でもオレが祐介のことをケイカイしはじめたのは(と言って、別に嫌ったワケじゃない)・・・あの夜からだった。
あれもレコーディング終了か何かの打ち上げの時だったか。あいつはすっかり出来上がっちまって・・・ていうか、ほぼ酔いつぶれ寸前になって酒席で眠り込んでいた。マネージャーのツダさんに揺り起こされてどうにか目を覚まし自力で店の外へは出たものの、酔いは全然醒めていなかったようで足元はかなりおぼつかなかった。いつもはふざけてばっかりのドラマーのトモくんやベーシストのオギくんもこの時ばかりはさすがに心配して
「おい・・・大丈夫かな? フラフラじゃない?」
「一人で帰れる?」
と声をかけたほどだ。陣中見舞いに来てついでに付き合ってくれた紅一点・作詞家のカヨちゃんも祐介の顔を覗き込むと
「浩沢クン、真っ赤っかだよ? うちまで送ってってあげようか?」
と、多分本気でそう言った。やれやれ、女の子に送らせるなんて男として情けないぞ。だからオレが言うしかなかった。
「あー、オレ、送ってくよ。どうせオレ今夜、車運転できなくてウチまで帰れないから、ついでに泊めてもらうしさ。」
そう、この日は打ち上げとは言っても予定外。せっかくカヨちゃんも来ていることだし、いきおい急に飲みに行こうということになったものだから、オレはスタジオの駐車場にそのまま乗ってきた車を置かせてもらって来たのだ。事前に決まっていれば車では来なかった。でも、そうは言ってもどのみちオレが住んでいるのは横須賀で、もうこの時間には最寄り駅までの電車はない。途中までならなんとかなるので、車がうちにある時は女房に迎えに来てもらうのだけど、今回はそれが無理だから、そこからタクシーを奮発するか、あるいは始発までスナックかどこかで粘ってもいいとも思っていた。実際そういうこともこれまでにちょくちょくあったし。けれどこの時は祐介を送りついでに無理やり泊り込んでしまえ、と急きょ勝手に決めた。それくらいいいだろう、送ってやるんだから・・・。オレは軽い気持ちでそう考えた。だからツダさんやみんなが「なら、よろしく頼みます」というのを快く引き受けた。そして散会したあとは祐介を支えつつ奴の自宅マンションへ向かった。
マンションに着くころには祐介の酔いも醒めているだろうと思ったのだが、そうはいかなかった。本当にこいつは酒に弱いんだな。今日飲んだ量は絶対オレの方が多かったはずだ。オレも素面とはいかないけれど、こいつよりはよっぽどちゃんとしている。先に酔っ払われるともう一人は気がかりで酔えなくなるなんて言うけれど、今まさにそんな感じかもしれない。祐介はもしかしたらアルコール不耐症というやつなのだろうか、でもこれは鍛えてどうにかなるものではないと聞いたことがある。からだが受け付けないのだから本当は飲まないほうが断然良いのだ。飲めるようになりたいという気持ちは分かる気はするけれど、それでからだを壊していては元も子もない。
でも今それを言っても仕方がない。オレは手を離せばきっと千鳥足であろう祐介をずっと支えたままマンションの中へ入って行った。エレベータを降りて祐介の部屋も前に着くと、
「ほら、お前の部屋着いたぜ。鍵、出せよ。」
と言ったが、奴はちょっとあっけにとられたような顔になり、それから
「え? 鍵? あー・・・鍵。・・・・忘れた・・・。」
と、へらっと言った。おいおい、冗談じゃない、それじゃあ部屋に入れないじゃないか!
