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どうする「未病」:脳の記憶プロセスに関するメカニズムの一部が続々と解明(毎日新聞コラム)

2008年11月10日 | 食品・栄養
 高齢化社会を迎え、物忘れに始まる認知障害への問題が深刻化されていますが、10月末よりせきを切ったように、理化学研究所の各グループから脳の記憶プロセスに関するメカニズムの一部が解明される発表が続々と行われています。

 10月20日の「アルツハイマー病の原因となるアミロイドベータの産生調節機構を解明」(本トピックス欄10月24日号で紹介)を皮切りに、「脳内のグリア細胞が分泌するS100Bタンパク質が神経活動を調節」(10月22日)、「記憶の再固定化のプロセスが加齢に伴う記憶障害に関与」(10月28日)、「ヒトES細胞から層構造を持った大脳皮質組織の産生に成功」(11月6日)と、ここ2週間の間だけでも、脳に関する研究発表が実に4回も行われているのです。

 これまで「脳の中のことはなかなかわからない」と言われ、研究が追い付いていないのが現状でしたが、これらの研究発表により、記憶障害を改善する新たな治療戦略に明るい光が見えてきたのは喜ばしい限りです。

 折しも、11月3日に放送されたテレビ朝日の「報道発ドキュメンタリ宣言」は、記憶障害に苦しむ元女優の南田洋子さんを夫である長門裕之さんが介護する“老々介護”の日々が放送され、22.9%という高視聴率を獲得しました。もちろん、高視聴率の原因は有名夫妻の現実が映し出されたことによるものですが、実際に家族の間での記憶障害の問題が、もはや身近なものであることの証であるともいえるでしょう。

 家族にも気がつかないうちに進行するアルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が死滅し、全体が委縮。特に記憶部分をつかさどる「海馬(かいば)」の委縮が症状に大きく影響しているといわれています。厚生労働省の予測によると、今後認知症の患者は増え続け、2002年には149万人だった患者が、2015年には250万人を突破、ピークを迎える2040年には385万人にも達するという報告までなされています。

 脳内メカニズムに関する研究が進む一方、アメリカ国立衛生研究所では「うつ病の罹患率と魚の摂取量は負に相関する(魚の脂肪酸であるDHAを多く取っているとうつ病にかかりにくい)」という論文を発表。同時にこの中で、DHAには記憶・認知能力の改善効果があることにも触れ、専門家から注目を集めています。

 それによると、DHAのほかにも、記憶・認知能力の改善効果にいい食品成分として、クルクミン(ウコンのスパイス成分)、フラボノイド(ココア、緑茶、柑橘類、ワインに含まれる)、飽和脂肪(バター、ラード、ヤシ油、チーズなどに多い)、ビタミンD(魚の肝、キノコ類、豆乳などに多い)、コリン(卵黄、大豆、牛肉、鶏肉、レタスなどに多い)などが挙げられています。

 認知障害の解明はまだまだ始まったばかりですが、私たちが今からできることとして、食事の面でもこれからは「脳に効く食べ物」に心がけ、予防・対策に努めたいものです。(倭村英敏/ライター・オフィスクリオ所属)

[毎日新聞 2008年11月10日]
http://mainichi.jp/life/health/news/20081107org00m100009000c.html