一緒にプレイしている仲間うちなんかで呑みに行くと、アイツはいつも決まって一席ぶつ。
「断然P-FUNKだよ! 今やP―FUNKなしでニューヨークは語れない!! いやしくもR&B発祥の地で、ブラックミュージックがその根底に流れているんだから・・・」
うんぬんかんぬん。アイツが熱く語るのはいつもニューヨークの音楽の話でそれもかなりマニアック。大のソウル好きで、それも相当ディープな好みだ。しかも何もかも断定口調、オレが言ってるんだから間違いない理論。
「オマエそれは暴論じゃないの? オレもソウルは好きだけどさ、それが唯一絶対かって言うとそうじゃないでしょ? もっと古くからあるジャンルだってあるんだし、全く違う系統の音楽もあるわけじゃない。」
などとうっかり反論しようものなら
「いやっ!! だからそこにもFUNKのパワーやエナジーが大きな影響を与えているんだから、それをヌキに音楽を語ることなど出来るわけがない!! リバプールサウンドにおいてビーチボーイズやビートルズを抜きに話ができないのと同じくらい、いやそれ以上に・・・」
などと更に自論はヒートアップしてとどまるところを知らない。ところがそこで
「そんなこと言っててもやっぱマイナーは所詮マイナーなもんでしかないぜ。」
とキーボーディストのアケオくんがわざとからかったから大変だ。
「あーっ!! コノヤロ、何言ってやがる!! 」
と、祐介は立ち上がるやいなや灰皿をひっつかんでアケオくんに殴りかかった。それも
「ジョージ・クリントンのよさがわからない奴はオレのバック3000年クビ!!」
なんてわけのわからないことを叫びながら・・・。もっともアケオくんも
「3000年後にまた逢おうぜ、バカヤロー!」
などと迎え撃っていたからたいしたものだ。・・・まったく、酒癖の悪い奴らだ! 困ったもんだ・・。しかも今度は一応止めに入ったオレに祐介はどんよりと酔っ払って据わった目を向けて
「和さん!! 和さんはパーラメント好きだよね?!」
と挑むように詰め寄ってきた。オレはこれ以上ややこしくなるのが面倒なので
「あー、好きだ! 好きだから大人しくしろ!!」
となだめるしかない始末だ。・・・まあ、オレもパーラメントは実際かなり好きな方だけど。
このP-FUNKというのはアメリカのソウル歌手ジョージ・クリントンが1970年代前後を中心にやっていたバンドによる音楽活動のことで、パーラメントはそのバンドのひとつだ。R&B(リズム&ブルース)は1940年代に発生した音楽のジャンルで、天性のリズム感を持つ黒人の間で更に発展し、ソウルはもちろんロックやジャズに派生して世界中に広まっているのは周知の通り。(作者註:間違ってたらごめんなさい。)
要はそういうラテン系のブラックミュージック、黒人音楽が大好きなのだ、アイツは。そしてそれがアメリカの、特にニューヨークの音楽のすべての頂点にある、と言いたいわけだ。世界最強、最高、至上、絶対不可侵、これより優れたものは存在しない・・・と、ちょっと狂信的ですらあるくらい傾倒している。別にそれはそれでいいのだけれど、そのポリシーを酔うとすぐに人にも押し付けるのが困りモノだ。いや、酔っていなくても押し付けてくるのが更に困りモノなのだけれど・・・。
だけど、そのあわや乱闘?っていう時、祐介の矛先がオレに向いたその時に、そうっと話を逸らすようにアケオくんが
「それより今度絶対プリンス行こうぜいっ!」
とニカニカ笑って言った。アケオくんの狙いは「それより」にあるのだが、祐介は素直に
「おー、行く行く!! 楽しみだな! チケット押えろよ!」
と、満面の笑顔で答えたのだから、もうケンカ越しだったのは忘れて上機嫌ということだ。でもよく聞いてみれば、チケットを押えろとちゃっかり命令している。・・・なんでそうなるのだろう・・・本当にわがままなんだから・・・。 しかもアケオくんはそれに「任せとけ!」と応えている・・・。