「えーーっ?! どこに?! スタジオにか?!」
と、オレは思わず祐介の耳元で叫んでしまった。
「あ・・・頭ひびくよ・・・。耳元でデカイ声出さないで・・・。」
祐介は頭を押えて顔をしかめる。
「まいったな・・・。ひとまず管理人室へ行くか・・・て、こんな時間に人、いるのかな・・・。」
やばいな、と思いつつオレはつぶやいたが、祐介はそのオレを抑えて
「あ、いや・・・そじゃなくて・・・今朝鍵かけんの忘れた・・・。」
と打ち明けた。当然オレは怒る。
「なにーーーっ!!」
「・・・だから鍵持って出てない・・・。」
「・・・殺すぞ、テメエ!」
オレは思わず毒づいたが、祐介は壁にもたれてぼうっとしているのみ・・・。
部屋に入ると、祐介はダイニングの隣のリビングに置いたソファにどすん、と腰を下ろした。座ったというよりはしりもちをついたと言ったほうがいい。そしてこれ以上できないくらい大きく深呼吸した。オレはその正面に立ったまま祐介を覗き込んだ。
「おい・・・大丈夫か?」
「ん・・・ちょっとキモチ悪ィな・・・。」
そういえば、帰り際に赤かった顔が今は青白いような気がする。もしかして、悪酔いしつつあるんじゃないだろうか? 目はうつろだし、表情もなんとなく苦しそうだ。
「ガバガバやるからだぜ。ペースも何も考えないで・・・。」
オレは少し心配になりながらも説教するようにそう言った。祐介はソファの肘掛にひじをつき、頬杖ついてため息もついた。
「和さんにあわせたのに・・・。やっぱし強いなー、和さんは・・・。」
「何を! お前が弱すぎるんじゃねーかよ! オレは人並みだって。ナレっていうのもあるけど・・・でもやっぱり無理しない方がいいよ?」
「ハァ・・・。」
と、言ってる傍から祐介は急に前のめりにのめり込み、口元を押えてえづきだすではないか・・・。これはまずい!!
「わーーっ!! ダメダメ!! もうちょっと我慢しろー! ここじゃだめだー!!」
オレは慌てて祐介を抱えると、ダイニングへ引きずって行った・・・。
その数分後・・・。
祐介は完全に脱力してびしょ濡れの顔、タオルを首にかけて呆けた顔でまたソファにへたるように座り込んでいいる。顔色はやっぱり青白いけれど、表情はさっきよりだいぶ緩んでいる。オレはまた正面に立って、水を汲んだグラスを手に少し腰をかがめながら覗き込んで
「大丈夫?」
と尋ねた。祐介は茫然としてはいるけれど
「あー・・・スッキリした・・・。」
と答えた。
「良かった。ホラお水。」
「あ・・・スンマセン・・・。」
こういう時はお水が一番。ただ酒を飲むだけでも、からだは脱水状態になるものなんだそうだ。それで吐いていたら尚更だ。祐介は、オレが半ば無理やり飲ませようとしたそのグラスに素直に手を添えて、その水を飲もうとした――
・・・TO BE CONNTINUED.
あれもレコーディング終了か何かの打ち上げの時だったか。あいつはすっかり出来上がっちまって・・・ていうか、ほぼ酔いつぶれ寸前になって酒席で眠り込んでいた。マネージャーのツダさんに揺り起こされてどうにか目を覚まし自力で店の外へは出たものの、酔いは全然醒めていなかったようで足元はかなりおぼつかなかった。いつもはふざけてばっかりのドラマーのトモくんやベーシストのオギくんもこの時ばかりはさすがに心配して
「おい・・・大丈夫かな? フラフラじゃない?」
「一人で帰れる?」
と声をかけたほどだ。陣中見舞いに来てついでに付き合ってくれた紅一点・作詞家のカヨちゃんも祐介の顔を覗き込むと
「浩沢クン、真っ赤っかだよ? うちまで送ってってあげようか?」
と、多分本気でそう言った。やれやれ、女の子に送らせるなんて男として情けないぞ。だからオレが言うしかなかった。
「あー、オレ、送ってくよ。どうせオレ今夜、車運転できなくてウチまで帰れないから、ついでに泊めてもらうしさ。」
そう、この日は打ち上げとは言っても予定外。せっかくカヨちゃんも来ていることだし、いきおい急に飲みに行こうということになったものだから、オレはスタジオの駐車場にそのまま乗ってきた車を置かせてもらって来たのだ。事前に決まっていれば車では来なかった。でも、そうは言ってもどのみちオレが住んでいるのは横須賀で、もうこの時間には最寄り駅までの電車はない。途中までならなんとかなるので、車がうちにある時は女房に迎えに来てもらうのだけど、今回はそれが無理だから、そこからタクシーを奮発するか、あるいは始発までスナックかどこかで粘ってもいいとも思っていた。実際そういうこともこれまでにちょくちょくあったし。けれどこの時は祐介を送りついでに無理やり泊り込んでしまえ、と急きょ勝手に決めた。それくらいいいだろう、送ってやるんだから・・・。オレは軽い気持ちでそう考えた。だからツダさんやみんなが「なら、よろしく頼みます」というのを快く引き受けた。そして散会したあとは祐介を支えつつ奴の自宅マンションへ向かった。
マンションに着くころには祐介の酔いも醒めているだろうと思ったのだが、そうはいかなかった。本当にこいつは酒に弱いんだな。今日飲んだ量は絶対オレの方が多かったはずだ。オレも素面とはいかないけれど、こいつよりはよっぽどちゃんとしている。先に酔っ払われるともう一人は気がかりで酔えなくなるなんて言うけれど、今まさにそんな感じかもしれない。祐介はもしかしたらアルコール不耐症というやつなのだろうか、でもこれは鍛えてどうにかなるものではないと聞いたことがある。からだが受け付けないのだから本当は飲まないほうが断然良いのだ。飲めるようになりたいという気持ちは分かる気はするけれど、それでからだを壊していては元も子もない。
でも今それを言っても仕方がない。オレは手を離せばきっと千鳥足であろう祐介をずっと支えたままマンションの中へ入って行った。エレベータを降りて祐介の部屋も前に着くと、
「ほら、お前の部屋着いたぜ。鍵、出せよ。」
と言ったが、奴はちょっとあっけにとられたような顔になり、それから
「え? 鍵? あー・・・鍵。・・・・忘れた・・・。」
と、へらっと言った。おいおい、冗談じゃない、それじゃあ部屋に入れないじゃないか!
