃんがウンウンうなっていきむ、かといって出るウンチは硬くない状態。教科書には 食欲・機嫌が悪くなければ離乳食開始後に軽快するので治療の必要はないと書かれていますが、気になる方は3日を目安に肛門に人肌程度のぬるま湯をスポイトでぴゅっぴゅっとかけて刺激してみてください。
 それでもダメなら「綿棒浣腸」。綿棒の先にワセリンを塗り、肛門から1-2cm入れて肛門を広げるイメージでゆっくりやさしく「の」の字を4-5回描くとウンチが・・・。

薬物療法;悪循環を断ち切り「痛くつらい排便」を「楽しく快便」へ
 下剤は大きく2つに分けられ、これらを単独あるいは組み合わせて使用します:
浸透圧性下剤( 便を軟らかくする)モニラック®、マルツエキス®、カマ®
刺激性下剤(腸の動きをよくする)浣腸、ラキソベロン®、テレミンソフト®
 慢性化している場合は一度出たからといって安心せず、最低2週間は毎日出すよう調節します。その後減量・中止していきますが、多くは数ヶ月~年単位の治療が必要です。

★ 下剤がやめられなくて心配/お腹が痛くなってしまうという場合は漢方薬がお勧め;
・「食が細い、線が細い、お腹のトラブルが多い」→ 小建中湯が有効
・「冷え症でお腹が張りやすい」→ 大建中湯が有効

★ 肛門が切れて痛がるとき・・・人肌くらいのぬるま湯で湿らせた柔らかい布で押さえるとじきに出血は止まります。繰り返すときは塗り薬を処方しますのでご相談ください。

生活習慣で気をつけること;
・トイレ・トレーニング:失敗しても叱らず忍耐強く見守る、できたときはごほうびを与える、トイレを楽しい場所にするなどプラスイメージを持たせる工夫をしましょう。
・朝起きたらコップ1杯の水を飲み、必ず朝食を。腸が目覚めて動き始めます。
・学童では登校前にトイレへ行く十分な時間(15分)の確保を。
・夜更かしは便秘の大敵・・・興奮状態(交感神経優位)では良いウンチはできません。

食生活の注意点;最終目的は食事内容を見直して便秘解消
水分・・・無理にたくさん摂る必要はありません。飲みたいときに飲みたいだけどうぞ。
乳酸菌・ヨーグルト類・・・有効・無効の両方の報告があり、実は評価は一定しません。一般に子どもの腸内細菌は善玉菌(乳酸菌、ビフィズス菌)優位とされ、悪玉菌(大腸菌、ウェルシュ菌)が多い中学生~大人ほどには効かないようです。
食物繊維・・・大きく不溶性と水溶性に分けられますが、共に便秘に有効です。
不溶性食物繊維・・・野菜に多く含まれ、水分を吸収して膨張し便量を増やす効果
水溶性食物繊維・・・海藻やネバネバ系食品に多く含まれ、大腸に到達すると善玉菌のエサになり腸内環境を改善する効果があります。

便秘によい食品例
玄米ご飯、ソバ、海藻(昆布、わかめ、海苔、もずく)、なめこ、 枝豆、納豆、小豆、寒天、カボチャ、サツマイモ、里芋、オクラ、ゴボウ、モロヘイヤ、 ニンジン、切り干し大根、バナナ、プルーン、リンゴ、キウイフルーツ、ナッツなど


便秘によくない食品例
プリン、ゼリー、ケーキ、アイスクリーム、牛乳、甘いヨーグルト、市販の野菜ジュース、ポテトチップスなど


※ 野菜ジュースには食物繊維がほとんど含まれていません。
※ 子どもは牛乳を飲み過ぎると便が硬くなりがちなので注意してください。



 今回、作成過程でいろいろ調べてみて「フ~ン」と感じたこと;

野菜ジュースは便秘対策にならない。
 市販の野菜ジュースには食物繊維はほとんど含まれていないそうです。
 「えっ、そうなの?」って感じですよね。

「牛乳を飲むと便がゆるくなる」は子どもには当てはまらない。
 これはおとなだけに当てはまること。その理由として、子どもは乳糖分解酵素が十分あるので牛乳をたくさん飲んでも便がゆるくなることはなく、おとなになると日本人は同酵素活性が低下する民族なので下痢をするようになる、とのこと。ちなみに酪農で生きてきたヨーロッパ民族は、おとなになっても乳糖分解酵素活性が保たれるので問題ないそうです。
 逆に「牛乳は便を硬くする」と断言するベテラン小児科医もいました。
 確かに、母乳栄養より人工栄養の赤ちゃんの方が便が硬めですね。また、牛乳アレルギーでは下痢だけでなく便秘になることも報告されており、ふつうの治療で便秘が解消しない場合は牛乳制限を試す価値があると考えられています。
 そのベテラン小児科医は「野菜嫌いに野菜ジュース、便秘気味だから牛乳多飲が子どもの便秘を作っている」と力説しています。

「便秘には乳酸菌・ビフィズス菌が有効」も子どもには当てはまらない。
 腸内細菌をわかりやすく分類すると善玉菌(ビフィズス菌、乳酸菌など)と悪玉菌(大腸菌、ウェルシュ菌など)に分けられます。食生活が乱れたおとなは悪玉菌優位になり、その影響で便秘/下痢などに悩まされるのでビフィズス菌や乳酸菌を増やすと改善することが期待されます。しかし、子どもはもともと善玉菌優位なので、おとなほどには効果が期待できまないそうです。

「便秘によい食材」番外編
 として、オリーブオイル、オリゴ糖を挙げておきます;
オリーブオイル
 オレイン酸を含むオリーブオイルは一時的に比較的多めの量を摂った場合、小腸であまり吸収されずに小腸を刺激します。また小腸に残った食物と混ざり合うことで腸内の滑りがよくなることがわかっています。イタリアでは子どもたちの便秘予防として、ティースプーン1杯のオリーブオイルを摂ることが推奨されているそうです。
オリゴ糖
 オリゴ糖は単糖(ブドウ糖など)が2-20個結合したもので、分解されることなく大腸まで届き、善玉菌であるビフィズス菌のエサになります。
 口から入ったオリゴ糖は大腸に到達し、腸内細菌に食べられます。腸内細菌には善玉菌の他、悪玉菌や日和見菌などもありますが、オリゴ糖を食べた善玉菌が乳酸などの酸を出すため、この酸を苦手とする悪玉菌は死滅し、善玉菌だけが増えるので腸内環境が整い、便秘改善に高い効果があるのです。
 オリゴ糖というと甘味料を連想する人が多いのですが、実は様々な食品に含まれています。
(例)乳糖(牛乳、母乳)、イソマルトオリゴ糖(ハチミツ、味噌、醤油など)、フラクトオリゴ糖(ヤーコン、玉ねぎ、バナナなど)、ラフィノース(ビート、キャベツ、アスパラガス等)、乳果オリゴ糖(ヨーグルト)

子どもの便秘の原因はおとなの態度?
 デリケートな性格の子どもは、おとなの態度で追いつめられて便秘になっている例が最近問題視されるようになりました。
 とくにトイレ・トレーニングの時期に「失敗すると叱られる」ことを繰り返し経験すると、自己評価が低くなり便秘の悪循環が始まると解説している啓蒙書が目立ちました。「良い子しか認めない」社会の風潮が母親を追いつめ子どもを苦しめている状況が、ここにも存在するようです。
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