まあ、このへんが「歌手」ならではかも知れない。歌手というのは、例えれば野球のピッチャーみたいなもの。つまりエースだ。注目を集める、カリスマ性が高い。わがままだけど人懐っこくて憎めない、人に好かれる、人気がある・・・。
しかしこいつが何故かことのほかオレにはよくなついた。この時も
「ねーねー、和さんも行くだろー!」
と、すぐにオレに振ってきたし、ある時も顔をあわせるなり挨拶一切ヌキで
「和さんもう聞いた? ブライアン・フェリーが何年ぶりだっけ? アルバム出すって言ってるよね?!」
なんていきなりソウル歌手の話を始めた。いや、大好きなソウル関係の話だけじゃない、なんでもかんでも話題を振ってくるし呼ぶし誘うし語りかけるし。
「ねー、和さん、リハすんだら今夜飲みに行こうよ!」
なんてしょっちゅう・・・。
「行ってもいいけど、酒弱いくせに飲みに行くの好きだね。」
そう、こいつは残念なことに酒には弱い。普通飲めない奴は酒席は嫌いなものだと思うのだけど・・・。
「きたえるからさー! だいたい和さんが強すぎるんだ。」
イヤ、そんなことはない。オレはせいぜい人並みだ。だけど飲めない奴にしてみたら人並みも羨ましいのかもしれない。だから
「ムリして強くならなくてもいいよ。」
と言い返したのだが、
「いや、だって一度和さんと朝までじっくり飲みたいんだよ、強くなってぜーったい・・・。」
・・・万事こういう調子。なつかれて悪い気はそりゃしないけれど・・・。とはいえオレはフリーのミュージシャンだからいつも祐介ばっかりかかわってはいられない。他にも仕事はあるのだ。というか、他でも仕事をしなければならない。そうそう毎度毎度アソビにつきあってはいられない。でも、祐介はそんなことはお構いなしにとにかく何にでも付き合わせようとする。それを断りきれないオレも、優柔不断といわれればそうなのかも知れないが・・・
そういや、こんなこともあった。ある打ち上げの時オレは女房を連れて行った。もともと彼女はそれまでのどのバンド活動の時も、もちろん結婚前からなんだけど、ちょくちょくライブを覗きにきていたし、打ち上げにも顔を出していた。というか誘うといつもついて来ていた。だから同じ調子で祐介のバックバンド仲間の打ち上げにも連れて行ったというわけなのだが、「うちのカミさんです」とみんなに紹介したら早速にあのバカが
「わーっ!! 奥さんですか? 初めまして、浩沢です! いっつも和さんには世話ンなりっぱなしで・・・!」
と、気持ち悪いくらいの満面笑顔で妙に照れくさそうに自己紹介した。そこまではいいとして、その先が実に閉口ものだった。
「ここ・・・ここどうぞ! あいてますから。あ、おしぼりもコレどうぞ! ビールでいいスか、それか酎ハイにしますか? なんでも言ってくださいね! あ、これ、お口にあえばいいんスけど、わりと旨いんですよ、こう見えても・・・! あっ、それよかコレ!これです、何つーても、この店一番の逸品はこの一品、なんちゃって。」
などとまくしたてて・・・まるで店員じゃないか、それじゃ・・・。 まわりのみんなも呆れ果てるほど至れり尽くせりの大サービスで、女房は・・・いや、女房よりオレの方が辟易してしまった。
あとで彼女は
「浩沢さんて・・・・・・・・・・・・・・面白いのね。」
などと感心ともアキレともとれない感想を言っていたけれども・・・。その間は何だと言いたくなるくらい、考えていたな。だけどその後は苦笑しながら
「でも、あなたとはすっごくあいそうね!」
て言ったけれど、はて、それはどういう意味なのだろう・・・。
そして祐介の奴には
「いや~あ、和さんの奥さんってホントステキな人なんスね。美人だし、さすが和さんが選んだ人なだけある! やっぱし和さんて人を見る目も確かと言うか出来てんだなー、オレも見習わなきゃ!」
・・・などとわけのわからない感心のされ方をしてしまった。これ、何をどう褒めてるのだろうか・・・。
・・・TO BE CONNTINUED.
