ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

出産育児一時金の支給額増額

2006年01月15日 | 出産・育児

分娩を請け負う施設がこれだけ多様化していて、それぞれの施設で出産に要する料金の設定もピンからキリまで相当な幅があるというのに、この出産費用を一律無料化するという政策は、あまりに現実離れしているので、やはり実現性には乏しいようです。しかし、出産育児一時金の支給額が増額されて35万円になるので、ほとんどの妊婦さんにとって出産費用はタダ同然になると思われます。

それよりももっと重要な少子化対策は、『産科医と新生児科医を現在の絶滅の危機から守り、専門医を新たに養成して、各医療圏に適正に配置する』ことだと思います。産科医と新生児科医がこのまま絶滅してしまえば、女性がいくら赤ちゃんを産みたくなっても、どこにも産むところがなくなってしまいます。そういう時代がどんどん現実化しつつあります。産科医と新生児科医を『絶滅危惧種』に指定して強力に保護・育成するような政策が必要だと思います。

****** 朝日新聞、2006年1月13日

猪口氏、「出産無料化」朝令暮改 混乱招き発言修正

少子化対策の一環として出産費用を国などが全額負担する支援策について、猪口少子化担当相は13日、「広く検討することは視野に入る」と発言し、前向きな姿勢を示した。その後、政府内からは打ち消す発言が相次いだ。出産育児一時金の支給増額を盛った来年度予算案が昨年末に決まった直後の新規施策の検討は難しく、安倍官房長官も会見で「猪口大臣が精力的に全国を回っておられて、その中で要望が強かったということだ」と火消しにやっきだった。

(以下略)

(朝日新聞、2006年1月13日)


性器クラミジア感染症

2006年01月15日 | 健康・病気

性器クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマチスという病原体による性感染症で、世界中で最も多い性感染症と考えられています。わが国でも性感染症の中で一番頻度の高い病原体です。

クラミジア・トラコマチスは、ウィルスよりやや大きい病原体で、ウィルスと同じように細胞内寄生体です。泌尿生殖器、眼、肺などに感染します。わが国の生殖年齢の婦人の子宮頚管からクラミジア・トラコマチスが分離される頻度は5~10%といわれ、血清抗体からみると20%前後の婦人が感染しています。

一般に女性では子宮頚管がクラミジアに感染しても無症状であることが多く、帯下感が唯一の症状で、時に子宮腟部が発赤し易出血性となることもあります。子宮頚管炎のみのときは症状は軽いことが多いのですが、ここよりクラミジアが上行し、卵管炎、骨盤内感染症、さらには肝周囲炎まで発症すると、激しい痛みの原因となります。若い女性で、急激な下腹部痛で救急車で運び込まれる人の中に、このクラミジア感染症の人が少なからずいらっしゃいます。卵管炎の後遺症として、不妊症や子宮外妊娠の原因ともなります。また、妊婦が感染していると、分娩時の産道感染によって児に結膜炎や肺炎を発症しますので、多くの産科施設で妊婦検診時にクラミジア検査を実施しています。

クラミジアの検査にはクラミジアそのものを検出する方法(PCR法など)と、血清抗体を検出する方法とがありますが、前者の方が直接的で診断的意義は高いとされています。

治療はクラミジアに対して感受性のある薬剤を服用します。例えば、尿道炎、子宮頸管炎に対して、成人にはアジスロマイシン(商品名:ジスロマック)として1000mg(力価)を1回経口投与します。腹膜炎などの場合は入院・点滴治療を要する場合もあります。性感染症なのでパートナーと同時に治療することが大切です。