徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

“マザーキラー”と呼ばれる子宮頚がんを予防するワクチンの“キャッチアップ接種”

2024年07月31日 07時09分05秒 | 小児科診療
子宮頚がんワクチンの“キャッチアップ接種”が行われています。
マスコミが流した誤った情報により保護者が怯えて接種を躊躇し、
接種の機会を奪われた子どもたちへの救済策です。

日本医師会が作成したポスターを紹介します;



しかし接種率は低いまま・・・
諸外国では80%を維持している接種率、
日本ではまだ40%だそうです。

群馬県では特別枠(ふだんの診療時間以外)をつくって対応しています。
当院も参加しています。

なぜ接種率が低いのか?

そこには、
・ワクチン訴訟で国が負けたトラウマ
・誤った情報を野放しにして訂正しない国と学会
・医療事故・医療訴訟をエサとする弁護士達とワクチン反対派のコラボ
などが見え隠れします。

もう何回も取りあげてきたので、私自身、呆れ気味ですが・・・
キャッチアップ接種の期限が迫ってきている(今年度末までに3回接種を終了するためには9月中に開始しなければ間に合わない)ので懲りずに書いてみます。

今回は森戸やすみDr.が書いた記事を紹介します。

<ポイント>
・キャッチアップ制度によって、来年3月までは平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)で、過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない女性も無料で接種できます。
・日本ではHPVワクチンを間をあけて合計3回受けるため、まだ1回も接種していない場合は今年9月に接種を開始しないと3月までに完了することができません。
・日本では副反応が多いという誤解から接種率が下がり、当初は70%だった接種率が1%以下と限りなくゼロになりました。
・厚生労働省が及び腰だったことから、8年近く「HPVワクチンの積極的勧奨の差し控え」がありました。この間、他国のように各種学会、がん患者団体などと協力して接種率回復のためのキャンペーンを行うことも、ソーシャルメディアでの発信を行うこともありませんでした。その結果、接種率は現在でもHPVワクチンの実施率は40%にとどまっています。
・世界にはHPVワクチンの接種を公費で行っている国は138カ国あり、そのうち61カ国は男性も対象です。
・本来、感染症予防は国が国民を守るために方策を決めて行う問題です。なぜ日本政府がデンマークやアイルランドのようにできないのかと大変疑問です。


■ 幼い子を持つ母が…"マザーキラー"の異名もつがんを予防する「HPVワクチン」の接種率が驚くほど低いワケ〜接種率の高い国は子宮頸がん撲滅を目標にしているのに
 森戸 やすみ 小児科専門医
2024.7.21:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 HPVワクチンの接種率が高い国では、子宮頸がん撲滅も遠い未来の話ではない。ところが、日本では不正確な情報が流布された結果、HPVワクチンの接種率は低いままで、子宮頸がんの発症率は高い。・・・

▶ キャッチアップ1回目は9月までに
 2024年3月末日で、HPVワクチンのキャッチアップ接種が終了することをご存じですか? ・・・本来、定期接種の対象は小学校6年生から高校1年生までの女性です。でも、このキャッチアップ制度によって、来年3月までは平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)で、過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない女性も無料で接種できます
 日本ではHPVワクチンを間をあけて合計3回受けるため、まだ1回も接種していない場合は今年9月に接種を開始しないと3月までに完了することができません。予診票をなくしてしまっていても再発行が可能ですから、保健所に問い合わせましょう。定期接種の実施は市町村単位なので、住民票がある人ならば無料で受けられます。

▶ デンマーク保健当局の素晴らしさ
・・・
 2007年にHPVワクチンの接種を開始したデンマークでも、日本のように副反応が多いという誤解から接種率が下がったことがありました(※1、2)。当初、デンマークではHPVワクチンの接種率は95%だったのに、新聞やテレビといった主要メディアが否定的な報道をしたのです。そのせいで2016年には接種率が半分程度まで下がりました。
 しかし、デンマークの保健当局の努力によって、わずか1年で接種率は回復。保健当局は、がん患者団体などと協力しながら、迅速にソーシャルメディアを中心としたキャンペーンを行ったのです。その後、デンマークでは男女ともに公費でHPVワクチンを受けられるようになり、2022年の接種率は78%となっています。