「断然P-FUNKだよ! 今やP―FUNKなしでニューヨークは語れない!! いやしくもR&B発祥の地で、ブラックミュージックがその根底に流れているんだから・・・」
うんぬんかんぬん。アイツが熱く語るのはいつもニューヨークの音楽の話でそれもかなりマニアック。大のソウル好きで、それも相当ディープな好みだ。しかも何もかも断定口調、オレが言ってるんだから間違いない理論。
「オマエそれは暴論じゃないの? オレもソウルは好きだけどさ、それが唯一絶対かって言うとそうじゃないでしょ? もっと古くからあるジャンルだってあるんだし、全く違う系統の音楽もあるわけじゃない。」
などとうっかり反論しようものなら
「いやっ!! だからそこにもFUNKのパワーやエナジーが大きな影響を与えているんだから、それをヌキに音楽を語ることなど出来るわけがない!! リバプールサウンドにおいてビーチボーイズやビートルズを抜きに話ができないのと同じくらい、いやそれ以上に・・・」
などと更に自論はヒートアップしてとどまるところを知らない。ところがそこで
「そんなこと言っててもやっぱマイナーは所詮マイナーなもんでしかないぜ。」
とキーボーディストのアケオくんがわざとからかったから大変だ。
「あーっ!! コノヤロ、何言ってやがる!! 」
と、祐介は立ち上がるやいなや灰皿をひっつかんでアケオくんに殴りかかった。それも
「ジョージ・クリントンのよさがわからない奴はオレのバック3000年クビ!!」
なんてわけのわからないことを叫びながら・・・。もっともアケオくんも
「3000年後にまた逢おうぜ、バカヤロー!」
などと迎え撃っていたからたいしたものだ。・・・まったく、酒癖の悪い奴らだ! 困ったもんだ・・。しかも今度は一応止めに入ったオレに祐介はどんよりと酔っ払って据わった目を向けて
「和さん!! 和さんはパーラメント好きだよね?!」
と挑むように詰め寄ってきた。オレはこれ以上ややこしくなるのが面倒なので
「あー、好きだ! 好きだから大人しくしろ!!」
となだめるしかない始末だ。・・・まあ、オレもパーラメントは実際かなり好きな方だけど。
このP-FUNKというのはアメリカのソウル歌手ジョージ・クリントンが1970年代前後を中心にやっていたバンドによる音楽活動のことで、パーラメントはそのバンドのひとつだ。R&B(リズム&ブルース)は1940年代に発生した音楽のジャンルで、天性のリズム感を持つ黒人の間で更に発展し、ソウルはもちろんロックやジャズに派生して世界中に広まっているのは周知の通り。(作者註:間違ってたらごめんなさい。)
要はそういうラテン系のブラックミュージック、黒人音楽が大好きなのだ、アイツは。そしてそれがアメリカの、特にニューヨークの音楽のすべての頂点にある、と言いたいわけだ。世界最強、最高、至上、絶対不可侵、これより優れたものは存在しない・・・と、ちょっと狂信的ですらあるくらい傾倒している。別にそれはそれでいいのだけれど、そのポリシーを酔うとすぐに人にも押し付けるのが困りモノだ。いや、酔っていなくても押し付けてくるのが更に困りモノなのだけれど・・・。
だけど、そのあわや乱闘?っていう時、祐介の矛先がオレに向いたその時に、そうっと話を逸らすようにアケオくんが
「それより今度絶対プリンス行こうぜいっ!」
とニカニカ笑って言った。アケオくんの狙いは「それより」にあるのだが、祐介は素直に
「おー、行く行く!! 楽しみだな! チケット押えろよ!」
と、満面の笑顔で答えたのだから、もうケンカ越しだったのは忘れて上機嫌ということだ。でもよく聞いてみれば、チケットを押えろとちゃっかり命令している。・・・なんでそうなるのだろう・・・本当にわがままなんだから・・・。 しかもアケオくんはそれに「任せとけ!」と応えている・・・。
まあ、このへんが「歌手」ならではかも知れない。歌手というのは、例えれば野球のピッチャーみたいなもの。つまりエースだ。注目を集める、カリスマ性が高い。わがままだけど人懐っこくて憎めない、人に好かれる、人気がある・・・。
