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「夜、鳥たちが啼く」(2022年 日本映画)

2022年12月21日 | 映画の感想・批評
 昨秋公開の「草の響き」に続く、佐藤泰志原作による6度目の映画化作品である。今回は精力的に作品を作り続けている城定秀夫監督と、過去2作品の脚本を手掛けた高田亮の手によるものである。舞台は函館ではなく関東近郊のある町。
 慎一(山田裕貴)は昼間はコピー機のメンテナンスの仕事をしながら小説を書いているが、結婚を前提に同居していた恋人(中村ゆりか)にも去られ、鬱屈した毎日を送っていた。ある日、元の職場の先輩(カトウシンスケ)の別れた妻・裕子(松本まりか)が、小学生の息子アキラ(森優理斗)を連れて引っ越してくる。慎一は住んでいた一軒家を二人に提供し、自身は離れのプレハブに住むという風変わりな半同居生活が始まる。
 ちょっとやんちゃな弟キャラのイメージがある山田裕貴が、新たな役に挑戦している。額を覆うボサボサ髪に銀縁眼鏡、無精髭を蓄え、一見したところ本人とは分からないほどである。原作者の佐藤泰志もこんな風貌だったのかと勝手に想像してしまう。若い頃に文学賞を受賞し小説家としてデビューするもその後は作品を書き上げられず、内に秘めた破壊衝動と葛藤する姿を生々しく表現している。夫に新しい女性ができ離婚に至った裕子も慎一同様に今を生きることに精一杯だった。アキラが寝静まるとふらふらと出掛けて行き見知らぬ男と関係を持つ。松本まりかのフワフワしたシルエットが夜の町に吸いこまれていく様が痛々しい。
 当初は冷蔵庫と風呂だけは共有とし、互いに距離をおき暮らしていたが、やがてアキラの存在によってその距離は少しずつ縮まっていく。三人で海に遊びに行った後、クラゲに刺された慎一の腕の傷跡を皆で心配する場面は象徴的だ。
 過去の記憶とどう付き合って生きていくのかがこの作品の中では問われている。近所の鳥小屋からは、夜毎啼き声が聞こえる。不気味だったり、哀切だったり、聞く者の心情によってそれは様々に聞こえる。傷をなめあう様に互いを求め合った慎一と裕子が出した結論は、時間が経てば変わるかもしれない。二人には鳥が羽根を休めるように一時のとまり木が必要だった。作品は後半に行くにしたがって転調していく。その軽やかさ、ほの明るさが救いであり、作品の魅力となっている。
 終盤、「だるまさんがころんだ」という昔からの遊びが、子ども達を巻きこんで 繰りひろげられる。関西では(と言っても地域により異なるかもしれないが)同じ遊びを「坊さんが屁をこいた」と呼んでいる。(春雷)

監督:城定秀夫
脚本:高田亮
原作:佐藤泰志
撮影:渡邊雅紀
出演:山田裕貴、松本まりか、森優理斗、中村ゆりか、カトウシンスケ、藤田朋子、宇野祥平、吉田浩太、縄田カノン、加治将樹