▶ 日本の厚生労働省は無策すぎないか
 同様のことがアイルランドでもありました(※3)。アイルランドでは、2010年にHPVワクチンの接種が開始されましたが、ワクチンに反対する団体がソーシャルメディアを駆使し、メディアや政治家に働きかけたのです。そのせいで当初は87%だった接種率が、2017年には54%にまで落ち込みました。しかしアイルランド政府が専門機関を設立したり、ソーシャルメディアを使って発信したり、医療従事者に教育を行ったりしたおかげで回復しました。現在はアイルランドでも男女ともに公費でHPVワクチンを接種することができ、2022年の接種率は79%です。
 一方、日本では厚生労働省が及び腰だったことから、8年近く「HPVワクチンの積極的勧奨の差し控え」がありました。この間、他国のように各種学会、がん患者団体などと協力して接種率回復のためのキャンペーンを行うことも、ソーシャルメディアでの発信を行うこともありませんでした。
 その結果、当初は70%だった接種率が1%以下と限りなくゼロになった後、現在でもHPVワクチンの実施率は40%です。・・・日本におけるHPVワクチン接種率は2022年には7%でデンマークやアイルランドの回復にはまったく及びませんし、そのうえ日本は男性のHPVワクチンは定期接種になっていません(※4)。

▶ 費用対効果を考えつつ国民を守るべき
 さて、世界にはHPVワクチンの接種を公費で行っている国は138カ国あり、そのうち61カ国は男性も対象です
 ノルウェーにおいては、男女ともに十分に接種率が上がったため、2017年に敢えて2価ワクチンに変更しました。2022年のノルウェーのHPVワクチン接種率は、男女共に91%です。同国は2039年までに子宮頸がんをなくすことを目標としていますが、より高額な4価、9価のワクチンを広くやっても、目標達成が早まることがないからです(※5)。がん以外の疾患も防げる4価、9価のワクチンを受けたいのであれば、希望者が自費で行うように、という考えなのでしょう。
 HPVワクチンはとても高価ですが、中国は2021年、インドは2022年に自国産のHPVワクチンを開発しました。これらはずっと低価格なので、周囲の国々もこのワクチンを輸入すれば、国民を子宮頸がんから守ることができます。このようにさまざまな国が、国民を子宮頸がんから守るために、費用対効果を考えながら戦略を練っているのです。

▶ 日本の子宮頸がん発生率は高い
 現在日本の子宮頸がんの発症率は高く、HPVワクチンでがん予防ができていない低所得の国々と同程度。一方、子宮頸がんの治療成績は、HPVワクチンを男女ともに公費で行っている高所得国と同等です。これは日本の産婦人科医の努力のおかげですが、子宮頸がんにかかっても治せばいいというものではありません。
 もちろん、HPVに感染したからといって、全員が子宮頸がんになるわけではありません。大半の人は無症状のまま自然に治ります。でも、約10%は前がん病態である「軽度異形成」になり、約4%は「高度異形成」になり、0.1〜0.15%は「子宮頸がん」になります。子宮頸がん検診で異形成が見つかった場合、がん化しないかどうか定期的に通院して経過を見る必要があり、精神的にも経済的にも負担が大きいのです。「がんになるかも」という不安を抱えて生活していくのは大変なことです。
 また早期発見できず、すでに子宮頸がんが進行していて各種治療をすることになれば、身体的にはもちろん、精神的にも経済的にも負担はいっそう大きくなります。子宮頸がんになりやすいのは小さな子どもを持つ女性で、この病気が「マザーキラー」と呼ばれていることはよく知られています。そもそもHPVに感染せず、異形成にも子宮頸がんにもならないのが一番よいのです。

▶ 大切な接種の機会を失わないで
 HPVワクチンは、思春期の子どもが接種するワクチンなので、保護者の意向が大きいといわれています。医師会が実施したアンケート、公衆衛生を研究している医師らの調査によると、HPVワクチンの接種率を上げるためには、かかりつけの医師や看護師が対象者の保護者にすすめるのがもっとも効果的だということがわかっています。
 そのため、医師のあいだでは「私たちが接種率向上のためにがんばりましょう」と話しています。医師会や市町村によっては、独自にパンフレットを作ったり、声かけを行ったりと努力をしているほど。
 とても素晴らしいことだと思いますが、私は最前線の医師に接種率回復のための責任を負わせないでほしいと思っています。本来、感染症予防は国が国民を守るために方策を決めて行う問題です。なぜ日本政府がデンマークやアイルランドのようにできないのかと大変疑問に思っています
 最後にHPVワクチンは定期接種のワクチンとはいえ、当然ながら強制されるものではありません。しかし、HPVワクチンに関する間違った情報を信じてしまったせいで大切な接種の機会を失い、子宮頸がんなどの病気にかかってから後悔する人がいないようにと心から願っています。

<参考>



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