ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

根拠に基づいた医療(EBM)

2006年01月09日 | 医療全般

今回、試しにブログなるものを立ち上げて、産科医療の分野の諸問題の中で、つれづれ思いつくままに、いくつかの話題を提供してみましたが、日本の産科医療では、施設や担当医によって判断の基準が異なっている場合もけっこうあるし、病院ごとにやっていることがかなり違う場合もあるので、ブログでそのような微妙な話題を提供すること自体で、いろいろな問題が現場に発生しかねないことに気がつきました。

産科という分野では、『自分のお産はこうだった。』とか、『私の友達はこういういいお産でとても満足した。』とか、いろいろな個々の経験に基づく情報が身近にあふれています。しかし、それらの個々の情報は、たまたま偶然その時はそうだったという一つの経験談にしか過ぎません。万人に適合する情報とは限りません。

また、産科の専門家の意見にも似たような傾向があって、『私の二十年来の経験の範囲ではうまくいっていることが多いので、あなたの場合もきっとうまくいくはずですよ。』とか、『私の今までの経験の範囲では一度もそのような異常事態は発生してないので、あなたの場合にもそんなことはきっと起こらないでしょう。』などという、個人的見解に基づいた医療が少なくない気もしています。私自身もそういう旧来の習性からなかなか抜け出せてません。

今後の医療にとって大切なことは、『担当医自身の少ない経験や修得した技術にはこだわらず、根拠(エビデンス)に基づいた最新の医学情報を患者さんに提供し、その患者さんにとって現時点で最適と考えられる医学的な対応を提案し、患者さん自身にご自分で一番納得できる治療法を選択してもらう』という姿勢であると言われてます。すなわち、今後は『根拠に基づいた医療(EBM)』を実践してゆくことが大切と考えられ、産科医療も決して例外ではないと思われます。十分信頼に足る事実(エビデンス)を患者さんにわかりやすく情報提供してゆくことが、今後の良い医師の基本姿勢だと感じています。