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「Mank マンク」(2020年アメリカ映画)

2020年12月02日 | 映画の感想・批評
 タイトルは主人公の脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツ(1897~1953)の愛称。時代の空気を出すため、全編がモノクロで撮られた。デヴィッド・フィンチャーの面目躍如たる秀作である。
 この映画は予備知識なしに見ても十分おもしろいと思うが、ハリウッド史に通じていると数倍おもしろい。私がハーマンの名前を知ったのはいつだったか忘れてしまったが、実弟のジョセフ・L・マンキーウィッツ監督の代表作「三人の妻への手紙」や「イブの総て」を既に見ていたので、その兄がこれまたすごい脚本家だと聞いて感心した記憶がある。
 新聞王ハーストの愛人でMGMスターだったマリオン・デイヴィスの甥っ子チャ-ルズ・レデラーが初めてMGMの門をくぐり、脚本家のたむろする一室に入ると、そこにはマンクをはじめベン・ヘクトやチャールズ・マッカーサーがカードに興じているという場面がある。これだけで、映画狂は引き込まれてしまう。いずれも映画史に名を残す伝説的脚本家だ。因みにヘクト=マッカーサーコンビは「特急二十世紀」などの傑作を次々と書き、レデラーは「オーシャンと11人の仲間」を書いた人だ。
 冒頭、交通事故で足を骨折したマンクのもとへ24歳のお騒がせ男オーソン・ウェルズから脚本のオファーが来る。60日という限られた日数で「市民ケーン」の脚本を書いてほしいと一軒家に家政婦、タイピストとともに缶詰にされる。酒癖に悩まされながら、マンクは原稿と格闘する。その合間に過去の回想シーンが挿入されるという構成である。
 反共のオピニオンリーダー、ハーストとその愛人、MGMのワンマン製作者メイヤーと、その右腕で辣腕ぶりを発揮して夭逝するアーヴィング・タルバーグ、組合活動をしながら兄を心配するジョセフ、天才の名をほしいままにする野心家ウェルズなど、マンクを取り巻く人びとが興味つきない。
 そうして、マンク対ハースト=メイヤーとの確執。マンクを気に入りMGMに推薦した恩人ともいえるハーストに対する恨み骨髄の憎悪はどうして生まれたのか。周知のとおり「市民ケーン」のモデルはハーストであり、ハーストの生き様を孤独で弱点をもった人間として赤裸々に描いた内容となっている。マンクをして渾身の傑作脚本といわれる「市民ケーン」を書かしめたエネルギーはいかにして醸成されたのか。この映画の最大の謎ときはそこにある。ハーストの盟友メイヤーは「市民ケーン」を配給するRKOを買収して上映阻止を図ろうとするが、結局失敗する。
 呪われた映画といわれた「市民ケーン」はハリウッド資本を敵に回しながら、その年のアカデミー最優秀脚本賞を受賞するのである。(健)

原題:Mank
監督:デヴィッド・フィンチャー
脚本:ジャック・フィンチャー
撮影:エリク・メッサーシュミット
出演:ゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、チャ-ルズ・ダンス、リリー・コリンズ