徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

実は何種類もあるインフルエンザワクチン

2018年09月13日 14時09分55秒 | 小児科診療
 一口にインフルエンザワクチンと言っても、何種類もあることをご存知ですか。
 現在日本で用いられているものは「スプリットワクチン」というタイプです。
 が、世界を見渡すと、たくさんの種類があることに驚かされます。
 その辺を、ちょっと紹介します。

 まず、インフルエンザワクチンを大きく分類すると、以下の3種類に分けられます。

① 弱毒化生ワクチン
② 不活化全粒子ワクチン
③ 不活化スプリットワクチン


 有効性の順位も(基本的には)数字通り。
 日本で使われている③は一番効果が低いのですね。
 日本ではその昔1970年代頃までは②が使用されていました。しかし発熱などの副反応が多いと指摘され、改良してできたのが③です。
 ①は米国で使用されていますが、日本ではまだ正式に認可されていません。

 なお、2009年に新型インフルエンザが登場した際は、②が開発され、さらに作用を強くするためアジュバントという免疫強化物質が添加されました。

 ①②③の間で、何が違うのか?
 これは大阪大学の石井健先生のグループが解明しています。

インフルエンザワクチンの作用メカニズムを解明 2010.04.04:大阪大学

 各種ワクチンが免疫細胞のレセプターを刺激する場所が異なるため、それによる免疫応答にも違いが出てくるそうです。
 上記記事の文中に衝撃的な文言がありました。

「日本で季節性、新型インフルエンザのワクチンとして使用されているスプリットワクチンでは自然免疫の活性化がほとんど見られず、ワクチン効果も低い。ほとんどの人がインフルエンザに感染歴があるためスプリットワクチンではすでにある免疫を再活性して効果を発揮していることが実験で判明」

 つまり、インフルエンザ感染歴のない乳幼児に現在のインフルエンザワクチンを接種しても効果が期待できないことが、科学的に証明されたのです。
 これからインフルエンザワクチンの予約をはじめる時期ですが、なんだか力が入りません。
 まあ、過去に感染歴のある幼児以上には効果があることは確かですが。

 ただし、適切なアジュバントを添加すれば、現行スプリットワクチンも乳児から効果が期待できるはず。
 開発を切望します。

 さて、テーマに戻ります。
 5年前の記事ですが、米国では6種類(!?)のインフルエンザワクチンを使い分けるという内容。

インフルエンザ予防接種初出荷、今年は6種類も!2013/9/5:日経メディカル)より抜粋;
 フロリダは連日猛暑が続いていますが、8月に入って、薬局に2013年から14年用のインフルエンザワクチンが入荷してきました。去年までは通常量ワクチンと、65歳以上用の高用量ワクチンを合わせて3種類だったのに、今年は6種類ものワクチンが入荷しました。
 6種類の内訳は
(1)従来の3種類(A型2種とB型1種)のマルチドースバイアル
(2)従来の3種類で保存剤を含まないプレフィルシリンジ
(3)高用量のプレフィルシリンジ
(4)4種類(従来の3種類にもう1種のB型を加えた)のプレフィルシリンジ
(5)4種類の点鼻スプレー
(6)動物のセル(cell)で培養したセルベースのプレフィルシリンジ
──となります。
 値段はバイアルのものが一番安く31.99ドル(約3000円)/1人で、一番高価なものは高用量のプレフィルシリンジで、54.99ドル(約5000円)/1人です。
 米国疫病対策センター(CDC)は、生後6カ月以上の人は全員毎年接種すべきという方針を示しているだけなので、具体的にどのワクチンを患者さまにお勧めするかは薬剤師がカウンセリングで決めます。
 基本的には、65歳以上の高齢者には高用量のインフルエンザワクチン、妊娠中の方には保存剤の入っていない不活化ワクチン、卵アレルギーのある方にはセルベースのワクチンをお勧めします。特に注射針が苦手、という方には点鼻インフルエンザもあり、7歳から49歳の方を対象にしています。
 点鼻スプレーは、6種類の中で唯一の生ワクチンなので、「インフルエンザにかかるのではないか?」と思う人が多く、ほとんどの人が従来のワクチンを望みます。私は一昨年前、点鼻ワクチンを受けました。痛くも痒くもなく、鼻が一瞬だけモソモソしただけでした。針の苦手な方にはお勧めです。


 この6種類と①〜③の関係は?
 え〜と、え〜っと、
①に属するもの:(5)
②に属するもの:なし
③に属するもの:(1)(2)(3)(4)(6)
 ということになると思います。

 では現在の日本の状況はどうか?
 スプリットワクチンのみで粘ってきた日本も状況が変わってきそうな気配があります。
 下記記事から“承認待ちのワクチン”を抜粋すると、

