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西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

鏡獅子―64

2009-07-04 | 曲目 (c)yuri saionji
春興鏡獅子―15


胡蝶が引っ込むと、獅子登場の囃子事である”乱序”が始まる。
そして乱序がピークに達した頃、花道の揚幕が開き
大口袴に白頭、隈取を取った獅子が飛び出す。

上の巻「小姓」の弥生が扮する、後ジテで、
女形と立役の二色を演じ分ける所が、この曲の眼目だ。

舞台中央に進んだ獅子は、雄々しく”狂い”を舞い、
二畳台の上にドカリと座り込んで、暫しまどろむ。
そこへ先ほどの胡蝶が登場し、獅子に戯れる。
ここが「美女と野獣」に例えられる、幻想的なシーンだ。

『牡丹の花に舞い遊ぶ
 葉陰に休む蝶の
 風に翼交わして飛びめぐる』

蝶の悪戯で目を醒した獅子。

『獅子は勇んでくるくるくると
 花に戯れ枝に臥し転び
 実にも上なき獅子王の勢い』

そしてクライマックスは皆様ご存知の、毛を振り回しての”髪洗い”。
ここは最後の力をふりしぼっての熱演。
三味線方も力の限り”髪洗い”を弾き続ける。

獅子が限界に達すると、ドンと足を踏む。
それを合図に三味線方は”髪洗い”をやめ、段切れとなる。

『獅子の座にこそ 直りけれ』


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tea breaku・海中百景
phpto by 和尚


鏡獅子―63

2009-07-02 | 曲目 (c)yuri saionji
春興鏡獅子―15

胡蝶が上手、下手に分かれて引っ込むと、
大薩摩が始まり、
場面が清涼山の石橋になったぞ、と告げる。
ここは、桜痴が「石橋」をアレンジして書いた。


『夫 清涼山の石橋は
 人の渡せる橋ならず
 法の功徳におのずから
 出現なしたる 橋なれば
 石橋とこそ 名づけたり
 
 暫く待たせ給えや
 影向の時節も今いくほどに
 よも過ぎじ』

(意訳)
「そもそも清涼山の石橋は
 人の手によって架けられたものではない
 仏の功徳によって自然にできた橋ゆえに
 石橋と名づけたのである

 今しばらく待っていなさい
 間もなく菩薩がお姿を現すであろう
 決して立ち去るでないぞ」 


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tea breaku・海中百景
photo by 和尚


鏡獅子―62

2009-06-30 | 曲目 (c)yuri saionji
春興鏡獅子―14


胡蝶の精は一対になって
羯鼓の踊りや、鈴太鼓の踊りを見せる。

『いとど思いは増す鏡
 移る心や紫の
 色に出でたか恥ずかしながら
 待つにかいなき松風の

(次は「石橋」の歌詞をはめ込んだ)
 花にたき木を吹き添えて
 雪を運ぶがおぼろげの
 我も迷うや花の影
 暫し木陰に休らいぬ』

(意訳)
「ますます想いがつのり、
 もうこの心、隠せない
 恥ずかしいけれど
 待ってもどうにもならないの
 風に舞う桜の花が
 木こりの背負うたき木に積もり
 まるで雪を運んでいるよう

 私も牡丹の花に埋もれていると
 思わず迷ってしまいそう
(寂照法師は清涼山で道に迷い、樵に遭う)
 ちょっと木陰で休みましょう」


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tea breaku・海中百景
photo by 和尚


鏡獅子―61

2009-06-29 | 曲目 (c)yuri saionji
春興鏡獅子―13


『花のをだまき 繰り返し
 風に柳の結ぶや糸の
 吹かぬその間が 命じゃものを
 憎やつれなや その味さえも
 忘れ兼ねつつ 飛び交う中を
 そっとそよいで 隔つるは
 科戸の神のねたみかや
 
 よしや吉野の花より我は
 羽風にこぼすおしろいの
 その面影のいとしさに』

(意訳)
「花がそよぎ、風に吹かれて柳がゆれる
 蝶の身としては、風はいや
 憎らしいほど、つれないあいつ
 でも未練なのね、
 気を惹こうと飛んでいるのに
 わざとそよいで邪魔をするのは
 風の女神のいたずらかしら
 
 たとえ吉野の桜より、
 きらきらと舞い散る、蝶の白粉
 何とも風情があって、可愛いこと」


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tea breaku・海中百景
photo by 和尚


鏡獅子―60

2009-06-27 | 曲目 (c)yuri saionji
春興鏡獅子(下の巻・胡蝶)―12


下の巻はほとんどが、福地桜痴のオリジナル。
胡蝶の精の踊りとなる。

『世の中に
 絶えて花香のなかりせば
 我はいずくに 宿るべき
 憂きをも知らで 草に寝て
 花に遊びて 明日には
 露を情けの袖枕 
 羽色にまごう物とては 
 我に由縁の深見草
 花のをだまき』

(意訳)
「世の中にもし花というものがなかったならば
 私はどこをねぐらにすればいのでしょう
 蝶の世界は楽しいのよ
 ほかのことを何も知らないで、
 草に寝て、花にたわむれ、 
 露と仲良く袖枕
 羽の色かと見まごうものは、
 あなたにゆかりの牡丹の紫」


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tea breaku・海中百景
photo by 和尚