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小さな恋のうた(2019年、日本映画)

2019年06月19日 | 映画の感想・批評
楽曲にインスパイアされた作品が近年多くみられる。20年ほど前の「涙そうそう」は観たものの、最近の作品はことごとくパスしてきた。
沖縄を拠点に活動してきた「MONGOL800」通称モンパチの存在すら十分には知らない私。10年ほど前のPTAコーラスで「あなたに」を知り、モンパチと呼ばれるバンドという事もうっすら聞いただけ。たくさんの楽曲のなかでも「小さな恋のうた」は特に人気が高いらしい。
でもねえ、高校生のバンド物だし・・・・・という心の声と葛藤しながら、「羊と鋼の森」の無言の演技で魅せた森永悠希に興味がわいて見ることにした。

思わぬ拾い物!


沖縄に住む4人の高校生バンド、東京のディレクターに見いだされて喜びにあふれていた日、メンバーのうち二人がひきにげ事故に遭い、ギター担当の少年が亡くなる。あれ、どっちの少年が?
と、しばらく混乱する場面も。
米軍兵によるひき逃げなのか、犯人はなかなか捕まらない。
少年慎司の父親は米軍基地で働くだけに、怒りの矛先をどこに向けるべきなのか、仕事も手につかない。慎司の妹・舞が兄の部屋に残された新曲のデモ音源を見つける。それは亡き兄が自宅の目の前の米軍基地に住む少女リサとフェンス越しに一つのイヤホンで曲を聞きながら、国境を越えた小さな恋を育んで、作った楽曲だった。
「この曲をバンドで演奏して欲しい!」
ベース担当は他のバンドに引き抜かれ、一緒に事故に遭った亮太は「自分がハッピーでない状態で人を幸せにする歌なんか歌えない、音楽に嘘をつきたくない」とバンドに戻ろうとしない。ドラムの航太郎の説得にも応じない。
米軍基地反対の住民運動がはげしくなる中、基地の中の米兵家族の悩みも重く、リサの帰国が迫る。リサが慎二のライブを見に行く約束をしていたことを知った亮太が、「亡き親友の願いをかなえるには自分が歌うしかない!」ようやくバンドに復帰し、そこへ舞も兄のギターを抱えてバンドに参加し、新たに3人で学園祭を目指して練習を始める。
学園祭当日、学校の出演許可を得られなかったが、元メンバーの大輝が屋上に用意してくれた特設ステージに立って、校内に彼らの歌を響き渡らせることが出来た。しかし、学園祭のライブを見に行くと約束していたリサは基地の厳しい監視をくぐりぬけようとするが、基地反対派住民の抗議デモを前に、外出はかなわず、彼らの演奏を聴くことはできなかった。
いよいよリサの帰国が迫る中、3人はフェンス越しにリサのためだけにライブをする。その歌が「SAYONARA DOLL」
国境を越えた若者たちの愛の詩には静かに涙がこぼれた。

本土にいる人間にとって、沖縄の問題は遠い他人事で済ませてはいけない。
沖縄に暮らす人にとって、米軍基地は仕事の場であり、お金をもたらすものであったりと、個々の生活にとっては一面的には語れないが、やり場のない怒りが渦巻いている。
基地の中にも、家族があり、抗議活動を前に、それぞれの思いが交錯する。
息子を殺した犯人もわからず苛立つ父は、息子が愛用したギターを思わず投げつけてしまう。子を奪われた親の気持ちも痛々しいが、憎しみだけでは何も生まれないことを感じた若者たちの前に向けて動き出す力に、やがて大人たちも励まされる。音楽の持つ力の素晴らしさも感じる。バンドが上手いか下手か、よくわからないなりに、若者たちの熱唱には胸が熱くなる。

単なる青春物に終わらない、音楽の持つ力と沖縄の現状を多面的に考えさせてくれる作品だった。こういう作品がどうして上映館が少ないのだか、残念だわ。

(アロママ)

監督:橋本光二郎
脚本:平田研也
撮影:高木風太
出演:佐野勇斗、森永悠希、山田杏奈、眞栄田郷敦、鈴木仁、世良公則ほか


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