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「ヴィレッジ」(2023年 日本映画)

2023年05月10日 | 映画の感想・批評
 霞門村(かもんむら)という小さな架空の村(ヴィレッジ)が舞台の現代劇。ギャンブルが止められない同居している母親(西田尚美)の借金を返済しながら、ゴミ処理施設で日中も夜中も働いている片山優(横浜流星)を中心に物語が展開する。
 日本の原風景のような村に、そびえ建つその施設は異質そのもの。「村の発展の為」に、村長(古田新太)が強引に誘致した経緯があり、村を二分する意見の対立で、事件まで起こった。その事件は、片山優の父親が起こしたことから、村中の人達から見下され、冷たい目で見られ、職場でも虐められ、かといって、村から出ることも出来ず、絶望感しかない日々を送っている。更に、その施設は、汚染廃棄物の不法投棄を黙認している。地元のヤクザ(杉本哲太)が絡んでおり、すべて村長も周知の事実である。その作業にも片山優は担ぎ出されている。駄目だと分かっていても断ることは出来ない。自分はどうすれば良いのか。
 そんなある日、幼馴染の美咲(黒木華)が、東京の仕事を辞め、地元に戻ってきて、その施設の広報担当として働くことになった。そして、過去に縛られずに働いてほしいという美咲の推薦で、片山優が子供達の施設ガイド役を担当することになったことから、うまく動き出したかのように見えたのだが・・・。
 とても衝撃的で重い映画だった。小さな「村」社会で生きていく術は何なのか。村八分にならないように生きるには、波風立てずに過ごせば良いのか。顔では笑っていても、心はその反対のことを想う。強いものに巻かれるしかない状況。閉塞感が観るものまで伝わってくる。鑑賞中も、とても息苦しさを感じた。
 また、「能」を絡めた演出が、不気味さも増していたと思う。夜祭りで能面を付けた多くの人が、各々たいまつを持って、列を成して同方向に歩くシーンは、圧巻だった。何の疑いもなく、多くの人が同じことを行う。一方、その列から外れた人は二度とそのレールには戻れないだろう。レール外は真っ暗で何も見えない。落ちると真っ逆さま。その緊張感は強く感じた。現在社会の問題と通じる。反論すると皆から糾弾される、敗者復活はない、よく考えられた撮影方法だと思う。俯瞰した視点での映像が特に素晴らしい。それだけでも一見の価値はあるかも。
 本作品は、エンドロール後も続きのシーンがある。最後まで席を立たないようにしてください。そのシーンは、今後への期待を込めて撮られた筈。でも、結果的には、その方法しかないだろうなと思う自分がいた。
最後に、映像と演技に触れておきたい。まずは、改めての映像。前述の祭りシーンのカメラワークも良かったが、オープニングのタイトルバックも良かった。撮影監督は、MVや広告も手掛ける方のようだ。音楽もピッタリ当てはまっていたのも計算されていたのかも。また、俳優陣も全員良かった。特に、絶望感を目や背中で表現した横浜流星、恫喝シーンはドキュメンタリーのようだった一ノ瀬ワタル、見た目チャラいけど中身は大人の作間龍斗、動くことなく目で人の心を突く木野花が良かった。
(kenya)

監督・脚本:藤井道人
撮影:川上智之
出演:横浜流星、黒木華、古田新太、中村獅童、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、杉本哲太、西田尚美、木野花