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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇リヒテルのシューマン:幻想曲/蝶々/ピアノソナタ第2番

2010-07-01 10:49:05 | 器楽曲(ピアノ)

シューマン:幻想曲/蝶々/ピアノソナタ第2番

ピアノ:スヴァトスラフ・リヒテル

CD:東芝EMI TOCE6636

 シューマンの幻想曲は、ベートーヴェン死後10年で記念像の話が持ち上がり、シューマンが資金調達の目的で書かれたと言われている。最初はピアノソナタとして構想されたが、最終的には幻想曲という名前に落ち着いた。このようにベートーヴェンの存在を強く意識して書かれた曲のためか、3楽章(最初は3つの楽章に「廃墟」「トロフェン」「棕櫚(シュロ)」という不思議なタイトルが付けられていたという)からなる、大変大きな構成の曲であり、シューマンの初期のピアノ曲の傑作といえる。シューマンは、このときクララとの結婚を彼女の父親から反対を受けており、その不安定な心境がこの曲に顔を覗かせる。これがベートーヴェン的な曲想とうまく溶け合い、傑作が生まれたということもできよう。第1楽章は、途中何回も出てくる夢見るようなメロディーに心が引かれるが、そのメロディーをベートヴェン的な曲想が覆い尽くしてしまう。第2楽章は、元気はつらつの行進曲で若きシューマンそのものなのであろう。第3楽章は、如何にもシューマンらしい夢想的な美しい曲想で溢れかえる。シューマンの世界を存分に満喫できる楽章だ。

 蝶々(パピヨン)Op.2は、全部で12の小品からなる初期の魅力に富んだピアノ独奏曲だ。曲名が示すように、さなぎから生まれる蝶々の変態、さらにはその美しい羽を使って舞う姿を、ピアノで表現したと考えるのが自然だろう。ただ、シューマンは最初12曲すべてに「仮面舞踏会」「ヴァルト」・・・などのタイトルを付けようとしたようで、必ずしも蝶々に拘って聴く必要もないようにも思われる。この曲は、テレーゼ、ロザーリエ、エミーリエという3人の女性に献呈されただけに、如何にも若い女性が喜びそうな、可愛らしさに溢れたピアノ小品集である。ただ、1曲、1曲を丁寧に聴くと、泉から自然に水が湧き出す如く、音楽が湧き出す様は、やはりシューマンの天性がそうさせるのだと感じざるを得ないのだ。その意味で、誠に愛らしいピアノ小品集ではあるが、同時に後年のシューマンの活躍を予言した曲とも取れる。

 ピアノソナタ第2番は、第1楽章の出だしから、異常な緊張感で始まるシューマンの隠れた(?)名曲だ。シューマンは全部で3曲のピアノソナタを残している。この第2番は、シューマンの得意としたロマン的感覚ばかりでなく、古典的で正統的な構成美を持ったピアノソナタといえる。第1楽章は、ベートーヴェンのピアノソナタを思い起こさせるような、壮大な曲の構成を持っており、聴き応えは充分すぎるほどにある。ピアノを本当に堪能できる!第2楽章は、シューマンのロマンティックな面がぎゅっと詰まっているようで、第1楽章とは違った満足感を得られる。第3楽章は、スケルツォの楽章。そして、第4楽章は、激しさと安らぎが交差するピアノの音の洪水が、聴いていてなんとも心地良い。もし、まだこのシューマンのピアノソナタ第2番を聴いておられない人がおれば、是非とも聴いてほしい。きっと大好きな曲になりますから。

 ところでこのシューマンの3つのピアノの名曲を弾いているのが、ロシアが生んだ偉大なるピアニストのスヴァトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)である。このCDは「シューマン・ピアノ曲集1」となっているおり、シリーズものの1枚である。このためかどうだか分らないが、ライブ録音であるのに(最後に拍手が収録されている)、録音日時と場所が記載されていないのは残念。とにかく、その演奏の質の高さは最高で、これ以上のシューマン演奏は望めないほど。演奏技術が完璧な上に、シューマンらしいロマンの香りも漂ってくる。しかも、強烈に強い鋼みたいな精神性も感じられる。要するに単なるロマンティックなシューマンでなく、シューマンの音楽が持っている多様性をものの見事に引き出している。今はもう廃盤になっているかもしれないが、こんな録音は永久保存版にしてほしいものだ(念のためアマゾンで調べてみましたら幻想曲を除き新品であるようです。ここでの3人のレビューが面白い)。(蔵 志津久)


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