しかしこいつが何故かことのほかオレにはよくなついた。この時も
「ねーねー、和さんも行くだろー!」
と、すぐにオレに振ってきたし、ある時も顔をあわせるなり挨拶一切ヌキで
「和さんもう聞いた? ブライアン・フェリーが何年ぶりだっけ? アルバム出すって言ってるよね?!」
なんていきなりソウル歌手の話を始めた。いや、大好きなソウル関係の話だけじゃない、なんでもかんでも話題を振ってくるし呼ぶし誘うし語りかけるし。
「ねー、和さん、リハすんだら今夜飲みに行こうよ!」
なんてしょっちゅう・・・。
「行ってもいいけど、酒弱いくせに飲みに行くの好きだね。」
そう、こいつは残念なことに酒には弱い。普通飲めない奴は酒席は嫌いなものだと思うのだけど・・・。
「きたえるからさー! だいたい和さんが強すぎるんだ。」
イヤ、そんなことはない。オレはせいぜい人並みだ。だけど飲めない奴にしてみたら人並みも羨ましいのかもしれない。だから
「ムリして強くならなくてもいいよ。」
と言い返したのだが、
「いや、だって一度和さんと朝までじっくり飲みたいんだよ、強くなってぜーったい・・・。」
・・・万事こういう調子。なつかれて悪い気はそりゃしないけれど・・・。とはいえオレはフリーのミュージシャンだからいつも祐介ばっかりかかわってはいられない。他にも仕事はあるのだ。というか、他でも仕事をしなければならない。そうそう毎度毎度アソビにつきあってはいられない。でも、祐介はそんなことはお構いなしにとにかく何にでも付き合わせようとする。それを断りきれないオレも、優柔不断といわれればそうなのかも知れないが・・・
そういや、こんなこともあった。ある打ち上げの時オレは女房を連れて行った。もともと彼女はそれまでのどのバンド活動の時も、もちろん結婚前からなんだけど、ちょくちょくライブを覗きにきていたし、打ち上げにも顔を出していた。というか誘うといつもついて来ていた。だから同じ調子で祐介のバックバンド仲間の打ち上げにも連れて行ったというわけなのだが、「うちのカミさんです」とみんなに紹介したら早速にあのバカが
「わーっ!! 奥さんですか? 初めまして、浩沢です! いっつも和さんには世話ンなりっぱなしで・・・!」
と、気持ち悪いくらいの満面笑顔で妙に照れくさそうに自己紹介した。そこまではいいとして、その先が実に閉口ものだった。
「ここ・・・ここどうぞ! あいてますから。あ、おしぼりもコレどうぞ! ビールでいいスか、それか酎ハイにしますか? なんでも言ってくださいね! あ、これ、お口にあえばいいんスけど、わりと旨いんですよ、こう見えても・・・! あっ、それよかコレ!これです、何つーても、この店一番の逸品はこの一品、なんちゃって。」
などとまくしたてて・・・まるで店員じゃないか、それじゃ・・・。 まわりのみんなも呆れ果てるほど至れり尽くせりの大サービスで、女房は・・・いや、女房よりオレの方が辟易してしまった。
あとで彼女は
「浩沢さんて・・・・・・・・・・・・・・面白いのね。」
などと感心ともアキレともとれない感想を言っていたけれども・・・。その間は何だと言いたくなるくらい、考えていたな。だけどその後は苦笑しながら
「でも、あなたとはすっごくあいそうね!」
て言ったけれど、はて、それはどういう意味なのだろう・・・。
そして祐介の奴には
「いや~あ、和さんの奥さんってホントステキな人なんスね。美人だし、さすが和さんが選んだ人なだけある! やっぱし和さんて人を見る目も確かと言うか出来てんだなー、オレも見習わなきゃ!」
・・・などとわけのわからない感心のされ方をしてしまった。これ、何をどう褒めてるのだろうか・・・。
・・・TO BE CONNTINUED.
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