「えーーっ?! どこに?! スタジオにか?!」
と、オレは思わず祐介の耳元で叫んでしまった。
「あ・・・頭ひびくよ・・・。耳元でデカイ声出さないで・・・。」
祐介は頭を押えて顔をしかめる。
「まいったな・・・。ひとまず管理人室へ行くか・・・て、こんな時間に人、いるのかな・・・。」
やばいな、と思いつつオレはつぶやいたが、祐介はそのオレを抑えて
「あ、いや・・・そじゃなくて・・・今朝鍵かけんの忘れた・・・。」
と打ち明けた。当然オレは怒る。
「なにーーーっ!!」
「・・・だから鍵持って出てない・・・。」
「・・・殺すぞ、テメエ!」
オレは思わず毒づいたが、祐介は壁にもたれてぼうっとしているのみ・・・。
部屋に入ると、祐介はダイニングの隣のリビングに置いたソファにどすん、と腰を下ろした。座ったというよりはしりもちをついたと言ったほうがいい。そしてこれ以上できないくらい大きく深呼吸した。オレはその正面に立ったまま祐介を覗き込んだ。
「おい・・・大丈夫か?」
「ん・・・ちょっとキモチ悪ィな・・・。」
そういえば、帰り際に赤かった顔が今は青白いような気がする。もしかして、悪酔いしつつあるんじゃないだろうか? 目はうつろだし、表情もなんとなく苦しそうだ。
「ガバガバやるからだぜ。ペースも何も考えないで・・・。」
オレは少し心配になりながらも説教するようにそう言った。祐介はソファの肘掛にひじをつき、頬杖ついてため息もついた。
「和さんにあわせたのに・・・。やっぱし強いなー、和さんは・・・。」
「何を! お前が弱すぎるんじゃねーかよ! オレは人並みだって。ナレっていうのもあるけど・・・でもやっぱり無理しない方がいいよ?」
「ハァ・・・。」
と、言ってる傍から祐介は急に前のめりにのめり込み、口元を押えてえづきだすではないか・・・。これはまずい!!
「わーーっ!! ダメダメ!! もうちょっと我慢しろー! ここじゃだめだー!!」
オレは慌てて祐介を抱えると、ダイニングへ引きずって行った・・・。
その数分後・・・。
祐介は完全に脱力してびしょ濡れの顔、タオルを首にかけて呆けた顔でまたソファにへたるように座り込んでいいる。顔色はやっぱり青白いけれど、表情はさっきよりだいぶ緩んでいる。オレはまた正面に立って、水を汲んだグラスを手に少し腰をかがめながら覗き込んで
「大丈夫?」
と尋ねた。祐介は茫然としてはいるけれど
「あー・・・スッキリした・・・。」
と答えた。
「良かった。ホラお水。」
「あ・・・スンマセン・・・。」
こういう時はお水が一番。ただ酒を飲むだけでも、からだは脱水状態になるものなんだそうだ。それで吐いていたら尚更だ。祐介は、オレが半ば無理やり飲ませようとしたそのグラスに素直に手を添えて、その水を飲もうとした――
・・・TO BE CONNTINUED.
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