シネマ見どころ

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「雑魚どもよ、大志を抱け!」(2022年 日本映画 )

2023年05月03日 | 映画の感想・批評
 小学校5、6年生 というのは特別な年齢だ。特に男の子にとっては思春期の入口で、そこはかとなく生命の輝きに満ちている。そんな男の子達がスクリーンの中で悩み考え、自分と向きあう青春映画である。
 舞台は1980年代のある地方都市。冒頭タイトルクレジットが出るまでの間、自転車で各々の家に寄り誘いあって町中をかけぬけていくところがいい。少しどんよりとした空の下を連なった自転車が疾走する場面には、心をワクワクさせるものがある。
 主要な登場人物は7人の少年達とその家族。主人公の瞬(池川侑希弥)は両親と妹の4人家族。母親は乳ガンを患い、瞬が口答えをすると胸の傷痕を見せる強烈なキャラクターの持ち主である。中学受験のために塾に入れられ、そこで映画監督志望の西野(岩田奏)と知りあう。瞬の頼もしい親友は隆造(田代輝)。身体が大きく、ふてぶてしい面構えをしている。父親はやくざで前科者。トカゲの渾名をもつ宗教二世の元太(白石葵一)と、母子家庭でヤンキーの姉との3人暮らしの正太郎(松藤史恩)に、武闘派きどりの転校生小林(坂元愛登)とツッパリ中学生の舎弟の明(蒼井旬)が加わり、七人の侍ばりのメンバーが揃う。
 人は自分の出自を選べない。親や家庭環境は生まれた時からついてまわる。それをどう受け入れあるいは反発し越えていくのかとの問いは重い。両親の凄絶な喧嘩のはてに母親の元に引き取られることになった隆造の「普通の子になりたい」の言葉は痛切だが、これを瞬に言えたのは大きい。この段階で隆造は一歩踏み出している。一方の瞬は、西野が恐喝されているのを知りながら見て見ぬふりをする駄目な自分を仲間に知られ、関係がギクシャクしていく。瞬のコンプレックスは肥大化していく。そしてついに瞬はある行動にでる。瞬にとっては大人になるための通過儀礼だったと言える。少年・線路とくれば「スタンド・バイ・ミー」を連想するが、この作品はそれとは一線を画している。
 ラスト近く、恐喝の首謀者である中学生達との対決シーンは爽快だ。ここでトカゲこと元太が大活躍をする。小柄で弱々しく不登校気味の彼が、実は他の誰よりも知恵も度胸もあるという設定が面白く小気味いい。7人の少年はオーディションで選ばれたと聞くが、それぞれに適役で魅力的で素晴らしい。なかでもこのトカゲ役は当たり役。
 ラストシーンは「泥の河」(1981年)の別れのシーンを彷彿とさせる。どこまでもどこまでも追いかけていく姿は切ないけれど、大きな喪失体験を経てこそ新しい世界が開けてゆく。やがて中学生になる瞬達は、この後どんな大人になっていくのだろうか…と想像がふくらむ。(春雷)

監督:足立伸
脚本:足立伸、松本稔
原作:足立伸
撮影:猪本雅三、新里勝也
出演:池川侑希弥、田代輝、白石葵一、松藤史恩、岩田奏、蒼井旬、坂元愛登、臼田あさ美、浜野謙太、新津ちせ、河井青葉、永瀬正敏