シネマ見どころ

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「ばるぼら」(2020年、日本)

2020年12月09日 | 映画の感想・批評
人気作家美倉洋介(稲垣)の前に現れた、路上生活者のばるぼら(二階堂ふみ)。詩の暗唱をする彼女に惹かれ、自宅に連れ帰る。少女のように見えて、高級ウイスキーをラッパ飲み。奔放な態度で美倉洋介を振り回す。まるで猫のよう。
美倉は売れっ子作家だが、自分の作品に満足できず、方向性を模索している。そして、ひそかに抱えている異常性欲にも悩まされている。ブティックの店員の誘惑にかられ、引き込まれているときに、ばるぼらが何処からともなく現れ、店員を滅多打ちにする。思わず、ヒーっとなるグロさ。これも手塚作品の特徴ともいえるか。洋介が我に返ると・・・・・
婚約者の政治家の娘とのシーンも、恐ろしい。この時もばるぼらが助けに来る。

ばるぼらは洋介にとってミューズなのか。彼女が傍にいると創作活動がはかどる。
ばるぼらが手放せなくなる洋介は結婚を決意するが、その儀式の途中で・・・・・

再び出会った二人は山の中へ逃避行。
ばるぼらは本当に亡くなったのか。彼女は人間だったのか。洋介の描く幻想なのか。

ばるぼらの記憶を書き留めようと、溢れる文章を原稿用紙に書きなぐる洋介。



背景に流れる音楽がいい。自然に体が揺れ始め、そのリズムに身を任せたくなる。トランペットとサックスの音色が、退廃的な雰囲気のクラブで、煙草の煙に目をやられながら、もがきながら浸っているような気分にさせてくれる。

辺りが明るくなり、ほうっとため息をついた。現実に戻ってこれたか!
息子と一緒に観たのだが、「ふう、疲れたなあ」がお互いの第一声。

いわゆるアート系というのか、普段はあまり見ない分野の作品。
朝ドラ「エール」のヒロインを演じた二階堂ふみの思い切りの良い演技、ふり幅の大きさを感じた。それが見たさに選んだのだったかと。そしてその点は正解。
稲垣吾郎も頑張ってる。昨年の『半世界』はようやくDVDを借りてみることが出来たが、ジャニーズ事務所を離れてからの彼はいい仕事をしている。草彅の「ミッドナイト・スワン」が見ごたえあったし。
もう一人、注目は石橋静河。幻想的世界の中で、唯一現実的な位置づけ。洋介の担当編集なのか秘書なのか。きりっとした佇まいがばるぼらと対照的で、石橋のイメージによく似合っている。彼女もこれからが楽しみな女優さん。二階堂のように役の枠を広げていってほしい。

手塚治虫の大人向きコミックは怖いイメージをもっていた。
そのせいか、ホールを出る瞬間、ちょっと怖い顔をした女性が思い浮かび、ぞくっとした。
パンフレット売り場で、特集記事のある「キネマ旬報」を買うか、パンフレットを買うか一瞬迷ったのち、「公式読本」の名に惹かれてパンフレットを購入。前後に3人は買ってたかな。いずれも女性客。
この公式読本、読み応えがある。脚本が一通り載っているし、撮影監督のインタビューも面白い。出版元はキネマ旬報社。なるほどです
中に挟まれていたのが、手塚治虫の原作版。可愛いやん!あら、もっと怖い女性と思ったのに。永井豪の描く「ばるぼら」はもっとかわいい。

今作品の原作は1973~74年に「ビッグコミック」で連載されていたらしい。
まだ高校生の私には知らない世界だった。私にとっての手塚治虫作品は「リボンの騎士」。大学生になって夢中になって読んだのは「ブラックジャック」。大学の近くの喫茶店に『週刊チャンピオン』が置いてあり、先輩たちに勧められて読み始めた。私は当時、「ピノコ」とあだ名を付けられていた。その理由はいまだに不明。でも、ちょっと嬉しく思っていたのは事実。


いろいろと私にとっては謎の多い作品。
「考えるより、感じろ」ということか。そういえば、クリストファー・ノーラン監督の「テネット」も、そんなキャッチコピーだった。難解な話だったので、もう一度見ようとして終わってしまった。「ばるぼら」、う~ん、2回目はしんどいか!?でも、気になってしまう。(アロママ)

監督:手塚眞
原作:手塚治虫
撮影:クリストファー・ドイル
出演:稲垣吾郎、二階堂ふみ、渡辺えり、石橋静河、渋川清彦