ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

<産科医全国調査>04年末比で施設4割、医師数2割減少

2006年06月14日 | 地域周産期医療

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日本産科婦人科学会の調査結果で、我が国の産科施設数、産科医数は予想以上のスピードで減少していることが判明した。(特に、石川県の場合には、病院に限っても、産科の常勤医1名の施設が4割にも達しているとのことである!) このまま放置すれば、日本全国各地で、産科空白地域はどんどん拡大してゆく一方であろう。緊急避難的に、医師の集約化などの対策を早急に実行に移してゆく必要がある。

参考:

全国周産期医療データベースに関する実態調査の結果報告(日本産科婦人科学会)

朝日新聞:全国138病院が分娩休止 出産の場急減

****** 毎日新聞、2006年6月14日

<産科医全国調査>04年末比で施設4割、医師数2割減少

 日本産科婦人科学会(日産婦、武谷雄二理事長)は14日、出産を取り扱う全国の施設数、医師数に関する初の全国調査の結果を公表した。昨年12月現在で、出産を取り扱う病院・診療所は3063カ所、出産に携わる常勤医は7985人にとどまった。従来考えられていた数字を大幅に下回る結果で、日産婦は「医師の集約化などの対策を本格的に検討する必要性が浮き彫りになった」と訴えている。
 厚生労働省の調査によると、04年末現在で産科や産婦人科を名乗る施設が計約5600施設、主に産科か産婦人科に従事する医師は計約1万500人いた。その多くが出産に携わっていると見られていたが、今回の調査は施設数で約4割、医師数で約2割も下回った。
 日産婦は、同学会の地方部会を通じ、昨年12月1日時点で出産を取り扱う施設数、妊婦健診を実施する施設数、常勤の医師数などを調べた。東京都の一部を除く全国の地方部会から回答を得た。
 出産を取り扱う施設は病院(20床以上)1280カ所、有床診療所(19床以下)1783カ所だった。妊婦健診のみを実施する施設が1677カ所あった。医師不足などにより、出産を取り扱っていた施設が健診だけを受け付ける傾向が進んでいるためとみられる。
 1施設当たりの医師数は平均2.45人、大学病院を除くと同1.74人だった。大学病院を含めても青森、岐阜など8県は平均で2人以下だった。
 病院に限っても、常勤医が4人以下の施設が約8割を占めた。出産中の妊婦を死亡させたとして産婦人科医が逮捕・起訴された福島県では、2人以下の病院が71%と全国で最も多かった。1人しか医師がいない病院は福島、高知、熊本など5県で3割を超え、石川県では4割に達した。
 調査を担当した吉川裕之・筑波大教授(産婦人科)は「10年前は産婦人科を名乗れば出産を扱うのが当たり前だったが、変わってきた。出産の利便性より、安全性を確保する体制整備をまず進める必要がある」と話している。【永山悦子】

(毎日新聞) - 6月14日20時29分更新


読売新聞: 現実にらみ 産院存続運動

2006年06月14日 | 地域周産期医療

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2次医療圏内に、ハイリスク妊娠・分娩をしっかりと管理できる中核病院産科が存在し、そこには大勢の産科医、新生児科医、麻酔科医が常駐していて、いつでも産科救急を受け入れ可能な体制を整える必要がある。その上で、低リスク妊娠・分娩の管理を中心とした1次産科医療施設が多く存在し、1次施設から中核病院産科への搬送システムをしっかりと整えるという状況が理想の姿だと思う。

今は、1次産科施設も中核病院産科も両方ともが危機的な状況に陥っている地域が増えている。万一、中核病院産科が消滅してしまえば、自動的に1次施設も搬送先がなくなって産科医療を継続できなくなってしまう。従って、中核病院産科は地域の総力を挙げて守り育て、維持してゆく必要がある。

それぞれの地域の実状にあわせて、地域の産科医療体制の存続のために、今は何をなすべきか?を地域内でしっかりと協議し、必要な対策を立案し、それを実行に移してゆく必要がある。

****** 読売新聞、2006年6月14日

どうする?私たちの出産 現実にらみ 産院存続運動

 昨夏、長野県上田市産院に存続の危機が訪れた。常勤医2人のうち1人を交代で派遣していた信州大の医局が、産科医不足を理由に派遣の中止を申し入れたからだ。

 同産院は戦後まもなくできた市営の施設で、1990年代半ばから、母乳育児や医療処置の少ないお産に取り組んでいる。2000年には世界保健機関とユニセフの「ベビーフレンドリーホスピタル(赤ちゃんにやさしい病院)」に認定され、人気は高い。

 驚いた母親らは早速、「『いいお産』を望み上田市産院存続を求める母の会」(桐島真希子代表)を結成。9万人の署名を集めた。しかし、思いがけない“壁”にぶつかった。上田地域は緊急時の搬送先となる総合病院の医療体制が不十分だという理由から、産院の医師を総合病院に移して高度医療を強化すべきだと信州大から言われた。

 これまで地域の病院は大学の医局から派遣された医師で成り立ってきた。しかし、医師が足りない今、全国各地の大学は小規模病院から医師を引き揚げ、中核病院に集約しようとしている。

 その結果、医師に去られる危機にひんした島根県隠岐の島町、三重県尾鷲市、岩手県宮古市などでも住民による産院存続運動が起きている。住民側は身近な産み場所を求めるが、「医師不足である以上、集約化は避けられない」という産科医の主張に、「私たちはわがままなのか」と苦悩する。

 信州大産婦人科の小西郁生教授は「集約化は窮余の策。医師の絶対数が増えない限り、根本的な解決にならない。待遇改善などで産科医を増やす施策が必要」と指摘する。

 上田市の母の会の会員は、問題解決に何ができるか悩み、高度医療が行われている機関を見学。「高度医療の大切さがよく分かった。でもそこで出産した母親たちも、次は産院のような身近な場所で産みたいと言う。何とか両方を守りたい」と、メンバーで産院での出産経験を持つ中沢尚子さん(34)。

 上田市産院は、同大医局内に赴任を希望する医師が現れ、とりあえず存続が可能になった。しかし、母親らは「良かったと思えるお産を次世代につなげる」と、新たな目標を掲げ、動き始めた。医師を集約化した場合にも、医療処置の少ない出産や母乳育児支援など産院の長所を取り入れる方法を考え、行政などに提案していく。県内の母親グループとも連携を図る。

 出産医療ライターの河合蘭さんは「身近な産み場所を求めるのはわがままではないが、ただ存続を要求するだけでは解決にならない。住民も医師不足の現実を知り、どうしたらより安全でいいお産が実現できるかを医師や行政と共に考え、自分たちにもできることを実行に移していく姿勢が必要だ」と話す。

(2006年6月14日  読売新聞)