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西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

菊寿草摺

2010-06-22 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
103-「菊寿草摺」(きくじゅのくさずり・1787・天明7年・桐座)

草摺とは、鎧の一部で、太腿を守るためのびらびら部分。
和田一門の酒宴で、父の仇、工藤祐経を見つけた五郎は、
「時こそ来たれ!」と、逆沢潟(さかおもだか)の鎧を引っさげ
勢いだって駆け出す。
それを見た化粧坂の少将が草摺を掴み引き止める。
「放せ」と五郎、「留めた」と少将。
二人が互いに草摺を引き合う、というのがこの曲の内容で、
「放せ」「留めた」だけがテーマとなっている。

元来は小林朝比奈(曾我兄弟の後見人)が留めたものだが、
幾つもの“草摺引き”のバリエーションができるうちに、
女朝比奈とか、愛人少将などが登場するようになった。

『留めてよいのは朝の雪
 雨の降るのに去のうとは
 そりゃ野暮じゃぞえ待たしゃんせ
 起請誓紙は嘘かいな
 嘘にもじゃれにも誠にも
 余所に色増す花眺め
 そして騙してそれそれそれ 
 その顔で
 怖い事言うて 腹立てしゃんす
 そちら向いていさんしても
 顔見にゃならぬ
 末を頼みの通う神』

●朝の雪なら解けずにおくれ、というじゃないか、
 雨なんだから、帰るなんて言わないでおくれよ。
 神に誓った二人じゃないか、まさかよその女に気移りしたんじゃないだろうね。
 そんな顔をして、怒って腹を立てて、背中を向けてもだめ、
 ちゃんとこっちを見て、末は夫婦の約束でしょ。
 
そもそも五郎は17歳まで箱根権現に預けられ、
18歳で本懐を遂げたあと、斬首されたのだから
遊郭で女とちゃらちゃら遊ぶ暇などなかったはず。
ところが歌舞伎では、「雨の降る日も風の日も、通い通いて大磯や」
と、やにさがって廓通いをさせるのだから、五郎も大変。

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

高砂丹前

2010-06-18 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
102-「高砂丹前」(1785・天明5年・桐座)


高砂は播磨(兵庫県)にある市の名前で、
高砂神社の”高砂の松”が有名。

古くから、高砂の松と、大阪”住之江の松”が夫婦であるとの伝説があり、
高砂、住之江の松を”相生の松”という。

ゆえにここでは“松づくし”で、夫婦の睦ましさを詠う。

『松の名所は様々に
 あれ 三保の松羽衣の
 松に掛けたる尾上の鐘よ
 逢いに相生夫婦松 
 中に緑の いとしらしさの姫小松
 二階三階五葉の松
 幾代重ねん千代見草
 しおらしや』 

●松の名所は様々あるが、まあょっとあれを見なさいな、
 駿河国三保の松。
 天女が羽衣を掛けたという、松に掛けたのは、尾上神社(高砂神社)の鐘か。
 二人が逢瀬を重ねるうちに、できた嬰児は 可愛い可愛い女の子。
 二歳、三歳、五歳と成長が楽しみ、末頼もしいことよ。

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

白酒売り

2010-06-17 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
101ー「白酒売り」その2


『あゝままよ
 いっそ伊丹の濁酒
 末は諸白もろともに
 千年不老酒 養命酒
 人の池田も味醂用いぬ気まま酒
 今 白酒の頬に出でて
 赤きは酒の科ならず
 身は習わしの奈良坂や…』

●ええ、ままよいっそこのまま居続けて、女郎とともに共白髪。
 養命酒を飲んで、千年の不老不死。人の意見もどこ吹く風といきたいものだ。
 酒を飲んで顔が赤くなっても、酒のせいじゃないぞ、これはあくまでも酒飲みの因果さ。

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

白酒売り

2010-06-16 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
100-「白酒売り」(1785・天明5年・桐座)その1


昔は白酒の入った樽を天秤棒で担いで「白酒、白酒」と
売り歩いたものらしい。

題名のとおり、“酒の銘づくし”で、女郎遊びの男を描く。

『八塩醸して造るとかや 
 出雲八重垣妻籠に
 堅いお客もぶどう酒の
 お腰のものは船宿の
 戸棚の内にあられ酒
 ささの一夜をくれ竹の
 くねるは癖の男山
 つい後朝の七ツ梅
 茶屋が迎いの玉子酒
 濡れていよとの みぞれ酒』

●通いに通ってやっと本懐という、女郎と初めて寝る夜は、
 船宿に刀を預けて猪牙で飛ばす。
 堅いお客もでれでれで、差しつ差されつ楽しい夜に、無理をいうのは男の癖。
 別れの朝の七つ時、茶屋から迎えが来て、気付け薬に飲む玉子酒。
 みぞれが降って寒いのは、そのまま濡れていよとのお告げかい。

この時代、客はまず茶屋へ上がり、しかる後に揚屋へ登楼した。
遊興の支払いは、帰りに茶屋でまとめてするものと決まっていた。
だから、七つ時(朝4時)であろうとなんであろうと、
茶屋は客を迎えにくる。
 
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tea breaku・海中百景
photo by  和尚

羽根の禿

2010-06-15 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
99-「羽根の禿」(1785・天明5年・桐座《市村座控櫓》)



題名は、羽子板遊びをする禿(かむろ)という意味、
禿げ、ではありませんぞ。


『禿禿とたくさんそうに
 言うて下んすな こちゃ花魁に
 恋の諸分や手管の訳も
 教えさんした 筆の綾
 よう知るとは思わんせ
 おお恥ずかしや 恥ずかしい
 しどけ形振り可愛いらし』

●禿禿と気安く言わないで。
 わたしは姉さん女郎から、恋の作法や駆け引き、恋文の書き方なんかも
 教わっているのだから。
 何でも知っていると思ってちょうだい。
 なーんてね、ああ恥ずかしい恥ずかしい。

禿とは、子供の時から遊女屋に預けられた、遊女見習いの子供をいう。
姉さん女郎の身の周りの世話をしながら、
まだちんぷんかんぷんの“恋のいろは”を学ぶのだから、
出来上がった時には、末恐ろしい遊女となる。

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