徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

「修飾麻疹」を知っていますか?

2024年05月01日 15時31分15秒 | 小児科診療
日本では麻疹(俗称:はしか)患者が1人発生しただけでもニュースになります。
ピンとこない人も多いと思いますが、それだけ要注意な感染症なのです。
江戸時代にはこんな言葉があったそうです。
「天然痘は器量定め,麻疹は命定め」

私は四半世紀前に麻疹の流行を目の当たりにしました。
麻疹に罹ると、子どもでは半分くらい入院治療が必要になります。
病棟ではこじれて肺炎になった患者が一晩中咳き込む音が響いていて、
「この感染症を流行らせてはいけない」
と危機感を感じたものです。

以前の日本は「麻疹輸出国」という汚名を着せられていましたが、
MR(麻疹・風疹)ワクチン2回接種が定期化すると程なくして「麻疹撲滅国」「麻疹輸入国」へ変わりました。

そしてみんなの頭から麻疹が消えていきました。

しかし、MRワクチン定期接種化以前に子ども時代を過ごした人々は免疫が不十分です。
麻疹そのものに感染した人はほぼ100%免疫がつきますが、麻疹ワクチンを1回接種しただけの人は、有効率95%なので感染することがあります。

そしてこの場合(ワクチン1回接種者が麻疹に罹ること)、症状は軽く済む傾向があります。どういうことかというと…まずは麻疹の典型的な経過を取らないのです。このタイプを「修飾麻疹」と呼びます。

一般的な麻疹の経過は、
・高熱+咳嗽鼻汁結膜炎が3〜4日間(顔がグシャグシャ)
〜この間は皮疹はありません〜
・一旦熱が下がりかけますが、その日のうちに再上昇
〜ここで首回りあたりから皮疹が出現〜
・皮疹は身体全体に広がり、末端に達するまで高熱が続く

一方の修飾麻疹は「高熱にならない」「皮疹が少ししか出ない」のです。
…となるとほかのウイルス感染症と診断されてしまう可能性があります。
患者にとってはありがたいことですが、医師にとっては「典型的な症状が出ないので診断が難しい」というデメリットでもあります。
しかし他人にうつす感染力はあるため、やっかいです。
本人は修飾麻疹で軽く済んでも、うつした人が重症化する可能性は十分にあります。

このような混乱を解決する予防策があります。
それは“麻疹ワクチン(≒MRワクチン)2回接種”の徹底です。
以下の記事をご参照ください;

 麻しん(はしか)ワクチン「1回だけ接種」の人は注意! 気付かないうちに発症する「修飾麻しん」とは
倉原優(呼吸器内科医)
2024/3/15:Yahooニュース)より抜粋;
・・・
子どもの頃に1回だけワクチンを接種しているなど、麻しんに対して中途半端な免疫を持っている場合、麻しんウイルスに感染すると、軽症で典型的ではない麻しんを発症することがあります。こういった麻しんを「修飾麻しん」と呼びます(図1)。

図1.修飾麻しんとは


症状は軽症になり、経過が通常の麻しん(図2)と異なるため、他の発疹性疾患である風しんなどと誤診されやすくなります。

図2.麻しんの典型的な経過


修飾麻しんの感染性は通常の麻しんよりも劣りますが、それでも感染性があることには間違いなく、微熱とブツブツがある場合、一度は疑う必要があります。とはいえ、実際に診断することは難しく、疑った医師が麻しんの抗体検査やウイルスゲノムを検出する検査を行うことで診断できます。
・・・
麻しん風しん(MR)ワクチンは定期接種に位置付けられているとはいえ、実は2回接種率は100%ではありません。
感染性が高い感染症であるため、地域や国から麻しんを排除するために必要なワクチン接種率は95%という目標値になっています。しかし、令和4年度の第2期接種率は92.4%と目標値を下回っており、北海道、鹿児島県、沖縄県にいたっては2回接種率は90%を下回っています。
・・・
定期接種化されて、現在ではほとんど感染者がいないのに、なぜ麻しんが数例報告されただけで報道されるのでしょうか。
理由の1つとして、「子どものありふれた感染症」「幼少期に感染しておけば大丈夫」という誤解が過去にあったことから、軽視している人が多いためです。麻しんは免疫を有さない状態では感染率が100%の病毒性が高いウイルスで、脳炎などの合併症を起こしたり、場合によっては亡くなったりすることもある、怖い病気です。
・・・
2000年よりも前に生まれた人のうち、まだ1回しか接種していない世代は、2回目のワクチン接種を検討ください(図4)。

図4.生年月日別の麻しんワクチン接種歴



<参考>
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