ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医者はどこに消えた? 「医療崩壊」の理由と解決策

2008年12月17日 | 地域周産期医療

日本では、分娩の約半数が産婦人科医1~2人の小規模施設で管理されています。それに対して、アメリカでは、分娩の98%が大規模施設で管理されています。イギリスにおいても分娩の大部分が大規模施設で管理され、小規模施設は少数とされています。スウェーデンでは、分娩の100%が大規模施設で管理され、小規模施設は存在しないと報告されています。

1産婦人科施設あたりの産婦人科医師数は、アメリカが6.7人、イギリスが7.1人なのに対し、日本は1.4人にすぎず、我が国では、きわめて小規模な施設で多くの分娩が行われていることが分かります。

小規模施設での分娩の管理では、どうしても勤務条件が過酷になってしまいますし、安全性にも限界があります。産婦人科医の絶対数は急には増やせませんから、まず当面の緊急避難的対策として、分娩施設を集約化して、施設あたりの産婦人科医師数を欧米並みの7人程度まで増やす必要があると思われます。

さらにその上で、若い医師が産婦人科に入門しやすいように勤務環境を整備し、次世代の産婦人科医をじっくりと育成し、将来的に産婦人科医の絶対数が現在よりも増えていくような流れをつくっていく必要があります。

****** 産経新聞、2008年12月14日

医者はどこに消えた? 「医療崩壊」の理由と解決策

東京でさえも妊婦受け入れ拒否が起きたことに、ただならぬ「医療実態」を感じた人は少なくないだろう。加えて今年は産科や小児科病棟の閉鎖など、各地から医療混乱の報告が相次いだ。医師不足は深刻である。厚生労働省はようやく腰を上げ、医師定数の増員策を考えはじめたが、直ちに状況が好転する見込みはない。なぜ、医療現場から医師の姿が消えたのか。なぜ、ここまで状況は深刻になってしまったのか。これから、どうなっていくのか。

(中略)

どうやって医師を増やすか

 各地からの相次ぐ“医療崩壊”の知らせに、「医師は不足していない」と主張してきた厚労省も方針を見直さざるを得ない事態に追い込まれた。

 「医療崩壊と言われる状態なのだから、従来の医師数抑制政策を見直すことで総理の了解を得た」

 6月17日。舛添厚労相は会見で明確に方針転換を表明した。さらにこうも加え、従来政策からの決別を宣言した。

 「現実を見てやらないと。官僚が霞が関の机の前に座り、紙と鉛筆だけで数字を合わせをしただけで政策とされたのではかなわない」

 では、どうやって医者を増やすのか。

 医師増員策の下地となる政策を描く役割を担ったのは、厚労省などが立ち上げた複数の「専門家会議」である。

 舛添厚労相が自ら会議をリードした「安心と希望の医療確保ビジョン」会議は6月に、医師数増員の方針や、産科医不足を補うため病院内に助産所を整備すること、パートタイム的な労働体系を整備することなどで女性医師の復職を支援することなどをとりまとめた。

 8月末には、確保ビジョンの報告をうけて立ち上げられた「『安心と希望の医療確保ビジョン』具体化に関する検討会」が、将来的に医学部定員を現在の1・5倍に当たる約1万2000人にする必要があるとする報告をまとめた。

 さらに年内には、厚労省と文科省が合同で立ち上げた「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」が、研修制度にメスを入れた提言をまとめる予定だ。

 過去には医師数抑制に理解を示したこともある日本医師会は、国より一歩先に昨年8月の段階で対策を提言している。そこでは、「医学部定員の適正化、医師の再就職支援」といった中期的対策や、「女性医師の就業支援、医学部定員の地域枠設定、医療現場を守る診療報酬引き上げ」といった緊急対策が盛り込まれた。

偏在解消の“強制力”と“就労自由”のジレンマ

 国の医師数政策が「抑制」から「増員」に方針転換されたからといって、それが特効薬になるわけではない。

 増員策を話し合った懇談会や検討会では、百家争鳴の意見が専門家たちから出されている。

 例えば、都会に集中している医師偏在。

 検討会では、名古屋セントラル病院の斉藤英彦病院長がこう提案した。

 「直ちに偏在や不足を是正するには、各地の医大ごとに、地元に就職する人の地域枠を設けるべきだ」

 各地の医大設置の精神から言えばこれは正論だが、阻むのは「就労の自由を奪うことになる」という考え方だ。

 舛添厚労相からは「2年の研修期間を1年に短縮して、医師が現場に出るまでの時間を短縮させる」といった意見も出た。

 これに対し徳島県立中央病院の永井雅巳病院長はこう言って慎重姿勢を見せるのだ。

 「1年にするメリットとデメリットをしっかりと整理しないと、再び同じような議論の混乱を招きかねない」

 検討会の座長である高久史麿・自治医科大学長はこう指摘した。

 「今の医療提供体制を変えずに医師を増やしても、アンバランスが広がるだけ。ただ増やしても問題は解決しない」

 北里大の海野信也教授は「増えてきた医師が働き続けられる現場でないといけない」と新たな制度づくりを提案している。

(以下略)

(産経新聞、2008年12月14日)


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