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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ミシェル・ベロフのドビュッシー:ピアノ名曲集

2011-01-27 14:13:04 | 器楽曲(ピアノ)

ドビュッシー:ベルガマスク組曲(第1曲~第4曲)
         2つのアラベスク(第1番~第2番)
         子供の領分(第1曲~第6曲)
         レントより遅く
         小さな黒人

ピアノ:ミシェル・ベロフ

CD:EMI Music Japan Inc. TOCE-91051

 日本人がドイツ音楽に対して抱く感情は、大体皆似たようなところに落ち着くであろうが、ことフランス音楽に関しては、随分と違ってくるのではないかと推測している。その繊細で優美な音楽をそのまま素直に受け入れる人と、ドイツ音楽との違いに面食らう人など、さまざまな感情が交差しそうだ。特に違うのは声楽曲ではなかろうか。ドイツリートの愛好者が皆フランスの声楽曲の愛好者になるかというと、なかなかそうにはいかない。そんなフランス音楽の中でも、ドビュッシーだけは例外的存在ではなかろうか。勿論ドイツ音楽とは大分雰囲気は違うのであるが、今回のCDに収められたドビュッシーのピアノ曲は日本人の感性もぴたりと合うし、特にベルガマスク組曲の「月の光」、2つのアラベスクの第1番、「レントより遅く」などの名曲を聴くと自然に口ずさみたくなるほどだ。これらの曲に肌が合わない日本人はそう多くないはずだ。

 クロード・ドビュッシー(1862年―1918年)の曲は、よく印象主義音楽といわれることが多い。絵画の印象派との関連はどうなのかは私には分らないが、「牧神の午後への前奏曲」や「海」などの管弦楽曲を聴いていると、どうしても絵画、それもマネとかモネの印象派の絵画を連想してしまう。輪郭が曖昧で、全体に靄のかかったような絵を、ドビュッシーの音楽にダブらせて聴くことが私は多い。それとドビュッシーの音楽というと、必ずラヴェルの音楽に対比してどうのこうのと言われることが多い。ラヴェルはジャズの要素も積極的に取り入れるなどかなり革新的な作曲家であった。ドビュッシーもジャワのガメラン音楽に興味を持つなど、既成のクラシック音楽の枠に捉われない進歩的な作曲家ではあったが、曲から受ける印象は意外に古風なところがある。このことが、逆にドビュッシーの愛好者が幅広く存在することに繋がっているのであろう。でもやはり、ドビュッシーやラヴェルがその後の現代音楽へと続く道を最初につけたことも確かであろう。

 このCDで演奏しているミッシェル・ベロフは、1950年にフランスのエピナルに生まれている。1966年にパリ音楽院を首席で卒業。1967年には「オリビエ・メシアン国際コンクール」で優勝し、脚光を浴びる。現在までミッシェル・ベロフというとすぐオリビエ・メシアンの名が思い浮かぶほどその印象が強い。1980年代半ばに右手首を痛め、一時演奏活動を中止していたが、1990年代に入って回復し、現在ではパリ音楽院で教鞭もとっているという。しばしば来日しているので日本での知名度は高い。得意なのは、ドビュッシーやラヴェルそれにメシアンなどのフランスの作曲者やバルトークなどもよく弾く。一方では、リストとかプロコフィエフなどの技巧的な曲もしばしば取り上げている。

 今回のCDでは、ドビュッシーのピアノ独奏曲のみを集めたものをベロフが弾いている。聴く前は、きっとベロフは幻想的な雰囲気の弾き方をするのであろうと予測していたが、聴いてみると意外にもきりっと引き締まったドビュッシーとなっていた。正直な話、少々意表をつかれたようで、面食らった。しかし、よく聴くとはっきりと1音1音が聴き取れるドビュッシーもありか、という印象に落ち着いた。ライナーノートで松沢 憲氏はベロフの演奏について「ベロフのピアノは大変堅実だ。・・・聴き手によってはもしかしたら無骨な印象を持たれる方もあるかもしれないし、ベロフの演奏には確かにそういう側面もある。・・・音楽に対する堅実なアプローチ、つまり堅実に譜読みし、音楽を堅実に感じている。まさしく音楽家の鑑というべきである」と書いている。つまり、ベロフのピアノ演奏は、真正面からドビュッシーに取り組み、曖昧な表現を極力排除しているのだ。やはり最後は、こんなドビュッシーもありか、という結論にたどり着いてしまった。(蔵 志津久)


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