徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

「ワクチンを打ちたくない」を“行動経済学”的に分析すると・・・

2021年09月19日 10時08分05秒 | 小児科診療
今回も「ワクチンを打ちたくない」人々に関する内容です。
経営コンサルタントが行動経済学という視点から分析した記事を見つけました;

若者の「ワクチン接種」をさらに加速するためには何が必要? 
日沖健:日沖コンサルティング事務所代表

人間は「報酬」より「損失」を重視して物事を選択する傾向があり、これを「プロスペクト理論」と呼ぶそうです。プロスペクト理論は行動経済学の中核的な理論で、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱されました。  プロスペクト理論のエッセンスは、 「人間は不確実性の状況で損失回避的に行動する」 ということです。

記事の中で、著者は例題を挙げています。

(質問1)
A:何もしなくても100万円を受け取ることができる。 
B:コインを投げて表が出たら200万円を受け取るが、裏が出たら0円。  
(質問2)
A:何もしなくても100万円を支払わなければならない。 
B:コインを投げて表が出たら200万円払うが、裏が出たら1円も支払わなくてよい。

あなたはどちらを選びましたか?
私は1:A、2:Bを選びました。
これは、たくさんの人を対象に行った実験と同じ結果。

あらためて質問の文章を眺めると、1と2の違いは「損と得」の言葉を入れ替えただけです。
なぜ人はこのような選択をするのでしょう。
その理由は・・・

これは、人間には「何かを得る喜び」よりも「何かを失う悲しみ」の方が大きいという心理があるからです。  
利益を得る場面では「確実に利益を得たい(= もらえるはずの利得を失いたくない)」と考える一方、損失が出る場面では「リスクを取ってでも損失を回避したい(= 損失を何とか避けたい)」と考えます。損失回避という心理です。

この理論をワクチン接種に当てはめてみましょう。
接種対象は基本的に“健康”ですね。

ワクチンを接種しても、今より健康状態が改善するわけでありません。一方、副反応が起これば健康が損なわれます。短期的に見ると、損失のリスクがあるわけです。 
つまり、ワクチンを接種しても健康改善というメリットがなく、副反応というデメリットがあり、若者はデメリット(損失)を回避しようとワクチンを忌避するのです。

なるほど。
ワクチンを打った効果は「何も起こらないこと」ですから、得をすることが実感しにくい。
ホントは新型コロナに自然感染するとつらい思いをして後遺症に悩まされ死の危険も経験するかもしれないのに・・・身近に罹患者がいなければ“対岸の火事”的にスルーしてしまうのが人間の性(さが)。

では、このことを理解した上での対策は?
著者は「ご褒美を用意する」という、ごくフツーの提案をしています;

ワクチン接種を法的に義務化するという方法があります。また、ワクチン接種者にインセンティブを与えるという方法もあります。アメリカではワクチン接種者に、お金、ビール、ドーナツ、果てはマリフアナまで配っているそうです。

それから、前項と同じく「ワクチン接種の損得、ワクチン非接種の損得を十分説明する」というオチでした。

もうひとつ考えられるのは、若者のリスク認識を変えることです。行動経済学では認識の枠組みを変えることをリフレーミング(reframing)と言います。 ・・・若者のリスク認識を変えるには、今後、正しい医療情報を提供する必要があると考えられます。

やはり結局は「正しい情報提供」にたどり着くようですね。
あとは、その提供方法のスキルだと思います。
伝わりやすい方法を模索して、最も効果的な手法を選択すべし。

スウェーデンのテグネル氏が行ったような、定例記者会見もいいかも。
ただ、尾身会長の“校長先生の講話”的な内容(気をつけましょう、ガマンしましょう、辛抱しましょう・・・)ではウンザリするだけですが。
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