BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ

2010-08-27 00:05:46 | Boxing
王者 ビタリ・クリチコ VS 挑戦者 アルバート・ソスノウスキー

クリチコ 10ラウンドTKO勝利

考察 ~クリチコ~

心臓血管外科医の須磨久善はオペ前に入念なimage trainingを
行うことで知られているが、現実(reality)は必ずどこか食い違うと語る。
その時にどう修正するかを考えること、つまり判断力(jundgement)が重要になると主張する。
外科医とボクサーはこの点で驚くほど似通っている。
自身のイマジネーション通りに試合が進むというのは完璧な集中力とコンディショニング、
陣営の水も漏らさぬ戦術、相手との相性、その他諸々の要素が必要になってくる。
そんなことはありえないと断言できる。
では、なぜ時にそれを実行できる(とこちらが思わされる)選手が出てくるのか。
それは上述の外科医さながらのimagination, planning, perception, judgement, operation,
などの要素を持ち合わせているからに他ならない。

両のガードをだらりと下げるそのスタイルはパンチが飛んできても大丈夫という自信以上に、
パンチを見る、あるいは受けさえすれば軌道も角度もタイミングも
読み切れるという確信があるかのようだ。
実際にジャブは数発しかもらわず、
単発で左フックと右ストレートは被弾したが、
連続では被弾せずピボット、ショルダーブロック、サークリング、パリー、スウェーを駆使し、
cm単位どころかmm単位で避けていたのではないかと感じさせる。
レフェリーの位置もしくはリングサイドにいればもっとこの絶妙な距離感を測定できそうだ。

オフェンスはディフェンスマインドほど精緻ではないが、
左のグローブが横から下からとにかく邪魔で、
時に腰から肩を入れて槍の如く突き刺してくるのが厄介でしょうがない。
D・ヘイはいかにビタリから逃げるかを算段しているに違いない。
弟の方がまだチャンスはあるだろう。
右はワン・ツーに特化しすぎとも思えるが、やはりドクターさながらに右で相手を触診している。
ビタリほどのインテリかつ器用な人物であれば
整形外科医か形成外科医、または歯科医にもなれたと思わせるに充分。
引退後はウクライナ政治の腐敗を外科的に摘出するのだろうな。


考察 ~ソスノウスキー~

自身の左下へのダッキングからスイング気味の左フック、
左のジャブの打ち出しに先行する右ストレートのクロスなどが
単発ではヒットしたものの、早くも品切れ、もとい弾切れ=out of ammo(ammunition)。
米空軍用語でwinchesterと言うんだったか。
弾薬をでは何種類用意すれば良かったのか。
おそらくビタリ攻略には70種類のパンチが必要であると勘定される。
粟生が9種類、長谷川が20種類のカウンターで迎え撃つと宣言していたが、
これらに基本パターンのパンチを加えても総計40~50だろう。
単純に1.5倍のパンチが必要とされるわけだが、
たとえ教え込む相手がlogical contenderとはいえ、
どんなトレーナーがどれだけの準備期間を要するだろうか。
ここからは純粋な想像(今までの数字は推測)となるが、
パンチを20覚えさせるのに4年、40では7年、70となると10~13年が必要かと思う。
それだけの労力を誰が誰に費やせる?

話を現実的な方向に戻すならば
ソスノウスキーの勝機はビタリの左足を踏んでの右ボディ攻撃の一択のみ。
無論、明快に反則である。
自分が潜在的トレーナーとして以下に外道で無能かを痛感する。

IBF世界Sミドル級タイトルマッチ

2010-08-27 00:05:11 | Boxing
王者 ルシアン・ビュテ VS 挑戦者 エディソン・ミランダ

ビュテ 3ラウンドKO勝利

考察 ~ビュテ~

テクニシャンのカウンターパンチャーでありながら、
攻撃的にリングジェネラルシップを握ろうとするその姿勢は
当然ながらL・アンドラーデとの第一戦の反省から来るもの。
リマッチの鮮やか過ぎるKOはそこから来ており、
この試合でもその方針は堅持された。

この選手は目のフェイントに長けており、
「打つぞ」という威嚇と「打ってこい」という挑発を
瞬時に使い分けることができるのだと思われる。
そう考える根拠は防御のテクニック。
勘ではなくあくまで目で相手のパンチを避ける、あるいはガードするタイプで、
たとえばダッキングの際にも瞬間的に相手を威嚇し、
打たないフェイントを交えていた。
ボディへの効果的なダメージの蓄積は、ひとつには角度・タイミングがあり、
その裏には相手に打ってこないと思いこませるフェイントの布石があった。
ビュテはリーチにはさほど恵まれてはいないが、
それが逆に自身にとっての最適な距離とアングルを構築するための
試合運びを見せるようになった要因でもあるだろう。
攻め込むよりも呼び込む方が自身のボクシングスタイルに資するし、
実際にフィニッシュは呼び込んでの一撃だった。

この勝利でスーパー6のレベルと遜色ないことを見事に証明したと言える。

PS.
今日現在の情報でM・ケスラーが眼の負傷によりスーパー6から撤退決定、
A・グリーンも撤退の憂き目に遭うかもしれないという噂があり、
一挙に残る選手でセミファイナルを開催するのか、
それともこのビュテを口説き落とすのか、
SHOWTIMEの決断が注目される。

考察 ~ミランダ~

一撃必倒のパンチの持ち主も被弾即倒では勝てない。
開始早々から相手の目力(某カリスマホストではなく)に押され、
打とうにも打てず、サークリングに終始するしかなかった。
ハイガードになってみたり、大仰なスリッピングアウェイをしてみたりと
打たせて隙を作るしかなかったが、駆け引きでは遥かに後塵を拝してしまった。
もともと防御にルーズなところもあるが、
攻防のつなぎでダックした状態からアップライトに戻るところを
試合前から見抜かれており、面白いように上下に打ち分けられてしまった。
2ラウンド後半のボディへのカウンター被弾で右を溜めざるを得なくなり、
3ラウンドにはハイガードで潜れずにガードも上半身も弛緩したまま
アップライトになった瞬間にストマックに叩き込まれた。
効いてないぜ!というジェスチャーは効いていることの証明に他ならず、
王者は無論それを見逃さない。
顔面からバタンというあのシーンは私的knockout of the yearになりうる。

ロッキー・フアレスとどちらが先に世界を獲るのか、妙な意味で楽しみになってきた。