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◇クラシック音楽◇NHK‐FM 「ベストオブクラシック」 レビュー

2013-11-26 11:00:21 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー>

 

~期待の指揮者ダニエレ・ガッティ&フランス国立管弦楽団のベートーヴェン:交響曲第1番/第7番他~

ベートーヴェン:交響曲第1番 
ワクスマン:プロトニック・ゲームズ
ベートーヴェン:交響曲第7番

指揮:ダニエレ・ガッティ

管弦楽:フランス国立管弦楽団 

収録:2012年11月1日、フランス・パリ シャンゼリゼ劇場      
                  
提供:ラジオ・フランス

放送:2013年10月23日(水) 午後7時20分~8時10分

 指揮のダニエレ・ガッティ(1961年生まれ)は、イタリア・ミラノ出身。ミラノ音楽院で学び、27歳でミラノスカラ座にデビュー、その活躍の場を海外へと拡げる。1992年~1997年ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団音楽監督、1997年~2007年ボローニャ市立劇場の音楽監督、1994年~1997年コヴェント・ガーデン王立歌劇場首席客演指揮者をそれぞれ歴任。さらに1996年~2009年ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督(現在は桂冠指揮者)、2009~2012年チューリッヒ歌劇場首席指揮者を経て、2008年からはフランス国立管弦楽団の音楽監督を務めている。これらの経歴を見ると、ガッティのヨーロッパでの評価は、かなり高いことが読み取れる。スカラ座の音楽監督の就任も噂され、今後、ガッティの評価は、さらに高まることが予想される。正に現代を代表する指揮者の一人に数えられよう。

  フランス国立管弦楽団は、フランスの代表的なオーケストラで、定期演奏会はパリのシャンゼリゼ劇場で行われている。1934年、フランスラジオ放送(RDF)専属のオーケストラとして創立された。1975年、フランス放送協会(ORTF)の組織が7つに分割され、これに伴い「フランス国立管弦楽団」と改称され、現在に至っている。初代音楽監督は、アンゲルブレシュトで、以後、ロザンタール、マルティノン、チェリビダッケ、マゼール、デュトワ、マズアなど世界的大指揮者が代々務めてきた。そして、2008年からは、2016年までの契約でダニエレ・ガッティが音楽監督を務めている。 パーヴォ・ヤルヴィが音楽監督を務めるパリ管弦楽団、チョン・ミョンフン(2015年からはミッコ・フランク)が音楽監督を務めるフランス放送フィルハーモニー管弦楽団とともに、パリを代表する3大オーケストラとされている。

 今夜のダニエレ・ガッティとフランス国立管弦楽団によるベートーヴェンの交響曲第1番と交響曲第7番のコンサートは、ベートーヴェン交響曲連続演奏会(5回)の中の一つの演奏会として収録されたもの。このベートーヴェン交響曲連続演奏会では、ベートーヴェンの交響曲とは別に、ラジオ・フランスから委嘱を受けた現代の作曲家による作品が1曲演奏されるという、現代を意識した野心的試みがなされた。ワクスマン作曲の「プロトニック・ゲームズ」は、今回のベートーヴェン交響曲連続演奏会を意識して書き下ろされた作品。「プロトニック・ゲームズ」とは、ヒッグス粒子の発見で一躍その名が知られるようになった欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器による陽子(プロトン)同士の衝突実験をイメージした曲である。プロトンの衝突の様が描写的に巧みに表現され、現代に息づくクラシック音楽作品として、聴き応えのある曲にまとまっていた。現代のクラシック音楽というと、直ぐに“奇妙な”現代音楽を連想してしまうが、ワクスマン作曲のこの「プロトニック・ゲームズ」は、現代を素直に表現した優れた作品であると私は思う。機会があったら一度聴くことをお勧めする。

 さて、本題のダニエレ・ガッティ指揮フランス国立管弦楽団によるベートーヴェンの交響曲第1番と第7番の演奏である。このコンビによる第1番の演奏は、実に牧歌的で優雅さに溢れた演奏の展開となった。通常、第1番の演奏は、晩年のベートーヴェンを意識してか、極端に劇的な表現をする指揮者がほとんどだ。ところがガッティはあたかも「それは違うよ」とでも言うように、伸び伸びとオーケストラに自主的に演奏させているような、若さが溢れたベートーヴェン像をくっきりと表現する。第1番の演奏は、曲にあまり手を入れない方が返って真の姿が現れる。それに、ガッティのテンポの取り方も、現代の我々が聴いて十分に納得できるものである。イタリアオペラで鍛えたガッティの棒は、歌ごころに満ち満ちていた。こんな素直な第1番の演奏は私は初めて聴いた。続く、第7番の演奏は、第1番とはがらりと変わり、ガッティの力強いリーダーシップが前面に出て聴いていて心地良く聴けた。ガッティの指揮は、抽象的な表現に依存しない。響きそのもので勝負する。フランス国立管弦楽団は、厚みのある音色でこれに応える。これこそが現代に生きるベートーヴェン演奏なのではないか。今、パーヴォ・ヤルヴィに世界の注目が集まっているいるが、今夜の演奏を聴いて、パーヴォ・ヤルヴィと同様にガッティの今後の活動にも目(耳)が離せない思った。ガッティは、現代に通用するベートーヴェンを演奏できる数少ない指揮者の一人のだから。(蔵 志津久)                                         


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