徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

新型コロナの「ファクターX」を探せ!

2020年09月08日 09時45分41秒 | 小児科診療
アジア人は欧米人と比較して新型コロナウイルスに感染した場合の死亡率が低く、大きな謎とされています。
その原因を世界中の科学者が研究して色々な意見が飛び交っています。
日本ではノーベル賞学者である山中伸弥氏が「ファクターX」と呼んで話題になりました。
私は常々「マスク」という文化ではないかと考えてきたのですが、そんな単純なものではないらしい。

最近のNHK番組「くらし解説」でも取りあげていました。
2020年09月03日 (木) 矢島 ゆき子  解説委員

ファクターXの候補としてあげられた項目は以下の通り;
① ACE1遺伝子のタイプ
② 白血球のタイプ
③ カゼのウイルス感染で免疫ができている
④ BCG接種の影響
⑤ 医療体制
⑥ マスクや衛生観・生活文化

私の支持する「マスク」は、残念ながら第6位とあまり評価されていません。
この中で①のACE1遺伝子のタイプは恥ずかしながら初耳でした。
以下は番組の解説文から一部を抜粋;

「最近、ACE1(エース・ワン)遺伝子のタイプの違いが、“ファクターX”の候補ではないかという研究が、国立国際医療研究センターから出されました。世界各国のゲノム・疫学データから調べた研究をもとにした解析結果です。
 ACE1(エース・ワン)と呼ばれる遺伝子で、地域・人種によって、ACE1が「よく働くタイプ」と、「あまり働かないタイプ」にわかれます。
 調べてみると、スペイン・イギリス・イタリア・フランスなどはACE1が「よく働くタイプ」が多く、日本・中国・韓国・台湾など東アジアは ACE1が「あまり働かないタイプ」が多くいことがわかりました。
 そしてACE1が「よく働くタイプ」が多いヨーロッパでは死者の数が多く、ACE1が「あまり働かないタイプ」が多い東アジアでは死者の数が少ないことが確認できたのです。このタイプの違いが、重症化に関係しているかもしれないということなのです。
 ACE1は、一体、どんな働きをしているのでしょうか?
 ACE1は、血管などの細胞の表面で働いて、血圧を調整しています。ACE1が働くと、血管が収縮し、血圧が高くなるのです。
 実は、ACE1以外にもう一つ、ACE2も血圧の調整には欠かせません。血圧が高くなると、ACE2が働き、その結果 血管が拡張し、血圧が下がります。健康であれば、ACE1とACE2はバランスをとりながら働き、私たちの血圧はある程度、一定の状態を保つことができるのです。
 今回の新型コロナウイルスは感染する時にACE2を利用して細胞に入りこむと考えられています。そのため ACE2は十分に働くことができずACE1とACE2のバランスが崩れてしまい、時に「炎症」につながるかもしれないのです。特に、ヨーロッパで多かったACE1が「よく働くタイプ」は、この傾向が大きく、場合によっては、炎症がひどくなることで、臓器の障害などにつながり、そのことで重症化したり、時に死につながる場合もあるのではないかと考えられているのです
 また、Kanagawa RASI COVID-19研究が、先月、横浜市立大学・国立循環器病研究センター・量子科学技術研究開発機構 などから発表されました。新型コロナウイルスの重症化を予防するための治療につながるかもしれない研究です。
 新型コロナウイルスに感染した高齢者を調べたところ、ACE阻害薬などの高血圧の薬を、感染前から服用していた高齢者は、服用していなかった高齢者に比べ、意識障害を起こした 重症者が少なかった とのことです。
 今後、さらに研究が進めば、これらの薬を、新型コロナウイルスの重症化を予防する治療薬として使うということがあるかもしれません。」

ちょっと複雑でわかりにくいのですね。
私なりに整理すると・・・
・ヒトの細胞はACE(アンギオテンシン変換酵素)を持っている
・ACEには1と2の二種類が存在する
・ACE1とACE2は絶妙なバランスで血圧を調節している
・ACE2は新型コロナウイルスが感染(細胞に侵入)する際に使われる
・ACE2が消費されると相対的にACE1が優勢になりバランスが崩れる
・ACE1が優位になりすぎると暴走して血管に炎症を起こすことがあり、これが新型コロナ感染の重症化につながると考えられている
・ACE1の遺伝子には民族差があり、欧米人ではよく働き、アジア人ではあまり働かない傾向がある。
・ACE1遺伝子の差、活性の差が、新型コロナ重症化を左右する因子「ファクターX」の可能性がある
といったところでしょうか。

一方で「ファクターXは実在しない」と言う専門家もいます。

■ 【識者の眼】「ファクターXは実在しない
岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)
日本医事新報No.5028 (2020年09月05日発行) P.57 

まだまだ結論は出ていない様子。
今後の研究に期待しましょう。

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