ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

ハイリスク分娩に適切に対応できる病院の体制とは?

2006年01月17日 | 周産期医学

正常分娩はあくまで最終的な結果であり、正常と思われる分娩の経過中でも、母体や胎児にいつ異常が発生するかは全く予測できません。

例えば、正常と思われる分娩の経過中に、突然、何の前触れもなく胎盤が剥がれてしまう緊急事態(常位胎盤早期剥離)が時々発生しますが、胎盤が剥がれたあと直ちに全身麻酔下に緊急帝王切開を実施しないと母児の命を助けることができません。異常が発生してから救急車を呼んで対応可能な病院に母体搬送していたんでは、ほとんどの場合、救急車が病院に到着した頃には子宮内胎児死亡となっていて、母体も非常に危険な状態(産科DIC)になっています。

このように、産科救急の多くは、異常発生から30分以内にほとんど勝負がついてしまいますから、異常が発生してからあわてて母体搬送するというようなシステムでは適切な対応が困難な場合が多いです。また、異常はいつ発生するか全く予測できませんから、いつでも異常分娩に直ちに対応できるように、24時間体制で病院内に産科医、新生児科医、麻酔科医などの専門医が常駐していることが理想です。

しかし、現在、日本全国各地で、この産科医、新生児科医、麻酔科医が不足して大きな社会問題となっている状況にあり、現実には、産科医、新生児科医、麻酔科医の24時間院内常駐の実現はなかなか難しいことだと思います。


胞状奇胎について

2006年01月17日 | 健康・病気

胞状奇胎(ほうじょうきたい)とは、胎盤の構成組織である絨毛(じゅうもう)が異常に増殖したもので、小さな袋状の粒がたくさんできて、ぶどうの房のように見えます。日本や東南アジアの胞状奇胎の発生頻度は欧米の2~4倍と推定され、日本では出生339例に1例の発生率と言われています。

正常の妊娠では、一つの卵子と一つの精子が一緒になって受精が起こりますが、受精時に卵子の核が消失して精子の核だけが卵子の細胞質内で分割していった場合(雄核発生)や、一つの卵子が二つの精子を受精した場合(2精子受精)に、胞状奇胎になります。

妊娠初期には、胞状奇胎と正常の妊娠とを明確に区別できるような特徴的な症状はあまりありませんが、近年の超音波診断法の進歩によって、妊娠の非常に初期の段階で胞状奇胎と診断されることも多くなりました。胞状奇胎では、超音波検査で子宮内に無数の袋状の粒が充満している像が観察され、正常妊娠とは容易に区別できます。

胞状奇胎の治療は、まず子宮内容除去術を行って、子宮内の胞状奇胎の細胞を完全に取り除きます。挙児希望のない40歳以上の患者さんでは子宮を摘出する場合もあります。その後は外来での定期検査が必要です。絨毛は絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンを分泌します。胞状奇胎や絨毛癌が存在すると、hCGが尿中に排泄されるので、hCG値を定期的に測定することで異常の早期の診断が可能となります。胞状奇胎後の定期検査中に、hCG値が順調に低下しなかったり、再上昇するような場合は、胞状奇胎の残存(侵入性胞状奇胎)や癌化(絨毛癌)を疑います。

胞状奇胎後の1~2%に絨毛癌が発生すると言われています。絨毛癌は非常に進行が速く、発生後すぐに肺や脳などに転移して全身に広がってしまいますので、できるだけ早期のうちに抗癌剤の治療を開始する必要があります。絨毛癌は適切に抗癌剤の治療を実施すれば、現在ではほぼ100パーセント完全な治癒が期待できる疾患です。絨毛癌の治癒後の患者さんが無事に妊娠出産した例も少なくありません。

しかし、胞状奇胎後の定期検査中に新たに妊娠してしまうと、hCG値が上昇して尿中に排泄されてしまうので、定期検査が全く無意味となり、絨毛癌の早期発見がきわめて困難となってしまいます。そこで、胞状奇胎後の患者さんには、通常6か月から1年間の避妊指導が行われます。胞状奇胎の細胞が完全に消失したと証明する方法はありませんが、hCG値が十分に低下して、一定の基準を満たせば新たな妊娠が許可されます。

以上述べましたように、胞状奇胎は決してそんなに怖い珍しい病気ではなく、一定期間の治療や定期検査の後には妊娠も必ず可能となるはずです。早期診断と術後の定期検査が非常に大切ですから、主治医の先生ともよく相談し、自己判断で管理の途中に受診をやめることなく、きちんと正しい管理を受けるようにしてください。


子宮体癌(子宮内膜癌)について

2006年01月17日 | 健康・病気

子宮体癌子宮内膜癌)は、子宮体部の内膜にできる癌で、従来は日本人には少ない癌と言われていましたが、食生活の欧米化にともなって、近年増加傾向にあります。子宮体癌は、食生活やその人の体質に深く関係があります。高脂肪・高カロリーの食事を好む人、肥満体質の人や糖尿病、高血圧のある人は注意が必要です。また、出産経験のない人や、若い頃排卵障害、ホルモン異常のあった人も危険性が高いことが知られています。年齢的には、45歳以上から増えはじめ、50歳以上の閉経後に多く発生します。

子宮体癌の症状としては、閉経後の不正性器出血月経の異常が重要です。子宮体癌を早期発見するには閉経期前後の検査が大切です。症状が気になる場合は、自己判断せずに産婦人科でしっかり検査してもらいましょう。

子宮体癌のスクリーニング検査としては、子宮内膜細胞診が一般的です。子宮の内部に細い器具(エンドサイト、エンドサーチetc.)を入れ、子宮内膜の細胞をとって調べる検査で、簡単にでき痛みもほとんどありません。この検査で異常が発見された場合、今度は子宮内膜の組織を一部とって調べます(子宮内膜生検)。経膣超音波検査で、子宮内膜が厚くなっているかどうか?も非常に重要な情報です。

子宮体癌の治療法は手術療法が中心です。手術方法としては、腹式子宮全摘・両側付属器切除(場合により,骨盤~傍大動脈リンパ節郭清術など)が行なわれる場合が多いですが、癌の進行度、糖尿病や高血圧の有無、年齢や肥満の程度など、患者さんそれぞれに最適な手術方法を正確に見きわめることが重要になります。子宮体癌の進行度を正確に見きわめるために、手術前にCTやMRIなどの検査も行なわれます。

手術摘出物の病理検査結果(癌の組織型、筋層浸潤の深さ、癌の広がり具合、リンパ節転移の有無など)によっては、術後の追加治療(化学療法、ホルモン療法、放射線治療など)が必要になる場合もあります。