ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

東御市民病院が婦人科外来を開設

2008年09月02日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

「上小(じょうしょう)医療圏」(人口:約22万人、分娩件数:約1800件)は、長野県の東部に位置し、上田市、東御(とうみ)市、青木村、 長和町などで構成されています。

同医療圏では、国立病院機構長野病院・産婦人科が地域で唯一の産科二次施設としての役割を担ってきましたが、昨年11月に派遣元の昭和大学より常勤医4人全員を引き揚げる方針が病院側に示され、新規の分娩予約の受け付けを休止しました。来年3月まで常勤医1人の派遣が継続されますが、現在は分娩に対応してません。現在、同医療圏内で分娩に対応している医療機関は、上田市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3つの一次施設のみです。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。分娩経過中に母児が急変したような場合は、救急車でこれらの医療圏外の高次施設に母体搬送されることになり、医療圏内に母体搬送を受け入れる産科二次施設は存在しません。

分娩経過中はいつでも母児の状態が急変する可能性があり、分娩取り扱い施設では、『帝王切開と決定してから児が娩出するまでに30分以内』を常に達成できる態勢が求められています。常勤医が大勢いてもこの条件を常に満たすことは非常に難しく、時間帯によっては帝王切開の決定から児娩出までに30分以上かかる場合もあり得ます。まして常勤医1人の態勢でこの条件を常に満たすのは絶対に無理だと思います。

現代の周産期医療は典型的なチーム医療の世界で、産科医、助産師、新生児科医、麻酔科医などの非常に多くの専門家たちが、勤務交替をしながら一致団結してチームとして診療を実施しています。地域内に周産期医療の大きなチームを結成し、毎年、新人獲得・専門医の育成などのチーム維持の努力を積み重ねて、チームを10年先も20年先も安定的に維持・継続していく必要があります。どの医療圏においてもそのような不断の地道な努力が必要であることを、行政、市民などにも十分理解していただく必要があります。

産科二次施設が休止に追い込まれた医療圏では、産科一次施設での分娩取扱いの継続も今後ますます厳しくなっていくことが予想されます。冷静に考えて、公立の産科一次施設を今作ったとしても、果たしてその施設を何年間維持することが可能なのでしょうか? この問題に対して各自治体の首長がそれぞれ個別に対応していたんでは、いつまでたっても地域の産科医療提供体制立て直しの第1歩を踏み出すことすらできません。

次世代のために、医療圏全体でよく話し合い、長期的構想のもとに一致協力し、国・県・周辺の医療圏・大学などとも十分に歩調を合わせて、地域の産科医療提供体制をゼロから(途中で投げ出すことなく)気長に再構築していく必要があると思われます。

****** 朝日新聞、長野、2008年9月10日

婦人科外来診療始まる 東御市民病院

 東御市民病院は9日、新たに婦人科外来の診療を始めた。来年度に予定する産科の設置に向けた布石となる。非常勤として担当する木村宗昭医師(63)は「助産師主体の自然なお産が出来るようなバースセンターを目指したい」と語った。

 婦人科外来は、毎週火曜日(午前9時~正午、午後2~5時)に開く。

 同病院の産科設置は、4月の市長選で初当選した花岡利夫市長の公約。設置の際、木村医師が常勤医師として同科を担当する予定だ。

 木村医師は、目指す産科について「赤ちゃんを産んだお母さんが『また産みたい』と言ってくれるような、幸せを実感できる施設にしたい」と話した。理想と考えるのは「自然なお産」という。女性の「産む能力を引き出すこと」を軸に助産師、看護師を主体とした「医者付き助産院」のようなバースセンターを構想する。

 「妊婦さんから信頼され、魅力ある施設にするのが私の役割」と産科設置に強い意欲を見せた。【鈴木基顕】

(朝日新聞、長野、2008年9月10日)