ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

子宮がんについて

2008年12月04日 | 婦人科腫瘍

 子宮は骨盤の中央に位置し、その両側には左右の卵巣があります。子宮は、子宮の下部の子宮頸部と、子宮の上部の子宮体部より構成されます。子宮がん(上皮性悪性腫瘍)は、子宮頸部に発生する子宮頸がんと子宮体部に発生する子宮体がんに大別されます。

Cervical_body_ca

Uterine_ca

子宮頚がん

 子宮頸がんは子宮頸部にできるがんで、最近では20~30歳代の若年女性に急増しています。 初期の子宮頸癌ではほとんど自覚症状がありませんが、 がんが進行すると不正性器出血や性交渉時の出血などの症状がみられることもあります。

 子宮頚がんは扁平上皮がんと腺がんの2種類があり、扁平上皮がんは子宮頚がんの約80%で放射線療法がよく効きますが、腺がんは約20%で放射線療法はあまり効果が期待できません。

 子宮頸がんは他のがんと異なり、定期的な検診で前がん病変のうちに発見することが可能です。前がん病変で発見し、治療を行えば、ほぼ100%完治します。また子宮を温存することも可能なため、その後の妊娠・出産も可能です。

 近年、子宮頸がんの原因のほとんどは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスであることが分かってきました。 HPVは性交渉により感染します。このウイルスはとてもありふれた存在で、性交渉の経験のある女性であれば、ほとんどの人が感染したことがあると考えられています。 このウイルスに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されます。しかし、何らかの理由によりウイルスが持続感染した場合、長い年月(ウイルス感染から平均で約10 年以上)をかけ、子宮頸がんへと進行する危険性があります。

 HPVには100以上ものタイプがありますが、全てのタイプが子宮頸がんの原因となるのではありません。子宮頸がんは高リスク型HPVと呼ばれている一部のHPVによって引き起こされます。高リスク型HPVは性交渉により人から人へと感染します。 この高リスク型HPVが持続感染した場合、子宮頸がんへと進行する危険性があります。持続感染する原因はまだ明らかにはなっていませんが、その人の年齢や免疫力などが影響しているのではないかと考えられています。

 HPVに感染した人の中で、およそ10人に1人がウイルスを排除できず持続感染することがあります。その場合、子宮頸部の細胞に異常な変化を起こすことがあります。この細胞の変化を異形成といいます。異形成になってもウイルスが排除されれば、それに伴い異形成も自然に治ります。しかし、ウイルスが持続感染した場合、異形成の程度が進行することがあります。異形成の程度が軽い場合(軽度異形成)は自然に治癒することが多く、程度が重くなった場合(中等度~高度異形成)は自然治癒しづらくなります。

 高度異形成を治療せず長期間放置した場合、病変が進行し子宮頸がんになる恐れがあります。子宮頸がんは早期がんであれば、手術により高い確率で治癒することが可能です。しかし、がんが進行しているほど、手術をしてもがんをとりきれなかったり、他の臓器へ癌が転移している可能性が高くなり、治癒が難しくなります。

 子宮頸がんは定期的に癌検診を受けることで予防することができます。現在、子宮頸がん検診では細胞診での検査が主流です。しかし、細胞診のみでは検診の精度にやや問題があり、細胞診とHPV検査を併用することで、検診の精度がほぼ100%になり、将来の子宮頸がんのリスクも知ることができます。アメリカの婦人科検診のガイドラインでは細胞診、HPV検査の両方が陰性の場合は、その後3年間は検診の必要がないとされています。従って、子宮頸がん検診では、できれば、細胞診とHPV検査を併用することをお勧めします。

 子宮頸がん検診の結果、精密検査の必要性があると判断された場合、コルポスコープ(膣拡大鏡)検査を行います。コルポスコープ検査で異常が疑われる箇所があれば、その部分の組織を一部採取(生検)して病理専門医が診断します。

 異形成の病変は、軽度、中等度、高度と長い時間をかけて進行し、上皮内がんを経て最終的に浸潤子宮頸がんになる恐れがあります。異形成/上皮内がん/浸潤子宮頸がんの治療法は病変の進行状態によって異なります。

 軽度異形成は、ウイルスが免疫力によって排除されると、異形成も自然に治癒する可能性が高いため、通常は治療の対象になりません。異形成がさらに進行した場合には、がんへの進行を防ぐため円錐切除術という治療を行います。高度異形成~上皮内がんまでの段階であれば、円錐切除術で治癒が可能で、子宮を温存できるのでその後の妊娠・出産にもほとんど影響はありません。

 高度異形成~上皮内がんの段階で発見されず浸潤子宮頸がんに進行してしまうと、円錐切除術では病変を取りきれなくない場合が多く、子宮の摘出が必要になります。病巣の大きさ・拡がり具合によっては、子宮だけでなく基靭帯、膣壁、骨盤内リンパ節なども同時に摘出する広汎性子宮全摘術を実施する必要があります。広汎性子宮全摘術では、下肢リンパ浮腫や排尿障害などの後遺症が高頻度に残ります。

 子宮頚がんの中でも扁平上皮がんは放射線に対して感受性が高く、放射線療法の治療成績は手術と同等です。最近は、化学療法(抗がん剤治療)と放射線療法を同時に行う同時併用化学放射線療法により、治療成績が向上しました。しかし、放射線療法はがんだけでなく腸や膀胱等にも放射線があたってしまうため、後遺症が残ることがあります。

