ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

帝王切開後の経膣分娩(VBAC)を実施する施設が満たすべき条件

2006年01月06日 | 出産・育児

帝王切開後の経膣分娩(VBAC)で最も警戒しなければならないのは子宮破裂で、胎児が腹腔内に脱出していた場合の児の予後はきわめて厳しく、迅速な開腹術によって児を救命しても生存児に神経学的後遺症を残す危険性が高いです。

また、VBACで発生した子宮破裂により母体死亡にいたるような例では経膣分娩には成功している例も多く、経膣分娩成功後の母体の厳重監視が重要です。

既往の帝王切開における子宮切開方法が通常の子宮下部横切開であっても、試験分娩中に子宮破裂が起こる頻度は0.2~1.5%と報告されています。子宮破裂を起こした場合の母体死亡率は約1%、児死亡率は約6%、胎児仮死率(5分後のアプガールスコア<7点)は39%と報告されています。

また、子宮破裂の兆候である胎児心拍モニタリングでの異常の出現から児娩出までの所要時間が17分以内であれば児の予後は良好との報告があります。

これらのVBACに関する多くのデータは、米国を中心とした人員・設備の十分に完備した施設での成績であることを忘れてはなりません。

米国では、ACOG(アメリカ産婦人科学会)の定めたVBACに関するガイドラインがあり、VBACを受け入れることができるのは人員・設備の十分に完備した施設にかぎられます。しかし、我が国ではガイドラインが定められてないため、病院ごとに独自のVBAC受け入れの適応基準を設定しているだけで、巨大病院から、医師一人の診療所、助産院まで、さまざまな施設でVBACが実施され、規制が全くないのが現状です。

帝王切開の既往のある妊婦の分娩様式を決定する過程でインフォームドコンセント(説明と同意)は非常に重要です。VBACの利点とリスクを妊婦とその家族に十分に説明し、最終的には妊婦自身が分娩様式を決定するのが原則です。その話し合いの過程を文書に残すことが大切で、当科では担当医師が所定の説明用紙を用いて説明し、妊婦およびその家族に署名捺印していただいてます。

子宮破裂の正確な予測ができない現段階では、すべてのVBAC症例で子宮破裂を想定した分娩管理が求められます。すなわち、 VBAC実施施設が満たすべき条件としては、1.胎児心拍の連続モニタリング、2.産科医、新生児科医、麻酔科医が院内に常在していること、3.緊急手術に対する24時間即応体制、4.いつでも大量の輸血ができる院内体制、などが考えられます。

また、子宮破裂の発生後に他施設へ緊急搬送された母児の予後はきわめて厳しいので、妊婦自身がVBACを強く希望しても、自施設で子宮破裂に十分に対応できない場合は、対応可能な医療機関に最初から分娩管理を委ねる必要があります。