ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

会陰切開についてのインフォームドコンセント(説明と同意)

2006年01月23日 | 出産・育児

誰しも自分の身体に傷がつくのは嫌なものです。経膣分娩で、会陰も無傷で、児も元気なのが理想の分娩であることは間違いありません。しかし、結果的にみて、経膣分娩で会陰に裂傷が全く無い例は少なく、微小な裂傷から直腸が裂けてしまう大きな裂傷まで、会陰裂傷は大なり小なりある程度は避けがたいことです。

 会陰裂傷は以下のように分類されます。
第1度会陰裂傷:最も軽度なもので会陰皮膚、膣粘膜のみに限局し、筋層には達しない。
第2度会陰裂傷:会陰の皮膚のみならず、筋層の裂傷を伴うが、肛門括約筋には及ばない。
第3度会陰裂傷:裂傷が深層に及び、肛門括約筋や直腸膣中隔の一部が断裂したもの。
第4度会陰裂傷:裂傷が肛門粘膜ならびに直腸粘膜まで達したもの。

第4度の会陰裂傷となってしまった場合は、会陰、外陰、膣、肛門、直腸などがズタズタに裂けてしまって、裂傷の縫合修復も非常に大変で長時間を要します。創の治癒状態が不良であれば、長期間の絶食も必要となり高カロリー輸液を要する場合もあり、当然、その後に直腸膣瘻などの後遺症が残ってしまう可能性も高いと考えられます。適切な会陰切開によって、大きな会陰裂傷を予防でき、創の治癒状態も良好であることが期待できる場合もあります

また、分娩介助に際して会陰裂傷を回避させることばかりに集中して、会陰の抵抗から胎児を解放しないで排臨・発露状態をむやみに長引かせると、胎児仮死や新生児仮死のリスクが高まります。分娩所要時間を短縮させて、胎児仮死・新生児仮死を予防するのも会陰切開の大切な目的の一つです。

分娩の進行状況により、必要に応じて適切な時期に会陰切開を実施することによって、第3~4度の大きな会陰裂傷や胎児仮死・新生児仮死などを未然に予防することが可能な場合も少なくありません。

個々のケースで会陰切開を実施するかしないか?は、児娩出時の会陰部の進展状況や胎児の状況などから、分娩に立ち会う産科医がその場で総合的に判断して決めています。分娩が始まる前には児娩出時の母児の状況は誰にも予測できませんから、会陰切開を実施するかどうかを事前に相談して決めておくなんてことは不可能だと思います。しかし、児娩出時のせっぱつまった状況では会陰切開の是非を議論しているような時間的余裕はないので、妊婦検診中に会陰切開の意義や適応についてよく説明し、十分に納得していただいておくことが大切で、娩が始まる前に『分娩時の母児の状況により会陰切開の必要があると総合的に判断された場合には、局所麻酔下に会陰切開を実施することがある』旨の承諾書に署名・捺印していただいておく必要があると考えています。