ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

乳幼児突然死症候群(SIDS)について

2006年01月08日 | 出産・育児

それまで元気で、ミルクの飲みもよく、すくすく育っていた赤ちゃんが、眠っている間に突然死亡してしまう。これが乳幼児突然死症候群(SIDS)という病気です。事故や窒息死とは違います。

日本では出生した赤ちゃんの約4000人のうち1人がSIDSで亡くなっており、日本の乳幼児の死亡原因の第2位となっています。欧米では乳幼児の死亡原因の第1位です。特にかわいい盛りの4~6ケ月の赤ちゃんがこの病気の最大の犠牲者で、ほとんどが1歳未満の赤ちゃんに起きています。

SIDSの原因はまだ解明されていませんが、私達が赤ちゃんの育児環境に気を付けることによって、SIDSを減らすことが出来るいくつかの因子があることが分かってきました。

多くの国で、うつ伏せ寝を止めること赤ちゃんを暖めすぎないこと母乳にすることお母さんが禁煙することを中心としたキャンペーンが行われ、SIDSの発生率が実際に減少しています。うつ伏せ寝が大幅に減り、仰向け寝が増えたことで、特に問題が起こったことは報告されていません。

日本におけるSIDSについての厚生省研究報告書では、うつ伏せ寝は一般には14%に過ぎなかったのに、SIDSで発見された赤ちゃんの79%がうつ伏せ寝でした。これらのことから日本においても、リスク因子を少なくすることによってSIDSの発生頻度をもっと少なくすることが出来ると考えられます。

 ** SIDSを少なくするための具体的な育児上の注意 **
赤ちゃんを仰向け寝にする。しかし、医師が特別な理由でうつ伏せ寝を勧める場合は医師の指導を正しく守りましょう。
妊娠中および赤ちゃんの周囲では煙草は吸わない。これは母親だけでなく、周りの人にも指導することが大切です。特に、妊娠中の喫煙はSIDSのリスク因子だけでなく、胎児の発育に悪い影響を与えることが知られています。
赤ちゃんを暖めすぎず、厚着をさせたり重い布団を使用しない。室温を調節し、赤ちゃんが自由に動けるような着衣、寝具にすることが大切です。
できるかぎり母乳栄養にする。母乳は栄養面や感染を少なくすることに加え、母と子のつながりを強めるなどの効果が知られています。
赤ちゃんを長い時間ひとりにしない。母親でなくとも誰かが赤ちゃんと一緒にいるように心がけ、寝室も家族と一緒が望ましい。

前回帝王切開時の子宮切開方法とVBACにおける子宮破裂の発生率

2006年01月08日 | 出産・育児

前回帝王切開時の子宮切開方法と、VBAC(帝王切開後の経膣分娩)における子宮破裂の発生率の関係は、以下の通りです(アメリカ産婦人科学会、1999)。

古典的帝王切開(子宮縦切開) 4~9%の子宮破裂
T字切開               4~9%の子宮破裂
子宮下部縦切開            1~7%の子宮破裂
子宮下部横切開            0.2~1.5%の子宮破裂

古典的帝王切開(子宮縦切開)の時代には、『一度帝王切開受けたのなら、ずっと帝王切開(Once a cesarean, always cesarean)』が常識でした。

1980年に米国NIH(国立衛生研究所)はVBACを推進する勧告を発表し、1990年に米国厚生省は2000年までに帝王切開率を15%、VBAC率を35%にする目標を掲げました。これらの国策によって、米国では1990年代の半ばには帝王切開の既往のある妊婦の約6割に試験分娩が行われるまでになりました。

しかし、その後の大規模研究で、選択的帝王切開群に比べ、試験分娩群での子宮破裂の頻度上昇とそれに伴う児の予後の悪化、母体合併症の増加、医療費増大などの報告が相次ぎ、 エビデンスに基づきVBACの安全性をもう一度考え直す機運が高まりました。帝王切開率も1996年を境に上昇に転じ、VBAC率も低下しつつあります。

1999年にアメリカ産婦人科学会はVBACに関するエビデンスに基づいた勧告を発表し、米国においては、現在、従来より慎重な対応が求められるようになり、十分なインフォームドコンセント(説明と同意)が強調される傾向にあります。

我が国においては、帝王切開の既往のある妊婦の分娩方法を決定する際に臨床医が準拠すべきガイドラインがまだ示されてないので、VBACを希望する妊婦に試験分娩を実施するかどうかの判断は各施設の全くの自由裁量に任されています。積極的にVBACを実施している施設もある一方で、帝王切開の既往のある妊婦の全例に選択的帝王切開を実施している施設も多く、施設による方針の差が大きく、VBACの是非に関しては未だに議論が多いのが現状です。