徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

専業主婦志向が増加しているらしい

2013年01月24日 20時52分26秒 | 日記
 一時はゴミ扱いされた「専業主婦」。
 こんな本がありましたね:

■ 「くたばれ!専業主婦」(石原 里紗 著)

 歴史を紐解くと、日本の庶民生活の中で、農業が中心だった江戸時代までは「専業主婦」はいませんでした。
 女性も働き手で、子どもも両親が協力して育ててきました。

 それが激変したのが明治時代以降の文明開化。
 とくに会社勤めの「サラリーマン」という職業が登場してから「女性は家を守るもの」という概念が発達して「専業主婦」が誕生しました。

 しかし、先進国では能力のある女性はどんどん社会進出し、日本でも1986年に男女雇用機会均等法が制定され、女性も社会で働くべきであり「専業主婦」は時代遅れの遺物として扱われる空気も生まれ、上記のような本も話題になりました。

 このような雰囲気の中で、私は育ち、教育を受けてきました。
 そして小児科医になり、子どもが育つ過程でたくさんの愛情が必要であることを学びました。
 母親に愛され大切にされると「原信頼感」が育ち、自分に自信が持てるようになり、すると他人を信頼できる人間になっていきます。
 それがうまくいかないと、自分に自信が持てず、他人を信頼することができず、コミュニケーションが不得手になりがちです。
 その程度により、不登校、摂食障害、非行、果ては少年犯罪の土壌となり得ることが児童精神医学の分野で分析されています。

 さて、動物学的な知識を少々。
 哺乳類とは「乳児期に母乳中心の栄養で育つ動物」を指します。
 その中で母子の距離にはバリエーションがあり、それは母乳の濃さにより分析可能だそうです。
 子どもが自分で動くことができて水分補給が可能な牛やウマなどは濃い母乳。
 一方、自分で動くことができず、すべて母乳に頼るタイプは水分の多い薄い母乳。
 ヒトの母乳はどうでしょうか?
 人乳は薄く、母子はいつも一緒にいるべき動物に分類されるのです。

 ヒトに一番近いチンパンジーの平均哺乳期間は約4年だそうです。
 ヒトでも、全世界の平均授乳期間は約4年間。
 先進国では1年程度で、女性の社会進出が進んでいるフランスでは6ヶ月未満らしい。

 経済が右肩上がりだった時代の日本では、女性にとって子育てよりも社会進出し社会的地位を得ることの方が魅力的に映りました。
 仕事を男性並みにするには、乳児期から子どもを他人に預けて育ててもらわなくてななりません。
 
 「女性の社会進出が究極まで進むだろう。すると子どもたちがまともに育っていないことに気づいて反省し、子育てを外注するのではなく母親が育てることが一番効率的であることに気づくだろう」と以前から私は考えてきました。
 このような事態になるのはまだまだ先のことで、50年後か、100年後か・・・。
 
 しかし、思ったより早く振り子の揺り戻しがはじまりました。
 昨今の女子大学生の調査で、専業主婦志向が増えつつあるという新聞記事を先日読みました。
 その主な理由の中に「自分が子どもの頃、両親が共働きで寂しい思いをした。お母さんには側にいて欲しかった。自分の子どもには同じ思いをさせたくない。」というものがありました。
 危機を感じた本能が働き始めた様子。
 さらに不景気で雇用が不安定になり、共働きしないと子どもが育てられないという背に腹は替えられない事情も発生してきました。
 
専業主婦志向復活の背景(毎日新聞:2012年12月28日)
◇劣悪な労働環境で「あこがれ」に
 内閣府が15日発表した男女共同参画社会に関する世論調査で、「男性は外、女性は家庭」という性別役割分業意識に賛成する人の割合が大きく増えたことが、注目を浴びた。特に20代の賛成割合が急上昇して50%となり、30、40、50代よりも高くなっていた。
 2000年以降、若い女性に専業主婦志向が強まっているという傾向は、さまざまな調査で指摘されてきた。大学でも、専業主婦になりたいという女子学生が相当増えている印象だ。
 この背景に、若者の劣悪な労働環境があることは間違いない。就職活動に疲れ果てた男子学生の一人が「専業主夫になれるものならなりたい」とこぼしていた。苦労して正社員として就職しても、世界最高レベルの長時間労働が待っている。家で専業主婦が待っていることを前提とした働き方が日本企業の標準である。たとえ仕事は面白くても、残業や休日出勤を断りにくい状況では、専業主婦がいなければやっていけないと考える男性と、結婚し子どもが生まれたら働き続けるのは無理と思う女性が増えるのは仕方がない。かといって、低収入の非正規雇用では仕事のやりがいもなく、やらないで済むならと考える女性も増える。
 この専業主婦志向には大きな落とし穴がある。現在、若年男性の雇用も不安定になっている。特に未婚男性の3分の1は年収200万円以下。年収400万円以上の未婚男性はわずか25%にすぎない(20~39歳、明治安田生活福祉研究所2009年調査)。
 そもそも、ゆとりのある生活が送れる収入を得ている未婚男性は1割程度だろう。結婚後も同様である。今は正社員男性でも収入の増加が見込めない。私の分析では、昔は専業主婦が当たり前だった夫の年収800万円クラスでも、妻がパートで働く割合が大きくなっている。子どもの教育費を出すために、共働きせざるを得ないのだ。


 社会における男女平等が完成する前に、こういう方向になるとは想定外でした。
 
 もうひとつ、気になってきた点があります。
 それは「家族機能の外注」傾向です。
 「子育ての外注」は将来の「介護の外注」につながります。
 親がそばにいなくて寂しい思いをして育った子どもが、将来親が弱った時に側にいて面倒をみることができるでしょうか?
 たぶん、親と同居せず施設に預ける(=外注)のが自然の成り行きですよね。
 ヒトは自分がされたようにしか人にできませんから、仕方のないことです。

 現在のヨーロッパでは、福祉国家と呼ばれる国々でも親は歳を取ると施設に入り晩年を過ごすのが一般的で、子どもと同居することは少ないようです。
 以前、某番組で3世代同居している日本の家族をみたドイツの老夫婦が「年老いても子どもたちと一緒に生活できるなんてうらやましい」と感想を漏らしていたのが記憶に残っていますので。

 いろいろ意見があると思います。
 ただ、よい社会の基準は「次世代が健やかに育つ環境」であることには異論がないでしょう。
 子どもを取り巻く環境は時代により、国により様々と思われますが、この基本だけは忘れないようにしなくては。
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