・「FluMist」(アストラゼネカ社) → ①弱毒化生ワクチン
・「Fluzone High-Dose」(サノフィ社) → ③不活化HAスプリットワクチン
・(開発番号:VN-100)皮内投与型ワクチン(第一三共ほか) → ③?
・経鼻ワクチン(阪大微研+国立感染症研究所) → ②不活化全粒子ワクチン
・(開発番号:NSV0001)舌下投与型HAワクチン(阪大微研ほか) → ③+アジュバント

ーーーとなりますか。
 注目すべきは「経鼻不活化全粒子ワクチン」です。
 「不活化全粒子ワクチン」は日本がかつて使用していて、発熱の副反応が目立つために現在のスプリットワクチンへ変更したという“過去に捨てたワクチン”です。副反応は減りましたが、効果も減りました。それを皮下注射ではなく経鼻という投与経路を変更することにより復活させたのですね。
 ちなみに「不活化全粒子ワクチン」はインフルエンザの型の変異に関係なく効くと言われています。
 たぶん、現在のスプリットワクチンとは一線を画すくらいの効果が期待できるのではないでしょうか。
 これは期待できそう・・・ただ、実際に使えるようになるのはいつのことか。


□ 季節性インフルエンザワクチン市場に黒船来航2018/4/2:日経メディカル
 これまで、内資系の企業4社だけが製造、販売してきた国内の季節性インフルエンザワクチンの市場に、最近、外資系の製薬企業が相次いで参入している。
 英アストラゼネカ社傘下のMedImmune社が製造し、海外で「FluMist」として販売されている経鼻噴霧ワクチン(VN-0107/MEDI3250)は、国内で第一三共が承認申請中。同ワクチンは、野生型のウイルス株と製造用のウイルス株から作られる遺伝子再集合体をワクチン製造株にして、鶏卵培養した弱毒化生ワクチン。鼻腔粘膜など低温で増殖しやすいように作られている。海外で実施された小児を対象とする臨床試験では、鶏卵培養した従来のワクチン(不活化HAスプリットワクチン)に比べて有意な発症予防効果が認められた。
 フランス・サノフィ社が製造し、海外で「Fluzone High-Dose」として販売されている高齢者向けの高用量ワクチンも、同社の日本法人が、2017/18シーズンに国内で第1相/2相試験をスタートさせた。同ワクチンは、現行の鶏卵培養したワクチン(不活化HAスプリットワクチン)の抗原(HA)蛋白量を、15μg/株/0.5mLから60μg/株/0.5mLに増やしたもの。米国で、65歳以上の高齢者を対象に実施された臨床試験では、不活化HAスプリットワクチンに比べて有意に赤血球凝集阻害(HAI)抗体価が高まることなどが分かっている。
 実はこれまで、日本の季節性インフルエンザワクチン市場は、“鎖国状態”だった。背景には日本に、海外とは異なる株選定のプロセスや薬事規制が存在していたことが挙げられる。要は、海外で開発・承認を取得したワクチンのデータを基に、外資系企業が日本で承認を取得するのが現実的に難しかったのだ。
 しかし最近、外資系企業が季節性インフルエンザワクチンを日本で開発する動きを活発化させたことや、国内のワクチン産業を海外に出して行こうという機運が高まっていることなどにより、株選定のプロセスを見直したり、薬事規制を海外と調和させたりしようという動きが出ている。まさに、黒船が来航したのである。

◇ 年齢や好みに合ったワクチンを選択する時代へ
 こうした状況に、内資系の企業も続々と新たな季節性インフルエンザワクチンの開発に取り組んでいる。
 第一三共、テルモ、ジャパンワクチン、北里第一三共ワクチンが共同で開発したプレフィルドシリンジ型の皮内投与型季節性インフルエンザワクチン(VN-100)の第3相試験が進んでいる。また、一般財団法人阪大微生物病研究会と国立感染症研究所が開発した経鼻インフルエンザワクチンについて、第2相試験を実施中。さらに、包装材料などを扱う日東電工は、阪大微生物病研究会と共同で、2016年秋から、舌下投与型の季節性インフルエンザHAワクチン(開発番号:NSV0001)の第1相試験を始めた。
 もちろん、これら全てのワクチンが承認を取得するかどうかは分からない。ただ、順調にいけば数年後には、接種に際して、製造株もワクチンの特徴も投与経路も様々な複数の季節性インフルエンザワクチンの中から、年齢や好みに合わせて接種するワクチンを選択する時代がやってくることになる。それぞれの受診者に適したワクチンを選んで接種できるとなれば聞こえはいいが、複数のワクチンをそろえたり、最新情報を収集して受診者に伝えたりする必要が生じるなど、医療従事者の煩雑さは増すことになりそう。果たして、黒船来航は、日本の医療現場にどのようなインパクトをもたらすのだろうか。
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