徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

予防接種拒否は“育児放棄(ネグレクト)”として親権剥奪の司法判断

2016年06月13日 06時32分39秒 | 小児科診療
 予防接種拒否はネグレクト(育児放棄)のひとつ、と裁判所が判断した日本の事例を紹介します。

■ 乳児の接種拒否で親権喪失 家裁決定「子の利益侵害」
2016/6/8:共同通信
 九州地方の家庭裁判所が3月、乳児への予防接種を拒否した母親について児童相談所から「親権喪失」の審判申し立てを受け、「子どもの利益を侵害した」として認める決定をしていたことが7日、関係者への取材で分かった。家裁は、児相が昨年、母親の育児放棄(ネグレクト)により乳児を一時保護した経緯も重視。予防接種拒否の理由は医学・思想上の問題ではなく「児相職員への感情的反発」と認定した。
 親権喪失は、虐待など子どもの利益を害する行為について2年以内に改善が見込めない場合、無期限に認められる措置で、民法で規定されている。


 この事例はもともとネグレクトが問題視され児童相談所が介入していましたので、「予防接種拒否=ネグレクト」という短絡的な構図ではありません。
 しかし結果的には同じ状況になる「ワクチン反対という親のポリシーに基づく予防接種拒否例」は、どう扱われるのでしょう?

 子ども虐待は増え続けています;

■ 群馬県児相の一時保護所 定員超過が100日突破
2016/4/5:上毛新聞
 群馬県中央児童相談所(前橋市野中町)の一時保護所で、定員を超える子どもを保護する状況が続いている。2011年夏に定員を21人から36人に増やし、12~14年度は定員を超えた日はなかったが、15年度は2月末までに100日を突破した。虐待が疑われる事案の増加で、一時保護する子どもが増えているためだ。専門家は職員の増員など態勢強化が必要と指摘している。
 定員を超過した日が05~07年度に60日以上になるなど、定員超過が常態化したため、県は11年8月、新棟を建設して一時保護所の定員を15人増やした。12~14年度は定員超過日数はゼロだったが、15年度に入り状況が一変。多い日は40人の子どもが生活している。
 定員を超過した日は、1人部屋を2人で共有している。子どもがトラブルを起こさないよう、職員が時間外勤務で見守っているという。
 定員超過の背景には、虐待が疑われる事案の増加がある。15年に県警が受けた相談や通報は過去最多の186件に上った。児相が一時保護した人数は、12年度から4年連続で前年を上回っていて、15年度は2月末時点で465人となった。担当者は「保護が必要な子どもが増えている。命に関わるケースがあるので、定員オーバーだからといって断ることはない」と話す。
 施設の増設や職員の増員は今のところ検討されていないという。児童虐待に詳しい高崎健康福祉大の千葉千恵美教授は「難しい事情を抱えた子どもたちをよく観察し、心を込めてケアすることが望まれる。専門の職員を増やしたり、施設環境を良くすることが必要だ」と話している。
 【一時保護所】 児童相談所が保護した子どもを短期滞在させる施設。虐待される可能性がある子どもを保護したり、非行をした子どもに生活指導する。緊急性が高い場合、保護者の同意なしで保護できる。県内では中央児童相談所にしかない。


 その昔(約20年前)、虐待事例の主治医になったことがあります。
 児童相談所職員は、虐待事例を監視・介入かつ支援・サポートするという、敵と味方の両方の役割を担う複雑な仕事を担当しており、端から見ていても困難さが伺えました。当時既にアメリカでは、監視役と支援役は切り離されていました。
 この社説を読むと、日本の状況は改善されないようですね;

■ <社説>児相、介入に特化 子のために最善の対策を
2016/3/13:琉球新報
 厚生労働省の専門委員会は、児童相談所の役割を被虐待児の一時保護など強制措置を伴う「介入」と、一時保護した子どもを親元に戻す際の「支援」に特化する最終報告書をまとめた。SOSを発する子どもにとって最善の対策になるよう、報告書を踏まえ、国や各自治体は早急に児童福祉法の改正と実態に沿った施策を行ってほしい。
 全国の児童相談所が2014年度に対応した児童虐待の通告は約8万8千件で過去最多だ。1990年度の集計開始以来24年連続の増加で、初めて8万件を突破した。このうち県内は478件で過去最多だった。13年度の348件から37%増加した。
 最終報告書は、児相の負担を軽減し体制を強化するため、現在は都道府県や政令市にのみ設置が義務付けられている児相を、那覇市などの中核市や東京23区にも設置する。児相が現在担っている育成や養護、非行の「相談業務」は市区町村に移行させる。
 虐待の通告を受けた際の窓口を都道府県などに設置する機関に一元化し、緊急性に応じて警察や児相、市区町村に対応を振り分ける取り組みを試験的に実施するよう求めている。
 報告書の趣旨は理解できるが、現場の人手不足の解消や、専門知識を持つ人材の育成など多くの問題を抱えている。児相を拡大するために、心理学などを学んだ児童心理司や児童福祉司、幅広い事案に対応できる人材確保を急ぐべきだ。振り分けについては誰が、どのように行うのかという点を整理しなければならない。人口や財政、職員規模は市町村で異なるため、全国一律適用に向け財政措置なども今後、詰めなければならないだろう。
 報告書は児相が「介入」と「支援」に特化することを求めている。しかし一つの機関が強制力を伴って介入し親子を分離、その後親元に戻す支援をするのは無理があるとの指摘がある。欧米は別々の機関が担うという。児相の力を最大限に発揮できる役割分担について、なお検討が必要ではないか。
 虐待の背景として経済格差や家庭の孤立も指摘されている。特に県内の貧困状況は全国的に見ても深刻だ。家族への経済的支援と同時に、家庭が困った時に一声掛け支えられる地域力を高めたい。
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