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★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇モーツァルト:セレナード 第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク(小夜曲)」他

2012-03-27 10:30:44 | 管弦楽曲

モーツァルト:セレナード 第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク(小夜曲)」  
        :ディヴェルティメント第1番
        :ノットルノ
        :ディヴェルティメント第3番

指揮:ウィリー・ボスコフスキー

管弦楽:ウィーン・モーツァルト合奏団

CD:DECA 425 745‐2

 このCDは、ウィリー・ボスコフスキー(1909年―1991年)とウィーン・モーツァルト合奏団とがモーツァルトのセレナードとディヴェルティメントの作品を録音した中の1枚だ。実に暖かみのある演奏であり、その音色は羽根毛を想わせるように優雅であり、かつ典雅な趣が滲み出ている。何かこのような演奏を聴くと一瞬ホッとした感覚に身を委ねてしまい、下手な理屈はもうどうでもいい、といった気分になってしまう。科学技術が進み、生活のテンポも早くなった現代社会では、通常の生活においては、こんな感覚はまあ滅多に味わうことはない。それだけにウィリー・ボスコフスキー&ウィーン・モーツァルト合奏団が残してくれたこの一連の録音(1970年代)は、現在でもその輝きが少しも失せることなく、逆にその存在感はますます大きいものになっているようにも感じられるのである。最近、古楽器を使った演奏がちょっとしたブームとなっているが、ウィリー・ボスコフスキー&ウィーン・モーツァルト合奏団の演奏は、現代楽器によるものでもあるにもかかわらず、何か、いにしえの雅さが溢れている。逆に古楽器を使った演奏でも、現代的な演奏によってがっかりさせられることも少なくない。私などは、この意味からもこの録音は、永久保存盤であってほしいとすら感じている。

 ウィリー・ボスコフスキーは、オーストリア生まれのヴァイオリニスト兼指揮者。1949年から1970年まで、ウィーンフィルの第1コンサートマスターを務めた。しばしば来日し、NHK交響楽団などを指揮している。1961年には腕の故障で退団を余儀なくされたワルター・バリリに代わってバリリ弦楽四重奏団を引継ぐなど、室内楽でも活躍。ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団の首席指揮者も務め、ヴァイオリンを弾きながら、時折弓を振りつつ指揮するやり方で、シュトラウス一家のワルツやポルカなどを演奏した。要するに根っからのウィーン流の演奏をする大家であり、我々がイメージするウィーンの音楽家の典型のような演奏家であった。現在でもウィーン流の演奏をする演奏家は多いが、何かショウ的なつくられた演奏といった感じがしないでもない。これに対し、ウィリー・ボスコフスキーの演奏は、根っからウィーン風が息づいており、少しの不自然さも感じさせないところが大きく違うのだ。ある意味では、現在ではウィリー・ボスコフスキーのような、“正調ウィーン節”を聴かせてくれる演奏家は、既に絶滅してしまったのかもしれない。

 アイネ・クライネ・ナハトムジークは、モーツァルトが書いたセレナードの13番目に当る曲で、「小さな夜の曲」という意味であり、日本ではしばしば「小夜曲」と表示される。歌劇「ドン・ジョバンニ」を書いていた最中の1787年8月に作曲された。全部で4つの楽章からなっており、通常、弦楽合奏、弦楽四重奏あるいは弦楽五重奏によって演奏される。何とも軽快なメロディーに溢れており、誰からにも親しまれるところから、モーツァルトの作品の中でも最も人気のある作品の一つである。第1楽章は、誰もが口ずさみたくなるような軽快なアレグロである。第2楽章は、ゆったりとしたテンポで進むロマンツェで、第1楽章を受けたように爽やかな印象が強く残る。第3楽章は、メヌエットとアレグレットで、舞曲風の雰囲気がリスナーすべての心を和ましてくれる。第4楽章は、ロンドの終楽章で、格調高く、凛々しく曲が進行し、如何にもモーツァルトらしい一点の曖昧さもない、歯切れの良さが曲全体を盛り上げる。ウィリー・ボスコフスキー&ウィーン・モーツァルト合奏団は、小股の切れ上がったような演奏とでもいうのが相応しいような、颯爽とした演奏を聴かせてくれる。「この演奏を聴かずして“ウィーン風などと言ってほしくない」という感じにも捉われてしまうほどの演奏ではある。

 ディヴェルティメント第1番は、1769年から1771年にかけて父レオポルトと共にイタリアへ旅行した際に作曲されたとされている。セレナードは、貴族の屋外パーティーなどで演奏される曲であるのに対し、ディヴェルティメント(喜遊曲)は、貴族の家において室内での食事の際に演奏されたとされる室内楽という。現在の我々が聴いてみると、セレナードとディヴェルティメントの違いが明確に聴き分けられるようにも思えないし、あまりその違いを意識して聴く必要性もないと思う。このディヴェルティメント第1番は、とにかく軽快で聴いているだけで楽しくなる曲だ。如何にもモーツァルトらしい軽快なメロディーが次から次に現れ、あっという間に曲が終わる感じだ。ウィリー・ボスコフスキー&ウィーン・モーツァルト合奏団は、軽々しく、同時にウィーン風の優雅さは損ねないで演奏するので、リスナーは暫し日常の喧騒から離れた夢の世界に佇むことができる。ディヴェルティメント第3番は、曲想は第1番と大きな違いはないが、より優雅さと力強さが広がりを見せ、奥行きがある曲といった感じがする。そんな微妙な違いをウィリー・ボスコフスキー&ウィーン・モーツァルト合奏団は、巧みに演じている。第3楽章めの弦楽器のピチカートなどは、このコンビの味わいがよく出ている。(蔵 志津久)


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