 子宮頚がんの原因がウイルスだとわかり、子宮頚がんの予防ワクチンが開発されました。アメリカなどでは臨床試験を終え、医療の現場で使用されるようになってきました。性交渉をもつ前に予防接種をしなければならないので、性交渉を経験する年代に達する前に何度か繰り返し接種することが必要です。日本でも臨床試験が進められていて、間もなく日本でもワクチンの使用が始まります。

子宮体がん(子宮内膜がん)

 子宮体がんは、子宮体部の粘膜(子宮内膜)に発生するがんで、95%以上が腺がんです。以前は日本人には少ないがんと言われていましたが、食生活の欧米化にともなって、近年増加傾向にあり、現在では子宮がん全体の30%を占めるほどになっています。

 子宮体がんは、食生活やその人の体質に深く関係があります。高脂肪・高カロリーの食事を好む人、肥満体質の人や糖尿病、高血圧のある人は注意が必要です。また、出産経験のない人や、若い頃排卵障害、ホルモン異常のあった人も危険性が高いことが知られています。年齢的には、45歳以上から増えはじめ、50歳以上の閉経後に多く発生します。

 子宮体がんの症状としては、閉経後の不正性器出血や月経の異常が重要です。子宮体がんを早期発見するには閉経期前後の子宮内膜の検査が大切です。不正性器出血などの症状が気になる場合は、自己判断せずに産婦人科で子宮内膜の検査をしてもらいましょう。

 子宮体がんのスクリーニング検査としては、子宮内膜細胞診が一般的です。子宮の内部に細い器具を入れ、子宮内膜の細胞をこすりとって調べる検査で、比較的簡単にできます。この検査で異常が発見された場合、今度は子宮内膜の組織を一部採取して病理専門医が顕微鏡で調べます(子宮内膜組織診)。また、経腟超音波検査で、子宮内膜が厚くなっているかどうか?も非常に重要な情報です。通常、閉経後には子宮内膜は委縮して薄くなりますが、子宮体がんの場合は子宮内膜が肥厚しています。

 子宮体がんは病理組織学的には90%以上が腺がんですが、発生のメカニズムの違いから、2つのタイプに大別されます。1つは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの影響を受けて発生する「タイプⅠ」と呼ばれるものです。もう1つは、エストロゲンと関係なく発生し、高齢者に多くみられる「タイプⅡ」と呼ばれるものです。

 「タイプⅠ」は子宮体がん全体の80~90%を占め、「子宮内膜異型増殖症」という前がん病変の時期を経てがんに移行します。「タイプⅠ」は進行が遅く、予後は比較的良好です。「タイプⅠ」の病理組織型は「類内膜腺がん」です。

 それに対して、「タイプⅡ」の場合は委縮した子宮内膜から突然発症し、「タイプⅠ」と比べて進行が速く、遠隔転移の頻度も高く、予後不良です。「タイプⅡ」の病理組織型は「漿液性腺がん」、「明細胞がん」などです。

 子宮体がんはほとんどが腺がんであり、(ほとんどが扁平上皮がんである)子宮頚がんほど放射線療法が有効ではありません。従って、子宮体がんの治療は手術療法が中心となります。

 手術方法としては、子宮全摘出術・両側付属器切除・骨盤~傍大動脈リンパ節郭清術(または生検)などが行なわれる場合が多いですが、癌の進行度、糖尿病や高血圧の有無、年齢や肥満の程度など、患者さんそれぞれに最適な手術方法を正確に見きわめることが重要になります。子宮体がんの進行度を正確に見きわめるために、手術前にCTやMRIなどの検査も行なわれます。

 手術摘出物の病理検査結果(癌の組織型、筋層浸潤の深さ、癌の広がり具合、リンパ節転移の有無など)によっては、術後の追加療法が必要になる場合もあります。子宮体がんの追加療法は、放射線療法や化学療法(抗がん剤療法)がありますが、未だに標準的な方法は確立されていません。これは、欧米では放射線療法が、日本では化学療法が主に使われてきたため、大規模な比較検討が行なわれていないためです。

子宮体部に発生する、子宮体がん以外の悪性腫瘍

 子宮体部には、まれに子宮体がん以外にも(非上皮性の)悪性腫瘍が発生することがあります。「平滑筋肉腫」、「高悪性度子宮内膜間質肉腫」、「低悪性度子宮内膜間質肉腫」、「がん肉腫」、「腺肉腫」、「がん線維腫」などがあります。これらの腫瘍の発生頻度はいずれも非常にまれです。予後不良の場合が多いですが、比較的ゆっくりした経過をたどる症例もあります。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
とても参考になりました。 (ゆな)
2008-12-16 19:56:04
私はスメア3bで、円錐切除をしなければならないのですが、2ヶ月の子どもがいて、母子同室で入院できる病院を探しています。なかなかみつからなくて…。
日帰りで安静にしたほうがいいのかも…と思っています。
返信する
はじめまして。乳がん患者の“りかこ”と申します。 (りかこ)
2012-04-06 22:22:27
ブログ『りかこの乳がん体験記』の4月4日の記事、『情報提供のお願い』について、お答えを頂きたいと思い、コメント入れさせていただきました。

よろしくお願いします。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。