ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

『自然分娩』と『医療で管理された分娩』

2006年01月01日 | 出産・育児

昔は普通だった自宅分娩は、1950年には95%、 1960年でも50%を占めていましたが、その後は減少し、1990年頃には自宅分娩は0.1%程度まで減少し助産所の扱う分娩を併せても1%強に過ぎなくなり、この数字はその後ほとんど変わっていません。

近年、病院・診療所での分娩が全体の99%近くを占めるようになり、分娩は昔とは比較にならないくらいに安全性が高まりましたが、病院の『医療で管理された分娩』に不満や反感を抱く妊産婦さんも決して少なくないことは事実です。

分娩全体の95%までは正常分娩ですから、たとえ分娩場所が病院であっても、妊娠・分娩経過が正常であれば、助産師の介助で『自然分娩』を目指すべきなのは当然です。

問題は正常の分娩経過の途中で異常事態が起こった時で、産科では結果が不良の場合は医事紛争が多発します。残念ながら、医療事故による医事紛争は産科がもっとも多いです。これは『お産はうまくいって当たり前』と一般の人が考えるようになったことも一因だと思われます。

リスクを持たないと考えられる低リスク妊婦であっても、破水後になかなか陣痛が始まらず分娩が遷延したり、微弱陣痛・回旋異常・狭骨盤などのために分娩が停止したり、胎児仮死の症状が現れたり、正常分娩の後に弛緩出血を起こしたりなど、分娩の前後にはさまざまな異常が発生する可能性があり、その発生前の予測は非常に困難です。

従って、分娩の経過が正常であれば、余計な医学的処置は一切ひかえて『自然分娩』を目指すのは当然のこととしても、分娩の途中で医学的処置が必要となった時点において直ちに必要な医学的処置が実施できるような分娩環境が望ましいと思います。

また、分娩を取り扱う医療施設は、『低リスク妊婦の自然分娩』を中心として患者サービスに尽力する一次医療施設(民間の診療所など)と、『ハイリスク妊婦の分娩管理、異常分娩の緊急救命処置』を中心として集中的な治療を行う高次の医療施設(総合周産期センター、地域周産期センターなど)の2群に分化しつつあり、医療施設間の緊密な連携(病診連携、病病連携)が不可欠と考えられます。